作品タイトル不明
39.秋田ダンジョン狂騒曲⑥
階段を上がれば、4人が歓談してた。すっかり打ち解けてる。
「守おかえりー」
「楽しめましたか?」
「何のお肉をゲットしたのー?」
気になる様子なので読み上げて京香さんにリスト化してもらう。
「こりゃ、すごい量だね!」
おばーちゃんも興奮してる。やっぱり多いんだ。
「ミノタウルスのタンが出たのかい。コイツはレアドロップで、なかなか見ないんさ」
リストを見てるおばーちゃんが「ん?」と動きを止めた。
「コイツは何だい?」
おばーちゃんの指が【コケケケの有精卵】を指してる。
「こんなドロップ品は見たとこないんだけどねえ」
「鑑定では、3日ほどで孵化する、とあります」
「孵化?」
孵化てなんぞ?
コケケケて魔物でしょ?
京香さんも知らんがなって顔してる。そうだよね、鑑定結果を言っただけだもんね。
「お肉がいっぱいだね!」
智はそんなことより肉だった。
昼過ぎ。 横手(アイツ) が来た。俺と京香さんが応対するから智と瀬奈さんはカウンターの向こうにいてもらう。
横手は「なんだ、相変わらず辛気くせーとこだ」とだるそうに歩く。コイツの相手をするにも面倒だなぁ。でもやらないと。
「オイコラ! まだダンジョンがあるじゃねえか! 話が違うぞ!」
横手がゲートのほうを見て騒ぎ出した。ダンジョンの階段が見えたんだろう。
しかし、がらが悪い。
「契約を交わしていませんので」
京香さんが突っぱねると横手は「チッ」と舌打ちする。
「契約書はご持参いただけましたか?」
「おう、これだぜ!」
契約書と書かれた紙を出してきた。いろいろ書いてあるけど金額欄が一番大きくて、700万円と印刷されてる。なお突っ込むと正副もないし消費税についての記載もない。仕事ができないんだなーってのがよくわかる。
「……印がありませんが?」
京香さんが突っ返した。
「印のない契約書など白紙も同然です」
「……ったく、めんどくせーなー」
横手がポケットからハンコを複数出してポンポンと捺印した。担当者と課長の欄に日付入りのハンコが押されている。日付は3日前のものだ。
「これでいーだろ?」
「課長様の印も持ち歩かれているのですか?」
「あー、課長はうるせーだけで仕事しねーから俺が代わりにやってんだよ」
「だそうですが、課長様?」
京香さんがカウンターに顔を向ける。スーツ姿の細身のおっさんがいた。ちょっとオコな様子。
「ゲッ、大仙課長!」
「横手君、その契約書とハンコは何だね?」
課長さんはつかつかと歩いてくる。
「ここここれはですね。そう、こいつらがだましたんですよ! ダンジョンを買いとってやるって!」
「ほぅ。このメールに書かれている内容と相違があるようだが」
課長は送られていたメールをプリントした紙を出す。話を持ち掛けたのは横手からだという証拠だ。
「それは何かの間違いですって。人は間違うもんですから」
「それではこの契約書は無効ということだな?」
「そうですそうです! いやぁ、危うくだまされるところでしたよ、さすがは大仙課長!」
なんとか嘘に嘘を重ねて逃げようとする横手。だがそうはいかん。
「でしたら私共は騙されていたわけですね。ここに来るために手配したダンジョン防衛用にハンターに費用などを請求する民事訴訟を起こさせていただきます。 ギ(・) ル(・) ド(・) 長(・) 、いかほどにしましょうか?」
京香さんがわざわざギルド長なんて言って俺に振り向く。メイドさん、口元のニヤツキが隠せてませんよ?
「10億かな。地域の安全を脅かした代償はそれくらいでも足りないけど、まずは責任の所在をはっきりさせないとね」
これは、事前に打ち合わせしてあったんだ。横手はどうせ逃げるだろうから、数パターンを予測して、それぞれに対応する筋書きを作ってね。
「じゅじゅじゅじゅうおくだぁ!?」
「獄楽寺ダンジョンは墓地ダンジョンで、スタンピードが頻発する極めて危険なダンジョンなんですよ。きちんと管理しないと地域が壊滅し、大災害になってしまうんです。講じられる手段はすべて講じても不安が残るほどです」
「そそそんな! いや、この契約書は有効だ! 判子もある! よって契約違反はお前らだ! はははザマーミロ!」
見事なまでの手のひら返しで横手が契約書をかざす。そっちも罠だぞ?
「ほほぅ。ではその私の課長印も有効ということなのだな? 私はその書類を見た覚えはないし、捺印した記憶もないのだが? しかも日付は3日も前だ」
「おやおや、それでは公文書偽造になってしまいますね。これは重罪です。その上で市の資産であるダンジョンを勝手に売却するという業務上横領の罪も犯しているようで」
「なななんだとぉ!?」
「ちなみにですが、あちらのカメラでこのやり取りは全国配信されておりまして、秋田市役所すべてのモニターにも割り込ませております」
「はぁぁぁ!?」
京香さんが指さすカウンターには小さな三脚に取り付けられたカメラがあり、その後ろには智がいる。うちのイリーガルメイドさんによって役所の回線に潜り込ませているらしい。内緒だけど県庁にも飛ばしてるらしい。
横手が限界まで口を開いて固まった。
「結局、この契約書はどうなるんですか?」
課長さんに顔を向ける。
「無効だろうね」
「ではダンジョンはこのままで?」
「市の特産にまでなっているのに、いち職員の意向でどうこうできるものではないよ」
課長さんは頭を横に振る。
「おおお俺にこんなことしてただで済むと思ってんのか! 俺の親父が一言いえば、県知事だって動くんだぞ!」
「横手商事の会長さんですね。手広く商売をなさっているようで」
「ははは、どうした、怖気づいたか?」
「秋田県知事に多額の献金をされているようですね。野党系の知事さんで、多数の会社から限度額いっぱいの献金を受けている疑惑の多い方でしたね。どれも横手さんのお父様の会社の取引先のようですね。その他にも興味深い情報もありまして、総務省に事実確認を依頼したところです」
「それがなんだってんだ!」
「いろいろ商売敵もおつくりのようで。手ぐすね引いてお待ちかもしれませんね」
京香さんがふふっと笑った。
その横手商事とかいう会社のビルは収納してた雪でガッツリ埋めてやったから証拠隠滅とかもできないと思うぞ。カチカチに固めてほとんど氷になってたし。
自然ってコワイナー。
「こんな時に電話って親父か。親父! は? 知らねーよんなこと! 俺のせーじゃねー、こいつらが悪いんだ!」
何か言いあってるけど横手の顔が青くなってるからよろしくない話のようだ。頑張ってくれ。