軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44 間違い

「お父様に協力しないでくださいませ」

なぜかヘルガが指名され、対応するとコルネリアは開口一番そう言った。

ヘルガは少しぽかんとしてしまって、数度瞬きをしてから返す。

「なぜですか?」

「エヴァーツ伯爵家の協力が得られない限り……しばらく父は行動を起こさないはずですから」

「それがあなたにとって、どんな意味があるというのでしょうか?」

それでも結局、ハイムゼート公爵は動くはずだとヘルガは考える。なんせそういう人であろうし、背負っているものもあるし守りたい人もいるはずだ。

そんなことが娘である彼女にわからないはずがないだろう。

「あ、あなた方のためでもあるんですの。エヴァーツ伯爵令嬢」

「私のためになる行動は私が決める権利があると思います」

「……っ」

遠回しに言われて、ヘルガはすぐに切り返した。

そんなふわふわとした答えで納得できるわけもなく、じっと見つめられたとしても彼女の意見を無条件で聞いてやるだけの関係性も利点もない。

「……」

「……」

いくら見つめていても無駄だと悟ったのかそれとも言葉にする決意ができたのか、苦々しい表情でがくりとうなだれて、コルネリアは口を開く。

うつむくと横によけられていた長い前髪が落ちてきて、顔が隠れる。

透き通るような銀髪は美しく、まるで繊細なガラス細工みたいだ。

そして彼女自身もまた色が白く、少し不健康なほど血の気が引いていて、強引に触れれば壊れてしまいそうな様子だった。

「……母は、王家の人間に殺されたんですの」

「そのように受け取れる事件があったことは、聞き及んでおります」

「違いますわ。殺されたのよ。明確に、殺意を持って罠を仕掛けられて、はまって落ちて、母は、エレオノーラは死んだんですの」

「……」

「つよく、優しい人でしたわ。わたくしにとっても父にとっても唯一無二の。明るくて大事な人だったんですの」

コルネリアはぽつりぽつりと自分の思いを口にしていく。

言葉にすることすら恐ろしいみたいに声を震わせて、その瞳は見開かれて、コルネリアの体は強くこわばっていた。

「でも、死んだ。すっかり居なくなってもう二度と戻ってこない。崖から落ちた母は骸すらも残っていませんの。お墓の中も空っぽで形見だけが詰められている」

「……」

「なぜだと思います? なぜ母は死んだのだと思います? エヴァーツ伯爵令嬢」

「その罠を仕組んだ人間によって、殺されたのだと思います」

「っ違いますわ!!」

コルネリアはぐっと拳を握って、前のめりになった。

髪がさらりと揺れてぐっと意志の強い瞳がヘルガを見つめる。

しかし、突然の大きな声に驚いたヘルガの様子に、はっとして呼吸を整えて続ける。

「……失礼、少し取り乱してしまいましたわ。それもまた、事実でしょう。しかし、わたくしはどうしても、こう思いますの。……母が、死んだのは」

「……」

「殺されるようなことをしたから」

「どういう、意味でしょうか?」

「何をするかわからないような人たちと対立して、理由を作って、だから殺されてしまった。だから暗い崖の下で一人ずっと帰ってくることすら叶わずに、そこに居る」

「……」

「あんなことをしたから、主張をして争ったから、何もいわなければ何もしなければ、生きて居られたはずでもの。死ぬことなんてなかったのよ!」

ヒステリーを起こしそうなほどコルネリアの呼吸は乱れていて、それでもヘルガは彼女を止めるようなことはしなかった。

「だからっ、だからわたくしも、なにもしませんわ。何もしたくない、いうことを聞くのよ、誰にも逆らったりしない、それが一番賢いやり方でしょう? エヴァーツ伯爵令嬢」

ぐっときつく手を握り、薄ら笑みを浮かべてコルネリアはヘルガに問いかける。

「あなたのためでもありますの。下手なことはやめるべきですわ。死にたくなんかないもの。お父様も無理なんてしなくていいのよ。なにもしないのが一番でしょう?」

「……なるほど」

「一番ですのよ。でも無理にやめさせたりはしませんわ。それもまた、対立すると言うことですから。でもいっておきたかったのですわ、エヴァーツ伯爵令嬢」

「……」

「父に協力しないでくださいませ。……そもそも対立していなければ母は死ぬこともなかった。もう二度と会えなくなることなどなかった。父にも、同じ道をたどってほしくありませんの」

彼女の握った拳は小さく震えていて、か弱く恐れを感じている少女の主張はまっとうなものと判断できないこともない。

母を失った苦しみ、失った理由の残酷さ、それ故の保身とそれでも家族である父への思いで、ヘルガに対して行動を起こしたこと。

それはきっと端から見ると素晴らしいもので、誰かに慰められてしかるべき様子に思う。

「……」

しかし、その上でも、あまりにも心は動かない。むしろ、彼女には悪いが多少の嫌悪感を覚えていた。

「それで、そうしつづけてあなたは後悔しないのでしょうか?」

「後悔……ですの?」

「はい、私は……いいえ、なんでもありません。ともかくわかりました。そういうことなら、ハイムゼート公爵に言づてを」

「で、では協力しな――」

ヘルガが言うと彼女は表情を明るくして、コルネリアの願いを聞いてくれるのだと勘違いをした。

「手を組みます。これから作戦について詰めていき、ともに決着を目指したいです」

「! ど、どうして」

「きちんと結果が出るのがいつになるかわかりませんが、コルネリア様」

「……」

「結末を見れば、わかることだと思いますよ」

ヘルガはにこりと笑った。

もちろん心の傷も、停滞もかまわない。そうなってしまう状況もあるだろう。

けれども、彼女ははき違えている。愛する人の守り方を間違えているとヘルガは思う。だからいうことなど聞かないだけなのだった。