軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

234.メガネ君、お節介と肉を焼く

狩りは午前中で終えた。

魔豚(マトン) を三頭に 灰塵猫(アッシュキャット) を一頭。

前にリッセと狩りに出た時に借りた荷車を今回も借りて乗せ、クロズハイトに戻ってきた。

重量はともかく、さすがに嵩張りすぎてフロランタンでも担げないからね。……重量の問題ではなく、持ちきれないという理由で。

「――おまえかよ」

冒険者ギルド代わりの酒場のおっさんは、俺の顔を覚えていた。

そうそう、前回あなたがぼったくろうとして失敗した、メガネの俺ですよ。

「また派手に仕留めてきやがったな」

これで抑えた方だけどね。

狩りが順調すぎて、「更に狩って稼ごう」みたいな流れになりかけたけど、後の予定もあるので切り上げてきたのだ。

六人中四人が問題児という構成だが、これで全員が立派な暗殺者候補生である。

頭はともかく腕っぷしは間違いない。

なので、簡単なお仕事だった。

これくらい事前にやって稼いでおいてもらえればなぁ。そうすれば俺が口出しする隙もなかったのに。はた迷惑な話だ。

「四頭か……しかも 灰塵猫(アッシュキャット) もいるのか。相場は――」

前に失敗したことでも思い出したのか、おっさんは嫌そうな顔をしつつ、適正価格の買い取り額を提示した。

「ちょっと色付かないかな? またちょっと高い酒買うから」

「あぁ? ……チッ、ちょっとだけだぞ」

でも酒が売れてちょっと嬉しそうな顔はすると。気持ちが顔に出る辺り、このおっさんはあんまり取引とか交渉とか得意じゃないのかもなぁ。

おっさんがお金と酒を取りに店に戻り、店の手伝いの人が荷車ごと魔物を運んでいく。

これで交渉は終了。

あとは諸々受け取って、お金を六等分して、集金して解散である。

ここにいる問題児四人は当てにならないので、今買い出しに出ているリオダインとベルジュに合流するのは、俺とリッセだけである。

問題児たちは勝手にすればいいんじゃないですかね。

彼らには実戦でがんばってもらうし、今はがんばらなくていい。

「サッシュ。酒の代金お願いね」

「……はあ!? なんの話だ!? 酒おごれってか!?」

――交渉は任せろ、と言って黙らせていた問題児の中の一人に言うと、彼はものすごく驚いていた。

「酒代取るらしいぜ、あのメガネ」

「にゃー……今朝からエイルの印象が変わりすぎだぁ……」

「いや! エ、エイルはあんなん言う子違うど! 違うんじゃ! もっとええ子じゃけぇ! ……あっ、もしや別人じゃろ!?」

「あいつ酒は……いやなんでもない」

ほかの問題児とリッセが何か言っているが、無視だ。あとリッセ、俺が酒飲んだ時の話はやめてください。知らないままでいたいんだ。

「これから槍を取りにいくんでしょ?」

狩場に向かう道中、サッシュは「そろそろ俺の槍が完成する」とかなんとか言っていた。

次の課題――ゾンビ兵団討伐には間に合うかも、って。

例の、鍛冶師タツナミじいさんに依頼していた槍のことだ。

壊王馬(キングホース) の 女王(クイーン) の角を使用した、サッシュに合わせたオーダーメイドの槍である。

指定された日時からすれば、もう完成していてもおかしくないそうだ。

鍛冶行程の手間がかかる分、空いた時間で造ったリッセのナイフの方が出来上がりが早かったくらい、力を入れて造ってくれたようだ。

しかもタダで。

絶対まずいだろ。

「料金、結局払わないんでしょ? だったらせめて、タツナミさんに手土産くらいは渡した方がいいよ」

「手土産? その酒か? ……なんて言って渡すんだよ。そもそもあのじいさんの性格を考えたら、金なんて受け取らねえだろ」

だろうね。

頑固だから、約束は約束として金は受け取らないだろうね。金はね。

「これだけいい仕事してくれたのに無料なんて悪いから、せめてお礼としてこれを受け取ってほしい、とか。そんな感じで渡せばいいよ」

「そんなもんいるか?」

「今後のことも考えた方がいいと思うけどね。――槍のメンテナンスとか、不具合とかあったらどうするの? またタツナミさんに頼むんじゃないの? あの人に嫌われたらもう面倒見てくれないと思うけど」

「…………」

「まあ、嫌ならいいよ。お節介だったね。酒は俺が買うから」

「待て。俺が買う。そして持っていく」

ああ、そう。

それがいいと思いますよ。

俺にしては過ぎたお節介だとは思うけど、このまま放置してサッシュがタツナミさんに嫌われたら、大変だからね。

いい武器は、手入れしてこそ真価を発揮する。

どんな名剣でも、使いっぱなしで放置して錆びたり故障したりしたら、すぐダメになる。

対価を払った店と客の関係ならまだしも、やや問題のある取引の末の槍製作だからね。

手土産の一つも渡したところで、不要な出費とも不要な気遣いとも、俺は思わない。

「そうか。土産に持たせるためにか」

「にゃははー。やっぱりエイルは気遣いできるなぁー」

「うちは信じとった! うちは最初から信じとったけぇ!」

「エイル、お酒は……いやなんでもない」

またほかの問題児とリッセが何か言っているが、気にしない。あとリッセ、俺が酒飲んだ時の話はやめてください。本当にやめてください。

「――えっ、高え……!? こんな高い酒、俺も飲んだことねえぞ……!?」

おっさんが持ってきた酒の金額を聞いて、サッシュはまたしても驚いていた。

そりゃ人に上げる物だから、安酒ってわけにはいかないだろう。

獲物を売った料金を六等分して分けて、その場で解散となった。

槍を取りに行くというサッシュにハリアタンが同行し、フロランタンとトラゥウルルは甘い物を食べに行くそうだ。

買い出しに付き合おう的な気遣いは本当にないようだ。

たとえ本心じゃなくても、ちょっと「付き合おうか?」的な一言があれば、結構印象も違うのに。

まあいい。

作戦でしっかり働いてもらうから。

「どこで待ち合わせしてるの?」

「焼き肉屋。ベルジュに話したら一度行ってみたいって言ってたから」

「ああ、クロズハイトの名物って話だよね。野暮ったいよねぇ、ストレートに焼肉って名前」

「そうだね。リッセは行ったことある?」

「ないかな。一人では行きづらいし」

そうか。ないのか。

「俺は何度か行ってるけど、よかったよ。馬の肉とかちょっと表面だけ焼けば、半生でも食べられるし」

「え、うそ? ほんとに? 危なくないの?」

「うん。おいしかった」

「へえ。楽しみ」

そんな話をしながらリオダインたちと合流し。

夕方には諸々の買い出しを済ませ、ブラインの塔に戻った。