軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17:ドレスがなかった

リカルドとの交渉は成功した。私がきちんと祖父に婚約破棄の件を伝えたことを、向こうが勝手に評価していたらしい。

レモンのリンスに飽きてきたので、今度はライムや梅を使ってリンスを作り始めた。とりあえず酸性――クエン酸の多い食べ物を使っている。ライムなどは厨房にあるものを少しもらった。

最近では、厨房で働く使用人たちも、私の奇行に慣れたようだった。

「ブリトニー。隣の領地から、レモンの木が届いたみたいだよ」

作業部屋でリンスを作っていると、従兄のリュゼがやって来た。

大量のレモンの木は、比較的海に近い場所に植えられることになったらしい。ついでに、オリーブの木も少し分けてもらっているみたいだ。

リカルドは、思ったよりも太っ腹だった。

「再来週あたりに、レモン畑を視察に行くのだけれど。ブリトニーも来るかい?」

「行きたいのは山々なのですが、お祖父様が急にお茶会の予定を入れてしまって……ちょうど被ってしまうのです」

「そうなんだ、残念だね。ブリトニーは、お茶会が好きだものね」

どうやら、リュゼに「お茶会が好き」だと誤解をされているようだ。

不本意なので、とりあえず言い訳しておく。

「……お祖父様が、私が使用人の子供たちと仲が良いのを気にしていて。それなら令嬢の友人を作ったほうがいいと言われてしまいました。他のご令嬢と仲良く出来る自信なんて、ないんですけどね」

過去の過ちのせいで、敵意を抱かれているに違いない。

それに、お茶会なんてデブの元だ。本当は、とても断りたい……でも、すでに招待状を出してしまったお祖父様の面子を潰すわけにもいかないのだ。

せめて、ヘルシーな菓子も置いてもらえるよう、コックに頼んでおこう。

「ああ、そうだ。お兄様、シャンプーをつくってみたのですが」

「なんだい、それは?」

「頭髪を洗う、石鹸のような役割のものです」

「なるほど。今度使ってみたいから、温泉に置いておいてくれるかい?」

「了解です」

空き時間に作ったシャンプーは、オイルと精油、はちみつを使ったものだ。

この世界の食べ物は、ほぼ前世と共通である。ただし、うちの領地で採れるものは限られている。

小豆や黒糖、塩などでも代用できるので、そちらを使うのも良いかもしれない。

リュゼと別れた後、私は自室に戻り、お茶会の日に着るドレスを決めることにした。

しかし、クローゼットの中を覗き大変なことを思い出す。

「しまった! ブリトニーの服の趣味は最悪なんだった」

クローゼットの中では、おぞましい造形のドレスがひしめき合っていた。

真っ赤なドレスに、紫と青と黒のリボン……

ショッキングピンクのスカートに、緑色のレース……

イエローのコートに、ブルーの造花……

(終わっている……)

今まで、よくこんなものを着て人前に出られたものだ。過去の自分を思い出した私は、ベッドにダイブして転がりながら悶えた。

この自分の黒歴史を象徴するドレス達を、なんとかせねばなるまい。

(とはいえ、今から他のドレスを選んでいる暇はないし)

言わずもがな、ブリトニーのドレスは特注品だ。一応伯爵令嬢であるし、この体型をカバーできる市販のドレスなんてない。

私は、目の前が真っ暗になった。

(こうなったら、自分でリメイクするしかないかも)

幸い、授業で覚えた最低限の手芸の知識はある。

(どうにもならない部分は、刺繍の家庭教師の助けを借りるしかないな)

比較的マシな布地のドレスを選んだ私は、さっそくリメイクを開始した。不要な装飾をハサミで切断して取り除いていく。

選んだドレスの色は、秋の季節に合うモスグリーンだ。しかし、各所に真っ赤なリボンや派手な金色のレースがつけられており、ブリトニーが着ると、まるで太い幹のクリスマスツリーのようになる。

奇抜な装飾を取って、地味目の飾りに変更しなければ。

(レースは、黒系にしよう)

チクチクと裁縫をしていると、衣装係のメイドたちがやって来た。

「お嬢様、例のお茶会のドレスの件ですが……ええと、何をしておられるのですか?」

「ドレスのリメイクよ。お茶会で着られそうなものがなかったから」

「そうですか。ちなみに、どのように変更されるおつもりで?」

「リボンを全部外して、レースの色を落ち着いたものに変えるつもりよ」

幸い、そこまで複雑な作業ではない。

手伝ってくれるかなあと淡い期待を抱きつつメイドたちを見たのだが、彼女達の反応は酷かった。

「あらまあ、そんな面倒なことをなさらなくても。こちらのドレスでいいじゃありませんか。同じ緑色ですし」

メイドが手に取ったのは、エメラルドグリーンに水色と黄色のバラがちりばめられた、どこの仮装大会だと言いたくなるようなドレスだった。

「……それ、本気で言っています?」

「素敵じゃないですか。お嬢様にお似合いですよ」

ああ、嫌味だなこれは。

(白豚令嬢には変な衣装がお似合いだとでも?)

かつてのブリトニーは、彼女の言葉をそのまま受け取っていただろう。

今までの私の行いは酷かったが、メイドの態度も酷い。

「わかりました。私は自分のセンスに自信がありませんので、リュゼお兄様にも相談してみましょう。あなたが、このドレスが良いと言っていたけれど、お兄様から見てどうかと」

虎の威を借る狐ならぬ、リュゼの威を借る子豚。

従兄弟の名前を持ち出してみると、メイドの顔色が変わった。

(相手によって態度が違いすぎじゃない?)

意地悪ブリトニーは、やっていることの割に影響力が強くなさそうだ。

薄々わかっていたけどね。