軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

459.バルバラント王国の騒動、深夜帯 6

城下町を歩いて調査していた時、兵士たちがぼやいていたのを聞いた。

曰く「城内は騎士、城外は兵士が守っている」と。

知らない誰か(・・・・・・) が兵士に扮して潜入する可能性を鑑みて、中の警備は騎士だけに任せよう、というのが第二王子側の方針らしい。

まあ、間違ってはいない。

「 縄張り(テリトリー) 系の素養」を持つ者は貴重で、また有効範囲もそう広くない。

数の多い兵士たちに睨みを利かせるよりは、少数精鋭の騎士たちを見張っている方が、やりやすいし確実だろう。

(――絶対に狩る対象は百人、でもって余裕を見てもう百人か……)

エイルの左腕には、びっしりと紐が巻いてある。

今はまだ、包帯状のただの布紐だ。

念のために三百本用意した。

時間が限られている。

騎士だけがいるわけではない。

誰かに発覚すれば、どんな予想外の出来事が起こるかわからない。

ゆえに、エイルは出会う人間を片っ端から仕留めるつもりである。

最初から騎士だけではなく、王城にいる全員を獲物と定めていた。

普段の王城で日中ならともかく、昨今の厳戒態勢で夜ともなれば、そこまでの人数が詰めているとは思えない。

単純計算で、三百人はなんとかなる――が。

そう単純な計算では成り立たないのが狩りである。

矢の数だけ、確実に獲物が仕留められるわけではない。

(――もう窓が開いていたってことは、トラゥウルルはハイドラの援護に向かったはず。だったらもうすぐハイドラが動き出す頃かな)

かち合うことはないと思うが、もし会ったら、少なくとも互いに良い影響はないだろう。互いの仕事の邪魔になりそうだ。

――なお、実際は、トラゥウルルはハイドラ脱獄を見届けたら離脱する予定なので、これはエイルの読み違いである。

ただ、タイミング的な読みは外していない。

現に今、トラゥウルルは兵士寮兼詰め所の屋上で、ハイドラが来るのを待っている。

もっと言うと、今は地下で、ハイドラが兵士を絞め落とすために仕掛ける寸前である。

(――でも寄り道は必須なんだよな)

エイルは持ち物と今後の行動を確認し、南東の塔から「素養・影猫」付きで出た。

見回りの兵士に気を付けつつ、まずは北東へ向かう。

この方向に、病気で倒れたバルバラント王が療養のために住んでいる、という離れがあるそうだ。

計画を話す際にエオラゼルから聞いていた。

場所を移されていなければ、そこにいるはずだ、と。第一王子からの情報である。

(……お、当たりっぽいな)

手入れが行き届いたちょっとした庭の先にある、小さな屋敷程度の建物。

この手の入れようから、少なくとも要人が利用する場所であることは間違いなさそうだ。

そして、その出入り口には、騎士が二人立っていた。兜も鎧もフル装備なので、兵士の装いと違う。騎士で間違いないだろう。

(――あれは強いな。正面からやり合うのは絶対ダメだ)

一人だけでもきついのに、二人ともなれば。

まともにやれば、エイルに勝ち目はなさそうだ。

まともにやれば(・・・・・・・) 、だが。

(――おっとっと)

視界に入るなり、「疾行術」で騎士たちの間に入ったエイルは、二人に触れて即座に意識を刈り取った。

倒れそうになる騎士たちを、なんとか音がしないようゆっくりと横たえる。

――「メガネ」の強制装着と、「素養・ 仮死冬眠(ハルノオトズレ) 」による強制睡眠である。

兜をかぶっているのでわからないが、兜の下では「紐型メガネ」が目元を覆っているはずだ。

王城潜入を考えた時から、「 仮死冬眠(ハルノオトズレ) 」による無力化は考えていた。

この「素養」の効果は、意識が奪われるリスクを伴う超回復である。

裏を返せば、回復する代わりに意識を失うのだ。

そして、この二年で実験した結果、「眠る」間は生命反応が著しく落ちることがわかった。まさに動物の冬眠に近く、仮死状態とも言える。

呼吸も、生物の気配も、新陳代謝なども落ちるので、この状態では気配がかなり読みづらくなる。

つまり、見られない限りなかなか気配で発覚はしない、ということだ。

「 縄張り(テリトリー) 系の素養」は色々種類があるので、そっちはわからないが。だが気配を察知して騎士が寄ってくることはないはずだ。

(……よし)

一応、屋敷の外からパッと見ではわからない場所に、騎士たちを連れ込み、次に「青の地図」を発動する。

対象は、騎士の兜だ。

これでバルバラント王城付近にいる騎士の位置 (正確には騎士の兜の位置)は、わかるようになった。

肝心の屋敷には、内部に騎士はいない。

気配も三つほどしか感じないので、もうここには戦える者はいないだろう。

(――でもまあ、一応)

場所柄からか、扉にはカギが掛かっていなかった。不用心……という環境とも言い難いのも確かである。王城の敷地内にある場所だ。

エイルは内部に侵入し、「探行術」で人間の場所を探りつつ部屋を割り出し、扉の下の隙間から「霧化」で潜入して、寝ている女性に「紐型メガネ」を装着させて深い眠りに落としておく。

次の部屋へ向かい、同じように処理しておく。

内部の人間は三人。

使用人は二人。

(――場所、移されてなかったんだな)

狭い使用人部屋とは違う、大きな扉を抜けると――無駄に大きなベッドで初老の男性が寝ていた。

部屋に充満する薬品の匂いは知っている。かなり強い薬を服用しているようだ。

ベッドの傍に寄り、男性の顔を見る。

顔色が悪い。

皮膚の色が黒ずんでいて、これが死相が出ている状態というものなのだろう。

――だが、顔色は悪いが整った顔立ちである。どこかエオラゼルの面影があるような、ないような……

話が確かなら、この男性がエオラゼルの父親なのだ。

(――まあ……どうでもいいことか)

この騒動の原因は第二王子にある。

が、その原因の半分は、無責任に倒れたこの男にもある。

「王様。王様」

小さく声を掛けてみるが、反応がない。

今にも消え入りそうな浅い呼吸を繰り返すばかりだ。

「――間に合うかどうかわかりませんけど」

と、王には 本来の使い方(・・・・・・) の方の「 仮死冬眠(ハルノオトズレ) 」を施しておく。

使用人同様、効果時間はかなり短めにしておく。

これで意識を取り戻すようなら、話は楽なのだが。

「さて」

寄り道は終わった。

思わぬ土産として、物探しに役に立つ「青の地図」で、騎士の居場所がわかるようになったのは大きい。

気を付けるのは、もう騎士だけでいい。

そのほかの者は、たとえ「 縄張り(テリトリー) 系の素養」持ちでも関係ない。そいつがいる場所はおおよその見当が付いているので、そこだけ最後に仕掛ければいい。

それと、調査中の噂で聞いた「素養封じ」がいるらしいが。

そいつがいて怖いのは「意識のない騎士を復帰させること」である。それ以外は怖くない。だからそいつも見つけ次第狩ればいいだけの話だ。

これで片っ端から行ける。

バルバラント王城内にいる者全員、端から端まで狩って行ける。

急がなくては。

本来なら、獲物を選ぶ時間も惜しいのだ。

「――ネロ、出番あるから」

まだ呼び出していない切り札に語り掛け、エイルは王城内に潜入した。

まずは一階。台所。

騎士たちの夜食でも作っていたのか、料理人が五人ほどいた。

例外なく意識を刈り取った。そして火事が怖いので火も消しておいた。

ついでに食糧庫に乗り込み、さぼってチーズを肴に酒を飲んでいた騎士を三人と、給仕していたメイドを一人仕留めた。

次に使用人用の食堂。

休憩中らしき騎士たちが十三名いた。

「――今なんか見えなかったか?」

騎士の数名に、視界の端っこに入るようにネロを走らせ、十三人が同じ方向に気を引いた隙に、一気に仕留めた。

触れるだけで「メガネ」を装着させられるだけに、十三人いたって本当に一瞬である。

「――っ…!」

一拍遅れて、目が合った配膳中の若い料理人も、仕留めておいた。

一階東の廊下。

文官の仕事部屋らしき無人の部屋に潜入し、一旦身を隠す。

そして、見回りで廊下を歩いてきた騎士二人を、意識を狩って部屋に引きずり込んで隠しておく。

「――んっ!?」

今要人がいるのだろう部屋の前に立つ騎士二人は、 天井(・・) を走らせたネロに気を取られた瞬間に、接近して意識を貰った。

気配を探ると、室内には二人いるようだ。位置的に要人と使用人か。

「――はい。どなたですか?」

コンコンとノックをして呼び出し、扉を開けたメイドを狩る。倒れる間も与えないほど素早く侵入し、何が起こっているのかわからないままの要人も素早く仕留める。

警備に立っていた騎士二人を部屋に入れて隠し、ここは完了。

そんなこんなで片っ端から騎士と使用人たちを仕留めていき、百二十二人を片付けたところで一階が終わった。

左腕の紐に触れる。

まだまだ余裕はある。

――これはただの紐だが、一時的に「メガネ化」させることができる。

エイルの魔力は高い方ではない。

いちいち「メガネを物質化」させていては、一度に使える数が限られてしまう――それで困ったことはなかったが。

だが、人生何が起こるかわからない。

実際今、まさか一国の王城に潜入して騎士たちをどうにかする、なんて危険なことをやっているくらいである。本当に何が起こるかわからない。

こういう「いざ」という時に備えて、「メガネそのものを効率的に増やす方法」を考え、そして辿り着いた答えがこれである。

これがエイルの禁行術「変容メガネ化」。

元ある物質に、「エイルのメガネ」と同じ効果を与えるものだ。

言ってしまえば、最小限の魔力で「メガネ」を生み出すために、「元ある物質」という触媒を利用している形である。

この方法で「メガネ」を生み出せば、一日五百は作れる。

ただし、永続的な効果はない。あくまでも一時的に「エイルのメガネ」と同じことに使える、というだけの代物である。

その辺は元の「メガネ物質化」に大きく異なり、また劣る点と言えるだろう。そもそもはメガネでもないただの布紐である。

――今は効果があっても、いずれ効果を失う。

だが、考え方次第である。

自分が動いた痕跡を残したくない、というエイルの目的に合致した、いわゆる「使い捨てメガネ」なのである。

第二王子の部屋付近には、「 縄張り(テリトリー) 系の素養」を持つ者がいる可能性が高い。

だからそこは避けて、最後に回すことにする。

外側から少しずつ、だが素早く王城内の戦力を殺ぎ落していく。

タイムリミットは、フロランタンの合図である。

彼女の「素養・怪鬼」なら、誰がどこにいてもわかるように派手にやってくれるだろう。

眠っている使用人たちの部屋も一つ一つ訪ねて、丁寧に落としていく。

見通しのいい場所も、物音でおびき寄せたり、一部の火を消して気を引いたり、ネロの暗躍で混乱させたりして騎士たちを狩っていく。

空き部屋で、メイドとよからぬことをしていた騎士も、 番(・) でまとめて処理して裸のまま放置しておく。

あえて倒れている騎士を見つけさせて、駆け寄ってくる横から仕掛けたり、誰かの夜食を運んでいる老侍女も優しく寝かせておく。

どんどん進んでいく。

二百人を越えた辺りで、左腕の紐の数が心配になってくる。

こうなると、兵士がいないのがありがたい。

兵士まで城内にいたら、絶対に紐の数が足りなくなっていただろう。

「メガネ用の紐」の補充はその辺でもできるが、今はとにかく時間がない。

いつ撤収の合図があるかわからない。

それまでに騎士たちをどうにかしておかないと、ほぼ単独で王城へやってくることになる第一王子やエオラゼルたちが危険だ。

――時間という魔物に追われているエイルは、冷や汗を流しながらバルバラント王城を駆けてゆく。

その姿を、バルバラントの影たちが見ていた。