軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

333.メガネ君、「今が攻め時っぽい」と思ってしまう

なんてことだ。

ここに来て、こんな大事に巻き込まれるのか。

ワイズから当然のように「君はどう思う?」と問われ「話がわからないので何も言えません」と答えたら。

二人がなんの話をしていたのか、軽く教えてくれた。

――竜人族の里周辺の調査、である。

獣人の国のはずれにあるという、竜人族の里。

その一帯にはたくさんのドラゴンが生息し、人が近づくことさえ危険だと言われる場所なんだそうだ。

多くのドラゴンが巣食う地として、獣人の国ではまさに「目に見える危険が棲む危険区域」として知られる場所。

遠目でも、複数のドラゴンが飛び回る姿が毎日のように見られ、その姿そのものが何者も近づくことを許さないという警告のようである。

だが、昔からこんな噂があったそうだ。

――曰く、ドラゴンに乗る人を見た、と。

そんな昔からある眉唾ものの噂話が囁かれる中、とある冒険者たちが富だの名声だの名誉だのを求めて、その危険区域に踏み込んだ。

その冒険譚にはいろんな逸話があるが、それは省いて。

彼らは、竜人族の里を発見したのだ。

それが百年くらい前のこと。

人がいないと思われていた土地に、竜人族というドラゴンの特徴を持つ人たちが暮らしていた。

しかも、人に慣れることはないと言われるドラゴンを手懐け、ともに大空を飛ぶ。

それは圧倒的脅威。

あるいは、喉から手が出るほどの眼が眩む力の形であった。

各国がこぞって注目し、ぜひドラゴンが欲しいという下心を見せたり隠したりしつつ、細々と彼らとの交流が始まり――そして今に至る。

「結局、なぜドラゴンはその地に棲息しているのか。それを調べたいのだよ」

……いや、うん。

…………

うん……ほんと、思ったより大きな話だったなぁ。

「率直に言うと、その辺の秘密を調査して竜人族を通さずにドラゴンを手に入れようって目論見ですよね?」

「または、『手に入れることが叶わないという確証』を探すためだ」

世界各国が目をつけている、竜人族のドラゴンと、ドラゴンを使役する技術。

ざっくり言うと、百年前に竜人族の存在が見つかって以来、百年間いろんな交渉や勧誘が行われた。

しかし、未だどの国も手に入れることができていないらしい。

要するに、「頑なにドラゴンを取引しない頑固者たち」ではなく、「そもそもドラゴンは竜人族の里周辺じゃないと暮らせない」みたいな理由があるのではないか、と。

俺もさっきチラッと考えたけど、やっぱりそういう方面にも予想するよね。

百年も断られたなら、嫌でも考えるだろう。

結局、手に入れることはできるのか、と。

交渉云々以前に、根本的な問題からして入手できるのかどうか、と。

「いろんな国が密かに調査隊を送っているが、ほとんどがドラゴンにやられている。あの一帯はあまりにも過酷だ」

だろうね。

ドラゴン一匹でも騎士隊が動くレベルのに、それがたくさんいる場所なんでしょ?

調査隊が失敗どころか、一国の全兵力を投入しても失敗する可能性があるんじゃなかろうか。

……それで、だ。

「で、俺ですか」

「そうだ」

ワイズが頷く。

「竜人族がぜひとも客を迎えたいと言い出すなど、早々ないことだ。

おまけに季節は冬、彼らの行動範囲は非常に狭くなる時期だ。

君を隠れ蓑として人員を選び、連れて行き――密かに調査をする。

そういう策を打てる機会が巡ってきている」

なるほど、だから「攻め時」か。

「俺……というか、客という立場になる俺を利用するなら、調査する場所は……竜人族の里内部ですかね?」

だとすると――

「ああ。その通りだ」

あ、やっぱり。

要するにスパイってことですね。

「彼らはなぜドラゴンと共存できるのか。どうして襲われないのか。どうやって意思の疎通を図っているのか。

露骨に里内部を嗅ぎまわるわけにもいかん。

ゆえに、わかっていないことの方が圧倒的に多い。

竜人族の里周辺の未開拓地になら、いくらでも調査員は送れるが、里の内部となれば話は別だ。

現に、不評を買って追い出された客人や研究員は、百では効かんからな」

そこで俺、か。

多少怪しくとも、向こうが「俺のメガネ」を必要としている間は、なかなか追い出しにくいだろうからね。

だから、隠れ蓑になるわけだ。

「ベルジュとカロフェロンも一緒に行くんですか?」

「竜人族の里周辺には、毒性のある地がある。かの二人なら対応できるだろう」

毒性のある地……毒沼でもあるのかな。

まあ、錬金術に長けているカロフェロンは対応できるだろうね。

彼女は薬物毒物のスペシャリストだから。

しかし、ベルジュは……なんなんだろう。

さっき言っていた「悪食」ってのが関係してるのかな。

「ベルジュも毒は平気なんですか? あ、『ベルジュの素養』に関わるなら言わなくていいですけど」

けど、と言い切る前に、ヨルゴ教官は被せて言い放った。

「奴の『素養』は『魔光中和』。毒物や精神異常、死霊系に強い抵抗力を持つ『素養』である」

…………

「『他人の素養』を軽々しく言うの、どうかと思うんですが」

「同感である。が、ベルジュは聞けば話すぞ。そもそも隠していないからな」

あ、そうですか。

まあ、もう、知っちゃったからね。

もう何言っても手遅れである。話を進めよう。

「えっと……その『魔光中和』というのがあれば、毒が効かない?」

「厳密には、効いてはいるそうだ。ただし『慣れる』」

慣れる?

……あ、そうか。

冷静に考えると、考える系統は一緒なのか。

――姉がよく毒キノコを食べていて、何度止めてもやめなくて、逆にどうして生きていられるのか不思議になった頃に言ったっけ。「慣れた」って。ふざけたことを。

ホルンの素養は「闇狩りの戦士」。

簡単に言うと、魔を祓う光属性を持つ戦士である。

そして、ベルジュはいわゆる光属性体質というやつだ。

考え方としては、ホルンの光属性とベルジュの「魔光中和」は、似たような効果があるのではなかろうか。

……「悪食」ってのは、やっぱりベルジュも毒とか普通に食べるからだろうね。

――確かに、言われてみると勝負に出られるタイミングが来ているのだろう。

攻め時と言われれば、確かに千載一遇ってくらい攻め時っぽい。

この先、竜人族が誰かを強く求める機会があるのか?

その客は、厄介な組織に関わりがある者だろうか?

時期は冬か?

更には、調査員として適任である人物をすぐに集められるという環境まで揃っているか?

次の春に暗殺者育成学校を卒業してしまえば、皆散り散りになるだろう。

つまり――もし仮に来年の冬にこんな機会が来ても、調査員を揃えるだけでも大変だということだ。

竜人族の里を調査するための要素が、今、揃っている。

どうせ俺に拒否権はないわけだし、ならば――

乗ってみるか?

この「攻め時」という大いなるチャンスに。

…………

俺に拒否権はないけど、利点もない。

でもスパイ活動をする抵抗感は、ちゃんとある。

……ほんと、どうしたものやら……