軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48 転機

「……」

「……」

「我々は貴殿らとは違うのだ。乱暴に奪い取りひずみが生まれることをよしとせぬ。バルトロメウス国王陛下、貴殿の王位継承と我が領地に離宮をこしらえるそこへの生活の場を移動してもらおう」

バルトロメウスを隠居させるとしても、ただそうするのではなくハイムゼート公爵家の領内に離宮を設け住まわせることによって、人質としてイグナーツの枷にすることもできる。

これ以上自由にはやらせない、しかし何もかも強引に奪い取る訳ではないのだ。

生活は保障される、下手な動きをしなければ苦労することもない。

やったことと考えるとこれ以上ないほどの好待遇だろう。

「イグナーツ王太子殿下には我が娘コルネリアをめとり王妃としてもらう。側妃を迎えることは許さぬ。その条件を呑むことができるならば、我々も矛を収め、貴殿らのことを尊重しよう」

「……」

「……」

「話はおしまいだ、さっとおとなしくしてもらおうか」

バルトロメウスとイグナーツはハイムゼート公爵の言葉にチラリとお互いに視線を交わし、それから「クッ」と喉を鳴らして「ハハハハッ!」ととても盛大に笑った。

「ハハハッ! これは傑作、見事に思い上がった道化師め!」

「ハハッ、はぁ、まったくもってその通りだよ。父上、見れば見るほど滑稽で、わめき立てて見苦しいにもほどがある!」

「優位に立ったつもりか? このうすのろが」

それは突き飛ばすような笑い方で、ハイムゼート公爵は面食らって目を見開いている。

ハイムゼート公爵の話を真剣に聞いて、その場にいたヘルガもオリヴァーもコルネリアもフランクも彼らがそんなふうに笑っている文脈が読めず、途端になぜか悪寒が走った。

なにか決定的なことでも見落としているのか、それとも、何か別の……。

「我らは、選ばれし王族なのだ。間抜けな愚者が徒党を組み反旗を翻そうとも、そのようなことなどとうに対処している」

「むしろ、このときを待っていたと言ってもいい。面倒な傍系の王族であるハイムゼートがこの日に注力し警戒が緩み、なおかつエヴァーツ伯爵家に連なる貴族をすべて監視することができるこの状況をね」

イグナーツの言葉に、バルトロメウスは深くうなずき、もっと言ってやれとばかりに「その通りだ」と肯定する。

「お前たちのような無駄ばかりで、馬鹿で愚鈍な人間に我々を御せると思っているような輩にはお似合いの結末だ」

「な、なにを言っている……まさかっ」

「そのまさかさ。領地に専属の騎士団を持っている我が派閥の貴族に先日、内密に王命を下した」

イグナーツはにこりと微笑んで、ハイムゼート公爵から、ヘルガへと視線を向けた。

どうやらヘルガは彼に嫌われているらしい。

「エヴァーツ伯爵家の疎魔の盾は、今日この日、国を代表する王族が直属で管理することがエヴァーツ伯爵家の合意によって決定している。いち早く、国家の素晴らしい財産を確保するためにエヴァーツ伯爵家の採石場を抑えているはずだ」

「……っ、そんな横暴が許されるとお思いかっ!!」

「横暴もなにも、これから決まる予定の話を我々はしたと言うだけだ。我々はエヴァーツ伯爵家からの願いで、採掘場保護のための騎士を送り出したに過ぎないのだからね」

「強引に実権を握るなどっ、すぐさま騎士団をエヴァーツ伯爵家に――」

「おっと、そんなことをすれば、派閥争いの戦闘の地はエヴァーツ伯爵領で決まりだ!」

どうやら彼らの狙いははじめから疎魔の盾だったらしい。

もちろん、そんな約束など覚えはないしする予定もない。けれども彼らにとっては契約の後先など関係がないのだ。

そうする予定であり、それが通らないならば、争うだけ。

争った結果、現在疎魔の魔法の採掘場を持っている方が勝つ。

そして勝った方が正義だ。すでにエヴァーツ伯爵家が制圧されているなら……。

「一体、いくつの命が失われ、領地にどんな被害が出るのか……甚だ見当もつかない……」

「っ!」

「それでも、国にあだなし敬うべき私たちに反抗する立場にいるのならば、当然の報いだよね。……このときを待っていたのさ。エヴァーツ伯爵、伯爵令嬢……お前らこそ、少しは賢い選択をするべきだよ」

バルトロメウスとイグナーツは、怒りに震えるハイムゼート公爵をせせら笑って、気軽にヘルガたちにそう言った。

彼らにとってはきっと何もかも利用できる道具でしかないのだ。

そこに住まう者たちの命も、穏便に済ませようと努力してきたハイムゼート公爵も、邪魔ならどんな手段を使っても崩して笑って言い対象なのだ。

疎魔の盾は喉から手が出るほどほしい、ならば勝手に奪い取る。その後に脅して本当は合意の上だったことにすれば良いと本気で思っているのだ。

土地持ちの貴族とは、どんな感情やどんなものよりもまず、領民や領地を守るものだ。

どんな感情があろうともだ。それは、いくら呑み込めないことであっても、土地の経済基盤がダメになってしまえば、貴族としての根底が崩れてしまうからだ。

ヘルガたちには選択肢など端からない。

「フッ、どうした言葉も出ないのかな? そんな余裕があるのか? そうだ! ここまで我々の邪魔をしたことを跪いて謝罪してもらおうかな? ベールマーの件でも余計な手間をかけさせ、エヴァーツ伯爵令嬢ヘルガは特に目障りだった」

「ふむ、それが良いな。乞い諂い一家もろとも跪け、そうすれば我が派閥のものとして認めてやろう」

さらに彼らは品定めするようにヘルガたちを順繰りに見つめて条件を出した。

ハイムゼート公爵家を裏切らせるだけでは飽き足らず、裏切りたいと望むことを前提にして、謝罪を要求する。

その一貫した姿勢はあまりに悪役然としていて、いっそすがすがしいぐらいだった。

窮地に追い詰められたと理解し、ハイムゼート公爵は拳を強く握ってヘルガたちを見つめる。コルネリアもヘルガたちの言動に注目していた。

そして一番動揺しているのは父で、顔が真っ青になっていた。

「そんな……そんな……どう、したら」

とつぶやくように言い、視線を下げて呼吸が浅い。

その様子が面白いのかバルトロメウスもイグナーツも「クククッ」と笑っていた。

ヘルガはチラリと隣を見た。

パチリとオリヴァーと目が合う。

彼も場に合わせて深刻そうな顔をしていた。

しかし、ヘルガの視線を受けて、おっという顔をする。やっとこの最悪な状況を覆していいのか? そんなふうに問いかける顔だった。

(そうですね。そろそろ、良いでしょうか)

オリヴァーのわくわくとした表情に答えるようにヘルガは、ドレスのプリーツの隙間にあるポケットから疎魔の魔法石を取り出した。