作品タイトル不明
232:突撃してきた謎の令嬢
屋敷に帰ると、アスタール家の執事が、私に急な客人が来ていると教えてくれた。
ちょうど、少し前に到着したところらしい。
「誰でしょうか」
「西の国の侯爵、アクセル様の使いとおっしゃっているのですが」
「ああ……」
前に出会った、あの女性かもしれない。
それにしても、連絡なしに屋敷に来るとは、急ぎの用事でもできたのだろうか。
「わかりました、行きます」
私はリカルドと一緒に客人のもとへ向かった。
アスタール家の応接室にある革張りの長椅子には、西の国風の衣装を着た二人の女性が並んで座っている。
真珠の取り引きの話をした女性と、それより立場が上に見える派手な服装の若い女性だ。
以前話した女性は二十代半ばくらいで、派手な女性は私と同じ年齢くらいだと思われる。
「お待たせしてしまってすみません。そちらの方は初めまして、私はブリトニー、そしてこちらは現アスタール伯爵のリカルドです。本日はアクセル様絡みのお話でしょうか……」
私が話し終えるよりも早く、若い女性が大きな声でしゃべり出す。
「ちょっと待って、こんなのがアクセルのお気に入りなの!? 真珠の取り引きの相手だっけ? 豚に真珠とはこのことね!! ぜんぜん大したことのない、ただのデブじゃない!」
そっちこそ待て。まず、あなたはどちら様なんだ!? 出会い頭に何を言い出すの!?
しかも、なんでそんなに上から目線?
悲しいことに、こちらの世界での「豚に真珠」の意味は前世と同じだ。
ヴィーカが描いたらしい世界なので、そういう設定もありなんだよね……
でも、私はその事実に違和感を抱き始めている。
彼女が描いた世界というのならば、どうして元日本人である私やセルーニャが転生しているのか。
まず、不思議に思ったのはそこだった。
それに、他にも日本と共通する部分があったり、温室などの日本の技術がすでに確立していたり……なんだか全体的におかしいと思うのだ。
(私たち以外にも、少女漫画とは関係ない転生者がいるのでは?)
牢屋にいるヴィーカには簡単に会えないけれど、彼女はまだ何かを隠している可能性が高い。嘘は言っていないけれど、本当のことを全部話しているわけではない気がする。
「セシリア様、おやめください。ブリトニー様に失礼です」
「えー。サラ、うるさい」
取り引き相手の女性……サラが、慌てて若い女性を止める。というか、セシリアは何者?
「急に訪問してすみません、ブリトニー様。セシリア様はアクセル様の従妹に当たる方でして、少し前に中央の国に到着したばかりなのです。アクセル様の不在時に、セシリア様が一人でこちらへ乗り込むと言いだし、慌てて私が同行した次第で……」
「ちょっと、何よ、その言い方は。私を邪魔者扱いするんじゃないわよ!」
そうはいっても、大いにサラの仕事の邪魔になっている気がする。
(でも、変だな)
めちゃくちゃな言いがかりをつけられたのに、不思議なことに私は今までのように傷ついてはいなかった。困った人だと呆れはするけれどね。
(これって、私が精神的に成長しているからかな……? 今が穏やかな気持ちだから?)
そして、それはきっと、リカルドのおかげ。
アスタール伯爵領でリカルドとずっと一緒に過ごすようになり、私の心は今までになく安定しているのだ。
だから、ちょっとやそっとのことでは揺らがない。
今だって、リカルドはすぐに助けに入れるよう、常に私の様子を窺っている。
セシリアに向かってまだ何も言わないのは、私がそれを望んでいないからだ。
そう、今は二人の目的が知りたい……
「それで、どういったご用件でしょうか?」
「実は……」
サラが話し始めたところで、部屋にコンコンとノックの音が響き、戸惑いの表情を浮かべた執事が顔を出した。
「リカルド様、ブリトニー様。西の国の侯爵閣下が『従妹を迎えに来た』と、直接屋敷へ押しかけて来ております」
……なんだって!?
せっかく、サラのおかげでアクセルと接触することなく過ごせていたのに。
リカルドの様子を窺うと、やはりというべきか、難しい表情になっている。
「さすがに追い返すわけにはいかないな。侯爵をこちらへ通してくれ」
……だよね。そうなるよね。
苦渋の決断をしたリカルドと同じ気持ちを抱きつつ、私はアクセルを出迎えるべく立ち上がった。