軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

387.メガネ君、「メガネ」を出す

「――うむ、実にいい。クラーヴの奴から聞いていた通りじゃ」

「ぜひ仔細に見たい」という長老に、俺が掛けていた「メガネ」を彼に一番近い場所に座るサジータ経由で渡すと、油断のない双眸が更に鋭く光った。

「これがめがね、というのか。構造自体はゴーグルと同じじゃのう。じゃがこのレンズの透明度は、話で聞いた以上のものじゃな」

何度も頷きながらしっかり現物を確認した長老は、サジータ経由で「メガネ」を返してくれた。

「わしらが望むのは、その透明なレンズじゃ。どういった『素養』なのかがいまいちわからんのじゃが、こちらが指定した通りの大きさや形のレンズを用意できるかの?」

レンズ、か。

――そういえばクラーヴも、初対面の時は、この歪んだガラス部分に驚いていたな。

いや、それを言うなら、もっと遡れば――特徴的な髪形のロロベル・ローランもレンズを気に入っていたな。

それから奇妙な縁があって、ロロベルの手からセリエに渡ったのだ。

アルバト村から王都ナスティアラへ。

そして暗殺者育成学校にスカウトされ、その後もいろんな場所に行ったが……レンズどうこうの前に、とにかくメガネ自体が珍しい物だった、というのが今ではわかる。

メガネを掛けている人なんて、ほとんど見なかったから。

もしかしたら、俺が思っている以上に、この「メガネ」は貴重品に分類されるものなのかもしれない。

どこぞの店に持っていけば、結構な高値が付いてしまうんじゃないかな。

売る気はないけど。

「ある程度なら自由にできますが……どういった用途で使われるんでしょうか? それによっては少々答えも変わってきそうなんですが」

「マスク型メガネ」だの「紐型メガネ」だの、一見「メガネ」ではない「メガネ」も物理召喚してきたが。

しかし一部分だけ召喚、というのは――できない気がする。

「メガネ」はあくまでも「メガネ」だ。レンズではないし、耳に掛けるツルの部分でもない。全部合わせて「メガネ」なのだ。一部分だけのそれは「メガネ」とは言わない。「メガネ」と分類できない。俺が認めない。「メガネ」は「メガネ」であってそれ以上もそれ以下もないのだ。

だが、レンズを欲しがるなら、間違いなく「メガネ」という形で利用されるのだと思う。レンズを何らかの形ではめ込んだり固定したりして、顔に装着するのだと思う。

その辺がはっきりすれば、俺もやりやすいのだが。

「理由か……そうじゃな。話すべきであろうな」

この口ぶりからして、長老はあまり話したくなさそうだな。

でも聞くぞ。

俺はすでに「自分の素養」を明かしている。

こっちだけがリスクを負うような話なら、ここで断るだけだ――と言いたいところだが、ワイズの命令があるからなぁ。

俺だけ言う形になるのは気に入らないが、今はリスク云々は度外視だな。

里から追い出されたら元も子もない。

慎重に交渉を進めないと。

「――ここらの森の至るところに、毒の沼があるのじゃ。聞いておるかの?」

毒の沼……

毒と聞くと、ついさっき戦った黒いドラゴンが真っ先に思い浮かぶが――気にはなるが、その話はあとで振ってみよう。

「聞いています」

カロフェロンとベルジュは、その毒も含めた調査のために来ているのだ。彼らもある意味ワイズのご指名で選ばれている。

「……風が強い日は、風に乗って毒が舞い上がるのじゃ。

わしら竜人族は、普通の人間や獣人より毒や火といったものに強いようじゃが、目だけは例外での。

毒がな、わしらの目をやりおるのよ。

里の周辺には毒の沼がないから大丈夫じゃが――里から出て狩りをする戦士がな。ドラゴンに乗って飛んだり走ったりすると、必ず影響を受けてしまうのじゃ」

…………

「つまり、目を守るための防具として?」

「うむ、その通りじゃ」

長老は続ける。

――昔、竜人族の中でも変わり者だったクラーヴが里を飛び出して、帰ってきた時に携えていた「ゴーグル」という道具。

クラーヴが、とある地方でゴーグルを発見した時は、里のためにと思い持ち帰った。

そして彼が睨んだ通り、長老もこれに目を付けた。

「だが、強度と透明度の比率がの」

ドラゴンに乗ると強風に晒され、たとえ小さな虫でも、飛行中に当たれば結構な衝撃を受けてしまうのだとか。

レンズの強度が弱いと、すぐに割れてしまうのだとか。

「しかし強度を追求すると、今度は前が見えんほど曇ったものしか見つからんかった。ドラゴンは速度が出るからのう、視界が確保できんと本当に危うい。

透明で脆いか、頑丈だが曇っているか。

レンズに使えそうな素材はたくさん探してきたが、その両極端になることが多くての。

クラーヴもわしらも、透明度が高く頑丈なレンズを探しておった――そしておまえさんの『メガネ』を発見した、というわけじゃ」

ということは、だ。

「レンズの強度が高いゴーグルが欲しい、というわけですね?」

「うむ。レンズの大きさや形を自由に変えられるなら、頑丈になるよう厚みも増せるのではないか? そこに期待しておる」

なるほど厚みか。

確かに厚みを増せば割れづらくはなるだろう。

そもそも「俺のメガネ」は、元々結構頑丈だ。レンズだってガラスのようでガラスではないし、運動中などに勝手に外れることも少ない。この辺は地味だが「魔法のメガネ」らしい特徴がある。……「魔法のメガネ」って字面は本当にマヌケだが。

だが、セリエが馬車の事故にあって怪我をしたが「メガネ」は無傷だった――どころか、事故にあって馬車の下敷きになったのに、それでも顔に装着されたままだった、という驚きの実績もあるのだ。まさに「魔法のメガネ」の所業だろう。……やっぱりマヌケな響きだけど。

「じゃあ――こういうのでいいですか?」

と、俺は「ゴーグル型メガネ」を生み出してみた。

ブラインの塔の対抗戦の時にも使ったことがあるので、慣れたものである。

クラーヴに教えてもらってからすぐに再現したし、――思えば「〇〇型」と名付けた「変形メガネ」は、ここから始まったのだ。

型通りの「メガネ」じゃなくてもいけるのではないか、と。

発想を広げるきっかけとなったのは、ゴーグル型との出会いだったのは間違いない。

「おお、おお……これは……!」

再びサジータ経由で長老に渡すと、長老は驚きを隠そうともせずに「ゴーグル型メガネ」をチェックする。

何革なのか俺にもわからない、隙間なくフィットして目を保護するレンズ周りの革部分と、少しだけ伸縮性を持つ革のバンド部分。

リオダインが巻き上げた浜辺の砂も通さないくらい、しっかり保護してくれるのだ。

「長老。強度の確認を」

事の成り行きを黙って見ていたアヴァントトが、早速顔に装着しようとしている長老に進言する。

「お、おお、そうじゃな。そこが大事じゃな。……試していいかの? 壊してしまうかもしれんが」

「大丈夫ですよ。どうぞ」

――俺も「メガネ」を生みたての頃は、色々と試したことがある。ある程度の強度があることも自分で確認した。

俺の強度チェックは、石で殴ったとか、そんなんだったかな。

思いっきり殴ったけど、傷一つ付かなかったんだよな。

でもまあ、俺は非力な方だから、力がある人がやると結果は違うかもしれない。

「では、失礼して――ふん!」

長老は近くの棚にあった持ちやすそうなサイズの何かの牙を持つと、手に持った「ゴーグル型メガネ」に思いっきり振り下ろした。

ガツン、と硬い衝突音がした。

打ち損じたなんてこともなく、しっかりレンズ部分にヒットした音だ。

結果は――

「……すばらしい! 傷一つないではないか!」

そりゃよかったですね。