軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋人の街

「いやー、満員御礼ですね」

「店に入ったわけではないのだから、その表現はおかしいのではないか」

朝日が射し込む中、目の前にうずくまる人々を前に感想を口にするとクヨリが指摘してきた。

「言葉遊びと言いますか比喩ですよ」

「そうなのか」

クヨリと一緒に旅をしてからというもの、以前よりも襲われる回数が増えた。

目の前に転がっている連中もその一部なのだが。

「旅をすると何故人は襲ってくるのだろうか」

「絶好の獲物に見えるからでしょうね。私は片腕ですし、クヨリさんはか弱い女性に見えますから」

実際は両方とも軍隊を派遣しても勝てるかどうか怪しい実力の持ち主なのだが、それを見抜ける者は滅多にいない。

隻腕の行商人とその相棒か妻にしか見えないのだろう。

クヨリが一人旅をしている時も頻繁に狙われたらしく、こういった状況は互いに珍しくもなく慣れていた。

凶悪な魔物が徘徊する土地で女の一人旅は無謀以外の何ものでもないのだが、レベルの高い『怪力』と死なない体がある彼女には無用な心配だ。

「ちゃんと手加減してもらえたようですね」

「生を軽んじてはならない。死ねるというのはそれだけで恵まれた事なのだから」

死は誰にも平等に訪れる。と言われているが、クヨリにはそれが当てはまらない。

人の理から逸脱した彼女は死の恐怖を知らない。『痛覚麻痺』により痛みもない。

それ故に人の痛みが分からず、相手を攻撃する際にやりすぎる事がある。

昔は敵対する相手は全力で粉砕していたが、最近は手加減を覚えたようだ。

地面で痙攣している男達の手足が、あらぬ方向に曲がっていたりはするが……。

「次の目的地はまだ遠いのだろうか」

「この調子だと半日もあれば大丈夫だと思いますよ。以前から一度訪れてみたかった街なのですが、条件が整わなくて先延ばしになっていたのですよ」

クヨリと向かっている目的地の街は以前から目をつけていたのだが、通行許可が下りず機会を探っていた。

「条件とは?」

「それは……着いてのお楽しみです」

倒れて唸っている男達の骨を接いで添え木をしておく。お手製の痛み止めの薬と回復薬もそっと置いておこう。

「回収屋は優し……」

「治療費はいただきますね」

クヨリは何かを言おうとしていたようだが、相手の袋から財布を拝借して料金を徴収している俺を見て口を噤んだ。

「最近出費が激しいので、これも貴重な収入源なのですよ」

「見えてきましたよ」

指さす方をじっと目を細めてクヨリが見つめている。

「白い壁が見える。堀も見える。妙に綺麗だ」

魔物が徘徊するこの世界において、村や街を壁で囲むのは当たり前の事で、何の対策もしないのは自殺行為と同じ。

この街も高く分厚い壁で囲まれているが、何故か壁一面が純白。

普通は硬く鈍い色の安い素材の石を繋ぎ合わせるのだが、この白い石は貴族の床石に使われる結構値の張る石材のようだ。

陽の光と壁の周りに張り巡らされた堀の反射した光に照らされて、街の壁が輝いて見える。

「噂には聞いてましたが、遠くからこれだけ目立つと魔物達にも狙われるでしょうに」

「防衛に自信があるという事なのだろうか?」

「そうですね。ここの兵士は凄腕と言いますか、他と比べて特殊ですからね」

「特殊?」

「それも街に着いたら説明しますよ」

焦らされた事に不満があるのか、少しだけ頬を膨らましてじっと睨んでくる。

今までならこれぐらいのやり取りでは無表情を貫いていたのだが、最近は感情を表に出す事が増えた。

一緒に旅をしてまだ数日だがクヨリには精神面に変化があるようだ。

白く巨大な壁の一部に門扉があり、その前にはずらりと人々が並んでいる。

最後尾に着いたのだが列に並ぶ人々の異様さに、思わず貼り付けていた薄い笑みが崩れそうになった。

「楽しみね、あなた」

「そうだな。ここで僕達は永遠に結ばれるんだ」

前の男女二人組が腕を組んで寄り添い、いちゃいちゃしている。

見るに堪えない光景だったので視線を先に向けると、別の男女二人組が人前だというのに接吻をしていた。

更に先の男女は互いに見つめ合い甘い言葉を囁き合っている。読唇術なんて覚えるんじゃなかったと後悔するぐらい、恥ずかしい言葉を並べている。

そんな男女が列の先頭から最後尾の自分達の前まで続く。

隣で静かになったクヨリの様子が気になり横目で確認すると、じっと見つめたまま顎に手を当てて何やら考え込んでいた。

「ここは痴情」

クヨリの口に手を当ててそれ以上は話させないようにする。

一瞬だけ前の二人がこっちを見たが、直ぐに自分達の世界に戻っていった。

これが宿屋のスーミレなら照れる場面なのだが、恋愛から遠ざかっていた彼女にはただ異様な光景にしか見えなかったようだ。

正直、俺も同じ気持ちなのだが。

「ここは恋人の街と呼ばれているのですよ。この街の中心にある女神像の前で愛を誓った男女は永遠に結ばれるとされていて、新婚や恋仲の二人が訪れる観光地となっています」

「道理で人の目を気にせずに、痴態を晒」

「クヨリさん、言葉を濁しましょうね」

再び口を押さえる。

クヨリに悪気がないのは分かっている。

体の痛みもそうだが、ずっと引きこもり生活だったために人の心の痛みも知る機会がなかったので、何を言ったら相手が傷つくか不快になるか判断できないのだ。

相手を配慮して発言する事を少しずつでも覚えてもらわないと。これからは人と接する機会が増えるのだから。

話をしている間に列は進み、俺達の番となった。

金属鎧を着た門番が二人近づいてきたのだが、片方が女性だ。

冒険者には一定数女性も存在するが、基本的には女性は後衛の弓や魔法を得意とする者が多く、前衛で戦う女性の率はかなり低い。

特に兵士は男性の割合が高く、門番に女性を採用するところはかなり珍しいと言える。

「お二人は観光ですか? それとも女神様の祝福を授かりに?」

女兵士の方が話しかけてきた。穏やかな笑みを湛えた優しい顔をしている。

門番と言えば厳つい顔で詰問口調が普通なのだが、こんな対応は滅多にない。

「一応観光目的ではあるのですが、できる事なら」

そう言って恥ずかしそうに頭を掻いてちらっとクヨリを見る。もちろん『演技』は発動している。

クヨリは首を傾げて、眉根を寄せて俺をじっと見ている。まるで奇妙な生物を見たかのような目で。

「そうですか。片腕を失った伴侶を見捨てる事なく、共に過ごすお二人はこの街に相応しい。女神の祝福がありますように」

それだけの会話であっさりと通行許可が下りた。

以前ここを一人で訪れた時は、あれこれと詳細を聞かれそれでも入る事を許されなかったのだが、男女であればこんなにも容易くいくのか。

「兵士達が全て男女の組み合わせだぞ。二人一組というのは理解もできるが、何故男女なのだ?」

クヨリの疑問はもっともだ。俺達の対応をした男女の兵士だけではなく、全ての兵士が男女二人組で行動している。

「街中を見たらもっと驚きますよ」

門を潜って街に一歩踏み入れると、視界が薄紅色で埋め尽くされた。

街中の建造物の壁も屋根も薄紅色に統一され、何処を見てもその色が目に飛び込んでくる。

地面の石畳は城壁と同じ白、建造物は薄紅色、空は青。三色が重なり合うような色彩が幻想的な空間を作り出していた。

事前に話を聞いていたので驚きは少ないが、それでもこれは圧倒されるな。

初めて訪れたらしい先客の男女は足を止め、その光景を眺めうっとりとした表情で肩を寄せ合っている。

これが一般的な反応なのだが、クヨリはどうなのか。

期待と不安を込めて視線を向けると――眉間にしわを寄せて考え込んでいる。

「何故、こんな色をしているのだ。建造物は素材の色を生かせばよい。何でもかんでもこんな色にする必要があるのか」

さすがクヨリだ。空気に流される事もなく自分を曲げないな。

その発言を聞いた周りの人々が遠ざかっていくが、そこは気にしないでおこう。

「この色は人の心を穏やかにさせる効果があるそうですよ。好戦的な気持ちになりにくく、争い事が起こりにくいそうです」

「なるほど、実用的な配慮なのだな」

多くの女性が好む色だという説明は省いた方がいいだろう。

少なくともクヨリはこの色よりも黒や茶色と言った地味な色を好むから。

「それにこの街の付近でしか取れない花の染料を使っているそうです。特産品としてこの色に染めた布や衣装が売っていますよ」

「宣伝効果も期待しているのだな」

うんうん、と頭を縦に振って納得してくれたようだ。

この街並みは正直落ち着かないのだが、周りの男女は気にする事もなく寄り添っている。

街中を見回してみると、住民も商店で働く人々も老若男女問わず、全て男女一組で行動していた。

「ここは二人で行動しなければならない規則でもあるのか?」

クヨリもそこに気付いたようで、眉間のしわが深くなっていく。

「規則はないのですが、ここは男女二人でなければ訪れる事ができない街なのですよ。そしてこの街に住む条件は女神像に祝福を授かる事。それだけです」

「祝福を授かるというのはどういうものなのだ?」

「女神像の前に立って、お互い永遠に離れないと誓い口づけをするのです。そうすると女神像が輝き祝福される、という噂ですね」

この話を聞いてクヨリの顔が更に渋面になるかと思ったのだが、額のしわは消えていて代わりに真剣な表情でじっとこっちを見ている。

若干だが瞳が潤んで頬がほんの少し赤らんでいるように見えるが、どうしたのだろうか。

「回収屋は、その、なんだ。それを目当てにここに」

「ええ。どういう仕組みなのか前から気になっていたのですよ」

「……えっ」

「以前からこの街の噂は耳にしていたのですが、同行してくれる女性に心当たりがなく、ずっと機会を窺っていたのですよ。こうしてクヨリさんと旅をする事になり、これは千載一遇の機会だと、この街を訪れる事にしたのです」

「…………」

俺の話をクヨリは黙って聞いてくれているので、もう少し詳しく説明をするか。

「この街を訪れる男女は多いのですが、この街から帰ってきた者は少ないのですよ。そこで帰ってきた人から話を聞き出すと、全員に共通点がありました。それは女神像の前で永遠の愛を誓わなかった、という事です。どうやら誓った男女はこの街に残り、誓わなかった男女は街を離れるようで……。どうしました、クヨリさん」

俯いたまま肩を震わせている彼女に声を掛けると、すっと顔を上げた。

無表情な顔を今まで散々見てきたが、底冷えするような寒気を感じさせる無表情は初めて見た。鈍い俺でもさすがに理解した。対応を間違えた事を。

「で、その誓いをするのか?」

地の底から響いてくるような低い声で俺に問いかける、クヨリ。

そんな声が出せたのか。

「いえ、この街の人々を鑑定してある程度の事は理解できましたので」

「どういうことだ?」

「それは女神像の前まで行ってから話しますよ」

「ふーん」

さっきまでのご機嫌な様子は霧散し、不機嫌さを隠そうともしないクヨリを連れて行こうとしたのだが、どうにも歩みが遅い。

俺の言動が不味かったのは理解している。彼女が期待していた発言と異なる対応をしてしまったのだろう。

客の恋愛事の揉め事に関しては上手くやれていると自負していたのだが、自分が絡むと調子が狂う。

女神像の近くに行くとその前にはまた列があり。男女が仲睦まじい姿を見せつけてくれている。

「不快にさせて申し訳ありません」

クヨリの耳元に口を近づけて謝罪の言葉を囁くと、びくっと体が縦に揺れた。

「急にそういう事をするでない。不機嫌に見えたか……。我もよく分からんのだ。たまに回収屋が他の輩と話しているとイラつく事がある」

「お互いゆっくり学んだ方が良さそうですね。それはさておき、先程口にした『鑑定』で分かった情報なのですが。この街の住人の殆どに同じスキルが存在していました」

「同じスキルが?」

「ええ、そうです。『誓い』というスキルがありました。そして、この列に並ぶ人々にはそのスキルが存在していません。が、女神像の前で祝福を受けた後の人々には『誓い』のスキルが現れています」

「つまり、この女神像の前で『誓い』のスキルを与えていると?」

「そう考えるのが妥当ですね」

問題はこのスキルの内容だ。普通に考えるなら互いに結婚をして一生ずっと一緒にいる。という結婚の誓いを想像するがスキルとして存在するということは、それには強制力がある。

おそらく『契約』と同じような効果があるのではないか。

奴隷を従属させるように『誓い』のスキルを付与された者は、何かしらの枷をつけられその規則に反する行動ができなくなる。そう考えると街の異様さにも説明がつく。

「しかし、どうして他人の前で互いの事を誓わねばならんのだ? 互いを信用して永遠に愛せる自信があるなら、当人たちの胸にしまっておけばよいではないか」

「保証が欲しいのではないでしょうか。他人に誓ってみせる事で、二人は愛し合っているのです。と証明して安心を得たい」

偉そうに語っているが、長きに渡って独り身で過ごしてきた俺の考察がどれだけ当てになるのやら。

「ふむ。ならば誓ってみればよいのではないか。仮の芝居なのだ気にする事はない。回収屋であれば『誓い』を付けられたところで、取り外しが可能であろう?」

「その方が詳しく調べられますが……。万が一取り外しが不可能になる場合や、呪いの類かもしれませんが、よろしいのですか?」

「構わぬ、望むところだ」

そう言ってくれるのであれば力を借りる事にしよう。

女神像は純白で石材を削って彫られた像のように見える。背中に白い鳥の羽根が生えた長い髪の美しい女神。高さは俺よりも少し高いぐらいか。

スキルに『石工』を入れて、もう一度女神像をじっくりと観察する。

あれは石材じゃないな。石に見えるように加工されているがそうではない。

他のスキルも発動して材質を調べたのだが、どのスキルでも材質が何であるか判明しなかった。

こちらの番になると女神像の前に居た神父のような格好をした男女が、こちらに手をかざして本を開く。

「よくぞいらっしゃいました。互いを想い合う若きお二人よ」

「「若くはない」です」

ぼそっと小さく呟いた声が重なる。

クヨリと目が合うと小さく笑う。

「汝らはどのような苦難も共に乗り越え、痛みは分かち合い、死せる時も共にあることを、愛の女神の前で誓いますか?」

「誓い――」

その瞬間、念の為にセットしておいた『直感』スキルが警告を発する。

これは宣言に対しての警告なのか?

ふと見上げた女神像の目が――僅かに動いた気がした。

「すみません、やはりやめておきます」

言葉を遮り宣言を中断させる。

驚いた顔のクヨリの視線が痛いが、仮初とはいえこれは実行してはならないと判断した。

「この雰囲気に流されそうでしたが、一生の事はもっと真剣に考える必要があると思うのですよ。あと数日この街で過ごしてからもう一度お伺いさせていただきます」

そう断って頭を下げて、クヨリの手を引いて列から離れる。

女神像の裏側を通るようにして移動する際に、女神の足付近に文字が刻まれているのを見逃さなかった。

人ごみから離れ路地裏に飛び込むとクヨリに顔を寄せる。

「あの女神像はただの彫像ではありませんよ」

「そうか」

声に棘がある。間違いなく不機嫌だ。

口を結んで頬を膨らませていたら、誰だって分かる。

「あの女神像の材質も石に見えましたが、実はもっと硬質で現代では生み出せない物のようです」

「……詳しく」

機嫌は直っていないようだが、話に興味が湧いてくれたようだ。

「以前、〈大いなる遺物〉でもあるオートマタのアリアリアさんから聞いた事があったのですよ。世界の各地には私の姉妹が存在すると。その姉妹は人に害を与える個体もあれば、人に役立つ目的で作られた個体もあるそうです。そして多くの姉妹はスキルに関わっていると。宿屋に滞在されているイリイリイさんをご存知ですよね? あの方もオートマタです」

動いた瞳と謎の材質で出来た女神像。条件は揃っている。

確証は女神像に刻まれた名だ。足下に古代の文字で『ワリワリワ』と書いてあった。

オートマタである彼女達の名は共通点があるので、それを目にして確信に変わった。

「つまりあの女神像は自意識があり、スキルを与えているという事か」

「はい、そうなります。〈大いなる遺物〉が絡んでくるとなると、取り返しのつかない可能性がありましたので強引ですが取りやめさせてもらいました。事を急ぎ過ぎて申し訳ありません」

「そういう事なら、納得がいった。でもこれから事前に全て教えておいて欲しい」

「はい、分かりました」

謝罪を受け入れてくれたクヨリと街で情報を集める事にしたのだが、知れば知るほど違和感を覚える。

この街の人々は一見幸せそうなのだが、言動の端々に相手への嫌悪感や苛立ちが垣間見える時があるのだ。

だというのにそれを決して表に出そうとはせずに、ひた隠しにして幸せを装う。

若い男女は本当に心から愛し合っているように見える。だが熟年になればなるほど、綻びが見えてきている。

「回収屋の言ったとおりだ。どうにもおかしい」

「そうですね。『演技』のスキルを覚えている人も結構いました。これはスキルを覚えるぐらい日常から演技をしていたと考えると、そうならざるを得ない状況下にいるという事です」

「偽りの愛を示さねばならない関係か。これからどうするのだ」

「深夜にあの女神像を調べに行きましょう。意思があるなら会話も可能ですから」

夜が更けるのを待ってから宿屋を抜け出すと、女神像の前に舞い戻った。

辺りに人影はなく見張りの一人も立っていない。

「ワリワリワさん、初めまして。回収屋と申します」

頭を下げて相手の反応を見るが、無反応か。

「貴女はオートマタですよね?」

がたっ、と重い物が揺れた音がする。

じっと女神像の瞳を見つめるが変化はないか。

「アリアリアさんをご存知ではありませんか?」

今度は二度音がした。

それでもまだ彫像の真似を続けるようだ。

「取り出しましたのは鋼鉄の塊。これをクヨリさんに渡します。思いっきり挟み込んでください」

俺の指示に従い実行した彼女の手のひらに挟まれた鉄の塊は、まるで粘土を押し潰したかのように凹んでいる。

今度は三度揺れる音がした。

「クヨリさん、女神様を思いっきり抱きしめてあげてください」

「承知した」

両腕を広げて女神像に歩み寄るクヨリ。

足下に立ちその両腕で女神像を包み込もうとした、その時。

「ストーップ! ねえ、あんた達、何考えてんの⁉ 罰当たりだとか思わないの!」

見た目に反して意外と若々しい声が響く。

これが女神像の振りをしたオートマタの声か。

俺とクヨリを交互に指差して怒る姿は荘厳さの欠片もない。

「やはり話せるのですね。ワリワリワさんが人々に与えている『誓い』についてお話を聞かせて欲しいのですよ」

「あんた達、アリアリアの名前を出したって事は知り合いでしょ。事前に話を聞いていたのね、つまんない」

こちらの反応が薄かったことが不満の様で、台座に腰を下ろして足を組むと頬杖をついている。

住民がこの姿を見たら幻滅するだろうな。

「もしかして、私が悪意を込めて『誓い』を押し付けているとか思ってないでしょうね。私は製作者とみんなの願いを叶えているだけよ。永遠に一緒にいたいと願う男女に確認を取った上で、叶えてあげているの」

「それは重々承知しているのですが、『誓い』の内容はどうなっているのでしょうか」

「ええとね、宣言通りよ。誓った男女は一生離れる事ができないの。大体大股で十歩以上は離れられないわよ。あと死せる時も共にって宣言した通り、片方が死んだらもう片方も死ぬわよ」

だからここの兵士たちは連携力があり強いと評判だったのか。

相棒の命が自分の命に繋がっているのであれば強くもなるだろう。

「誓いが物理的に実行されるのですか」

「そうよ。あと精神的なフォローもバッチリよ。相手を嫌ったり、嫌悪したり、裏切ったりしたのが誓った相手に伝わると、体に激痛が走るの。ちゃんと誓う前に「痛みを分かち合う」って文言入れているでしょ?」

「……それも物理的にですか。誰もそうなるなんて思ってもいませんよ」

「そうなの? なんか勘違いしてるっぽいけど、これって強制的じゃなくて互いにそうしてもいいって思わないと実行されないのよ。だから上辺だけで恋愛ごっこしている連中は『誓い』が発動しないのよ」

つまりスキルに『誓い』がある者は自分達で望んでそうなった。

「誓った方々も当時は本気だったのでしょう。ですが気持ちは変化するものです。嫌な部分が見えてしまい幻滅する事だってあるじゃないですか」

「人ってそうらしいわね。このスキルを制作した主ってさ、ここだけの話なんだけど奥さんに酷い裏切りにあって、女を信じられなくなったんだって。そこでこの地で一生添い遂げられるようなスキルを生み出したそうよ。あっ、誓ったらこの街から離れられなくなる、というのもあるのよ」

口調が近所の噂話をしているおばさんのようになっている。

他人事のように話しているが、自分がそれを実行している自覚はあるのだろうか。

「勝手に永遠の誓いをして、それを勝手に破って別れたがるってさ。それなら初めからできもしない事を軽々しく誓わなければいいと思わない?」

この女神像に扮したオートマタに悪意があってやっているのであれば破壊するつもりだったのだが、どうやら違うようだ。

「そこは人として耳が痛いですが、仰る通りですね。ワリワリワさんに悪気がない事は理解しました。それを知った上でお訊きしたいのですが。『誓い』は解除可能なのですか?」

「それが無理なのよ。解除方法は知らなくってさ。ごめーんね」

自分の頭を小突いて舌を出されてもな。

ワリワリワは主に命令された事を実行しているだけの存在。それに『誓い』を得た者は自分で望んだ結果。

俺が口を挟むような案件ではないのかもしれないが……。

「解除できないようだが、こちらが勝手に解除する分には問題はないのか?」

「それは自由にしていいけど、解除なんてできるの?」

クヨリの問いに軽く答えるワリワリワ。

難しく考えていたが問題がないなら『売買』で買い取ればいいだけか。

「回収屋。最近出費が激しいのだろう。ここが儲け時ではないか? 現在の関係に不満がある者達から買い取ればかなり儲けられると思うのだが」

確かに。強制的に関係を続けている状態の今なら、お金をいくら払ってでも別れたいと思う人は多いのかもしれない。

大半の人は買い取りを拒否して、このまま二人で暮らすのを選ぶ。……と信じたいところだが。

「あらまあ、しっかり者の素敵な奥さんじゃないの。貴方達なら永遠の愛を誓っても大丈夫じゃないの?」

「遠慮しておきます。私達は――」

そこで一旦言葉を区切って、クヨリを見る。

彼女の言っていた事を思い出し、言葉を続けた。

「他人の前で軽々しく誓うような事ではありませんからね。相手への想いは当人の胸に秘めておけば……それでいいのですよ」