軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)⑥ 家完成

餅つきの時に雪を出したからか「雪ー」と大合唱する園児たちをうまくかわしつつ、男子にとってあまり面白みのない『ひな祭り』という行事が幼稚園で行われた後くらい。

リフォーム中だった隣家が完成した。外見は、壁を塗り替えたのですっかりきれいなオレンジ色になってる。オレンジ色ってのは仏教では大事な色で、仏旗の5色のひとつだ。

仏旗ってのは仏教を象徴する旗のことで5色が使われてる。

青:慈悲

黄:中道

赤:祝福

白:清浄

橙:知恵

の5色でオレンジ色を使うことで知恵を現した。ってのは後付けで、暖かみがあるよねってだけで決めた。理由なんてそんなもんさ。

隣家はもともと2階建てだったからそこは変わらないけどロフトというか屋根裏?ができた、らしい。俺はまだ中を見てない。 収納スペース(隠れ家) が爆増してるとのこと。使わないものは俺が預かるのに。

「いつまでも隣家っていうのもアレだね。呼び名も考えようか」

隣って意味だからなんか違うんだよね。もう母屋と一体化したわけだしさ。

「守邸?」

「分家?」

「寝殿?」

みなのセンスよ。というか寝殿て。

「とりあえず分家かな」

本家は寺だしさ。

「呼び名も決まったことですし、早速内覧です」

分家に住む俺と奥様ズ、と父さんで母屋から廊下経由で向かう。先導は京香さんだ。

分家の玄関は防犯上の理由からあまり使わない方針で、あえて狭くした。ワンルームのマンションの玄関くらいしかない。基本は母屋から廊下で分家に出入りする。そうしないと父さんが母屋でひとりでぼっちになっちゃう。それはダメだ。

新品の木目の廊下を歩いて10歩ほどで分家のドアに到着。家の中用のドアで鍵もかかる。基本は開けっ放しだけど念のためにね。ちなみに母屋、寮含めて全館空調にしたので廊下すらも快適空間だ。

「おじゃましまーす」

とドアを開ければまずはリビングだ。でかい。もともと分家は広い家だったけど、寮の食堂くらいはあるぞ。20畳はあるんじゃないかな。エアコンも3台あるし。

テーブルセットにソファも置かれてて、人をだめにするクッションすらもある。作業するためのテーブルが別にあるあたり、京香さんはここで仕事するつもりだな?

「ひろーい! ごろごろ転がれちゃう!」

智が実際に転がった。ぴらっとスカートがめくれて父さんが目をそらしてる。誰に似たのか。瀬奈さんか?

「1階はリビングダイニングキッチン、風呂などの水回りを集約しました。洗面所は上下にふたつ、トイレは全部で4つもあります」

「トイレは多いと思うけど、子供が大きくなってきたらちょうどよくなるかな?」

「お風呂も大きくして4人なら入れます! 子供と一緒でも子供同士でも入れます!」

説明に熱がこもってるから、京香さんは一緒に入りたいんだな。父さんが孫と入る、ってのもありかもしれない。夢は広がる。

「寮と同じくキッチンはすべてIHになっていて、魔石発電なので停電時も調理ができます」

「IHは火災の心配が減るから助かるよ」

これほんと。絶対はないけど直火よりは安全だ。電子レンジもオーブンもある。なんでも作れるぞ!

「リビングダイニングではお義父様も、これから生まれてくる子供たちも含めて全員で食事がとれるようにはしています。母屋で食事する日を決めたり、夕食はここにするなど柔軟に考えたいです」

「京香さん、母屋を気にしてくれてありがとう」

配慮が嬉しい。

「柱の位置は変えていませんが壁の位置は変えました。鋼材でがっつり補強したので壁も減ってます。何なら柱も鋼材化した個所もあります。防音もばっちりで家自体が吸音材でみっちり包まれています」

「もはやリフォームって範疇じゃない気がする……」

「2階も増床してますし、リノベといった方が適切かもしれません」

リノベですらない気がする。違法建築じゃないんだよね?

「足りない家具は生活しながら揃えましょう。では2階へ行きましょう」

「……階段の位置も変わってない?」

もともとは玄関にあった気がするんだけど、キッチンわきに階段が生えてるぞ。階段は植物だった?

「玄関はあまり使わない方針なので階段も移設しました。間取りに苦労した点です」

京香さんが胸を張ってる。ということは2階も大変更したってことよね。

違法建築じゃないんだよね? 大丈夫だよね?

「母屋から入って2階の自室へ行くのが遠いかもしれませんが、母屋を経由したとき、またはこのリビングを通るときに誰かがいれば寂しくないかなと」

「そうねー。誰かがいて「おかえり」って言われるとホッとするものねー」

瀬奈さんの言葉には実感がこもってる。それは俺もよくわかる。小学生の時は帰ってきても父さんは幼稚園でいないし、寂しかったもんな。

階段を昇れば廊下があって、扉が合計8個ある。多くない?

「守君と私たち3人の部屋、トイレがふたつ、空き部屋がふたつです。各部屋には屋根裏収納っぽいロフトを作りましたのでかなりの量の収納能力です。壁も防音には力を入れました!」

京香さんが力説する。まぁ、夜の運動会とかあるからね。俺も手加減するつもりはないし。煩悩よ永遠なれ。

「なお、さらなる増床は厳しいので将来的には建て替えないし敷地内に新築の予定です。土地はすでに確保してあります」

しれっと土地の買い増しをカミングアウトしてくるメイドさん。道路の向かいだったりするから目立たないけど寺がある一区画はすでに買収済みになってた。

墓も幼稚園もあるからそもそも寺の敷地は大きかったんだけど、地図で見た時の大きめの1区画がうちの敷地らしい。ざっと小学校と中学校が合わさったくらいの大きさ。どこの豪農だよ。

「引っ越しは早いほうがいいなぁ」

寮がパンパンなんよ。市船と日比谷の生徒が代わりばんこに来てて、まれに遠くのハンターコースの子たちが来るんだ。トレーラーハウスを増やして対応してるけど、そろそろポニーの4人とAチームの5人には家を建てたほうがいいかもしれない。

「いっそマンションでも建てましょうか」

「わー、夢はでっかいぞー」

「旅館も作っちゃおう!」

うちは寺だからね?