軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

記憶力

「こんな人里離れた奥地に何の用があるのだ?」

「言ったじゃないですか。スキルの買い取りができないか、とある村に交渉に行くと。最近耳にした噂なので本当かどうかの確認でもあります」

何年も人が通った形跡のない雑草の生えた山道を進んでいると、隣に並ぶクヨリがそんな事を言い出した。

彼女は服装や身だしなみだけではなく細かいところに無頓着なので、旅には向いているのだが興味のない事は覚えようとしない。

元々、数百年生きてきた記憶が脳を圧迫しているので、昔に売った『忘却』スキルで記憶を消さなければ新たな記憶が入る隙間がない。

なので物事を覚える習慣がないのは理解できるのだが、

「一週間前に回収屋が作ったスープは美味しかった。十年前に作ってもらったスープよりコクがあった」

こういう事は覚えている。

昔の不必要な記憶の大半は消したが、俺に関する記憶は些細な事でも残しているそうだ。

それと自分にとって都合の悪い記憶はすぐに忘れる事にしているらしい。

「ちょっと特殊な村なので普通の人は連れていけないのですが、クヨリさんなら大丈夫かと思いまして」

「うむ。我は何があっても死なぬからな」

「そうですね。死なない人なら安心ですから」

俺の言った事がよく分からなかったのか、考え込んで前方不注意だったクヨリが豪快に転んだ。

そのまま受け身もせずに地面に叩きつけられたが、すくっと立ち上がる。

「体を支えるとか、転ぶのを堪えるとかしましょうよ。見ているこっちが痛いです」

「死なぬ体だからな。自分の体を防衛しようという気にはなれんのだ」

彼女の悪い癖というか習性なのだが、『不死』に『痛覚麻痺』というスキルがあるせいで、自分の体を守るという発想にならないらしい。

普通は痛みや怪我を避ける為に考えなくても体が勝手に反応する。

だがクヨリの場合は痛くない。怪我をしても治る。死なない。だから頭も体も自分の体を守ろうとしない。

彼女の体についた土を払いながら、防御の大切さを語ってみたが興味がないようだ。

……たぶん、この記憶を残す気がないな。

険しい山道には大小の石が転がり足場がかなり悪い。

だからクヨリは何度も転び、時には岩に激突して首がおかしな方向に傾いたところで、諦めて彼女の手を取る。

片腕しかないので空けておきたかったのだが。

「これなら転ばないでしょう」

「そうだな」

手のひらが若干汗ばんでいるが疲れているのだろうか。

クヨリは表情に出さないので無理をさせていても気づかない事が多々ある。

「少し休憩しましょうか?」

「いや、このままがいい。もう少し歩こう」

「そうですか。無理はしないでくださいね。目的地までもう少しですので」

静かに頷いたので、歩調を合わせながら山の奥へと進んでいく。

更に一時間ほど歩き続けると、陽が徐々に山に沈んでいき辺りが暗くなり始めると、ようやく目的の村が見えてきた。

村を囲う塀は木製で殆どが朽ち果てている。誰も手入れをせずに長い年月が流れたのが見て取れる。

「廃村のように見えるが」

「廃村ですからね」

俺の返答に首を傾げている。

何も間違った事は言っていないのだが。

「廃村に誰か住み着いているのか?」

「住み着いていると言うよりは、元から住んでいたと言うべきですね」

眉根を寄せた顔で俺を睨んでいる。

回りくどい表現をして誤魔化しているかのように聞こえたのだろう。

「そのままなのですよ。廃村にずっといる村人の方々にスキルを売ってもらおうと思いまして」

「こんな立地条件の悪い場所に住み続けているのか。途中でかなり狂暴な魔物と何度も遭遇したのだが」

「そうですね。人も寄り付かない地域ですから」

詳しい話は手を握って歩いている最中にもしたのだが、返事が上の空だった。

やっぱり適当に聞き流していたか。

「もう一度、いや三度目ですかね。今度はちゃんと聞いて覚えておいてくださいよ。この村は数十年前に滅び、それからは人の寄り付かない廃村となりました。そんな場所に一か月ほど前に偶然通りかかった冒険者達がいたのですよ。雨風が防げるだけでもありがたいと、一晩この廃村で過ごしたのですが、深夜に仲間の一人が目を覚ますと外から物音がしました」

今度こそクヨリが興味を持つように『演技』『話術』を発動させて話に臨場感が出る工夫をしてみた。

効果があったようで、真剣な眼差しでこっちを見ている。

「複数の人々が何やら話している。冒険者達は寝る前に廃村を調べていて、その時は人影もなく無人である事を確認していました。変だなー不思議だなーと冒険者は思いつつ、扉の前まで忍び足で移動したのです」

ごくり、とクヨリの唾を飲み込む音がして、握られている手に力が加えられる。

『頑強』を上げておかないと骨を持っていかれるな。

「少しだけ扉を開けて隙間から覗くと、家の前に数人の村人らしき人影が見えたのです。驚きのあまり声が漏れそうになりましたが、自分の口を手で押さえどうにか耐えていると、さっきよりも鮮明な声がしました。『今日はごちそうだ』『ああ、ごちそうだ』『丸焼きにするか煮て喰うか』『俺はもも肉がいい』『私は内臓ね』」

「か、回収屋。も、もういい。それって、そのなんだ、もしかして」

話の途中で遮るように質問をしてきた。

繋いだ手がさっきから激しく振動しているのは、クヨリが震えているからなのか。

「はい、彼らは幽霊だったそうですよ。ここから盛り上がる話だったのですが、お気に召しませんでしたか?」

「も、もしかして、幽霊にスキルを売ってもらうのか? 幽霊は少しだけ苦手だ」

涙目で訴えるクヨリの発言は正直意外だった。

不老不死である彼女が幽霊を怖がるとは思いもしなかったからだ。

「ええ、幽霊からスキルを買い取る予定でしたが……。すみません、幽霊が苦手だとはつゆ知らず」

「あいつらは我と真逆の存在だから理解ができぬ」

確かに死ねないクヨリと、死んだ存在。

対極にあると言ってもいい。

「それに殴れないモノは嫌いだ」

自慢の怪力も幽霊には効果が無いからな。

その説明で納得がいった。

「なら戻った方がいいですかね。本当に幽霊がいるかどうかも不明ですが、苦手ならやめておいた方がいいですよね」

「いや、構わぬ。回収屋が傍にいてくれるのであれば大丈夫だ」

「それは約束しますよ。ただの噂話かもしれませんが」

彼女の手を引いて廃村に足を踏み入れる。

気配を探ってみるが、今のところ何の気配も感じない。

そんなに大きな村ではないので、ぐるっと一周してみたがやはり人はいないようだ。

「では一番造りがしっかりしていそうな、あの家で休ませてもらいましょう」

クヨリは村に入ってから一言も話さず、俺の手を強く握りしめている。

今も小さく頷いただけで声は発しない。

かまどが使えたので簡単なスープを作って、それを夕食とした。料理中もずっとクヨリは俺から離れず、服の裾を握り辺りをきょろきょろ見回していた。

「深夜まで待つつもりなので、クヨリさんは眠ってください」

「我も起きておる」

「苦手なら寝ていいんですよ? ただの噂話かもしれませんし、もし本当だったとしても寝ている間に全て終わりますから」

「いい、起きておく」

頑なに寝るのを拒むので、一緒に夜更かしをする事になった。

俺はスキルで眠気はどうとでもなるが、クヨリが眠らないように『話術』を活用して今まで経験してきた様々な出来事を語る。

そうしている内に日を跨いだようだ。

「回収屋よ、頼みがある」

体を小刻みに左右に揺らし、何かに耐えるような顔で俺を見つめるクヨリ。

表情だけでも何かを訴えかけているのは分かるのだが、それが何なのか。

『心理学』を発動してみると何かを我慢して俺に頼みごとをしようとしている、という事だけは理解できた。

肝心な部分は何も分からないが。

「何でしょうか?」

「あの、その、なんだ……」

『心理学』に頼り切るのが危険な事は既に学んでいる。

彼女が何を考えて何をしたいのか、その言動で推理するのが大切だ。

下半身を手で押さえ、お尻を振るように動かしている。顔は仄かに朱が差し、若干涙目に見える。

この感じは以前どこかで見た事があるぞ。そう、孤児院で子供達の面倒を見た時に――

「あっ、尿意が耐えられなくな」

耳元を暴風が通り過ぎた。

さっきまで顔があった場所に拳が突き出されている。

「女性に対して失言でしたね。あそこで用が足せるようですよ」

入り口付近の扉の先が手洗い場になっていたのは確認済みだ。実際に使ってみたが何の問題もなかった。

「それは分かっている……」

「それなら。あっ、なるほど。私は家の外に出ていましょうか?」

女性はそういう音を聞かれるのを嫌がるのだった。

さっきと違い今度は理想的な返し方の筈だが。

「ち、違うのだ。傍にいてくれ。手洗い場の前で待っていて欲しい」

「分かりました」

「な、何がおかしい」

「すみません、笑っていましたか。怖がるクヨリさんが可愛らしかったもので、つい」

「ふ、ふんっ」

怒らせてしまったようだが、そのおかげと言うべきか少し恐怖も和らいだようだ。

彼女に引きずられて手洗い場の前で待つことになった。

「そこにいるのか!」

「はい、いますよ」

「じゃあ、何か話してくれ」

「そうですね。これはある自殺の名所の断崖絶壁で……」

「そういう話はやめてくれ!」

日頃と違う反応が楽しくてからかってしまったが、これ以上やると嫌われかねない。

寂しくなければいいようなので、『歌唱』で明るい曲を口ずさむ。

私が回収屋を始めたばかりの頃に小さな村で歌われていた童謡を。

いつ、どこで、誰に教わったのかも覚えていないし、歌詞を忘れてしまって鼻歌ではあるが曲調が気に入っている。

少ししてから扉が開くと、いつもの無表情に近いクヨリがいた。

「もう、歌わなくていいぞ」

「いえ、私は歌うのをやめていましたが」

「またそうやって我を脅かそうと……」

クヨリの口に手を当てて声を封じて耳を澄ます。

すると、小さく歌うような声が耳に届いた。

「今日はごちそうだ……ごちそう……。丸焼きにして……喰う……。俺……もも肉……私……内臓……綺……処理して年に一度のごち……」

顔面蒼白でもごもご言っているクヨリが、残像が見えそうなぐらいに激しく震えている。

とりあえず落ち着かせるために抱き寄せると、あっさりと震えが止まったようだ。

「落ち着いてください。よく聞くと楽しそうに歌っていますよ」

歌詞のセンスはあまり良くないが、あれはどうやら歌のようだ。

それにさっき自分が口ずさんでいた童謡に似ている気がする。

気配を探ってみるが、人の気配は一切ない。

「本当に幽霊かもしれませんね」

自我を保っている幽霊であれば、それほど問題ではない。

ただし、自我を失い悪霊と呼ばれる存在に成り果てていた場合は少し厄介だ。

幽霊であるなら交渉次第ではスキルを売ってもらう事も可能になり、相手が望むなら成仏させる事も可能だ。

悪霊であれば強引に成仏してもらうが。

「なんで回収屋は落ち着いているのだ?」

「幽霊には何度も遭遇しているので慣れているのですよ」

強引に手を引き剥がしたクヨリの質問に即答した。

少し前になるが元監獄にいた老人の幽霊とスキルの売買も成功している。

「それによく言うじゃないですか、この世で最も怖いのは人間だって」

「そういう……ものなのか。ならば信じよう」

「大丈夫ですよ。手を握ってあげたいのですが、片腕が封じられてしまうと抵抗手段が減ってしまうのですよ。隻腕なもので」

腕が二本あれば片腕が使えなくてもさほど問題はないが、今は一本しかないのでいざという時の対応に困る。

「なら背におぶさって……。それだと後ろから何か来たら怖いな。だがそれ以外に方法は」

「ここで待っていますか?」

「一人はダメだ。それはもっと恐怖を感じる」

外では相変わらず歌が聞こえているが、声の主が立ち去ってしまうかもしれない。

早いところ行動を起こしたいのだが、彼女が納得する方法を思いつくまで待つ事にした。

がらっと扉を開けて声の方を見ると、青白く半透明の体で輪になって歌っている幽霊がいた。数は五体。若く見える男が四人に女が一人か。

惨殺された者達なのか、腕がもげ、腹から腸がこぼれ、首が皮一枚で繋がっている幽霊ばかりだ。体を激しく損傷した幽霊しかいない。

そんな幽霊達が俺の姿を見て、歌がピタリと止んだ。

平然と出てきた俺を見て戸惑っているように見える。

「こんばんは。星の綺麗な夜ですね」

「あっ、はい。心地の良い夜……ん? あの私達が怖くないのでしょうか?」

「ええまあ。見た目で人を判断しないように心がけていますので」

「そうなのですか。すみません。私達は貴方を見た目で判断してしまい、一瞬戸惑ってしまいました」

幽霊達が俺に向かってぺこぺこと頭を下げて謝っている。

彼らが俺を見て動揺した理由は、正面から俺に抱き着いたままのクヨリを見たからだろう。

彼女は悩んだ挙句に出した結論は正面から俺に抱き着いて紐で体を括れば、安心できるというものだった。

現在、木にしがみつく子供のような格好でクヨリは俺にくっついている。匂いと心音で安心できるらしい。見た目はかなり酷いが、もう何も言うまい。

「すいません。怖い雰囲気を台無しにしてしまって」

「いえいえ。こちらも脅かす気はないのですが、この姿を見た人はみんな逃げてしまうのですよ」

幽霊との間に和やかな空気が流れる。

クヨリは俺の胸に顔を埋めて耳栓をしているので、状況を全く把握できていないが。

「先程は何かを歌っていたようですが、あれは何か意味があるのでしょうか」

「ああ、あの歌ですか……。あれは森で馳走が手に入った時に、村で歌う習わしがありまして。幽霊になってから何故か口ずさんでしまうのですよ」

幽霊は死ぬ直前や死んだ時の記憶が強く残る、と聞いた事がある。

ご馳走を食べようとした際に何かあったのだろうか。

「幽霊になった理由は覚えていらっしゃるのでしょうか」

「あー、なんだったかなー」

「ほら、あれだあれ。山賊が村に押し寄せてきて、みんな死んじまったんだよ」

「それよそれ! 幽霊になってから記憶があいまいですっかり忘れてたわ」

殺された姿を見る限りでは、そんな気楽に話せるような内容ではなかったはずだ。

幽霊というのは何かしらの未練や恨みがあって現世に残っている状態を指す。

穏やかに笑い合っている幽霊達にも、ここにいる何かしらの理由がある。それを聞き出して叶えてやればあの世に旅立てる、と思うのだが。

……その前にスキルの確認をしておこう。

特に目立ったスキルはない。だが五人に共通しているスキルが一つだけあった。

レベルは低いが『歌唱』スキルか。

さっきの歌声も扉越しでこもっていたが、集中して聞けば歌声は悪くなかった。声が綺麗に重なっていたので、日頃から練習して数をこなしていたのだろう。

「もしよろしければ、もう一度だけ先程の歌を聞かせてもらってもいいですか?」

「聞きたいのか! ああ、構わないぞ。いくらでも聞いてくれ」

破顔した幽霊達が声を揃えて歌い始める。

「今日はごちそうだーごちそうだー。はい、はい、はい! 丸焼きにしてみんなで分けて。いえい、いえい、いえい! 俺はもも肉がいいなー。私は内臓を焼いたのがいい。ふぅーふぅーふぅー! 綺麗に処理して年に一度のごちそうをみんなで食べよう! 隣人も旅人もみんな一緒に飲んで笑って歌ってー」

手拍子や簡単な振り付けの踊りも交えながら、楽しそうに幽霊が歌っている。

その光景は奇妙ではあったが恐怖は感じない。

歌を改めてしっかりと聞くと、やはり俺がさっき歌っていた童謡と同じようだ。記憶が定かではないが、昔にこの村を訪れて聞いた事があったのだろう。

合いの手が邪魔と言うかノリが少し恥ずかしい。あと歌詞が安直すぎる。

彼らが歌い終わると同時に右手で左肩を叩くという不格好な拍手をすると、幽霊が照れていた。

子供の考えたような単純な歌詞だが、曲のノリは悪くない。

「お見事でした。その歌はいつ頃から歌われるようになったのですか?」

「爺さんの更に爺さんの更に爺さんの代から歌われとったらしいよ。昔は歌詞がなくて適当に口ずさんでいたみたいなんだが、村をたまたま訪れた行商人が歌詞をつけてくれたそうだ」

「そうなのですか、歌詞を。……行商人が歌詞を?」

今の言葉に引っかかるものがあった。

「歌詞はちょっと変というか適当なんだけど、まあ曲がいいから気に入っとるんだよ」

「ああ、歌詞は酷いよな。でも盛り上がるし。あの歌詞を喜ぶのは子供ぐらいだけど」

「私達は村でも歌に自信があってさ。今回から歌う役に選ばれたんだよ。ご馳走なんて年に一度あるかないかなんだけど、その時に村の代表としてみんなの前でこれを歌うのが決まりなんだ。暇があれば集まって何度も練習したもんさ」

「歌いたかったなー。ご馳走を前にして宴で。歌詞はあれだけど」

どうやら彼らの未練は練習した歌を宴で披露する事だったようだ。

だが今はそんな事より気になっている点がある。

「その歌詞を考えた人の特徴とか伝わっていませんか?」

「んー、黒髪で特徴のない人物だったって話だよな」

「爺様に聞いた話だと、丁寧な話し方で物怖じしない商人だったそうだ。あんたと特徴が似ているかもしんないな。でも片腕じゃなかったみたいだし、かなり昔の話らしいからとっくの昔に死んでいるさ」

今の言葉で確信した。

『記憶力』を発動して心の隅に収納していた記憶を掘り出す。

あー、あった。この村でこの歌詞を考えたのは……俺だ。

文字も読めない村人達に歌詞を考えてくれと頼まれ、酒に酔った勢いで適当に作った歌詞。それが今も歌い継がれているとは。

「まあ歌詞はアレだが。宴の最中に人前で歌ってみたかったんだよ。それだけが心残りかもしれないな」

「本来は演奏する人が何人もいてさ、そこでこの歌を披露するんだよ」

「幼稚な歌詞だけど、曲はいいし、気持ちよく歌えるからね」

歌詞に触れるのはそろそろ止めていただけないだろうか。

若気の至りだとはいえ、私が考えた歌詞なので。

もっと真剣に考えるべきだったと心底後悔しているよ。

彼らの望みは理解できた。これも縁か……。

望みを叶えたら買い取りの交渉も楽にできるよな。決して過去の負の遺産を、ここで葬り去りたいわけじゃない。

「皆様の未練を断ち切るお手伝いをさせてください」

そう申し出ると、彼らは信じられないようなものを見るような目で俺を見た。

幽霊に驚かれる人間もなかなかいないよな。

俺から伝わる体温に安心したのか、いつの間にか熟睡していたクヨリを空き家に降ろして毛布を被せておく。

そして、一人で森に入り獲物を捕まえ、食べられる野草や果実を採取して、手持ちの食材も使って『料理』スキルでご馳走を作る。

更に木を切り倒してその木材を加工して簡単な打楽器を作り、余った木材で舞台まで制作した。スキルをフル活用しても三時間は必要だったが、まだ夜明けまで時間が残っていた。

「何の騒ぎ……ひいぅ!」

寝ぼけ眼で空き家から出てきたクヨリが舞台の上に立つ幽霊を見て硬直している。

簡単に事のあらましを説明すると恐怖がかなり薄れたようで、協力を申し出てくれた。

一時的に『演奏』を彼女に売ったので上手くやってくれるだろう。

片腕だったが身体能力を最大限に発揮して、手も足も使い器用に演奏すると、それに合わせて幽霊達が歌い始めた。

夜が明ける頃には彼らの姿はなく、無事あの世へと旅立てたようだ。

「スキルの買い取りを忘れていましたが、まあいいでしょう。クヨリさん冷えていますが豪勢な朝食があります。一緒に食べましょうか」

「お腹が空いているので丁度いい」

食事をしながら話をしていると、クヨリは前に何度も話した今後の方針を殆ど覚えていなかった。

「すまない。今度はちゃんと覚えておく。忘れるのはよくない」

今までならここで注意をしていた場面だが、俺は小さく息を吐くと微笑んだ。

「記憶とは曖昧なものですからね。あまり気にしないでください。誰だってうっかり忘れたり、消し去りたい記憶はあるものです」

「今日の回収屋は妙に優しいな。何かあったのか?」

「……いえ、別に何も」