軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96.メガネ君、ロダと話し込む

「素養の使用中しか視えない・登録できない」という縛りがあるせいで、戦闘に直結して使用されるような「素養」は、街中で「視る」機会がまったくなかった。

そりゃそうだ。

戦闘用と区切れば、むしろ街中で使用する機会はないはずだから。

そのせいで、直接戦闘に役に立つ「素養」はまだあんまり集まっていない。

戦闘で使えそうな「素養」を想定した場合、使えるのは補正系各種と……

「 指花の雷光(フラワーボルト) 」「闇狩りの剣士」「 爆ぜる爆音の罠(サウンドボム) 」

……そうだな、この三つくらいになるのかな。

それにしても、戦闘に一番使えそうなのがリッセの「闇狩りの剣士」ってくらいだからなぁ……これがあれば弓矢の威力は普通に上がるだろうし。一番使い勝手はいいと思う。

ただ、 黒皇狼(オブシディアンウルフ) が相手となると、それでもダメージは期待できないだろう。

弓に限らず、獲物が大きいってだけで致命傷は狙いづらいから。

急所に届かないとか普通にあるから。

あと気になるのは、ロダの「指花の雷光」だが……さすがに試行していない「素養」をいきなり実戦には使えない。

…………

今、試しに使ってみるか?

最後尾にいるので、誰もこちらを見ていない。周囲に魔物や動物もいない。

こっそり使う分には、誰にもバレない。

もしかしたら、この「素養」が即戦力にもなるかもしれない。試すだけならすぐにできる。

……よし、やってみるか。

「メガネ」に「指花の雷光」をセットし、これは魔法の一種なので魔力を込めて――

バチィィ!!

「――いてっ」

まるで平手で強かにぶたれたような鋭い音とともに、「雷を出した右手」に痺れるような衝撃が走った。そして熱い。……うわ、かすかに煙出てる。熱いはずだ。

「…? どうしたの?」

すぐ前を歩いていたリッセと女性冒険者が、何事かと振り返るが。

「枝が当たっただけ」

獣道のようなルートを歩いているので、周囲は草木ばかりだ。そして結構な速さも出ているので、こんな言い訳でも通用するだろう。

現に二人は、「あっそう」みたいな感じで前を向いた。ごまかせたようだ。

……はあ。痛い。痛かった。

いつだったか、子供の頃にホルンに思いっきり手を叩かれた時のことを思い出した。今のはそのような痛みと衝撃と音だった。ちなみに叩かれた理由はなんだったかな……姉が集めていた動物の骨……まあ肉を食べた後の物を俺が勝手に捨てたとか、そんな理由だった気がする。

ちなみに捨てたんじゃなくて、師匠の奥さんが欲しいって言ったからあげたんだよね。

すごい煮てスープにしたいとか言っていた。

味はどうだったかな? 俺も食べたはずだけど、憶えてないな。姉が激怒したことだけは鮮明に覚えているけど。私が齧る骨がなくなったとか言っていた気がする。そう、あの頃の姉は、土に埋めても肉が生らないと悟り、次は骨を齧る年頃となっていた。今振り返っても恐ろしい姉だと思う。

まあそれはともかく。

これが雷か。

というか、使用したら自爆するのか。

いやいや、自爆ってなんだ。「自爆する素養」ってなんだ。

正しい使い方がちゃんとあるのかもしれない。俺がそれを知らないだけで。

まあ、いきなり使えるようになった「素養」をすぐに使いこなすなんて、土台無理な話だけど。

しかも実戦に投入なんてもっと――

「俺から盗んだな?」

…………

すごいな。本当にすごい。

街中と違ってここは狩場。

俺はすごく気を張っているのに、それでも気配も何も感じなかった。

いつの間にか、俺の背後に、暗殺者ロダがいた。

「ま、エイルの態度や素振りから、『そういう素養』なんだろうとは思っていたがな」

と、ロダは俺の横に並んだ。

……よかった。笑ってる。

怒ってはいないようだ。……うん、だいじょうぶ、目が笑ってないとかそういうこともない。

ロダは、印象としては「ただの優しい兄ちゃん」だが、実際は「一番厳しくて必要なら手を汚す暗殺者」である。

その時になれば、ザントやソリチカより、この人が一番容赦も躊躇もしないと思う。

たとえとして妥当かはわからないけど、もしハイディーガの街を潰すような命令が国から下った場合、本当に躊躇なくやり切ると思う。

そうじゃなければ顔役にはなってないだろうから。

とにかく怒らせたくはないものだ。

「『君の素養』は、『複製』か『模倣』か……そんなところだろ? それが『メガネ』の特性ってわけだ」

やはり見抜いていたか。

極力、態度には絶対に出さないようにしていたつもりだけど……プロの着眼点は違うってことだろう。リッセにも気づかれたけど。でも彼女もそれなりに鋭いからね。

……あれ? もしかして。

「それを確かめるために『使いっぱなし』だったの?」

バレているなら隠す理由もない。ストレートに聞いてみた。

いまだにロダの「指花の雷光」は使用中で、「視え」ているから。

「いや、これは必要だからだ。……だが、そうだな、あえて『君の素養』をこれ以上確かめるのはやめておこうか」

あ、ソリチカと同じこと言いそうだ。

「何かあっても俺くらいならいつでも殺せるから? ソリチカにはそう言われたけど」

だから強いて確かめなくてもいいと。

要するに、俺に何ができようが敵じゃないと。彼女にはそう言われたけど。

「まあそれもあるが」

やっぱりそれもあるのか。

「あんまり知ると、手放したくなくなるからだよ。『君の素養』はだいぶ珍しい。手元に置いておきたいくらいだ」

えー……

「だがそれはできないからな。君が選ぶならまだしも、こっちから強要はできない」

「そうなの?」

「ああ。もう俺たちの組織は半分沈んだ泥船だからな。そんなのに将来有望な若者は乗せられない。国のためにもならん」

……そうか。でもそれも王都のリーヴァント家で聞いた話だな。名前は……そう、ワイズ・リーヴァント伯爵だったっけ。老紳士然とした貴族。

あの人は、もう暗殺者としての仕事がないとか言っていた。

もう時代にそぐわない、と。

そして未だ半信半疑だが、俺の将来は自由にしていいと言っていた。暗殺者の学校と所属は別だと言っていた。守ってくれるかはだいぶあやしいが。

「いいかエイル」

と、ロダはガッと俺の肩を抱き、誰にも聞こえないように囁いた。

「一度しか言わないし、今までもこれからも君以外に話すつもりはない。墓まで持っていけよ。

いいか、俺の『指花の雷光』の使い方はな――」

本当に、二度と聞くことも知ることもできないだろう貴重な話を終え、ロダは俺から離れた。

ごめんね。ちょっとだけ慣れ慣れしいとか思って。

「素養」の詳細もだが、自分の手の内を明かすようなとんでもなく重大な話を、ただで教えてくれたのに。

まあ、「いつでも口封じできる小僧」に教えるなら、そんなに抵抗はないのかもしれないけど。

「とまあ、こんなところだ。すぐに使いこなすのは無理だろうが、練習すればなんとかモノにはなるだろう。がんばりな」

だといいけど。まあ、練習はきちんとしておこうかな。

「一応黙って最後まで聞いたけど、なんで教えてくれたの? 俺なら『自分の素養』のことは絶対話さないけど」

「理由は色々あるが、第一に事故防止」

事故防止?

「さっきの君と同じように、俺も同じ失敗をしたんだよ」

と、ロダは革手袋をした右手をひらひらさせた。

「雷で右手が消し炭になりかけた。中までこんがり焼けたぜ? おかげで一度はこの手とおさらばしたからな」

えっ。

「雷ってそんなに危険なの? というか、じゃあその右手は? 治ったの?」

「魔法治療でなんとかな。黒焦げになった手を切り落として、魔法で再生した。泣くほど痛かったぜ?」

うん。そりゃ泣くほど痛いだろう。むしろ泣いただけで済んだならすごい精神力だ。

「最強で使う場合は注意しろよ。慣れない内は絶対やるな。下手すりゃ死ぬからな」

あ、はい。……なるほど、事故防止か。言葉通りの注意喚起か。

「それはそうとエイル。君はリッセとどういう関係だ?」

えっ。

「なんでそんなこと聞くの? 恋人同士じゃないのか、とか言わないでね? 拒否反応が出るから」

「あ? 拒否反応?」

出たんだよ。昨日。俺にしては激しい怒りの感情が。

「まあ正直関係はどうでもいいんだ。恋人だろうかそうじゃなかろうが。

ただ、リッセがな」

リッセが?

「今朝、馬車で久しぶりに話したんだ。別人のように明るくなっていて驚いたぜ」

「そうなの? いつもあんなんじゃない?」

「興味ないか?」

「あんまり」

「それでいい。そういう構えない交友関係がいい影響を与えているんだろう」

…………

「これからも適度に仲良くしてやってくれよ。頼むな」

いやバシバシ背中叩いて頼んだところを悪いんだけどさ。

「俺、これが終わったらあっちの村に戻ろうかと思ってるんだけど」

「え? 向こうに戻るのか?」

俺がハイディーガでやるべきことは、もうなさそうだから。

「あと危険な狩りの直前に『ナントカを頼む』みたいなこと言われると、かなり不吉な予感がするんだけど。まるで遺言みたいに聞こえるんだけど」

「ははは。俺はそういうのは信じない主義なんだ」

……まあ俺もあまり信じない方だけど。でも率先して不吉なことはしないし、ささやかなゲン担ぎくらいはするし。

「それにまだ死ねないしな。冒険者仲間の結婚式も出ろって誘われてるし、子供の名前考えてくれって相談も受けてるし、もう少しで落とせそうな女もいるし、……そうそう、騎士連中の女二人、見たか? あれほどの美人は早々拝めないぜ? 俺、この狩り終わったらあの二人を誘おうと思ってるんだ。俺の読みでは白い方は遊び慣れてるぜ?」

や、やめろよ……不吉なことばかり言うなよ……

嫌な予感しかしないことをペラペラしゃべるロダの口が止まったのは、

「――狼煙が上がった! 全員退避だ! エイルとリッセは俺に続け!!」

俺が当たりを付けた辺りから立ち上る、赤い煙を視認した瞬間だった。