軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49 答え

疎魔の魔法石は大きな真珠のような形をしているそれはキラキラとした光を孕み、その場にいた全員の注目を集める。

「なんだ?」

「そんなもの今、手元に出したところで……」

ヘルガの手に乗っているそれに、疑問の声が集まり、ヘルガはきちんとコルネリアが見ていることを確認してからはたと気がついた。

(何でやりましょうか、ティーカップ?)

目の前にあるティーカップを見つめたけれどあまりスマートではない。

そんなときひょいとオリヴァーが隣から疎魔の魔法石をさらって、気軽に自身の護身用に持っているナイフを取り出した。

「何をしようとしているっ!」

「気でも触れたか!」

警戒態勢に入る王族だったがそんなものに興味はなく、オリヴァーは「ヘルガが怪我したら嫌だから、俺がやる」と短く言って、全員にそれが見えるように手のひらにのせて差し出した。

それから、軽く振りかぶって、勢いよくナイフは疎魔の魔法石の中心へと落ちる。

切っ先はカキンッと高い音を立てて、その場にいた人間は意味がわからないながらもその光景を見つめていた。

魔法石とは、わかりきったことであるが、石である。

ダイヤやアメジストと同じ鉱物でそれが魔力によって変質したものだ。

であれば、ナイフ一本でついたところで、傷一つつかないというのは当たり前のことであり、常識的なことだ。

「!!」

「なんっ、は??」

「どういう、どういうことだ……」

ナイフをのけると、オリヴァーの手の上には、疎魔の魔法石……だったものが存在している。

二つに割れて少々の破片を飛び散らせたそれの中身は、見ての通り、ただの陶器だ。

「いや、おか、おかしいな。そんなはず……」

「どうなっておる、イグナーツよ」

バルトロメウスとイグナーツは割れた魔法石とお互いの顔を交互に見つめた。

混乱している彼らに、ヘルガはたっぷりと間を置いて、それから彼らと同じように笑った。

「ふふっ、賢く素晴らしく合理的で高貴なる王族の方々がそのようなお顔……どうされました?」

「な、なんだ。お前、何を企んでおる」

「そうだ、こんなつまりこれは」

彼らの反応は上々で、ヘルガは一つオリヴァーの手の上に乗っているかけらを手に取って、見せつけるように彼らに差し出す。

「ご覧の通り、魔石ではございません。それで、どういうお話でしたか? 国王陛下、王太子殿下?」

「……」

「……」

「王命にて、派閥貴族の騎士団を派遣、現在エヴァーツ伯爵領の魔法石の採掘場を包囲している??」

テーブルに落とすと、ゴトンと音がして、二人は信じられないものでも見ているような顔をしていた。

「採掘場なんか、ありませんよ」

「……」

「っ……」

「ですから、騎士団の助けなどいりません。我が領地は戦場になどなり得ません。ただ、ありもしないものを探すだけにやってきた騎士団が何の収穫もなく滞在するだけです」

「どういうことだ、何が起こっている、イグナーツ!」

「私にわかるわけがないじゃないか」

バルトロメウスは責めるように息子の名前を呼んだが、あいにく、イグナーツに問いかけたところで意味などない。

「そして、国に権利を譲るなどと言う契約も存在しませんね。なんせ、それをこちらが望んでいたならば、王命で動いた騎士団が空振りすることなどあり得ないはずです」

ヘルガはにこりと笑って彼らに状況をわからせる。

「つまり、王族は、王命を使って、国に属している貴族の財産を守るどころかその権力を使って奪い取ろうとした。その事実は否定しようのない紛れもないもの」

「そんな馬鹿なことが」

「いくら自派閥の貴族でも、そんな王家を誰が、我が国の王であると認めるでしょうか?」

「なんなんだっ、どういうことなんだ! こんな、こんなものはただのペテンなんじゃないのか」

混乱した様子でイグナーツが叫んだ。

しかし、隣に居るオリヴァーは残った疎魔の魔法石の破片を机の上に置き済ました表情で、自身の土属性の魔法を放つ。

生成された小石は、ぴゅんと疎魔の魔法石に向かっていくがさらりと分解されるように消えてなくなる。

確実に割れた壊れた疎魔の魔法石は陶器でできている。マジックでもペテンでもない。

「エ、エヴァーツ伯爵家によって、作られていたものとでも言うつもりなのか?」

イグナーツはその様子を見て、すでに一目で明らかなことを聞いてくる。

「ええ、その通りです。見ての通り、疎魔の魔法が刻まれた特別な魔石などではなく、ただの作り物」

イグナーツはそれでも信じることができないらしく、疎魔の魔法石の残骸から目を離せずにいる。

「疎魔の魔法の制作方法は、遙か昔から、私たちの中にのみ存在している。だからこそ、今までどんなことがあってもその商いを奪われることも手放すこともなかった」

国にとっても重要な魔法具で、強大な力を持つ疎魔の魔法石の権利をたかが伯爵家が維持できていたのにはきちんとした理由があったのだ。

そしてその切り札をここぞと言うときには切ってきた。

そういうふうに生き残ってきた家系である。

しかし、今開示した情報もまた正しいものではない。

正確に言うと、ヘルガたちの頭の中だけにあるのではなく、土地に根付いた疎魔の魔法の根源。

ロメーヌの泉に生息している白鳥の魔獣が持つ特性を利用したものだ。

白鳥の魔獣は、普通の水鳥が羽に油分を持ち水を撥水しているのと同じに、敵意のある魔法に関しても、ない魔法に関してもはじくことができる羽の性質を持っている。

それは彼らの意思による魔法ではなく、彼らのもつ羽に含まれた魔法的な素材としての特性だ。

ヘルガたちエヴァーツ伯爵家は、その白鳥が住む泉から抜け落ちた毛を採集し、成分をとりだしてそれらしく見えるように陶器に吹き付けてガラスをコーティングしている。

魔石に刻まれた魔法由来の魔法具ではなく、魔獣の素材由来の魔法具であり、魔法の素材由来の魔法具という意味では、フリーデに仕込まれていた一を知らせる魔法具と性質が近い。

秘密は二重に張られて守られている。

疎魔の魔法石は、特別な採掘場からとられるものである、というのが一番表層の情報。

次に、疎魔の魔法石は制作物であると言うことが次に見えてくる事実。

しかし実際の秘密は、白鳥の魔獣由来の品であるということ。

そして白鳥由来であるということについては今まで一度も明かされたことがない本当の秘密だ。

今回も、その秘密を明かすまでもなく、バルトロメウスとイグナーツはまんまと、表面上の採掘場の情報に踊らされて行動にでた。

今回ヘルガは何もしていないし、先祖から伝わる、領地を守るための秘密を的確に利用しているだけだ。

「私たちが疎魔の魔法を独占できていた理由、その答えもこれで説明がつきますね」

「ば、馬鹿な」

「……っ」

「さて、それですでに、言い逃れができないほどの失態を犯し、後のない国王陛下、並びに王太子殿下」

ヘルガが彼らに声をかけると、ゆっくりと二人はヘルガの方へと視線を向ける。

やっと、それらしい目になった。

追い詰められて、焦り、自分の行動を後悔しているその目だ。

それこそ彼らにはふさわしい。

「賢い選択をするべきではありませんか? あなたがたにできること、それは何か、先ほどまでご自分たちでおっしゃっていたではありませんか」

そんな目をされてもヘルガは許すなどと言う選択肢も存在しなければ、フリーデという一人の少女が死んでしまった仇でもある。

「何をすべきか、その立派な頭で考えてやるべきではないでしょうか。すでに詰んでいるのですから、せいぜい、あがいて見せてくださいませ」

ヘルガが言うと二人は硬直して言葉を失った。ヘルガの侮った態度に憤っているだけではないだろう。

信じられないという気持ち、何かないのかと打開策を考える理性、この後の展開に対する恐れや不安。

そういったものが混ざってなんとも言えない顔つきだ。

「……」

「……」

せわしなくキョロキョロと彼らの目線は動き、額には汗の粒がにじんでいる。

先に口を開いたのはイグナーツだった。

「父が……私は父上が勝手にそうするのを見ていただけなんだよ! 本当は心苦しかったんだ」

「お前、何を」

「許してほしい、この通りだ。この通り、ハイムゼートの要望も呑もう! コルネリアを嫁にとり側妃は求めない!」

そして素晴らしい速度で、イグナーツは裏切った。

そしてすべてを父親のせいにすれば自分は助かることができると踏んで、ハキハキと言葉を紡ぐ。

バルトロメウスは即座に隣に居た。イグナーツの胸ぐらをつかみ、立ち上がる。

「この親不孝者め! 何を言っておる!」

「ほら、っほらこうして、言うことを聞かされていただけなんだよ、私も同じ被害者なんだ!」

「このっ、この黙れ!!」

「本当なんだ! 信じてくれ! 本当に、私はっ!」

イグナーツのことをバルトロメウスは顔を真っ赤にして殴りつける。

すでに状況は話し合いという域を超えた。

即座に疎魔の魔法石の残骸を回収し、安全を確保しつつ、オリヴァーと驚いて固まっている父を立ち上がらせて、出入り口の方へと非難する。

「お前たちに協力する、離せっ!」

イグナーツも負けじと応戦し、ハイムゼート公爵も娘を守るように剣を抜き、下がらせた。

「お前らが望むなら、気が済むまでひざまずいて謝罪をする! そうだ、父を捕らえるのにも協力する! ッグア」

会議室になだれ込んできた騎士たちは王族同士が争っていることに対して混乱し、お互いにお互いの顔を見合って動くことができない。

「ふざけるのも大概にしろっ! この出来損ないめ! ふざけるな! お前らこの場にいる全員を捕らえろ」

「いや、加勢だ! 王家はハイムゼート公爵家に協力することに決めた! 次期国王の私の言葉を聞け!!」

魔法を打ち合い、お互いに攻撃を受けながら、真反対の主張をする彼らに騎士たちもどよめき、不安が広がる。

彼らだって、今の選択が今後に関わることは理解している。負ける人間に加担するようなことがあっては命に関わる。

だからこそ躊躇が生まれ、もっともらしい意見を探す。

「貴様ら、わしに続けぇ!! 王族は貴族の権利を侵害し、エヴァーツ伯爵家から疎魔の魔法を奪い取ろうと画策し、失敗したのだ!! 忠誠を誓い献納金を収めたところで我々の地位を保証することはない!!」

そしてその場で一番声高に、もっともらしい言葉を言ったのはハイムゼート公爵だ。

彼は一度たりとも姑息な手段を使わずに、真っ当にここまで派閥を育てて話し合いに望んだ。

そんな彼の言う言葉、彼の言葉が事実ならばこれからは王族派閥の立場は悪いものになる。

「そんな王を誰が望む! 必要ないものだ! 捕らえ、公平に裁きを下すのだ!! これは正しき、正義の断罪であるぞっ!」

言いながらハイムゼート公爵は、それでも数名、それぞれの主を守ろうと寄り添った貴族たちを吹っ飛ばす。

その背中には、熱意に当てられた王族側の騎士たちが続き、ヘルガはどこか胸が熱くなる気持ちだった。

しかし、危険な場に長く居ることは得策ではない、父の手を引いてオリヴァーとともに走り出す。

困り果てていたコルネリアが視界に入ったので「こちらへ!」と声をかけた。

外に出てしばらくの喧噪の後に、静まりかえる。

ハイムゼート公爵は騎士団に遣いを出し、すぐに王家に連なる血筋の者たち、仕えている使用人たち、それから筆頭の王家の派閥の貴族たちを制圧するために動き出した。

すでに、指揮すべき最高位の人間を捕らえたあとだ、さほど時間はかからないのであった。