軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79.視力検査

レビスの秘密を知るべく、グレイゴリ導者と共にロバートが退出し、実験室にはジークとハイツェルだけが残された。

相も変わらず上部ののぞき窓からは、好奇心に満ちた視線を感じるが、戦力として警戒すべき相手は見当たらない。

戦闘力が皆無なハイツェルに対してジークは帯剣したままだから、少なくとも害するつもりはないのだろう。

それでも警戒を解かないジークではあったが。

「それじゃー、いきますぞー。ここの検査票を見るのですぞー」

本当に、精霊眼の視力検査が始まった。

みぎー、ひだりー、うえー。

変なことになってきたが、視力検査程度なら、いくらでも付き合おう。

「ふむふむ。めちゃくちゃ視力がいいですな。では、そこの箱を開けて、色水の入った瓶を通してみてもらえますかな? まずは青から――」

ひだりー、うえー、みぎー。

最初は青、緑、赤。指示される色はだんだん濁度が高くなる。距離が稼げない分、見難くしているのだろうか。最後に指定された瓶は、ほとんど真っ黒い瓶だった。

「見えますかな? ほう、それだけ黒くともこれほど見えるとは。なるほど、なるほど。いやー、すごい視力ですなー。もっと見えませんかな? コレは? ではコチラは?」

ここに来て、僅かな違和感をジークは覚えた。

黒い色の向こうが精霊眼でも見通し難いからだろうか、魔力を消費しているのだ。

何だろうと、目を凝らして黒い液体の入った瓶を見ると、ぬらりと瓶の中の液体が蠢いた気がした。

(これは、ただの液体じゃない。これは、……精霊だ!!)

精霊に魔力を与え、その力を増す精霊眼に短時間でも映されたなら、姿を持たない弱い精霊であっても姿を現す。

しかも、今のジークは精霊眼のコントロールが効かないのだ。

そんな状態で精霊の閉じ込められた瓶を長時間、見つめたりすれば……。

パキ、ピシ。

黒い瓶がひび割れる。ひび割れから微かに漏れる魔力と意思のようなもの。

「くっ、これが狙いだったのか!!」

パァンッ。

壁に向かってジークは瓶を投げ捨てる。実体のない精霊を封じ込む魔法陣に加え、強度向上の効果も付いていたのだろう、素材の強度をはるかに超える精霊の内圧にギリギリまで耐えた瓶は、壁に当たった衝撃で粉々にはじけ飛んだ。

同時に中から黒く粘つく液体がボコボコとあぶくが生じ続けたような歪な形で盛り上がり、 粘体動物(ウーズ) のような不安定に形を変えつつ震えていた。

――ここ、 どぽ(どこ) ? どぽぽ? こぽ、こわい……――

「これは、……まだ幼い? 怯えているのか」

禍々しい色合いだけれど、この黒い精霊からは邪悪な印象は受けない。知らないところに連れてこられて、戸惑い怖がっているようだ。

「大丈夫だ! 帰してやる。一緒に行こう」

――こぽぽ?――

ジークの声に、黒い精霊の怯えが和らいだように見えたその時。

「精霊を捕らえろー!」

奥の扉が開き研究者と護衛の集団が、わっと雪崩れ込んできた。

――こぽー!――

いきなり現れたたくさんの人間に、驚き怯える黒い精霊。

しかしここは精霊が逃げられないよう処理をされた幻境派の研究施設だ。部屋全体が捕獲瓶のような物。分厚い石材でできた床は落とせば割れるガラスよりずっと高強度で、特に中からの力に強くできている。

ここは精霊を閉じ込める結界のような場所なのだ。

いくら精霊眼で力を得たとして、まだ幼い精霊が逃げ出せる場所ではない。

例えば、精霊のすぐそばに、結界の外側から小さな穴でも開いていなければ。

――こっちだよ――

――こぽ? こぽぽ!――

黒い精霊に届いた思念は、精霊眼持ちのニンゲンの声よりずっと馴染みのある、同族のものだった。それも古い古い存在で、戻りたいあの沼地にどこか似ている。

――こぽー!――

その救いに飛びついたのは当然だろう。

黒い精霊は声のした方に大きく弾んで飛んでいき、床に吸い込まれるように消えてしまった。

「どこへ行った!?」

「まさか逃げたのか!!?」

「おい、この床石の隙間に亀裂があるぞ、どうなっている!」

「まさか! この施設は完璧なはず!」

慌てふためく研究者たち。

ハイツェルが「ビックリしましたぞー」と固まる中、ジークは行方をくらませた黒い精霊よりも、黒い精霊を呼んだモノの得体の知れなさを感じ取っていた。

(……誰が、いや 何(・) が(・) 助けた?)

嫌な予感がする。一刻も早くこの場を離れた方がいい。

研究員たちが混乱している隙に、ジークがこの場を離れようとしたその時。

バアァァァァン!!

重たい扉を蹴破って、白く大きな何者かが部屋へと飛び込んできた。