軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04.メガネ君、王都ナスティアラの宿から城へ

「――めが、ね? え? めがね?」

王都に到着した、翌日である。

夕方に到着した俺は、とりあえず宿に押し込まれて一晩明かし、翌日の早朝。

朝食を食べるより早くやって来た兵士のお兄さん――戻ったら結婚すると言っていた馬車の旅に同道した方が迎えに来て、すぐに城へ連れていかれてしまった。

朝が早いおかげで往来に人気は少ないが、とにかく建物の多さや大きさに驚いた。

旅の疲れもあったし、王都への入国門を潜ってすぐの宿屋に詰められたし、更に出歩くなと言われたおかげで、昨日は夕飯を食べて風呂に入ってすぐ寝てしまったのだ。

だから、ちゃんと街並みを見たのは、これがはじめてだ。

やっぱり俺の村とは違うなぁ。都会はすごいね。

街道から続く大きな道をまっすぐ行けば、石積みの立派なお城が正面に構えている。あんなの童話や昔話でしか聞いたことがない。実際にこの目で見ると圧巻だ。

さて。

朝も早くから立っている門番に、兵士のお兄さんは身分証のようなものを見せ、城門を通過した。俺も後に続く。門番にじろじろ見られながら。見られるのはやっぱり苦手だ。

そして。

城門を潜ったすぐそこに、二人の人物が立っていた。

上等な服を着ている四十ほどのヒゲのおっさんと、俺より二つ三つ年上っぽい綺麗な女性だ。あ、女性の方はメガネを掛けているぞ。王都で出会った第一メガネ人である。

「ナスティアラ城へようこそ。気高い『素養』を持つ子よ」

女性がそう言い、笑顔で俺を迎えてくれた。おっさんの方は特に感慨も歓迎の意もなさそうに、難しい顔をしたまま変化はないが。

でも、笑顔で迎えてくれはしても、ここで出迎えるってことは、城の中には入るなってことだよな。厳密にはまだ城には入ってないしな。城門を超えたすぐそこだからな。ここ。

やっぱり田舎者がほいほい城内に入れるほど、甘くはないってことである。別にことさら入りたいとも思わないけど。人がたくさんいるだろうし。

兵士が、俺の「素養」を女性とヒゲのおっさんに伝える。

と――

「――めが、ね? え? めがね?」

二度見どころか三度見ほどされてしまった。女性にもおっさんにも。

「……え、めがね? メガネって、あのメガネ? これ?」

女性は俺の掛けている「あのメガネ」と、自分が掛けている「メガネ(これ)」を指差し、何度も確認する。

兵士は逐一頷き、その戸惑いが間違いないことを首肯する。

うーん。

ここでもこんな顔されるわけか。

きっと偉い人なのだろう女性とおっさん二人も、村で儀式を見守っていた村人たちのような顔で、微妙な空気を漂わせている。

「ど……どういうこと?」

俺に聞かれても困る。

「メガネの素養」がどういうことかなんて、俺が知りたいくらいだ。とっくに受け入れてはいるが、そのもの自体の謎は深まるばかりだよ。

何はともあれ、とにかく見せた方が早いだろう。

「メガネの素質」を。

俺はすっと右手を差し出し――そこに「メガネ」を生み出して見せた。

「あっ、メガネ……!」

はい「メガネ」です。

「物理魔法か……!」

ヒゲのおっさんは、ここで初めて口を開いた。女性と違って冷静に見えるが、案外あっちも戸惑いが大きかったりするのかもしれない。何せ「メガネ」だし。

「え? え? い、いただいても?」

え?

……あげる気はまったくなかったが、欲しいなら別にいい。同じ「メガネ仲間」みたいだし。

そう、数日前からではあるが、俺ももはや「メガネ常用者」であるわけだし。「メガネ人」でもいい。

俺が頷くと、女性は嬉しそうに「メガネ」を受け取り、自分のメガネとかけ替えた。

「うわっ……と、透明感が違う! これは最上級のレンズ……!」

ん?

なんだかよくわからないが、女性は感動しているようだ。……透明感、か。そういえば女性の掛けていたメガネは、なんだか微妙にガラスが曇っていたな。あれが普通なのか?

「うっわぁ……レオードさんの毛穴までばっちり見えます。これはすごい!」

「黙れ。見るな」

嬉しそうに見ている女性に、おっさんは迷惑そうだ。言われてちょっと気になっちゃったのか手で鼻や口元を隠す。

俺はあんまり直視したくないが、女性というものは中年男性を鮮明にくっきりはっきり見ても気分を害さないようだ。この女性だからなのか、世の女性は全員そうなのかはわからないけど。

「『メガネ』……なんと扱いの困る『素養』だ……」

額に手を当て、おっさんは溜息をついた。俺としては嬉しいだけだが、周囲からするとそんな感想みたいだ。

「――君、しばらく王都に滞在しなさい」

え?

早く村に帰りたいのに、とんでもないことを言い出した。

「私の記憶が確かなら、『メガネ』などという『素養』は聞いたことがない。長い歴史のあるこの国でも把握していない、珍しい『素養』なのは間違いない。

だが、それだけにこの場で判断ができん。重要か、そうでないか」

そういえば、素直に「魔術師の素養」が見込まれたなら、国に召し抱えられるんだよな。これはそういう面談なんだよな。あと「珍しい素養」もな。

つまり俺の「メガネの素養」は、召し抱えるべきか否か、すぐに結論が出せないと。

だから偉い人たちと相談して決めたいからちょっと待ってなさい、って意味だな。

わかるよね。

この漂う微妙な空気からして。

歓迎していいのかどうか、独断で追い返してもいいのかどうか、もうどうしていいのやらって戸惑いが肌に刺さるように感じられるね。

「滞在はいいんですけど、俺は城勤めをする気は――」

「その話は後日だ。今日は帰っていい。君、彼に数日分の滞在費を渡しなさい」

城勤めする気はないんですけどー……って言いたかったんだが。

しかし、ろくに俺の言葉も聞かず、言うだけ言っておっさんは女性を引きずるようにして城内へ消えていった。

残された俺は、兵士のお兄さんから「今後も、昨日泊まった宿を使うように」とお金を貰い、表に追い出された。

うーん……馬車に揺られてはるばるやってきて、この扱いか。偉い人は田舎者を雑に扱うってのは本当みたいだな。

まあいいや。

この王都でやることもあるわけだし、数日くらいなら待つことにしよう。