軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

204:今度こそ根本から暴食克服!

十八歳の春がやってきた。

ハークス伯爵家では、相変わらずリカルドと私がリュゼにしごかれながら仕事をしている。

リュゼの手間を省くため、同じ部屋で三人机を並べ、この日も仕事三昧だ。

「リカルドには、僕の代理が務まるよう、伯爵家のすべての仕事を覚えてもらわないとね」

リュゼは、全部の仕事をリカルドに叩き込む気のようだった。彼を信用しているのだろう。

机にかじりついたリカルドは、苦しみながらもせっせと仕事をこなしている。

(大変だなあ……)

別の机からリカルドを眺め同情していると、目の前ににっこり微笑むリュゼが立った。

「ブリトニーも、他人事のようによそ見をしている場合じゃないでしょう? ダン子爵家以外の取引先とは上手くやれているの?」

「ぐふっ、まあ、ぼちぼち……?」

「ふぅん、ぼちぼち?」

リュゼの顔が、ずずいと近づき、私は思わず目をそらせた。

「……ごめんなさい、昨日の商談では成果を上げられませんでした」

アンジェラの宣伝効果で、ハークス伯爵領の新製品は売れている。

他の領地から取り引きを持ちかけられる機会もあった。

が、交渉の場に私が立つと、相手によってはあからさまに敬遠される。

特に年配の人間は、その傾向が顕著だ。馬鹿にされたなどといいがかりをつけられ、仕事の話さえできない場合も多い。

私が行っただけで「馬鹿にされた」と判断するなんて、被害妄想が過ぎるというものだ。

(でもって、全部リュゼお兄様はお見通しなんだよね。昨日こっそり差し入れのケーキをくれたのは、私が凹んでいたことに気づいていたからだな)

それでも、私を前面に出すのは、伯爵家の未来を考えているからだと知っている。

私が動けば、より早く正確に新製品を開発し、売り込むことが可能なのだ。

辛い目に遭う日もあるけれど、私も従兄の期待に応えたい。

従兄は私を慰めるようにポンポンと頭をなでる。ついでに、頬もプニプニされた。

それを発見したリカルドが抗議の声を上げる。

「こら、リュゼ! 俺は仕事をしているというのに、一人だけブリトニーを触って。俺だって触りたいのに!」

最近の私の頬は肉付きがいい。頬だけでなく全身がそうなのだけれど。

そんな私をプニプニすることで、最近のリカルドやリュゼは癒やされているようなのだ。

……腹が立つので、やっぱり痩せようと思う。

「うるさいよ、リカルド。家族の絆を深めているだけだから、部外者は黙っていてくれるかな?」

「俺だって、婚約者……ぐおっ!」

反論するリカルドの顔面に、リュゼは新たな書類を押しつけた。

仕事を追加されたリカルドは、青い顔になる。

「それが終わったら、ライアンと一緒に領地を回ってくれるかな。行き先は彼に言ってある。本当は僕が行く予定だったんだけど、新しい仕事が持ち込まれてね」

さらに仕事を増やす鬼畜なリュゼに、リカルドは不思議そうな目を向ける。

「新しい仕事?」

「君のご実家からだよ。リカルド? 心当たりはないかな?」

「……あるかもしれない。悪い、リュゼ。面倒をかけて」

「君が直接向かってもいいけれど、少し揉めているみたいだから、完全な他人の僕が適任かと思って。数日間留守にするから、ブリトニーのことを頼むよ」

「わかった。俺の実家が本当にすまない」

「困ったときは、お互い様だからね。昔は、僕も君のお父上に助けてもらった」

自分の仕事を素早く終えたリュゼは、外出の準備に取りかかる。

それを横目で見ながら、私はまだ残っている自分の仕事に取り組んだ。

国王毒殺未遂事件も無事に解決し、少女漫画のように私が処刑される危機は回避された。

アンジェラも断罪されず、エミーリャと結婚している。いつ見ても、あの二人は仲が良い。

この夏には、アンジェラたちが元アスタール伯爵領の西半分、そして王都の西にある海沿いの領地を治めることになる。こちらも、元王領で二つの領地は繋がっている。

ヴィルレイたちがいた、王都南側の領地が没収されたので、内部で割り振りを調整したようだ。

ノーラは彼女の実家の領地を治めるべく奮闘中だ。

冷遇されていた若い伯爵令嬢が領地を継ぐのを良く思わない者も多く、内部での反発も強いらしい。

けれど、王都から派遣された補佐官や弟と協力し、なんとか領地を経営していた。

順風満帆とはいかないが、今のところ問題なく暮らせているようだ。

リュゼとリカルドが出かけ、私は書類仕事の続きをする。

忙しいけど、やっと平和になった気分。

少女漫画の処刑から完全に解放された今、緊張の糸が切れた状態だ。

もう、物語通りの死に脅えなくていい。

(それだけで、私は……痩せられる気がする)

しかし、昨年に比べると体重が増えた。

北の国の事件でストレスを感じ、爆食いしてしまったツケだ。

放置していたけれど、プニプニされるのは嫌なので、そろそろダイエットしよう。

そして、以前リカルドに指摘されたように、ストレス食いの習慣を絶つのだ。

(もっと強くなろう、私)

決意も新たに仕事を終えて外に出る。運動着に着替えてランニングだ。

庭を走るのも、もう慣れたもので、太っていても普通に走れてしまう。

体は軽い方が楽だけれど。

走り終えて屋敷内に戻ると、マリアが私に手紙を手渡した。

どこか遠慮がちな、複雑そうな彼女の表情を見て、差出人を確認する。

「え、これって……」

やけに高級な封蝋には、母親の嫁ぎ先の模様が押されていた。

父がいなくなった後、子供を残して実家に帰り、別の相手のもとへ嫁いだブリトニーの実母。

本当に幼い頃だったので、私には両親の記憶もほとんどない。

僅かに思い出される思い出の中の母は、娘を気にかけることなく貴族同士の夜会を渡り歩いていた。

(そういえば、構ってもらった記憶がないな)

記憶が戻る前のブリトニーは、両親のどちらにも顧みられず、一人伯爵家に残されたことで過食に走った。

ブリトニーの暴食の起源はここにある。

(私宛に、何の用だろう?)

家を出て行った後、母から私への接触は一切なかった。

手紙すらも送られてきたことがない。

それを、今になって、どうしたというのだろう。

仕事の話かもしれないと、私は手紙の封を開けた。