軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43 願い

一週間という短い期間だったので、知り合いの中で身分が高くコルネリアと接したことがあるかもしれない人へと連絡をして、印象や人となり会話の内容などを細かに聞いた。

中でもイーリスは直接屋敷へと招いて、話を聞くことにした。

「印象というと、とても静かな人かしら? わたくしがどんな話を振っても興味も示さず、退屈そうに浮かない顔をしているのに、まるでそうすることが目的のように目立つ場所を動かない」

「……」

「お伺いしたパーティーではずっと父の横で最初から最後まで不満そうにしてたわね。不可思議と言えば不可思議よ」

イーリスは、思い出すように空を見ながらヘルガに言った。

ほかの人から手紙で聞いたないようとも概ね一致していて、コルネリアという人物は、なにもエヴァーツ伯爵家が相手だからと特別な対応をしたわけではないということはわかる。

その状態でも以前から、父親を裏切るようなことをしてこなかったから現状がある。

そう考えると、不安要素ではないと言えるかもしれないが、今までとは違うことをする時でもある。

いざという時最後に裏切ると言う可能性もあるのではないか。

結局、すべてが納得いく答えは出ていない。

「……ただ、あの人は一番王家に対して忌避感を抱いているはずよ。それだけは確かだと思うわ」

「それは……なぜですか」

「公爵令嬢の母上、エレオノーラ・ハイムゼート公爵夫人は馬車の事故で亡くなったのよ。その馬車っていうのが『追い風の馬車』まだ派閥争いが激化する前に友好の証としてザイツィンカー商会から贈られた馬車」

イーリスは、苦い表情をして、理由を語る。

『追い風の馬車』とは大型の魔法具だ。もちろんザイツィンカー商会の商いの範疇であり、高額な品だが大して珍しいものではない。

「馬が暴走して崖から落ちたことが原因と説明が成されているけれど……関係がないなんて思う方が不自然よ」

「そのようですね」

「ということは、王家は母親の仇。父親を危険にさらしてまで、あちらに協力する理由もなければ道理もない……だからハイムゼート公爵家への協力は問題ないとわたくしは思うけれどね」

ヘルガがコルネリアのことについて問いかけた時から、彼女は事情を察して、ハイムゼート公爵家への協力について好意的に考えていることを口にする。

もちろん、そのことを悟られたくないとは思っていない。

イーリスのことをヘルガは信頼しているし、なによりベールマーの時の恩もある。

お礼の話をしたとき、彼女の一番聞きたかった問いかけに対してヘルガは答えることができなかった。

そして今、コルネリアのことを彼女に聞くという行為そのものが答えであるとも言える。

どちらにせよ、王家に協力するなどと言う選択肢はヘルガたちには存在していない。

ハイムゼート公爵家に協力して彼らに加担するか、否か。その二つの間で揺れている。

今のところ、加担する方向に傾いている。

放置して、なにもしないことそれはただ誰かが傷つく痛みを受け入れるということだ。

それはヘルガが一番忌避していることでもある。

「……でもヘルガ、ああは言ったけれど、わたくし……本当にエヴァーツ伯爵家が動くとは思ってなかったのよ」

ふと、イーリスは、少し不安げな表情でチラリとヘルガを見てそれから、テーブルの上の花を眺めているような体で下を向いて、続けた。

「だってわたくしたちが生まれる前から続いてきたような対立なのよ? 原因だって体験していないし、あまり関係がないもの」

「まぁ、正直なところ、飢饉の悲惨さも当時の貴族たちの焦りや苦しみもわかりませんね」

「でしょう? でも、公爵令嬢の成人って言うイベントが一つ起こって、なんだか周りも騒がしくて……あなたはなんでも大体、立ち向かっていくものだから、つい煽るみたいに言ったのよ」

「……」

「ヘルガならって思っていたけれど、こうしてみると、今度はあなたが心配だわ。わたくし、友人が悲しむのも、友人を失うのも……怖いわ」

さらりと重い感情などないかのようにイーリスは言ってのけたが、ヘルガには、その気持ちはとてもよくわかる。

父や、オリヴァーと似たようなものであり、同時に愛情でもある。

ヘルガはあまりそういった不安を感じないが、それでも寄り添うことはできる。

「イーリス……心配してくださってありがとうございます。ただ、この問題に型をつけようと考えたのはイーリスの言葉だけが原因ではありません」

「そうかもしれないけれど」

「それに、信じているんです。私。私を、痛みや苦しみを受け入れたままでも、大事にして守ってくれる人たちには自由で平和で優しい世界がふさわしいでしょう?」

きっとヘルガがうまくやって対立が終わって、イーリスも自分の実力を認められる時代が来る。

平和になれば自由は広がる、より豊かになる。それがわかっていて、もしかしたら叶うかもしれない願いだ。

それをわかっていながら『頑張ってきてくれ』『なんとかやってきて』と応援するのではなく、現状の不自由を受け入れた上でもヘルガの危険を望まない。

それはとても優しい。

その優しさは慣れ親しんだ形だし、そういう優しさの形を持っている人がヘルガは好きだ。だから立ち向かいたい。

その気持ちを食い物にして、慢心しあぐらをかいて狙い続ける姑息な人間など打ちのめすべきなのだ。

「私がそう望んでいるんです。イーリス、全部が終わったらまた相談を聞いてください。今度は進展しないこと……ではなく勝手に進展していくことに困っていまして」

「もうっ、ヘルガったら話をそらすのがうまいんだから。気にならないわけがないでしょうっ! そんな話!」

「ふふっ、だと思いました」

そうして、イーリスはまた時間があるときに、相談に乗ってもらうということで帰っていった。

そして最後に、コルネリア本人にどういう意図があるのかだけでも直接確認するべきだと結論を出した。

その願いが通るかという疑問はあったが、そんな必要はなく、コルネリアの方から翌日、しらせもなしに直接エヴァーツ伯爵家のタウンハウスにやってきたのである。