軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.メガネ君、アルバト村から王都ナスティアラへ

アルバト村から王都ナスティアラまでは、馬車で二日掛かるそうだ。

退屈な馬車の旅が始まり、時間だけはあるので、「メガネ」について色々試してみた。

よくわからない「メガネの素養」なんて代物だが、俺には嬉しかった。

その上、師匠から成人祝いの弓を貰って。

更に落ち着く間もなく、翌日には村から連れ出されたのだ。王命で。よく知らない奴の命令で。たぶん苦労知らずのジジイの命令で。

ここまでに「メガネ」を調べる時間も、試す時間も、ほとんどなかった。

同行する兵士二人とは簡単な自己紹介と世間話をし、「寝たい」という理由で馬車の屋根に退避した。

隣ももちろん嫌だが、やはり知らない人が対面で俺を見ているってのがすごく嫌だった。

俺も男だから、視力が増した今は特に、男を鮮明にくっきりはっきり見たくもない。

そして個人的に見られたくもないのだ。

馬車の揺れがだいぶモロに伝わるが、知らないおっさん……いや、意外と若かった兵士のお兄さんたちと、狭い馬車に押し込められるよりは、はるかにマシである。

荷物を詰めてきた背負い袋を枕にし、屋根の上に仰向けになる。

「――俺、帰ったら結婚を申し込むんだ」

「――がんばれよ。俺は子供の名前を考えなきゃなぁ」

頭の下で、兵士たちの話し声が聞こえる。なぜだか会話の内容に不吉なものを感じるが、きっと気のせいだろう。

どこまでも透き通った高い青空を見上げたまま、「メガネ」をいじってみる。

ふうん……曲がったガラスが、ぼやけた視界をいい方にぼやかせて焦点を合わせてくれるのか。

ガラス部分の曲がり具合を調整すれば、もっと遠くを見たりできるんだろうか。あるいは重ねたり……か?

――色々試してみたが、わかったことは三つだ。

まず、俺が一度に生み出せる「メガネ」は三つまでだ。

身体から力が抜ける――たぶん魔力的なものが消費され、三つ生み出した時点で眩暈がして、まともに身体が動かなくなった。

次に、「メガネ」は魔力に戻せる。

戻した場合は、また新たに生み出すことができるようだ。魔力を消耗している、というより、「メガネ」が魔力そのものって思ったらいいのかな。「メガネ」を戻せば魔力も戻る。

そして最後に、物理的に分離できる。

簡単に言うと、時間さえあれば「メガネ」は増やせる。

一番最初に生み出した「メガネ」は、寝る時以外は掛けっぱなしだった。寝る時も魔力に戻さず置いていた。

その間に、「メガネ一つ分」減っていた魔力が、自然と回復したようだ。

つまり、今かけている「メガネ」は、もはや魔力の産物ではなく、物理的に存在する物になっている、ということになる。

たぶん誰かに上げたりもできるんじゃないかな。

兵士たちの話では、王都でも「メガネ」は高級品らしいから、売ればそれなりのお金になるらしい。

「メガネを売って金儲け」、か。

字面がすごくマヌケだなぁ。

だいたい、高級品ではあっても、需要がないとダメなんじゃないだろうか。

目が悪い人は多いのか? それとも少ないのか? そもそも自覚している人がいるのかな? 俺なんかは良い状態から悪い状態に変化したからわかったが、生まれつきでそのままの人は、他人と自分の見え方が大きく違うことに気づくのか? 違ったところで気にするのか?

それに、ガラスの歪みで視力を矯正するなら、その人にあった歪み方があると思うし。

一人一人に合う「メガネ」は違うんじゃないだろうか。

心のメガネは一緒でも体のメガネは人それぞれなんじゃないか。ところで心のメガネってなんなんだ。

まあ、俺の心にはすでにメガネが住んでしまったが。もう手放せない存在となってしまったが。

――と、「メガネ」のことをつらつら考えていたら、ちょっとわくわくしてきた。

周囲からは微妙だと思われている「メガネ召喚」だが、俺は好き。

自分で使う分を抜きにしても、この「素養」で良かったと思い始めてきた。それに思ったより奥が深そうだ。

まだまだ「メガネ」について知りたくなってきた。

更に色々と追及し、「形はそこまでいじれない」ことと「ガラスの色を変えることができる」ことがわかった。

まあ、形に関しては、俺の想像力や発想力が足りないのかもしれないが。明確に「こうしたい!」ってイメージができれば、作れるかもしれない。

「色が変えられる」のは、太陽がまぶしいことで気づいた。

屋根に仰向けになっていれば、どうしても太陽が視界に入ってしまう。

「メガネ」を掛けていると、まるで光を集めているかのように鮮明に明るく見えるから、なおさら眩しい。

太陽は、曇り空のように薄く雲が掛かれば眩しくない。

ガラスを通して視界を確保するのが「メガネ」なら、ガラスに雲が掛かれば、同じ原理で太陽は眩しくないんじゃないか。

そう考えて、夜のように黒くしてみたいと念じたら、成功した。

俺が見ている世界は、今は「夜」である。

昼なのに夜のように暗い、黒いガラスを通して世界を見ている。

太陽を見ても全然眩しくない。

なんだか太陽が黄色い点に見えるのだ。

……眩しくないかと思ったけど、あんまりじっと見ているとやっぱり眩しいな。太陽は強い。この世で一番強いのはもしかしたらメガネなんじゃないかという俺の幻想は一瞬で霧散した。なぜこんな考えに至ったかは自分でもわからないが。

一日目も二日目も、馬車の屋根の上で「メガネ」のことを考えながら、ちょっと昼寝したり師匠に貰った複合弓を構えたり弦を弾いたりして、道中を過ごした。

「――もうすぐうちに帰れるぞ」

「――子供が待ってると思うと気が逸るな」

兵士たちも馬車の旅に飽きてきたのだろう二日目の夕方、遠くに城壁が見えてきた。

あれが王都か。大きいなぁ。

俺は自分の村しか知らないから、王都がどんな場所なのか想像もつかない。

……えーと、まずお城へ行って偉い人に会って、それから姉を探さないといけないんだよな。

両親に「姉の顔を見てこい」って言われているから。

俺も、ホルンの心配はあまりしてないが、この二年でどうなっているかは気になる。

正直、出発時は早く帰りたい気持ちでいっぱいだったが、少しだけ気が変わった。

王都についたら、「メガネ」のことを調べたい。

兵士のお兄さんの話では、図書館という本がたくさんある場所があって、調べ物はそこでできるそうだ。

俺は簡単な読み書きしかできないから、難しい本はきっと読めないと思うけど、一応行ってみようと思う。