軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

213◇なんか親友がドラゴンに乗って駆けつけてきたんだが

僕らは第五層の転移用記録石から、キャンプ内の転移用記録石へと跳ぶ。

「レメ様! エクス様! お二人共、ご無事だったのですね……!」

マルさんが安堵の表情で僕らを迎えてくれた。

……そうか、マルさん的には僕とエクスさんが眠った状態で、他のみんなが一度帰還したんだもんな。

「ご心配お掛けしました」

「レメのおかげで、なんとか戻ったよ。あぁ、そのあたりの報告もしなければね」

「他の方から簡易報告は受けましたが……大変な試練だったようで」

「まぁ、そうですね……」

『心を強く保っていればいいんだよ』

黒ひよこが言う。

――そうだね。それが結構、大変なんだよ。

こいつの姿が見えるのは、現在は僕だけ。

精霊は自分の姿も、それを見せる相手も選べる。

光の塊はみんなに見えたが、黒ひよこは僕にだけ。

精霊契約者でも、他人の契約精霊は見えない。

精霊同士も、特別意識しない限りは関わりを持たないのだとか。

『君たちが精霊って呼ぶ存在にも、色々あるのさ』

そう言われては、何も言えない。そうなのだろう、きっと。

ひとまず、影精霊や光精霊が、わざわざ姿を現してエクスさんとアーサーさんにこいつのことを話す可能性は低いらしい。

……別に僕は隠すつもりがないので、のちのち相談するつもりだけど。

『えっ、秘密の力とか憧れない?』

――聖剣は国への報告義務があるんだよ……。

『人間の世界って窮屈だよね』

――自由なのに、君たちはその窮屈な世界を眺めるじゃないか。

『あはは、確かに。無限の自由は結構退屈なんだよね』

――それでオリジナルダンジョン?

『おかげで楽しめたよ。君も見つけられたしね』

思わず溜息がこぼれる。

詳細な報告を……という流れになるが、その前に僕は村に顔を出しておきたかった。

「そうですね……村の人々は医師や【白魔導士】の診断を受けたのち、問題なしとして村へお送りいたしました。レメ様も一度、ご家族や村のみなさまを安心させてあげてください」

マルさんの指示で、馬車が用意されることに。

「で、では私もレメさんに――」

「シトリーが行くよ~。マルっちには悪いけど、夢の内容は話したくないし」

ミラさんの言葉の途中で、シトリーさんが挙手した。

片手を上げつつ、もう片方の手は胸の前で軽く握られている。そして、片足も軽く上げられていた。

「そ、そうですか。でも私も――」

「ミラ様は試練を素早く突破されていますね。出来れば詳しくお話を伺いたいのですが……」

「で、ですが……」

「だいじょぶだよミラっち。レメくんにはシトリーがついてるから」

そう言ってシトリーさんは僕の腕をとり、天幕の外へ向かう。

「あー……ミラさん。戻ったら話そう」

「うぅ……えぇ、分かりました」

ミラさんは悔しそうに、だがそれ以上は食い下がらなかった。

……彼女も気づいたからだろう。シトリーさんの違和感に。

『この子の夢、知りたい?』

――そういうことは、しなくていいから。

『そう言うと思った』

楽しそうな笑い声。

もしかしてずっとこんな感じなのだろうか。

『まさか。トイレとかお風呂とかは覗かないよ』

…………。

『その内、他の精霊みたいに見守ってあげるから』

よく考えてみると、精霊契約者は人生を精霊に見守られてるわけで、完全な意味でのプライベートな時間というのはないのか。

人間にそれを意識させないためにも、呼びかけられない限り姿を現さないのかもしれない。

関わりたいのではなく、精霊は見たいのだ。自分の選んだ人間の生を。

力を貸すことで、その人物の一生がもっと面白くなるならと、契約してくれる。

『そうそう、こっちも君の人生が面白くなるように聖剣をあげたんだよ、うん』

「ミラっちほどじゃないけど、心配したんだよ? レメくん、起きるの遅いから」

シトリーさんが、唇を尖らせながら言う。

精霊との会話は切り上げ、意識をシトリーさんに戻す。

「すみません、心配掛けてしまって」

「え~。そういう時はありがとうじゃない?」

上目遣いに、からかうような笑みを向けるシトリーさん。

「……ですね。心配してくれて、ありがとうございます」

「レメくんって素直だよね、可愛い」

「あはは……」

僕らは御者に声を掛けてから、馬車に乗り込む。

走り出してから、会話を再開。

その前に、精霊に『この会話を聞かないよう』念じる。

『え、こっちはこの子の夢も心で何を思ってたかも、全部分かるのに?』

――それでも、ダメだ。盗み聞きは、好かないな。

『……むぅ。ふんっ、いつか「君に逢えてよかったぜ、相棒」って言わせてやるからな……!』

わざとらしい口調でそんなことを言うと、黒ひよこがぱたぱたとどこかへ飛んでいく。

その演出が必要なのかは分からないが、聞いていないと信じよう。

「夢を……抜けるのさ、辛くなかった?」

この話題になることは、分かっていた。予想していた、と言うべきか。

シトリーさんの様子は、試練突破後から少し、変だったから。

それに、彼女の試練突破は、僕の少し前。

フルカスさん、アーサーさん、ミラさんにマーリンさんと早期に突破した四人と違い、それなりに夢の中にいたことになる。

「そう、ですね。僕の場合……十年くらい過ごしたんですが。長期間抜け出せないくらい、心地よかったです。魔王城攻略あたりからは、そうでもなかったですけど。あ、夢でも冒険者をやってたんです、僕」

ちなみに夢で十年過ごしても、外に出た時は第五層に入ってから数時間しか経っていなかった。

「……分かるよ。レメくんだもんね。冒険者で、勇者を目指したんだろうなって」

儚げに、シトリーさんが微笑む。

いつもの、常に可愛さを意識している彼女とは、様子が違う。

ところどころで、何かが覗く。

「シトリーの話は、前にしたよね」

彼女は翼の生えた、小さな豹の亜獣。変身能力を有し、その再現能力は対象の能力まで再現できるほど。なんでもかんでもとはいかないが、その実力はレイド戦で示された通り。

魔王城四天王を任されるに相応しい実力者だ。

そんな彼女は、元々が可愛いもの好き。夢魔の姿がお気に入りで、いつもの彼女の姿がそれだ。

「前に、話してくれましたね」

「夢の中のシトリーはね、最初から夢魔なの。シトリーはただ可愛いを追求するだけで、楽しく暮らせた。モデルとか、アイドルとか、役者さんとかね」

【黒魔導士】や【白魔導士】は、冒険者業界において冷遇されている。

だがたとえば【白魔導士】は傷を癒せるわけだから、医療関係なら引く手数多だ。

そういう意味で言うと、【黒魔導士】は現実でも冷遇されている【 役職(ジョブ) 】なわけだ。

潰しが効かない。ほぼ唯一の冒険者という選択肢さえ、進んでも苦しい思いをする。

その点で言うと、夢魔は種族単位で就職が難しかったりする。

彼女達の魅力が、本来のものなのか 魅了(チャーム) で増幅されたものなのか、一般人には判断がつかないからだ。

もちろん違法だし、善良な夢魔はそんなことをしないし、対策もないではないのだが……。

色んな種族がいるのだから、最初から夢魔を避ける方が楽だ。

美しい容貌を持った、種族柄信用されない夢魔達が選べる職など、そうない。

シトリーさんの言った職業は現実にもあるが、夢魔達では望んでもなるのは難しい。

「本当に楽しかったんだぁ……」

彼女は、他の人には話せなかった。

夢に囚われたという意味ではエクスさんもいるが、そこは僕が友人ということもあってだろう。

他の四人に至っては、夢の魅力から即座に抜け出した。

エクスさんもシトリーさんも、心が弱いとは思わない。

僕だって……心が強いと、あの師匠に褒めてもらったのだ。

それに、精霊も言っていた。

心を強く保っていればいい、と。

心の強さは固定ではなく、上下するもの。

エクスさんは悩みを突かれ、僕とシトリーさんは……昔から抱えていた、理想を突かれた。

「どうやって……戻ったんですか?」

「ふふふ、それがね。 映像板(テレビ) でレイド戦がやってたの。シトリー以外のみんなが頑張ってた。ほら、あの時はルーちゃんも出てたでしょ。レメくんの指輪で」

「ですね」

現実の自分が、なんとか夢の中で現実を思い出させようともがいた。

魔王城と無関係の人生を送ったシトリーさんが頑張った結果が、 映像板(テレビ) 映像なのだろう。

「それで思ったの。欲しかったものは全部あるのに、大事なものが此処にはないなぁ、って」

彼女は魔王様……ルーシーさんに出逢い、魔物として雇ってもらった。

そこで得た全ては、理想の世界にはなかった。彼女は魔物になんか、なっていないから。

「あぁ……僕も同じでした」

「うん、でも、素敵な夢だったの……みんなみたいに、要らないって思えなかったよ……」

シトリーさんが、僕の肩に、こてんと頭を乗せる。

「そう、ですね……」

「欲しかったものも、大事なものも全部手に入る現実は……ないのかな」

彼女の言いたいことは、分かる。分かると、思う。

「欲しいものが手に入らなかったからこそ、巡り会えた人達がいるから、難しいですよね」

【勇者】になりたかった。

けれど、なれなかった現実だからこそ、逢えた人達がいる。

欲しかったものを得られない人生でも、大事なものは出来るものなのだ。

「ふふっ。ね。シトリーもそう思う。シトリーはほんとの自分が可愛くなくてヤだけど、ルーちゃんと逢えない方が嫌だから。だから、戻ってきたんだと思う」

やはり、彼女は心の強い人だ。

「僕も、【黒魔導士】になった時は落ち込みましたけど、魔王城に入ってシトリーさんと友達になれて、嬉しかったですよ」

シトリーさんは顔を上げ、僕を可愛く睨んだ。

「レメくん、そういうとこだよ」

「え」

「まったく、人たらしだなぁ。やれやれ」

「えぇと……」

「でも、今回はいいかな。だって、シトリーも同じだから。ミラっちもふーちゃんもレメくんも、……あと意地悪だけどアガレスくんも、大事な友達だもん。 現実(こっち) の方がいいよ」

そう言って、シトリーさんはニッコリ笑った。

「でも良い夢だったなぁ~。あーあ」

今度は僕の膝の上に頭を置く。

「……アイドル、なりたかったんですか?」

「アイドルは可愛いでしょ? シトリーは可愛いのが好き。……まぁ、現実のアイドルにだって大変なこといっぱいあるだろうけど、それでも憧れるものは憧れちゃうよ」

「こう言ってはなんですけど……シトリーさんなら、他の種族になってアイドルを目指すことも出来たんじゃないかなって……思うんですけど」

「えっ、ヤだよ夢魔が一番可愛いもん」

シトリーさんは即答した。

そのあまりにスッキリした答えに、僕は静かに頷く。

「なるほど、なら仕方ないですね」

「ね」

そんな風に、僕らの試練は挑戦者の心に影響を与えたり与えなかったりしつつ、終わったのだ。

まだ挑戦者受付中らしいけど、調査団は第五層に行かない方向でまとまるだろう。

『話終わった?』

黒ひよこが戻ってくるのと、村に到着したのはほぼ同時だった。

集会場に顔を出すと、カナリーさんに抱き締められた。

「レメ……! 遅いから心配したんですよ……!」

「ごめん……ありがとう。僕なら大丈夫だから」

ホークさんや両親とも話した。

カナリーさんがシトリーさんを見て「可愛い!」と叫び、シトリーさんも「おねーさんも可愛いね。レメくんのお姉ちゃん?」「はい! レメの姉です!」なんて会話をし、ホークさんに「嘘をつくんじゃない」と叱られていた。

村のみんなに感謝され――意外なことに、その中には三人組もいた――僕含め全員が戻ったのだから、ひとまず解散することに。

そして、集会所を出たみんなは空を見上げることになる。

太陽が出ているのに、一瞬、村が大きな影に覆われたからだ。

すぐにそれは晴れたが、その正体に僕らは驚く。

ドラゴンだった。

パニックになりかける者もいたが、僕は安心させるように声を上げる。

「大丈夫! あれは野生のドラゴンじゃないから!」

ドラゴンの腹には、所属を示す布が掛かっていた。

地上のものが、すぐに判別出来るようにだ。

――『ドラゴン特急』。

ものすごく大量の荷物を一度に、かつ迅速に運べることで有名。

あと、高ランクの冒険者だとパーティーで金を出し合って移動に使うこともある。

しかし、どうしてこんなとこをドラゴンが……。

よく使うルートなら村のみんなの驚きはおかしいし……マルさんが頼んだという話は聞いていない。

ん?

空を眺めていた僕は、何かに気づく。

空に点。

違う、なんか、もの。いや、あれは――人か?

「ひゃあああっ」

なんて可愛い悲鳴が聞こえる。

どうやら二人の人間が、落下してきているようだ。

一人は男で、その背にしがみつくように女性も。

というか、男は――【炎の勇者】フェニクスだった。

――なにやってんの?

あいつは火を噴かせて減速すると、衝撃を完璧に殺して地面に着地。

あいつの背中からぽふっと落ちたのは、【狩人】リリーだった。

リリーを助け起こしてから、みんなを見るフェニクス。

「みんな……あぁ、レメ! 無事だったのか!」

僕はカナリーさんを見た。

「メールしたんです。でもあの子ったら、ふふ、ドラゴンに乗ってくるなんて」

そう言ってカナリーさんは駆け出し、息子を抱き締めた。

……いや、まぁ、故郷のことだ。フェニクスにも知る権利があるだろう。

確か遠方で攻略映像を撮っていた筈だから、仕事終わりにドラゴンに飛び乗ったのか。

『【神官】の彼か』

黒ひよこがそんなことを言う。

「違うよ、勇者だ」

小さく呟く。

やはり、フェニクスにはそちらの方が似合っている。

僕は親友に近づいていく。

「来るのが遅い」

そう言うと、ぽかんとした後に、あいつは笑った。

「これでも急いで来たんだよ」

だろうな。

僕らは顔を見合わせ、笑った。