軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

253.メガネ君、悪事に加担する

「先に言うけど、俺は不本意だから。今この時も、この先何日かも」

「ええ。――それで、エイルはどう思う?」

俺の宣言に、ハイドラはすごーく軽いノリで頷き、そんなことはどうでもいいとばかりに本題に入ろうとする。

……これ以上ないほど軽く流されてる感がすごいな。

まあ、深刻に受け止められても困りそうではあるけど。

でも真面目に受け取られないのも腹が立つものだ。

が、今はそんな俺の小さなこだわりなんて、どうでもいいか。

俺自身も気持ちを切り替えよう。

やるのはもう決まっているのだ。

ならばいつまでも腐っていたって仕方ない。

物事の善悪はともかく、やると決めたなら本気でやらないと。

じゃないと自分にも周囲にも迷惑だ。

――不本意極まりないけどね。色々と。

「馬車を襲うなら、とにかく人手が必要だね。で、人手はなんとかなるんだよね?」

色々なことがあった後の、夜である。

一階の食堂で向かい合ってテーブルに着く。

ほかの灯りはなく、テーブルでぽつんと一つ揺れるロウソクの灯りに照らされているシスター姿のハイドラを見ていると、なんだか悪事を企てるには絶好のシチュエーションのように思えてくる。

まあ、実際そうなのかもしれないけど。

思えてくるというか、事実なのかもしれないけど。

ハイドラが淹れてくれたお茶をすすり、これからのことを一から話す。

――どうやって馬車の荷を奪うか、という話を。

「ええ、人数は大丈夫。しかも手馴れている者ばかりよ。

だから 暗殺者候補生(わたしたち) から出すのは、数名がいいところね」

なるほど、数名か。

「確かにぞろぞろ参加するのも、なんだかリスクが高そうだしね。他の連中と一緒にやるとなると、そっちからの観察にも気を付けたいし」

「そうね。私たちはあまり目立っていい存在ではないものね」

こんな厄介事を持ってきた奴がよく言うよ。

容赦なく巻き込んでくれてさ。

……いや、確かに放っておけない事情もわかるけどさ。

「その数名の中の三人。私とあなた、マリオンは確定しているわ」

うん……となると、だ。

「あと二人か三人くらい?」

「それくらいがいいわね」

――ならば一人は確定だろう。

「荷物運びのフロランタン」

「今回はダメ」

な、なんだと……?

まさかの却下である。

フロランタンを外すなんて考えられない案件なのに。彼女がいるだけで何十人分もの働きが期待できるのに。

荷運びだろうと戦力としてだろうと、予想外の諸々にも期待していい最高の人物である。

むしろ外す理由がないだろう。

そう思うのだが、ハイドラは焦ることも言葉に詰まることもなく、つらつらと説明する。

「彼女の口調は特徴的だから、非常に目立つわ。私たちは印象に残らない程度が望ましい。できるだけ痕跡や足跡を残さないようにね」

あたかも、最初からこの説明をして却下する準備をしていたかのようだ。

……確かに、ハイドラの言う通りだ。

しかもフロランタンの場合は、特徴的な忌子の容姿を持つ。

参加させれば嫌でも目立つだろう。

「何より、彼女は自分なりの正義を強く持っている。その辺がかち合えば、馬車を襲う現場で仲間割れしかねないわ。そうなれば――」

「最悪だね」

それは絶対にあってはならないことである。

その辺の融通は……フロランタンは効かないだろうなぁ。

色々な不器用が集まった上に、もしかしたらその不器用が「素養」にまで影響しているんじゃないかってくらいの子だから。柔軟な対応みたいなのはすごく苦手だろう。

「特徴が引っかかるなら、魔物狩りチームから参加できるメンツはいないんじゃないかな」

「……そう、ね」

と、ハイドラは腕を組む。

「そっちは個性が強い人ばかりな気がするわ。エイルだって、どちらかと言うと暗殺者チームにいそうなタイプだものね」

うん。

どっちかと言うと、俺はそっちの方がたぶん居心地はいいと思う。こっちはなんか基本バタバタしてるから。

「実力的には絶対入れたいメンツもいるけど、目立つのはダメって言われると、誰も出せないかも」

リオダインは魔術師だ。

魔術師は数が少ないから、魔術師というだけで目立つし印象に残るから却下。

リッセは真面目だ。

性格からして、馬車を襲うなんて話は気が進まないだろう。

サッシュは、普通にミスが怖い。

あいつのうっかりおしゃべりはすごく怖い。暗殺者候補生以外と仕事をする今回は、とてもじゃないが怖くて混ぜられない。

ベルジュは……料理が絡まなければ優秀な人員である。

その辺をちゃんと言って聞かせておけば、結構良さそうだな。保留かな。

トラゥウルルは、考えるまでもない。

獣人な上に人に懐きすぎだから。あれはむしろ目立たないわけがないし、印象に残らないわけもない。

…………

ハリアタン辺りは意外といけそうな気がする。

やや軽薄だけど、あれでミスは少ないんだよね。大きなミスは犯さないし。状況に合わせる柔軟性も高いし、機転も利く。

それに、馬車を襲うとなると、彼の「素養」もできれば欲しい。

かなり優秀な働きが期待できる、気がするけど。

……でも、アレかなぁ。

「こっちのチームは除外していいかもね」

今度の相手は、魔物ではなく人だ。

習性などを利用して、こっちの思惑通りに動くわけではない。

人は追い詰められた時、切羽詰まった時、危機が近づいた時、予想外の動きをするものだ。

――対人戦を想定していないと、思わぬ不覚を取る可能性が高いだろう。

俺もそうだ。

数少ない対人戦の経験でも、たくさん失態を演じてきたと思う。

だからこそわかる。

対人戦の経験がないと、かなり厳しいことになる。

魔物狩りチームのメンツで、経験者がどれだけいるかまったくわからない。

だとすると、やはり参加させるのは無謀な気がする。

「なるほど。あなたがそう見立てたなら、その方がいいのかもね」

いや、だから軽く頷かないでほしいんだけど。

「ちょっと俺のこと過大評価しすぎじゃない? 俺の判断は間違うことも多いんだから」

「え? 正当な評価をしていると思うわよ?」

……それが当たっていようが当たっていまいが、なんだか嫌だなぁ。期待されるのも嫌だし、有事の際に当てにされるのも嫌だなぁ。

…………

そもそもなんでこんな話になったんだ。

……いや、事情はわかってるし、納得もしてはいるんだけどさ……