軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)⑧  ヒグマ襲来④

「で、5階なんだけど。ここはすさまじい数のマミーが出てくる階で、おまけにワイトが複数でるわレイスが出るわで、姉さんも魔法を食らって、『作務衣』君に治してもらったんだよ」

「【フィアー】にかかったと後から聞いた。その状態は、ともかく怖かった。何がと言われても困るが」

「で、『作務衣』君がワイト3体を倒したんだけど……」

映像では守が【シャイニングブレス】を放ってマミーもろともワイトを消し去る場面が映っている。

「なんだあれ」「ビームか?」「シャイニングってことは光?」「光なら那覇と同じか?」「とんでもない威力だな」などとコメントの流れが速い。

「彼曰く、日比谷ダンジョンのダンジョンボスのブレススキルだっていうんだけど」

「いろいろ不明が多い。日比谷ダンジョンもなくなったはずだ。でもあるという」

「このブレスもねー。スキル書で覚えたっていうし」

場面は羅がラビットテールをつけて無双している場面に移る。ところどころに落ちてるきれいな包帯を拾いまわる守が映っている。

「姉さんが渡されたのが【ラビットテール】で、札幌の雪ウサキングからドロップしたっていうんだ。ゲットしたのは桜前線の佐倉ちゃんだって。あれってレアドロップだったはずだけど。そもそも雪ウサキング自体がレアだけどね」

臼が肩をすくめる。「桜前線の配信見てたけど、そんな話はなかったぞ」とコメントが上がった。

「そうだね。俺も見てたけどなかったね。で、それについても聞いたんだけど、実はラビットフットも大量にゲットしてて、さらにラビットテールをゲットしたとなれば大騒ぎになるからって黙ってたらしい。桜前線の3人がいたから直接本人に聞いたよ」

その場面も流れていく。そこには大量のラビットフットも映っていて、彼女たちの話が真実であると裏付けている。だがそれすらも「作り物だ」「フェイクだ」と認めない人間はいる。

羅と臼はギルドの鑑定、つまり小湊と北国分を信用した。彼らが持ち込んだドロップ品を鑑定させて正解したからだった。

「魔石ときれいな包帯はギルドに売ったから、今回の旅費はもう余裕で稼げちゃった」

「魔物が多いからあっという間だったぞ」

「あの短時間でも200体以上倒してたからね。儲かるけど、少なくともマミーを一撃で倒せるくらい強くないと死んじゃうね」

「私でも魔法でやられてた可能性はある」

「黄金騎士団も5階は5分で撤退したって聞いたけど、わかるなー」

「死んでも自己責任だ」

羅の言葉が〆になった。

夕食も食べて満幅の幸せを満喫していた羅が窓の外を見つめている。

「姉さん、何か見えるの?」

「今ならダンジョンに人がいないだろう?」

「だからって行っちゃだめだからね? 俺は風呂に入ってくるけど、姉さんはどうする?」

「私はもう少し休憩する」

「そっか」

臼は着替え片手に鼻歌交じりで出て行った。

「…………よし、行くか」

我慢できない羅は部屋を抜け出した。向かうは墓地ダンジョンである。

ゲートをくぐって階段を下りれば、ちょうど鍛錬してる零士と四街道に会う。羅は鎧を着ている妙な少年に惹きつけられた。

「なんで子供がダンジョンに?…………む、似てる」

羅がつぶやいた。

羅は【剣鬼】長篠にあこがれていた。ユニークスキルはなかったが、ともかく強かった零士に。愛刀1本でダンジョンを切り拓き、足りないものは技術をもって圧倒し、魔物をなぎ倒していった。

【剣鬼】

畏敬の念を込めてそう呼んだのだ。

あれに惚れないハンターはいない。羅もそのひとりだった。

「似てる。いや、似すぎている」

推しの過去を集める強火ファンがごとく、羅は【剣鬼】の資料を集めまくった。ひっそりと集めていた零士関連の資料に、幼少のころの写真もあった。その幼少期の零士によく似ていたのだ。

「誰かと思ったら……誰だお前」

「あの人は【ヒグマ】です。北海道のユニークスキル持ちの」

「あぁ【ヒグマ】か。初めて会うからわからなかったな」

零士は【ヒグマ】の存在は知っていたが接点はないので顔は知らなかった。

「あ、あぅ」

見つかってしまったが推しに似ている少年を前に羅は体が固まってしまって動けないでいる。有名であるはずの自分を知らないと言われたが、そんな言葉は耳にすら入っていない。

「もう遅い。鍛錬はここまでだ。体を冷やすなよ美奈子」

「はい、今日もありがとうございました!」

零士は羅をチラっと見て「夜のダンジョンは危険だぞ」と声をかけて階段をのぼって行った。

フリーズしてしまった羅は去っていく零士の背中をずっと見ている。

【剣鬼】の親類?

怪しむ羅だがさすがに長篠零士本人であるとは思ってもいない。その視線を遮るように四街道が立った。すでに殺気立っている。

「なにを見てるの?」

「……いいだろ、見てるくらい」

「邪な目で師匠を見ないでほしいのだけど」

「師匠?」

零士の幼少期に似た少年を師匠と呼ぶ違和感。羅も四街道のことは知っている。

ハンターコース在籍の高校生のくせにレベルは15を超え、 零(・) 士(・) と(・) 同(・) じ(・) く(・) 闘刃を使い、 零(・) 士(・) と(・) 同(・) じ(・) く(・) 【市川定】の刀を使う。

あの少年に向けた視線は師への視線ではない。雌の視線だ。

理由はわからないが無性に腹が立つ。

あの少年のそばにおいてはダメだと、本能が警鐘する。

「いかがわしいのはどっちだ?」

「ご自分の年齢を考えたら?」

睨みあうふたり。

男性は苦手だが女性はそこまででもない羅はこの喧嘩を買った。

そしてお互いは知らないことだが、 同(・) 担(・) 拒(・) 否(・) が発動していた。ゆえにぶつかる運命なのだ。

「躾が必要だ」

「その歪んだ性癖を治してあげるわ」

四街道は刀を地面に置きベキバキと指を鳴らす。お前もそうだろうと突っ込む存在はいない。

羅は、相手の技量を読んだ。感じるのは背筋の悪寒。

強い。

自分がこの年頃だったら、自分が10人いても勝てないだろう。いくら鍛えられたからといって到達できる 高(・) み(・) ではない。

明らかにイレギュラーな存在。

この女のレベルは、まだ20にはいってなかったはず。

恐ろしいな。

羅は素直に驚嘆した。

だが、これしきで戦意が衰える ク(・) マ(・) ではない。かえって滾るというものだ。

「【ヒグマ】相手に素手とは、なめられたもんだ」

羅は肉食獣の笑みを浮かべた。

「いいからかかってらっしゃい」

四街道は狩人の嘲笑で返す。

どちらともなくゆらりと動いた。

ガツンとふたつの拳が激しくぶつかり合う。お互いスキルは使っていないが、拳が悲鳴を上げ骨が砕けた。

「ハッ!」

「フッ!」

痛みなど感じないがごとく、ふたりはまた血だらけの拳をふるう。身長差があるにも関わず、こぶしはお互いのほほに突き刺さった。

バキと鳴ったのは顔の骨か手の骨か。飛び散る血で頬を染めて殴り合う。

「それじゃ熊は殺せないぞ」

「わたしが殺すのは魔物だけ。でも邪魔な熊は排除する」

「そうかい」

羅の右拳が四街道の腹に突き刺さる。鍛えあげた腹筋が反抗した。

「ヌルい!」

四街道の右拳が羅の腹を抉る。しなやかな腹筋がいなし、拳がそれた。だが四街道の体勢はブレない。零士の指導の賜物だ。

「これからだ」

「こんなもんじゃないわよ」

「このっ!」

「なによ!」

本気で殴り合う【ヒグマ】と【サムライガール】。

殴る場所に禁忌はない。

顔を殴られれば赤く腫れる。

殴るのは拳だけじゃない。

肘が掠れば皮膚が裂ける。

「うおぉぉぉ!」

「せやぁぁあ!」

お互い一歩も譲らず、血塗れで殴り合いの喧嘩。

殴れども殴れども足は地面に縫い付けられたかのように動かず。ひたすら殴打を繰り返す。

「く、しぶとい、な」

「はぁ、はぁ、こっちのセリフ」

だが、無限かと思われた体力は続かない。一発殴るたびに体が揺れ、そして殴り返される。

ふらふらになりつつも拳をふるうのはやめない。いや、やめられない。意地と根性で立っていた。

理由などわからないが、目の前の相手に負けてはダメだと本能が叫んでいる。

「いい加減……倒れやがれ」

「……あなたが倒れたら倒れるわよ」

「うるせぇ」

「うるさい!」

お互いの放った拳はクロスカウンターとなり、頬に突き刺さった。崩れるように仰向けに倒れるふたり。ぜーはーと呼吸も荒い。

もう動けない。

立たないといけないのはわかるがもう足も手も言うことを聞かない。ゴングは9カウントまで来ていた。

諦めの感情とともにアドレナリンでごまかされていた激痛が襲ってきた。

「……お前ら、来ないと思ったら何をしてるやがる」

零士の声が上から降ってきた。倒れているふたりは同時に零士を見上げる。ショタ零士だった。

「こいつが」

「こいつが」

奇しくも同じ言葉を吐いた。零士は「はあーーーっ」と盛大にため息をつく。

「子供か。ったくこれを飲め」

ふたりは口にポーションを突っ込まれた。ごくごくと勝手に流れ込んでいく。

痛みが引き、傷が治っていった。

「ふん」

羅は左腕で、四街道は右腕で。ふたりの胴に零士の腕がまかれ、荷物のように持ち上げられ、そして肩に担がれる。左肩に羅が、右肩に四街道が担がれた。背が低いショタ形態ではわきに抱えると引きずってしまうのだ。

「その血は流してから寝ろ」

零士はゆっくり階段を上がり、ゲートを素通りし、墓地を歩く。

冷気で汗が冷め、ふたりは同時にぶるっと震えた。