軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.成仏の日①

8月15日。お盆の真っ盛りのその日に決められた。長篠零士を成仏させる日だ。

獄楽寺には船橋ギルドの大多喜さん、遺族代表として殺し屋(市川)が。立会人として俺に智ちゃんに四街道ちゃんに柏ちゃんの3JKと瀬奈さん京香さん。住職としての父さんだ。

殺し屋こと市川だけど、有名な刀匠みたいで多くのハンター向け刀を打ってるらしい。有名なのは長篠氏の羅刹だとか。あと長篠氏の叔父にあたるそうだ。だから遺族代表なんだとか。

場所は墓地ダンジョン1階。俺の【駆け込み寺】で安全地帯を作り、成仏させる智ちゃんとそれをガードする俺以外の人がそこで控える形だ。

時刻は10時。大多喜さんと殺し屋が来た。ふたりとも黒の喪服だ。四街道ちゃんと柏ちゃんは前泊してる。今日は3人とも学校の制服を着てる。卒業後のことを考えて礼服を仕立てたほうがいいな。俺もだけど。

でも今日の俺は袈裟を着てる。父さんも同じだ。今日は葬式でもある。

「さて集まりましたかな」

「えぇ、お願いします」

殺し屋が深々と頭を下げた。殺し屋は、今日はおとなしい。不気味だけど、葬式とならばおとなしくしていてほしい。

皆でぞろぞろ墓地の奥へ向かう。お盆で墓参りに人も多いので早く終わらせたい。

ビニールハウスに入ってゲートを通る。今日ばかりはゲートの機能を切ってある。父さんはハンター登録してないからね。

「これが墓地ダンジョンなんだね」

大多喜さんがつぶやいた。殺し屋は無言で墓を見つめている。

さて俺も仕事をしないと。階段わきの空間に【駆け込み寺】を出現させる。木の門と塀で囲まれた空間ができた。

「ほぅ、小さなお堂のようだな」

父さんが中に入る。続いて大多喜さんと殺し屋が続く。

「智、気を付けてね」

「ガンバレ」

「任せて。でも守おにーさんが守ってくれるから」

「こんな時なのに惚気ー?」

「犬もクワネー」

四街道ちゃんと柏ちゃんも入っていく。柏ちゃん、それは夫婦げんかだ。

「大丈夫と信じてるけど、危なそうだったら中止してもいいからね」

瀬奈さんと京香さんは入ってすぐの門のところでとどまって不安そうな顔をしている。

「さて、準備だな」

いつものビニール傘を出す。透明でありながら障壁を兼ねる俺の主要武装だ。長篠氏が何かしてきてもこれで智ちゃんを守る。

俺の前に智ちゃんが来て、彼女を守るように傘を広げる。

「智ちゃん準備は」

「いつでも!」

「よし、じゃあ出します」

収納から『長篠零士』を取り出す。ほんの数メートル前に武者が出現すると背後から悲鳴が聞こえた。青い肌に口からのびる牙。瞳のない白い目。人ではない。紫色のオーラと嫌な気配を纏っている。

『ア”ア”ア”ア”!!』

「【大いなる祈り】!」

武者が咆哮すると同時に智ちゃんのスキルが発動する。武者の体が淡く光り、そして真っ白な炎が立ち上がる。

『ォオオ、オォォォオオオ!!』

「如是我聞。一時仏。在舍衞国」

武者が叫び声をあげる中、父さんが読経を始めた。阿弥陀経だ。

智ちゃんは合掌したまま動かない。目の前の武者は炎に焼かれて苦しいのか、喉をかきむしっている。

「いつもと違う……」

智ちゃんがつぶやく。いつもならば淡く光って魔物が消滅するのだ。燃え上がるなんてなかった。

『オォォォォォォ………』

数秒なのか、もう少し経ったのかわからないけど、長篠氏が静かになった。でも、武者はそこにいる。

白い炎はまだ静かに燃えているけど、いやな気配はなくった。武者は目を閉じて静かに佇んでいる。

「――聞仏所説 歓喜信受 作礼而去。仏説阿弥陀経」

父さんの読経も終わった。武者はそこにいる。ただ、暴れる様子はなさそうだ。

「どどどうしよう。失敗しちゃった!?」

「智ちゃん落ち着いて。智ちゃんには何も落ち度はないよ。ちょっと調べるから【駆け込み寺】にはいってて」

「え、あ、うん。気を付けてね」

武者から目を離さないようにしつつ智ちゃんを送り出す。

「想定外のことが起きたので今から調べます」

「守、大丈夫なのか?」

「いままで智ちゃんのスキルを浴びた骨は必ず消滅したんだけど、今回は残ってる。ただ、いやな気配は感じない」

武者から視線を外さずに父さんに答える。

傘を構えながら一歩一歩近寄る。心臓がバクバクで坂道下りのエンジンだ。

「んぐハッ」

武者が吐き出す動作をした。足を止める。

「くっそぉまだしねねぇぇええ!」

武者がカッと目を開いて叫んだ。声もさっきの咆哮とは全然違って、人間の声だ!

「ぇぇぇ!…………って傘? なんでダンジョンの奥深くに傘があるんだ!?」

「れ、零士!」

「市川、待ちな!」

「零士!」

俺の横を殺し屋が走っていき、武者の前に立った。

「市川のオジキ! なんで関ヶ原ダンジョンに!? さては魔物が化けてやがるな! ってあれ、羅刹がねえ」

「零士、お前、零士なんだな!」

「そっちこそ市川のオジキなのか?」

「そうだ、お前の義理の兄、定だ! 三度の飯よりも鍛治が好きで三行半を15回くらった定だ」

「あー、ちょっといいですかね」

傘をたたんで割って入る。もう傘は い(・) ら(・) な(・) い(・) 感じだし、なんか収集つかなさそうだし。

「ん? あんたは?」

「ここは千葉の九十九里にある獄楽寺の墓地ダンジョンです。俺はそこの寺の人間で坂場守といいます。あなたは長篠零士さん本人ですか?」

「おぉ。そうだ、長篠だ。ここを千葉と言ったがここは関ケ原ダンジョンのはずだが?」

「本人で間違いなさそうですが。困ったな。大多喜さん、たすけてー!」

ここは偉い人に頼もう。俺じゃ収集つかない。

「守くん!」

「守君!」

「おにーさん!」

瀬奈さんらが【駆け込み寺】から走ってきた。

「ぶっちゃけ、何も起きなかったので何ともないです」

何もしてないしね。

「何が何やらわからんな」

父さんも出てきた。じゃあもう不要だな。【駆け込み寺】は消した。

大多喜さんがのしのし歩いて武者の前に立った。

「アタシは船橋ギルドの副ギルド長をしてる大多喜ってもんだ。長篠零士、あんたは関ヶ原で死んだ。それは間違いないんだ」

「確かに、俺は武者幽鬼と相打ちになって死んだ。んだが、ここにいる。訳が分からんぞ?」

「訳が分からないのはこっちもさ」

大多喜さんが喪服から麩菓子を取り出してかじる。黒いからあれは黒糖麩菓子だな。

「ざっと事実だけを言うよ。おおよそ一か月前くらいに、この墓地ダンジョンで武者幽鬼と40体の足軽亡者が出た」

「なに!? 武者幽鬼だと!?」

「話を聞きな。で、この子たちが死にそうになったけど倒した。この子はユニークスキルもちでね。武者幽鬼を隔離したんだけど、その際にその武者幽鬼が長篠零士だと知った。その後、市川に面通ししてもらったら本人だというんだが、その時のあんたは意識もなく暴れてね。もう魔物だろうと結論付けたのさ。で、今日アンタを成仏させようとしたら、こうなったってわけさ」

「ほーん。まったくわかんねーな」

武者幽鬼改め長篠さんが顎をさすってる。そうだろうな、俺もわかんねーし。

おっとそうだ。預かりっぱなしの羅刹を取り出す。

「これ、長篠さんの羅刹ですよね?」

「お、おお、確かに俺のだ」

長篠さんが手を伸ばして羅刹に触れた瞬間、バチンと火花が散った。

驚く顔の長篠さん。

「おー。まじかー。俺様、魔物じゃねーか。まいったなーがっはっはっは!」

長篠さんが豪快に笑った。