作品タイトル不明
63.池袋アラグネシルク大作戦⑧
那覇さんらが来たのでこの日のお仕事終了だ。【駆け込み寺】には俺たち8人がキャンプチェアでくつろいでる。完全な安全地帯だから気楽な格好に着替えてね。
【駆け込み寺】の隅には簀巻きにされた【アマゾネス】の5人が転がってる。美奈子ちゃん曰く「手加減した」とのことで生きてるけど、起きたら騒ぎそうなので【説法】で寝かせてる。
彼女らのことを渋谷ちゃんに調べてもらった。
松崎 恵子 23歳 ピンクロング レベル18
下田 沙耶 24歳 緑ロング レベル19
河津 紀子 25歳 青ロング レベル19
伊豆 正美 25歳 黄ロング レベル18
韮山(にらやま) 玲子 25歳 紫ロング レベル19
伊豆ダンジョンをホームにしてて、怪力スキルのハンターが集まったパーティーらしい。全員女性でレベルも19前後と高めだ。最後に那覇さんにぶっ飛ばされたピンクの松崎がリーダーとのこと。
『普段から荒くれで、他のパーティの邪魔をしていたみたいです』
「12階でスパイダーシルクを集めていたうちのパーティが絡まれて理不尽にも攻撃されたと聞いた」
あれ、俺はそれ聞いてないけど?
『個々のドローンにのみ通信も可能な高性能配信機材ですよー』
「そんな機能があったんだ」
知らぬは俺ばかりなり。知らぬが仏とは言うけど、教えてほしかったなぁ。
「逃げに徹するように指示してあったから多少のけがで済んではいたけども、許せることではない」
那覇さんの顔が険しくなる。
襲われたのはレベル15付近の、最近2軍に上がってきた若手ハンターらしく、しかもうちで鍛錬してた有望株だとか。名前を聞いたら知ってたわ。
うちの幼稚園もクランもそうだけど、若い人を預かっている組織なんだ。預かるということは安全管理の責任も生じるんだ。クランなら労働基準法、幼稚園なら児童福祉法だ。黄金騎士団の団員の安全は団長たる那覇さんが負うことになる。もちろんクラン【獄楽寺】においては俺にかかってくる責任だ。
だからこそのオコだ。
「こんな時の処罰というか、普通なら傷害事件とかで警察が動くと思うんだけど、ハンターの場合はどうなの?」
「基本的にはハンター同士の諍いということでギルドは手を出せないね。ギルドは管理はするけど警察権を持ってるわけじゃないから」
ギルドはダンジョン管理が主目的な組織だ。また警察権を複数の組織にわけると、その組織同士で諍いも起きたりする。なわばり争い的なね。
警察も自治体ごとに分かれてるから県境の警察署は隣県と仲が悪いところもある、らしい。
「泣き寝入りですか?」
「そうなるかな」
那覇さんの顔も釈然としていない。できるならもっと制裁を加えて二度と絡んでこなくなるくらいにはボコボコにしたかったろう。
犯罪者なら刑罰として刑務所送りもあるけどそれもできない。ふーむ、何か手はないか。
「それにしても、さすがは兄貴の弟子だな」
「わたしなんてまだまだですよ」
「まさか足技を出すとはね」
「両手が刀で埋まってるんで足しか空いてないんですよ」
那覇さんと美奈子ちゃんがお茶を片手に談笑してる。埋まってるからって足で蹴らないでしょよ。
「あれが高校卒業したてだとよ」
「おっかない世の中になったもんだねぇ」
渡嘉敷さんと読谷さんがコーヒーをすすりながらそんなふたりを眺めてる。
あなた方もたいがいですよね?
『師匠から伝言。美奈子の戦闘スタイルができてきたな、だってー』
「ふふっ。瀬奈先輩と師匠のいいとこどりです」
『俺は足癖悪くねえぞ、だそーでーす。わたしを経由していちゃつくのはやめろー!』
渋谷ちゃんが切れた。そろそろ定時だし渋谷ちゃんも開放しないと。
「じゃあ配信終わるよー」
『はーい、お疲れ様でしたー』
終わらせた。
「さて、今日の成果なんですけど」
「その切り出し方は、出たのかい?」
那覇さんが身を乗り出した。もちろん浦添さんらも。
「やっと出ましたー。しかもふたつ!」
カーペットの上に出したのは2メートルの幅に巻かれた煌めきを纏う白い布。【クイーンシルク】だ。
「わー綺麗!」
「マジだ!」
「ふぅ…………一安心したよ」
触ると汚れちゃいそうなのでクイーンシルクに群がってるにとどめてる4人と脱力してキャンプチェアにもたれかかる那覇さん。対照的だ。まぁ責任の重さの違いだろうね。
「最低でも1週間は、と覚悟してたけど、二日で出るとは。坂場君はやっぱり持ってるね」
「仏さまのご慈悲ですよ」
たぶんね。だって俺って煩悩の塊だし。
「あとはアラグネシルクもたくさんあります」
クイーンシルクの横にドドっと出してみる。長さが2メートルにまかれたシルク59本が山になってる。スパイダーシルクはもっとあって798本になってしまった。さすがに出せないので数量だけ伝える。
「……後で恩納に現金を確認しないとまずそうだね」
「スポンサーに売ってからでもいいですよ」
金には困ってないんで。
その後は夕飯の準備をしつつ酒盛りが始まった。明日は戻るだけだからね。でも飲みすぎ良くない。
「あいつらはどうしようかねぇ」
名護さんがあごで【アマゾネス】を示す。やはり許せないのだろう。
「開放しても同じことを繰り返すだろうね」
「チッ、めんどうなやつらだ」
那覇さんが苦い顔をすれば浦添さんが毒づく。拘束する権利はないからダンジョンを出れば解放せざるを得ない。放置して魔物の獲物にする外道なことは考えない。というか俺が許さん。
「『本当の弱者は救いたい形をしていない』とは言いますが、それを具体化した人たちですね」
彼女らにも過去があり、その延長上で現在がある。いまが荒れているならば、過去に何らかの因果があるわけで。
それは瀬奈さんや智や葉子ちゃん美奈子ちゃんもそうだ。
どうしようもない奴らだから放置するという気持ちはわかる。でもそれでは解決しない。彼ら彼女らはまた問題を引き起こす。力ずくでも、引き戻さないといけない。救済には力が 必(・) 須(・) なんだ。
「彼女らが弱者かどうかはわからないけど、救いたい形をしていないというのは同意だね」
那覇さんは、そこは理解してくれた。
「なので、お仕置きをが必要かなと」
「へぇ、お仕置きねぇ。何をするつもりだい?」
那覇さんが笑顔で聞いてきた。期待が透けて見える。
「師匠によるブートキャンプを開催しようかと」
一瞬、真顔になった那覇さんが「あははは!」と爆笑した。