軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.夏の登校日③

瀬奈さんが智ちゃんと帰宅した。車で送っていくとは聞いてたけど、なにかあったっぽいな。心配だ。

「おかえりー」

「たっだいーまーもるくーん!」

帰って来るなり瀬奈さんが抱き着いてくる。あれから瀬奈さんは自重しなくなった。京香さんを出し抜かなくてもいいはずなんだけど?

「ただいまむぎゅ」

智ちゃんも抱き着いてくる。だいぶお疲れのようだ。背中に手をまわしてぎゅーで返す。

「守くん、話があるのよー。できればお義父さまにも」

「父さんにも? まぁいるけど」

瀬奈さんと智ちゃんが着替えるのを待って話を聞くことになった。

俺、その隣に智ちゃん、京香さん、瀬奈さん、そして父さんでちゃぶ台を囲む。ちなみに父さんには全部を説明済みだ。

「守君が保管してる長篠氏の処遇が決まったのよー」

瀬奈さんから報告を受けた。遺族としては、すでに亡くなっていること、姿は長篠氏だが本質は違っていることがあり、成仏させてほしいということだった。智ちゃんのスキルで。

俺は反対だ。

「智ちゃんに負担がかかりすぎと思う。保管したままでも問題ないし、俺が経験値にしてもいい。見た目が骨だったらスキルで成仏するのに躊躇はないかもしれないけど、あれは人の形過ぎるよ」

「でもそれだと遺族が納得できないって。長篠氏の姿を利用して悪いことをするんじゃないかっていうのよねー。わたしたちを馬鹿にしてるわー」

「なにそれ。勝手だなぁ」

こっちだって被害者なんだぞ。好きであれの相手をしたわけじゃないぞ。

ムカついてたら俺の手が智ちゃんに握られた。

「守おにーさん。さっき瀬奈さんと話をして決めたんだ。あたし、やる」

智ちゃんがまっすぐ迷いなく俺を見てくる。

「おにーさんに守られてるばっかりじゃなくって、あたしも役に立ちたいの」

「でも」

「大丈夫。あたしを頼って?」

そう言い切る智ちゃんから決意の強さを感じた。

「その代わり、ちゃんとできたら、いっぱい甘えていい?」

照れることなく、俺を見続ける智ちゃん。瞳には力強い光がある。うちに来た時の悲壮感はどこにもない。強くなったなぁ。

「よし、いっぱい甘やかすぞ!」

「やったむぎゅ」

智ちゃんが俺の腰あたりに抱き着いた。なぜに腰?

「ふむ。守に智さん、いいかい?」

今まで静かに聞いてた父さんが口を開いた。俺は背筋を伸ばし、智ちゃんは起き上がって姿勢を正した。もちろん瀬奈さんも京香さんもだ。この寺のゴッドファーザーは父さんだし、こんな時に背中を押すようなことを言ってくれるのも父さんだからだ。

「彼はいまだ現世をさまよう魂のままだ。死んだ者は十王の元で裁きを受けなければならない。そして六道のいずれかへもどる。六道のいずれかに生まれ変わり、そしていつかまた人道に生まれ、徳を積み極楽へ向かう修行をする。人生とはこのように回っているんだ」

父さんは静かに語る。

「魂の遍歴を輪廻と呼ぶんだが、彼はいま、輪廻から外れてしまっている。輪廻に戻ることができない苦しみは永遠に続く。智さん。あなたには彷徨える魂を輪廻に戻せる特別な力がある。辛いことだろうけど、魂を開放してやってはもらえないだろうか」

父さんがゆっくり頭を下げる。俺は智ちゃんの手を握る。

「ごめんね、辛いことをさせちゃうけど」

「おとうさん、頭を上げてください。あたしはおとうさんに救われてここにいます。だから、頑張ります」

父さんは姿勢を正し、合掌した。

「それと守おにーさん。以前に京香さんが怒ったことを、やっぱりわかってないんだね」

智ちゃんに『ギンッ』って睨まれた。うう、すげー迫力だ。

「こんなときは謝るんじゃなくって、ありがとうって言うの。もっと、あたしたちを頼って?」

智ちゃんがふにゃっと笑った。

ああああああ、おにーさんはハートを撃ち抜かれたよ。

「そう。守君は私たちを頼って。感謝の言葉をくれればいい」

「そーよー。おねーさんたちは嬉しーのよー?」

ふたりの追撃を受けてしまった。

「え、でも、俺はふたりを頼りっぱなしで申し訳なくて」

「だーかーらー、それが違うんだってばー」

「ふむ、守。お前は話し合いが足りないようだ。今晩は向こうの家で ゆ(・) っ(・) く(・) り(・) 語らうといい。父さんはもう寝るからな、ふぉっふぉっふぉ」

「早く孫の顔がみたいのぅ」という爆弾をおとした父さんは自分の部屋に行ってしまった。気まずい空気だ。

「さすがはお義父さまねー。わかってらっしゃるわー」

「明日の朝まで守君と一緒」

「あああたしが頑張ったんだから、あたしも甘えるんだから!」

3人がにじり寄ってきた。おまわりさーん、動物園から肉食獣が逃げてますよー!

「わたしはー、守くんに背中を流してもらおっかなー」

「む、瀬名先輩、それは……私ももう一度入る」

「ええええ、いいいいきなりお風呂はハードル高すぎるよぅ……」

やばい、このままだと流されてしまう。

「おおお俺にも心の準備がですね」

「あら、いやなのー?」

いやなわけじゃない。いやな わ(・) け(・) が(・) な(・) い(・) 。

むしろ極楽、桃源郷だ。ウェルカムなんだ!

「ふふ、お姉さんにま・か・せ・な・さ・い・♡」

3人に優しく(?)誘われ、隣家に連れ去られたのだった。

風呂?

極楽だったよ。

いろいろ搾り取られたけど!

そんな酒池肉り……もとい桃源郷に守がぶち込まれていたその時分。船橋にある某マンションの1室で、美浦、鹿島、神栖の3人はとある人物と向き合っていた。

「美浦ぉ、こいつのことかぁ?」

ソファにもたれかかるように座る金髪ポニテの男がだるそうに一枚の紙を投げた。

美浦はそれを空中でキャッチし、書かれている文字を追う。

『有能スキル所持申請書 坂場守 20歳』

顔写真もあった。

「コ、コイツっす!」

「なんだか冴えねー野郎だなぁ」

「先輩! コイツ、妙なスキルを持ってるんですよ!」

「ふーん 妙なスキルねぇ」

「笠間さんと大洗さんもこいつにやられてるんっすよ!」

「あー、あいつらを裸にしたやつかぁー」

ソファの男はタバコを口に咥えた。

「火」

「は、はい!」

鹿島がはじかれたように動きライターでタバコに火をつける。

「有能なスキルねぇ……それって本当か?」

煙を吐きながら男がこぼす。その言葉に、美浦はハッとする。

「昨日もよぉ、嘘の申告書がバレて捕まったハンターがいたよなぁ。そいつもそーなんじゃねーの? 知らんけど」

男の言葉が美浦の脳に刷り込まれていく。言葉が何度も反響し、美浦の思考が染まってゆく。

「だとしたら、大問題だ。このことが広まれば、ハンターの信頼が揺らいじまう」

「ほ、本当ですよ! 許せねぇ!」

美浦は膝の上においた拳を、爪が食い込むほどに握りしめた。その様子に、ソファの男は優しい笑みを浮かべる。

「嘘つきには、処罰が必要だな」

「で、でも、あいつ妙なスキルで!」

「スキルっつってもよ、大人数相手に通用するか?」

「そ、それは」

「仲間を集めれば20人にはなるぞ? それだけいればどうにでもできる」

「す、すげえ! さすが利根先輩だ!」

美浦は途端に悪い顔をする。佐倉の顔を思い出し、舌なめずりをした。

「へへ、これで佐倉の目も覚めるだろ」

「ついでに四街道とかもつろうぜ。あいついい体してるしよ」

鹿島が同調、そして煽る。

「柏はなぁー」

神栖が嫌そうな顔になる。

「穴があればいーんだよ!」

「ひでぇ」

「ちっぱいにも五分の魂だぜ?」

「ぎゃはははは!」

3人による尊厳など無視した会話が続く。

「お前ら、功労者たる俺達には何もねーのか?」

ソファにふんぞり返った利根がイラついて足を踏み鳴らした。

「一緒につるんでる4人がいるんで、そっちは好きにしちゃってください!」

「ほー、現役JKを抱けるってか」

「そのまま囲って 飼(・) お(・) う(・) ぜ(・) 」

「ぎゃはは、いーねそれ!」

「抱きたいときに抱ける性奴隷ゲットだな!」

狂気が渦巻き、下卑た笑い声が部屋に響いた。邪な計画が進んでゆく。