軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 ダンジョンで鍛えよう 午前の部④

美奈子ちゃんは右手で持った剣を水平に持ち、左に体をねじる。

「いきます、【強打】【圧し切り】!」

叫びと同時に振られた剣は鉄パイプに吸い込まれ、ゴギャンと不快な音を鳴らし、鉄パイプを70°程曲げた。そして剣も歪んだ。「おおお」とどよめきが上がる。

「ふぅ、これでいいですか?」

息を吐いた美奈子ちゃんが不安そうに零士くんを見る。

「おう、上出来だ。そしたら今度は剣を歪んでる鉄パイプにつけたままスキルで曲げてみろ」

「ほへ? 鉄パイプに当てたままですか? 剣を振らずに?」

「そうだ。1インチパンチの剣版だと思ってやってくれ」

「えーーー無理ですよー……失敗しても笑いませんか?」

「大丈夫だ、失敗しねえ」

「本当ですかー? 嘘だったら添い寝ですよー?」

美奈子ちゃんはしぶしぶ鉄パイプに剣を当てる。体の横にパイプがくるように位置をずらし、足を肩幅に開き、大きく息を吸った。

「いきます、【強打】【圧し切り】!」

美奈子ちゃんが振るった剣は鉄パイプを曲げた。振りかぶって斬った時よりも曲がった角度は浅いけど、それでも鉄パイプは曲がった。

「ま、曲がった!! 曲がりました!!」

口と目を大きく開いた美奈子ちゃんが零士くんに顔を向ける。アンビリーバボーって叫んでる風だ。

「大丈夫だったろ?」

零士くんがニヤリとする。

生徒たちはみな口を開けたまま声も出せず、そしてそれは瀬奈さんも京香さんも同じだった

「ハンターのトップにいるような奴らが片手剣で魔物をバンバン倒していく映像を見たことがあるだろ? 要はこれだ。スキルってのは俺たちが常識としている知識じゃ理解できないもんなんだ。美奈子、剣をよこせ」

零士くんが呆けてる美奈子ちゃんの手から歪んだ剣を取り上げ、曲がってる鉄パイプの前に立った。地面から出てる鉄パイプとあまり変わらない身長の零士くんには大きすぎる剣だ。

そのゆがんだ剣を鉄パイプに押し当てた。

「俺は【一閃】ってスキルを持ってる。鋭く切り裂くってスキルなんだが――」

しゃべりながら零士くんは軽く剣を振るった。鉄パイプがちくわのように切れて、地面に転がった。

「こんなこともできる」

「「「「おおおお!!」」」」

「うわ、切れちゃってる……」

すげえ。

「スキルってのは、物理法則を無視する。スキルで戦うんじゃなくってスキルは 使(・) う(・) んだ」

「ハイ師匠質問! わたしの蹴りスキルでも同じようなことができますか??」

「……勝浦、あんたは生徒側じゃないだろうが……できるかと言われればできると答える。そのスキルにもよりけりだがな」

「マジー? ちょっとやってみようかなー」

「ちょ、瀬奈先輩!?」

京香さんが止めようとしたが瀬奈さんがとててと零士くんが斬った鉄パイプに歩いていく。マタニティ服の裾を持ち上げ、地面すれすれのあたりに右脛を当てた。

「ハッ!」

瀬奈さんが足を振り切るとゴキンと鈍い音がしてパイプがぐにゃぐにゃと曲がった。蹴った場所は1か所なのに曲がったのは2か所だ。なんで?

「へー、【二重の極み】ってこうなるのねー」

「おい妊婦! 無茶するな! 守が過剰反応起こしたらどうするつもりだ!」

「えへへー、血が騒いじゃってー」

「瀬奈先輩、ステイです。守君!」

「瀬奈さん逮捕ですよー」

瀬奈さんをお姫様抱っこで捕獲した。「あらあらつかまっちゃったわー」なんてはしゃいでますけど、おなかに何かあったらダメでしょ。

「ぅおっほん。今日は剣だけのはずだったが、蹴りでもこの通りだ。このようにスキルは武器がなくても発動して威力を発揮する。魔物はスキルで倒すのではなく、スキルを乗せた武器で倒す。が、魔物に攻撃を当てないことには始まらない。だからこそきっちり身体を作って武器を使いこなすわけだ。各自試してみろっと弓がいたな」

零士くんが葉子ちゃんと太田ちゃんに視線をやった。ふたりともクロスボウを持っている。太田ちゃんは「自分はどうしたら」って心配を隠せない顔をしてる。そうだよね、太田ちゃんは遠距離攻撃スキルだもんね。

「太田は、たしか【射撃】スキルだったな」

「は、はい……」

「矢を射るとき、スキルは使ってるか?」

「使ってはないです。射撃って鉄砲で撃つことだって言われて」

太田ちゃんは泣きそうになってる。零士くんも責めてるわけじゃないんだけどね。

「そんな顔するな。俺のパーティにも射撃スキルもちはいた。矢を弾丸並みの速さで射ってたぞ」

「え……そうなんですか?」

「射撃系のスキルは解釈の仕方が肝心だ。魔法を投擲するやつもいるしな」

零士くんが葉子ちゃんを見る。まぁ確かに。

視線に気が付いた葉子ちゃんがサムズアップで答えた。

「ヘッヘー! アーシに任せローイ! 太田、こっちこっち」

葉子ちゃんが太田ちゃんの手をつかんで少し離れた場所に行く。生えてる低木に向かって「あれを的にスッゾ」と指さした。

「まずはアーシからな。オドロケー」

葉子ちゃんは立ったままクロスボウを構えた。でも的となる低木とはずれた方に向いてる。

「イクゼ!」

葉子ちゃんが放った矢は低木からそれた方へ飛んだが、途中でぐぐっと曲がり始めた。

「ソコダ!」

葉子ちゃんが叫ぶと矢は急旋回して的の低木に突き刺さった。

「ヒャッハー!」

右手を上げ、なんだかモヒカンが頭に浮かび上がりそうな雄たけびを上げる葉子ちゃん。

「葉子! すごいじゃん!」

「へっへー! スケ兄がアドバイスしてくれたんダゼ!」

智が駆け寄ると葉子ちゃんがそんなことを言う。

「野球だとカーブとか変化球があるんだから矢でもできるんじゃないかッテ! スケ兄はすごいんダ!」

葉子ちゃんが満面の笑みだ。大好きなお兄さんを自慢できるもんね。

「太田! 頭悪いアーシでもできんだから太田なら余裕ダロ!」

「えええええ!」

太田ちゃんが絶叫してるけど、背後からは零士くんが忍び寄ってる。

「太田。俺の知ってる射撃スキルもちはな、イメージが大事だと言ってた」

「ははははぃぃ!!」

太田ちゃんは背後から話しかけられてびっくりして飛び上がっちゃった。

「あああのイメージででですか?」

「矢が弾丸みたいに飛んでいくイメージだと言ってた」

「イメージ……イメージ」

太田ちゃんがクロスボウを抱えて悩んでしまった。