軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254.メガネ君、今朝のことを振り返る

「――あのさ、楽しそうなところを恐縮なんだけど」

「――んー?」

悪い計画がどんどん形になっていくのに比例するように、見るからにハイドラの機嫌が良くなっていく。

というか、実際なっているだろう。これは。

気の抜けた返事からして。

俺と話しながら、目の粗い紙にいろんな案を書き連ねていくハイドラは、俺の方を見ない。

悪事に夢中である。

楽しそうに。

「いつから教官たちを味方に付けたの?」

「味方に付けた覚えはないわよ? 相談したら そう動いた(・・・・・) だけ」

ああそう。

特に策を弄さずとも、教官に相談したら、教官から俺に参加するよう命令が下っただけだと。

つまり、俺に参加しろと言ったのは、やっぱり教官たちの意志……ということになるのか。

「その辺のところは、私の方が意外ね。たとえ教官命令でも、エイルがすんなり応じるとは思っていなかったから。

こんなにも早く参加してくれるなんて。嬉しい誤算だわ」

俺は嬉しくないけどね。

……まあ、確かに筋が通らない命令なら、教官相手でもまずゴネただろうけどね。結局やることになろうとも。

「ソリチカ教官の命令だったからね」

「え? ソリチカ教官?」

「俺、一時期あの人の弟子だったから」

師匠の命令は絶対だ。

そこそこ納得いかない命を下されても、弟子としては聞くのが当然である。

――今回のハイドラからの要請は、理由や事情も納得したので、渋々ではあるがゴネることはしなかった。

ハイドラからしたら、俺の参加表明はかなりの即答って感じに思えたんじゃなかろうか。

実際早かったしね。

「ソリチカ教官の弟子?」

と、ハイドラは紙面から顔を上げ、青い瞳で俺を見詰める。

「あの人って情報系の教官よね? その弟子ということは、あなたの『素養』は情報系ということ?」

…………

「もう一度その辺のことに触れたら、俺は降りるから」

俺は割と本気で言ったのだが、ハイドラは微笑みで流してまたペンを走らせる。

「――むしろ失言を教えたと思っているのだけど。感謝しろとは言わないけど、バラしたくないならせめてちゃんと隠しておいて。

二人きりなんだから、嫌でも触れなきゃいけない流れじゃない。無視するわけにもいかないし」

…………確かに俺の失言か。

ぐうの音も出ないとはこのことである。

やりづらい相手だな、ほんとに。

――事は朝まで遡る。

実は、朝から色々あったのだ。

俺たち魔物狩りチームが、ゾンビ兵団討伐の課題を済ませて塔に戻ったのは、二日前のことである。

兼ね合いもあるせいか、両チームが揃っていないと座学がないのだ。

なので丸二日ほど、予定が空いたことになる。

まあ、いつも通り自主訓練に励むだけで、特別なことなどまるでなかったが。

そして、今朝のことである。

朝食を食べていると、課題を済ませた暗殺者チームがぞろぞろ帰ってきた。

「――おう、遅かったな」

「――後始末が大変でね」

ハリアタンが無遠慮に言えば、エオラゼルが苦笑する。

怪我人もいないみたいだし、ひどく格好が汚れている者がいるわけでもない。疲れ切っている者もいない。

なので、察するところ、苦戦したわけではないのだろう。

そこかしこから漏れ聞こえてくる話を拾ってみたところ、 死霊召喚士(サモングール) やゾンビたち自体は、すぐに討伐してしまったらしい。

が、問題はゾンビの遺体。

諸々の後始末だ。

暗殺者チームは、残ったゾンビの身体を処理するために時間を費やしてしまったようだ。

なお、個人的には彼らがどういう作戦で動いていたのかが気になるのだが、今はそういう話はしていない。

あとで時間を見付けて、誰かに聞こう。

なんなら、夕方の浜辺でエオラゼルに聞いてもいいかもしれない。

――それはともかく、ゾンビの遺体だ。

俺たちも、作戦立案の段階では、最終的には「燃やすしかない」と考えていた。

まず、リオダインの大魔法「セラフィ・レイ」――光の花が降り注ぐ例のアレだが、「使うとどうなるか」という情報がなかったのだ。

もっと言うと、ゾンビを浄化するとどうなるのか。

それがわからなかった。

大魔法を食らったゾンビは、果たしてどうなるのか。

――どろどろになって大地に還るとか。

――熱したナイフを入れられたバターのように、花が触れた部分を貫通するのではないか。

――もしかしたら派手に爆発し飛び散ったりするかも。

そんな可能性を出し合い、最終的には、呪いの力を失って動かなくなり、遺体だけ残るのではないか。

それを想定の第一捕候補と考えていた。

沼のど真ん中で、動かなくなったゾンビ数百体を、燃やす。

ゾンビを集める手間などを省くために、そして燃やす段階であまり手が掛からないように、という部分にも着目した作戦だったのだ。

まあ、第一に、大魔法を確実に当てるというのもあったが。

でも、ゾンビは大魔法で消えた。

おまけに、リッセの「闇狩り」が大変有効だった。

そんな計算外の幸運もあり、ゾンビの遺体を残さず消し去る方法があったからこそ、俺たちはすぐに課題を終えることができたのだ。

むしろ暗殺者チームが二日遅れで帰れたことが、驚異的なのかもしれない。

ゾンビの遺体をちゃんと処理してきたわけだから。

一体どれだけ手間と時間が掛かったことか。

大変だっただろうなぁ。

「――お? なんじゃ、犬がおるぞ」

お?

フロランタンの声に反応して視線を向けると――あ、本当だ。毛並みも見事な真っ白い犬が…………え? 犬?

「うわでかっ!」

「これ犬か!? 狼じゃね!?」

リッセとサッシュが驚いている。だよね。その大きさは犬じゃないよね。犬にしては大きすぎるよね。

「何言うとるんじゃ。どっからどう見ても犬じゃろうが。――よし、来い来い。こっち来い」

フロランタンは呼びかけるが、犬はツンと顔を背ける。トラゥウルルと違って野生が残っているようだ。

いや、やっぱ犬じゃないな。

あの大きさで犬はない。

狼より大きい犬とか、いないだろ。

立ち上がれば、確実に隣にいるハイドラより大きいだろう。かなりの巨体だ。

……いや、まあ、強いフロランタンにとっては砂漠豹も猫だし、狼も犬でしかないのかもしれないけど。

犬だ犬だと魔物狩りチームが盛り上がる中、ハイドラが声を上げた。

「――紹介するわ。彼女はシロカェロロ。私たちと同じ暗殺者候補生の一人。『白狼化』という『素養』を持つ獣人よ」

え? ……え?

白狼、化? 「素養」?

「メガネ」で確認すると……あ、「視え」た。「白狼変化」か。

つまりあの狼は、獣人なのか。

「動物に変化する素養」もあるとは知っているが、それらは ほぼ(・・) 獣人族のみが持ち合わせる。

というのも、人間も「〇〇変化」みたいな「何かに変身する素養」を持つ者はいるらしいが、完全に姿を変えることはないらしい。

たとえば今回で言えば「狼変化」だが、人間の場合は、こう、人間の特色が強く残る姿になるらしい。

見た目だが狼だが二足歩行だったり、手や足、頭など、身体の一部しか変わらないとか。

しかし、この白い狼だ。

獣人で「変化の素養」を持つと、ここまで完全な動物の姿になるのか。

「それは獣人なのか?」

ベルジュの問いに、ハイドラは頷く。

「ええ。ただ、彼女の場合は『素養』と 相性が良過ぎる(・・・・・・・) みたいでね。本来の姿よりこの姿の方が楽なんですって。

見ての通りだからしゃべることはできないけれど、言っていることはちゃんと理解しているから、意志の疎通は問題ないわ」

へえ。そんなパターンもあるのか。