軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.なんてことのない日常① 羅と美奈子の秘密の会

年度末も迫った少し寒い日。深夜の闇に紛れるように、 羅(あみ) が美奈子の部屋に向かっていた。頭からフードをかぶり、静かに階段を上がり、目的の部屋の前に立つ。小さく4回ノックしたあと、間をおいて2回。ガチャっとドアが開く。

「ブツは持って来ましたか?」

「あたりまえだろう」

部屋に入った羅は美奈子とローテーブルにつく。テーブルには羅用のビールと美奈子用の紅茶が置かれている。

「「せーの」」

ふたり同時にテーブルの上に同時に写真を置く。

片やおいしそうに団子を食べるショタ零士。

片やサッカーボールを持った凛々しい顔の少年期零士。

ふたりの眉根がむむむとしわを作る。

「凛々しい師匠素敵」

「柔らかな表情だな……」

ふたりの視線は2枚の写真を行ったり来たり。

「あいこですね」

「あいこだな」

勝負つかずらしい。

「師匠がサッカーをやっていたとは知りませんでした」

「なんだ、過去を調べないのか?」

「今現在進行形で過去の姿で身近にいますから」

「贅沢だな、まったく」

羅はため息をつきビール缶をとって一気に飲み干した。

「一気飲みは体に悪いですよ?」

「あいにくとこの体は頑丈なんだ」

「仕方がありませんね」

美奈子は部屋の冷蔵庫からもう1本缶ビールを取り出した。未成年の美奈子がビールを飲むことはなく、羅用である。

「少年期の写真はいつもぶすっとしているのばかりでな」

羅はカシュっとプルタブを開ける。

「あまり裕福ではなかったことが原因ですか?」

「大学進学はまったく考えてなかったと聞いたことがある。大学へ行くにも金がかかる」

羅はまた缶ビールを一気飲みする。もう1本飲みたそうに美奈子に目を向ける羅だが、美奈子はゆっくり顔を横に振る。飲みすぎダメ。

「だから警察官になったんでしょうね」

「体格と、正義感もあったって話だぞ」

「正義感はわかりますね。船橋ダンジョンで悪党を倒して回ってましたし」

「うん? その話は知らんぞ?」

「話してませんし」

「チッ、賄賂かよ」

羅は小さなアルバムから1枚の写真を取り出した。小さな男の子がビニールプールに入り水でっぽうで遊んでいる。写真を撮っているのは父親だろうか。カメラに向かって、はち切れんばかりの笑顔を向けていた。

「いい笑顔ですね」

「小学校に入りたてくらいらしい。私が持っている写真の中では一番の笑顔だな。」

羅の頬がゆるむ。

羅が持っている写真の零士は凛々しくも笑っていないものが多かった。美奈子が隠し撮りした写真は笑顔があったりおいしそうにおはぎを食べてたりする。

同好の志(師匠好き) として、分かち合いたい気持ちはある。

「今の甘いもの好きは幼少期の反動なのかな」

美奈子の胸が痛む。

美奈子は零士を甘やかすことを決めた。と同時に、目の前にいる報われない女も。

「明後日、満月なんです」

「……それが?」

「月がきれいな晩は師匠を連れて海に走りに行くんです」

「なんだと!? 協定違反だ! ずるいぞ!」

ふたりの間にはとある協定が結ばれていた。あの殴り合った晩に結んだのだ。

『 見守るもの(独) であって(占) 手を出しては(禁) いけない(止) 』

『害なすものがあらば全力をもって 排除する(叩き潰す) 』

『邪魔な女は近寄らせない』

「独占禁止法違反だ!」

羅がテーブルをぺしぺし叩く。強く叩くとテーブルを割ってしまうので歯を食いしばって優しくだ。

「独占しないように、あなたも一緒にいかがですか?」

「私が行っても……いいのか? こんなクマみたいにモサイ日干し女だぞ?」

「師匠はあなたを拒絶しましたか? それが答えです」

羅は黙ってしまった。

零士は羅を見ても何も言わない。蔑むような目もしない。ダンジョンで暴れた後には「無理するなよ」と声をかけてくる。優しい。

でも、その小さな背中に寂しさが見えていた。羅も胸が痛んでいる。

「師匠が本来の姿になればバイクは運転できるから、あなたが師匠とタンデムすればいいわ。わたしは自分のバイクでついていくから」

巻き込んでいるのだから抜け出せない沼に沈めてしまえ。その方がこの人も幸せだわ。

などと考えた美奈子がフフッと笑った。