軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 怒り

エントランスの窓際に設置されたソファーから屋敷の門を見つめているとやっと馬車が帰ってくる。

「見てください、シュネー」

「ピー」

「オリヴァーが帰ってきましたよ」

柔らかい綿毛のような毛並みをそっとなでてから、窓の高さまでシュネーを持ち上げる。

するとシュネーはヘルガの手のひらに座ったまま、言われたとおりに外を眺めて「ヒヨ、ピヨ」と鳴く。

言葉がわかっているかどうかは不明だが、なんとなく寂しくないようにヘルガはよく喋りかけていた。

なんせ、親にも家族にも見捨てられてしまったまだ幼い小鳥だ。

寂しく思うことがない日の方が少ないだろう。

今回、一緒に王都へとやってきた父とともに目一杯かわいがるために名前をつけた。

小さく今にも消えてなくなってしまいそうなか弱い存在だったことから、雪という意味を持つシュネーと命名した。

成鳥になれば体毛も白くなるのだしとてもちょうど良い名前だった。

名前をつけて呼ぶと「ピヨ」と鳴くその声が答えているような気がして愛着が増す。

ヘルガとフランクは交互にシュネーの入ったバスケットを持ち歩いてかいがいしく面倒を見ていた。

シュネーをバスケットに入れて、ヘルガは早速かごを持って扉の前へと移動した。

シュネーは少し背伸びをしてバスケットから顔を出して今度はどこに移動するんだと赤い瞳をあちこちに向けている。

少し待っていると、扉は開かれてオリヴァーと対面する。「ヒヨ」とシュネーが鳴いて、ヘルガは「お帰りなさいませ」と穏やかに言った。

しかし視界に収めたオリヴァーはいつもの様子とは違って、こわばった表情をしている。

「ヘルガ」

ヘルガを呼ぶ声が、なんだか重たくて、手を握ったり開いたりして落ち着かない様子でヘルガのそばに寄った。

「父上のところに行ってこようと思う。……はぁー、悪いな。君も話を聞いただろ、今すぐ引き離した方が良いあの様子だと害にしかならない」

感情を抑えるために言葉の合間に挟まれた勢いの良いため息と、若干いつもより早口な言葉。

「アイロスは昔からああいう素直すぎるところがあるんだ。俺が、なんとかしてやらないと」

「……」

「まだ何もわかってない子供なんだ、あんなふうに言っていても俺のことを嫌っていたって、手助けしない理由になんてならない」

そしてオリヴァーから紡がれる言葉に、ヘルガはクリスタの言葉を思い出す。

アイロスがオリヴァーに対して思っていること、その気持ちとその理屈が、こうしてみるとなんとなくわかった。

(まぁ、それが悪いとは私は思いませんがね。こういう人ですし、愛情深すぎる人なんですよ。優しくて、守ってくれる頼りがいのある人ですね)

「すぐに二人を別れさせたい。多少強引にでもそうする方が良い、ヘルガもそう思うだろ?」

問いかけられて、ヘルガは少し考えた。

もちろんその結論については賛成だ。

ヘルガが当事者だったら、それを選ぶと思うし、そうしてほしいとオリヴァーに言われてもやぶさかではない。むしろなら協力してくれと手を伸ばす。

しかし相手はアイロスだ。そして救援を求めたのもアイロス自身ではない。

それでも、アイロスを大切にしている人間からすると堪えられないぐらいのことをされていて、オリヴァーはアイロスを守りたい。

(…………でも、オリヴァーの別れさせるという行動でこの問題をきれいにすべて解決することはできないでしょうね)

ヘルガは冷静にその答えを出した。

オリヴァーの考えは間違っていないし、彼の性分は否定しない。

しかし、オリヴァーが動くだけではきっと問題が残るし、効率も良くないと思う。

何より彼は今、相当怒っている。

それでは、うまくいくものも行かないし、これ以上、アイロスとこじれてオリヴァー自身が傷つかないためにも、今必要なことは……。

「……わかっているとは思いますが、そうするだけではさらにアイロスとこじれませんか」

「……」

「腰を落ち着けて話をしましょう。オリヴァー……あなたの気持ちは十分にわかっています。ほら見てください」

「……」

「シュネーもおびえている」

言いながらバスケットの中を見せる。

シュネーはおびえているというより、きょとんとしていたが、こんなに小さな生き物を前にして、オリヴァーは怒りを継続できるような人ではない。

「行きましょう。焦って考えた策ほど無駄なものなどありませんから」

「……君が言うと言葉の重みが違うな」

「そう思うなら素直に聞いてくださいね」

「ああ」

そうしてヘルガはシュネーを連れてオリヴァーと部屋に向かった。

ヘルガの頭の中に解決策はまだなかったが、クリスタの行っていたベティーナの社交界での一線を越えた発言について言及し策を考える。

ラドフォード侯爵に話を持ち込むにしても、ただのアイロスとベティーナの関係性について口を挟むより、より具体的な懸念があった方がずっと角が立たないし何より、進展のスピードが違うだろう。

きちんと説明すればオリヴァーはすっかり落ち着いたがしょんぼりしていたので、ヘルガはオリヴァーを目一杯慰めて、クリスタの話を踏まえて彼にアイロスとの関係に対する提案をしたのだった。