軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

349.それぞれの思惑 2  後編

「――はあ!? ドラゴン!?」

「――あぁ!? ドラゴンに捨てられた!?」

「――えっ!? ナスティアラ王国まで行っていたのかい!?」

「――待って!? 双剣のベロニカって言った!? まさかあの……!?」

ソファに座り偉そうにふんぞり返ったゼットが語った「空白の時間」。

率直に言って眉唾としか思えないが――しかし彼がキーピックとコードだけしかいない場で、しょうもない嘘を言うことはない。

つまり、全部本当のことだと、二人にはわかっている。

というか、だ。

「おいコード、ベロニカのこと知ってんのかぁ?」

とりあえず最後まで話し、また最後まで聞いていたので、詳細を語るのはこれからだ。

お互い気になる情報ばかりだ。

ゼットとしても、コードの反応は見逃せないものがあった。

「え? そのベロニカってゼットの女?」

さっき殴り飛ばされて床に座ったままのキーピックが問うと、ゼットは首を横に振った。

「違ぇよ。モノにはしたかったけどなぁ。つかてめぇは鼻血拭け」

ナスティアラ王国で出会った「夜明けの黒鳥」という冒険者チームの一員である、双剣のベロニカ。

この誘拐から始まった旅の中、出会った中で一番いい女だったとゼットは思っている。

あれで巨乳なら。

胸がワガママにつっぱっていたら。

なだらかでおだやかで抵抗感のなさそうな双剣の双丘を思い出すと、今でも悔しくなるほど惜しかった。

「僕が知っている『双剣のベロニカ』なら、大帝国で道場破りをしたことがあるとかないとか、そんな噂を聞いたことがあるよ。もう何年も前の話だけど」

「……ああ、それマジかもなぁ。あの女ならやりそうだったぜぇ」

大帝国は武の国だ。

ゼットが会ったベロニカは、まだまだ強さを追及していた。

あのベロニカなら、大帝国はまず目指しそうな国だ。ナスティアラなんかよりよっぽど行きそうな国だと思う。

「……大帝国か」

ゼットは呟き、虚空を見上げる。

――物思いにふけるなんてゼットらしくない態度に、二人は顔を見合わせ首を傾げる。

「何かあったのかい?」

「……大したことはねぇなぁ。思うことがあるだけだぁ」

それはそれで気になる言い草だが……それより。

「ゼット。僕らの方でも色々あったんだけど――」

「いや待て」

と、ゼットは先日のパチゼットと馬車襲撃事件について話そうとしたコードの言葉を遮った。

「それより、もう一つ俺の話を聞け。その上で意見を聞かせろよぉ。あとキーは鼻血拭け」

そして、強引に話し出したゼットの話に――二人は驚愕することになる。

「――クロズハイトをまとめてぇんだ」

ゼットは語った。

もう少しだけクロズハイトを平和にしたい。

弱者が生きやすい国にしたい。

せめて子供たちが道端で死なないような場所にしたい、と。

「一人旅なんて初めてで、あんなに遠くに行ったのも初めてでよぉ。ちゃんと世界を観てきたのも、もしかしたら初めてだったかもしれねぇ」

これまで大帝国や周辺国に、盗品の処分や悪事のために寄生して甘い汁を吸ったことはあるが。

まともに「寝泊りして見て回った」ことは、今回の帰省の旅が初めてだった。

誰にも追われず、誰にも迷惑を……まあ追いかけられるほどの迷惑も掛けず、ちゃんと料金を支払って堂々と歩いてきた。

もちろん、使った金も真っ当に働いて稼いだものだ。

具体的に言うと「黒鳥」に一時所属し、冒険者として働いて稼いだ。

これまで奪う、巻き上げる、盗む、脅し取るという自慢できない方法でしか他国や他領を利用したことがなかっただけに――ゼットにも多少心境の変化があった。

「コード。いつかてめぇ言ったよなぁ? 殺しは次に繋がらねぇ、奪い過ぎたら次がねぇ、何事もやり過ぎたらいずれ自分の首を絞めるってよぉ。

――まったくその通りだと今は俺も思うぜぇ。

聞いた時は甘くてダセェ弱い奴の考えだと思ってたけどよぉ、今ではてめぇの言う通りにしてきたから今も俺たちが生きているとさえ思うぜぇ」

邪魔者はブチ殺す。

気に入らない奴はブチ殺す。

必要な物はブチ殺して根こそぎ奪う。

もしゼットが短絡的にそんな行為を繰り返していたら、とっくにどこかで死んでいたと思う。

あらゆる人間に恨まれ、睨まれ、方法を選ばない殺り方で殺されていたと思う。

コードの言う「甘くてダセェ弱い奴の方針」は、ゼットたちを生かすために多くの味方を作る結果となり、現在に繋がっている。

「だから聞かせろよぉ。俺はてめぇを信じるからよぉ。なあ、俺は甘くてダセェこと言ってるかぁ?」

「…………」

おだやかな表情のコードは、すぐには答えなかった。

その横でキーピックが答えた。

「ゼットが平和を欲しいとか、なんの冗談?」

「あぁ? ……まあ、俺もそう思うけどなぁ。でもちょっと思い出しちまってよぉ」

子供の頃。

まだ弱かったゼットも、キーピックも、コードもいて。

ほかにも弱くて行き場のない子供たちがいて。

皆で集まって、凍えそうな夜に震えて朝を待っていた。

今ではあの時集まった子供も、多少なりとも子供たちの面倒を見てくれていた大人も、多くの者がいなくなった。

「あの頃は夜が怖かったなぁ。起きたら自分が死んでるかもしれねぇ、てめぇらが目を覚まさねぇかもしれねぇ。明日が来ねぇかもしれねぇって震えが止まらなかったことはよく覚えてるぜぇ」

「……やめろよ。あの頃のことは思い出したくないよ」

「俺もだよぉ。でも思い出しちまったんだよぉ。そして考えちまったからよぉ。あとてめぇ鼻血拭け」

ゼットは重い溜息を吐き、耳を澄ます。

地下、ということもあるが――いや、クロズハイトで耳を澄ませたって、外で遊ぶ子供の声なんて聞こえない。

――ぐっと力を目に込めて二人を見据えた。

「今俺らは退屈だろぉ? ケンカ相手もいねぇし、表立った敵はとっくに潰しちまったしよぉ。

俺たちだけ(・・・・・) は平和だぁ。

やるなら今なんじゃねぇかぁ?

ガキどもの保護は最優先だぁ。

孤児院じゃ引き取れねぇっつーならよぉ、俺たちで別のを作ろうぜぇ。

クソ野郎に捕まってる女は助け出してよぉ、まともな働き口を作ったりしてよぉ。

少しでいい、このクソ溜めをきったねぇ便所くらいにできねぇかぁ?

人生半分くたばったクソ野郎でも、クソみてぇなやる気さえあればクソ程度にはやり直せるような……そんな場所にできねぇかぁ?」

「…………」

本気である。

このクソみたいな無法の国を、ゼットは本気で変えたいと言っている。

こうなると――キーピックはコードの意見を待つことしかできない。

ゼットがやると言えば、キーピックは付いていく。

そして全力でできることをする。

子供の頃に決めていることを破るつもりはない。

たとえそれが、無理で無謀だと思っても。

ただ――このチームの悪知恵が動くなら、無理で無謀ではなくなる。

ゼットとキーピックは、黙ってコードの言葉を待つ。

しばしの沈黙の後、彼はようやく口を開く。

「君が強いだけでどうにかなる問題じゃないけど、それはわかってる?」

「わかってるぜぇ。殴れねぇ相手とケンカするんだからよぉ。簡単じゃねぇよなぁ」

「あと僕ら三人だけじゃ無理だよ。仲間を増やす必要がある」

「おう。裏切られる覚悟はしとくぜぇ」

「……あとは、一度大帝国に行かないといけないかな」

「だなぁ。あそこの冬は寒ぃんだよなぁ」

「え? 大帝国行くの?」

「おう。あそこは強ぇ奴がまとめてんだろぉ。参考に強ぇ奴がどうやってまとめてるのか見に行くんだぁ。あとてめぇいい加減鼻血拭け」

「え? じゃあ、やるって方向で決まり?」

キーピックの質問に、コードとゼットは同時に立ち上がる。

「――はい」

コードはその辺の木箱から取り出したビンを、ゼットとキーピックに投げる。

死体酔(ゾンビ・ラム) という安酒である。

「マジでやるんだ……仕方ないなぁ」

と、キーピックも立ち上がる。

「――じゃあ、仕事を始めようか」

コードが差し出すビンに、ガキンと割れんばかりに強く二人のビンがぶつけられた。