軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52:変わりすぎた元婚約者(リカルド視点)

学園の校門前では、いつになく大勢の生徒で賑わっている。

会場の中心となる広場へ向かおうとした俺――リカルドは、近くにある歴代校長の像に正面から激突した。

目の前に立っている人物に対して、ものすごく動揺したせいだ。

「大丈夫、リカルド?」

心配そうに声をかけてくるのは、ゆるく巻いた長い黒髪に青い目の美少女。元婚約者で現友人のブリトニーだった。

「あ、ああ、平気だ。問題ない」

……問題は大ありだ。隣を歩く令嬢が、気になって仕方がないなんて、俺はどうしてしまったのだろう。

なんと、半年ぶりに会ったブリトニーは、以前の面影を綺麗さっぱりなくし、スマートになっていたのである……!

ハークス伯爵家の令嬢といえば、ふくよかな体つきが真っ先に思い浮かぶのだが、今目の前にいる彼女は、以前会った時よりもはるかに痩せていた。

それだけではない。どこかリュゼに似た顔立ちの彼女は、少し癖があるものの非常に美人で、俺の初恋の相手……婚約時にもらった姿絵の女性にそっくりだったのである。

異性として見ることができない相手だと思っていたが、俺は半年で前言撤回せざるを得なくなった。一方的な婚約破棄を、今ほど後悔したことはない。

ブリトニーが校門前に現れたとき、俺の周囲では、「横乗りで馬を爆走させている、あの美しい令嬢は一体誰だ?」というざわめきが広がっていた。

引き締まった体に、艶やかな肌。そして、彼女が歩くたびに漂ういい匂い。

普段から、むさ苦しい野郎に囲まれて過ごしているこの学園の生徒に、刺激を与えすぎだ。

彼女を引き連れて歩いていると、視線がこちらに集中しているのがわかる。

ブリトニー自身も周囲の気配を感じ取っているようで、先ほどから不思議そうな表情を浮かべてキョロキョロとよそ見をしていた。

「ブリトニー、会場はこっちだから」

「あ、うん。ねえ、リカルド……さっきから様子が変だけど、どうかしたの?」

そう問われて、思わず俺は声を上げそうになった。

(言えるわけないだろ!)

心の叫びを飲み込み、平静を装って彼女に話しかける。

「ブリトニー、また痩せたのか?」

「うん、お祖父様と一緒に筋トレしたら痩せた」

「筋トレ? なんでそんなことを?」

「うん、護身術を習っていたら、いつの間にか筋トレもセットになっていて……きっかけは、あの誘拐事件なんだけれど」

ブリトニーの話を聞いて、俺は胸が痛んだ。自分が不甲斐ないせいで、彼女にまで辛い思いをさせてしまったからだ。

そのせいで、ブリトニーは護身術を学ぼうなどと思ってしまったのだろう。

「なあ、ブリトニー……」

あの時のことを改めて詫びようと口を開くが、それよりも早くこちらに話しかける人物がいた。

「リカルド! その美人は誰ですか? 僕らにも紹介してくださいよ!」

声をかけてきたのは、同じ学園の生徒だ。数人の仲間と一緒に立っている彼は、俺と比較的仲の良い相手だった。

白銀のくせ毛に、真っ黒な瞳と白い肌。彼は、北隣の国からの留学生で、妾腹の第五王子。名前は、ルーカスという。

性格は、王子のくせに甘え上手で、憎めないやつといったところだろうか。

見た目の良さゆえか、すでに王都で多くの令嬢が彼に好意を抱いている。

(まあ、第五でも王子だから……実際にどうこうするのは難しいけどな)

気さくな性格で、周りの生徒に「自分と普通に接して欲しい」と告げた変わり者だが、一応王族なので婚姻となると色々難しい。

けれど、令嬢たちが黄色い声でうるさく騒ぐぶんには自由だろう。

ルーカスの出身国である北の国と、俺の住むこの国とは、大昔に戦争をしている。

ブリトニーの祖父である、元ハークス伯爵が戦っていた時代のことだ。

今は講和条約が結ばれ、北の国と表向きは友好的な関係を築いている。第五王子が、わざわざ留学してくるのが証拠だ。

「ああ……彼女は、うちの隣の領土に住む令嬢で、ブリトニーという」

俺はとりあえず、ブリトニーを紹介する。他人が彼女に興味を持つことに、複雑な思いを抱きながら。

「ブリトニー・ハークスです、はじめまして」

隣では、ブリトニーが普通に挨拶をしていた。ルーカスも笑顔を浮かべている。

「はじめまして、僕はルーカス・リア・ホスヒーロと言います。あなたが、あのハークス伯爵家のご令嬢か……ご実家のことは、よく知っていますよ」

ルーカスの発言に、思わず俺は口を挟んだ。

「……おい、過去のことで、ブリトニーに絡むのはやめろよ」

北の国の軍隊は、過去にハークス伯爵領を攻め落とそうとして、手酷いしっぺ返しを食らったのである。若かりし頃の元ハークス伯爵や、彼の仲間たちにより、北の国の軍勢は壊滅的な被害を受けたようだ。

講和条約のきっかけとなったその出来事は、向こうの国にも広まっているだろう。

「ああ、申し訳ありません、そういう意味ではないですよ。こうして出会えたのも何かの縁、僕とも仲良くしていただけると嬉しいです」

ブリトニーは、黙って頷いた。気のせいだろうか、笑顔が若干ひきつって見える。

「悪いが、これからブリトニーを案内する予定なんだ。また、後でな」

そう告げてブリトニーの方を見ると、あからさまにホッとした様子で俺の後ろに立っている。

立っているというよりは……隠れている?

(あれ、なんか……ルーカスのこと、怖がっていないか?)

いつも元気な彼女らしからぬ行動に、俺は少し戸惑った。