軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 変化

ヘルガはイーリスに提案された作戦を実行するためにロメーヌの泉へと足を運んでいた。

そこへと至る道のりは幼い頃に通っていた頃よりも、なんだか大変なものになっている気がする。

それはきっと、履いている靴にヒールがついていたり、コルセットや重たいドレスで体が動かしにくいことが原因だった。

これはきっと大人になった故に言えた自由とそれに伴う代償のようなものであると強引に納得しようとしていると、ふとオリヴァーがヘルガへ手を差し伸べた。

歩きにくいと思っていることが通じたらしい。

「……ありがとうございます」

オリヴァーは小さくうなずいて、彼の支えを受けて道とも言えない森の中を進んでいく。

体重をかけてもしっかりと支えてくれるその手をヘルガは不思議に見つめる。

先日も軽々とヘルガを持ち上げてなぜか運ばれたのだが、こうして手を借りるとオリヴァーの力強さをより顕著に感じた。

「……オリヴァー」

「なんだ」

「あなたは鍛えているんですか」

「……一応?」

問いかけると、オリヴァーはなぜか疑問形で答えて「なんで?」と逆にヘルガに聞いてきた。

「先日抱き上げたでしょう? 私のことを。その時も今も、こうがっしりしている感じがして」

「ああ」

「こちらに来てからそういうふうにしているのかしら? と」

「……いや、そんなことないぞ。普通に今まで通り、昔から続けてる剣術をやってるだけ……ただ、体ができてきた頃にはお互い、できる限りふれあわないようにしてただろ」

「……」

「俺らは端から見れば他人で、大事にしている気持ちとかそういうのなんて他人からすると関係ない」

「……はい」

「手をつないでいれば、大人に近づくと男女の関係に見える。そう見えてしまったら、そばに居られないってお互いわかってて、そう思われないように意識していた」

オリヴァーの言葉に、たしかにそうだとヘルガは納得する。

無意識下で彼と離れなくていいように、距離を保って接するようになって、最終的にけじめをつけるべきだと考えたヘルガからオリヴァーにもう離れようと口にしたのだ。

「だから実感する機会がなかっただけで、習慣は変わってないぞ。君を守れるぐらいには俺は強いし、今は君を守っていい立場に俺がいる。だから、今それを知ったってだけなんじゃないか」

「そうですね。……まだ、守ってくださるつもりでいるんですか」

「……まぁ、君は突飛で無鉄砲なところがあるからな」

「心強いです」

なんとなしに会話を続けているといつの間にか茂みの向こうにロメーヌの泉が見えてくる。

空の青を反射して、キラキラと輝く泉は何度見ても美しく、白い毛並みに真っ赤な瞳をした白鳥がすいすいと泳いでいて、夢に見るほどの光景だ。

ここは、女神ロメーヌの名を冠するエヴァーツ伯爵家の特別な泉だ。

水は魔力に満ち満ちて、縄張りとしている白鳥はすべて魔獣化し疎魔の魔法を持つ。

しかし、泉の聖なる魔力のおかげか、それとも有り余る魔力に生まれたときからつつまれているからか凶暴化することはない。

むしろ、エヴァーツ伯爵領に強力な魔獣が出たときには、さらりと飛んできて駆除してくれることがあるのだ。

そのおかげでエヴァーツ伯爵家は魔獣の被害が少なくほかの領地に比べて騎士団の依頼頻度も少ない方だ。

ヘルガたちが泉によると、一羽の白鳥の魔獣が水から上がって、やってくる。

水の上に居て優雅で気品のある姿とは違って少しよちよちとした歩き方が愛らしく、ヘルガは少し笑みを浮かべて淑女礼をした。

「少し場所をお借りします」

言えば許可するようにひと鳴きして白鳥は去って行った。

それから泉のそばにあるガゼボへと向かう。

場所の特性上、管理する人間以外を連れ込む場所ではないので、何もない場所ではあるが魔法具の日用品があれば快適に休むことができる。

オリヴァーが持ってくれていたバスケットから水を生み出す魔法具と、ティーポットのままお湯を沸かせる魔法具を取り出して、二人で紅茶を淹れる。

持ってきたクッキーを出せば簡単にお茶会の準備が整った。

ピヨピヨとどこからか、つたない小さな鳴き声が聞こえてきて近くに雛でも居るのかと考える。

泉の近くは空気が澄んでいて気分が良く、木々が揺れるとさわさわと音を鳴らして心地が良い。

天気が良いので、ほどよく暖かかった。

「……こんなふうにここでお茶会を開くのは久しぶりだな。君が誘ってくれて良かった」

オリヴァーは、今朝方、ヘルガが久々に懐かしい場所で落ち着いた時間を過ごしたいと言ったことを思い出してぽつりと言った。

その言葉に、ヘルガははたと作戦のことを思い出した。

もちろん今朝の言葉も気持ちもまったくもって本心だが、こうしてまたロメーヌの泉にこようと思ったのはイーリスの言葉があったからだ。

先日イーリスに相談すると彼女はふむふむと考えて、それならあえて昔と同じことをしてみるのはどうかと提案してきた。

思い出の場所にまた二人で赴いて、けれどもお互いに立派な大人になって交わす言葉、その想い、懐かしいあの場所。

(素晴らしいロマンティック、素晴らしいトキメキ! ……とイーリスは興奮していましたけれど、たしかにとても良い案です。これなら、落ち着いて話もできますね)

現にオリヴァーもなにやら物思いにふけって居るような様子だ。

イーリス様々である。

(ただ、どんなふうに話を切り出しましょうか。前回のように、ただ漠然とした質問から始めるのはダメでしょう。面白がられてしまうかもしれませんしね)

ふむ、と考えてヘルガはティーカップに手を添えて人差し指で縁を少しなぞってから、少しためらいがちに口を開いた。