軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180.メガネ君と狩猟祭り 2

遠目には白い丸だったものが、もどかしいほど少しずつ少しずつ、はっきり見えてくる。

白い丸だったものは、細長い身体を巻いてまとめたもので。

時折チカチカ陽の光を反射するのは、美しい鱗に反射しているからだ。

――間違いなく龍魚だ。

水中にいると光の反射や屈折で保護色となる鱗は、元は半透明である。

絶命すると真っ白に変色するのだ。

しかし変色しても、鱗の表面は曇った鏡のように光を弾く光沢がある。

しっかり磨けば己の顔もはっきり見えるようになるのだ。

近づくにつれ、回収班として派遣された男たち十名と、場違いなメイド服の少女の姿もしっかり確認できるようになってきた。

「――あのガキやりやがった!」

その価値は、長年ずっと数多の魔物の素材に触れてきたタツナミだからこそ、はっきりわかる。

龍魚は珍しいどころではない。

少なくとも、クロズハイトでは幻の存在である。八十年は近辺で狩られたことはない。

世界のどこかに実在することははっきりしているが、果たして近場に生息しているのかどうかは謎とされてきた。

目撃情報も「それらしき影」を見た者はいても、はっきり間違いなく「あれは龍魚だった」と言い切れるものはなかったのだ。

そもそも龍魚は、魚と付くだけあって水中に住んでいる。

だから、仮にいそうな場所を見つけたところで、追いかけることも探すことも狩ることも困難なのである。

水中の生物に、水中では生きられない人間が挑んだところで、勝算は限りなく低いのだから。

「――フフッ……最速、珍しい魔物、参加人数は単独。なるほど、優勝決定か」

この結果をむしろ当然であるように受け止めていることに、アディーロ自身が少し驚いていた。

楽天家ではないつもりだったが、事ここにいたって、あの小僧が勝つことを疑ってもいなかったことに今気づいたのだ。

普段大口を叩かないあの小僧が、自分から「勝ったら『素養』を教えてくれるか?」と言い出した時から、こういう結果が出ることをなんとなく予想していたのだろう。

否、予想じゃなくて、単に信じただけなのかもしれない。

楽天家じゃないつもりだったが、楽天的に信じてしまっていたのだろう。

アディーロは彼に本気を見せろと言い。

そして彼は、言葉通り本気を示したのだ。

「――ば、ばっか野郎……よりによって一番最初にそんな大物狩る奴があるかよ……!」

少しずつ愚民どものボルテージを上げていく算段だったベッケンバーグだが、まさか一番最初に優勝候補の獲物が舞い込むなんて、想定外も想定外だった。

馬か豚を狩って青の狼煙を上げられた、という参加者がルールを理解していないという最悪のパターンの方がまだマシだった。

それほどの想定外で、最悪を越えた最悪の事態の到来だった。

いきなり最大である。

いきなり優勝候補である。

こんなのを一番最初に見せられたら、次から次へとやって来る魔物が霞んで見えてしまう。

少しずつ盛り上げてピークに持っていくはずだったのに。

しかしこれでは、いきなりピークに持っていかれて、逆にここからは盛り下がっていく一方ではないか。

――あの、アディーロのメイドめ!

ベッケンバーグは薄々思っていたが、どうにも自分とあのメイドは、なんだか相性が悪いらしい。アレが絡む時ほど損をしている気がしてきた。

「――第一号チームが帰ってきたぞぉーーーーー!!」

「「――うぉおおおーーーーー!!」」

何やら見覚えのない白い魔物と、クロズハイトに住む者たちが戻ってくるのを見て、主催者の悩みなど知らないとばかりに観客たちが盛り上がる。

「あれはなんだ!?」

「はっきり見えるがなんの魔物かわからない!」

「もしかして龍魚じゃないか!?」

「知ってる! タツナミさんの店で見たことあるぜ!」

「あれが龍魚か!」

と、そんな感じで一気に盛り上がりを見せている。主催者の気持ちなど関係ないとばかりに。

そして、まだかまだかと焦れているのを嘲笑うかのように、ゆっくりと参加チームと回収班は戻ってきた。

大きな歓声が上がる中、メイドの少女は迷うことなく主催側のベッケンバーグとアディーロ、タツナミの前に出る。

「これでいいですか?」

平然と、いつも通り冷静に、何事もなかったかのように問う。ちなみになぜか今日はメガネを掛けていない。

ベッケンバーグ以外の二人は、迷いなく頷いた。

タツナミは、この騒動の発端となった、個人的な賭けの勝利に。

アディーロは、個人的な分析と好奇心の末の物証に。

「おまえ俺に恨みでもあるのか」

「はい? なんのことでしょう?」

ベッケンバーグの言葉は、さすがに言いがかりである。

「――ベッケンバーグさん」

観客たちが龍魚に集まり物珍しく囲んでいる時、回収班のリーダーがベッケンバーグに告げる。

「仕留めた龍魚を横取りしようとして、返り討ちに遭った連中がいるんだが。荷車の端の空いたところに乗せてきたぜ。どうしたらいい?」

やはり得物を横取りしようとしたチームが出たようだ。

「拘束しておけ。狩り勝負が終わるまでは檻の中だ」

「わかった」

リーダーは部下の回収班に命じ、返り討ちに遭ったという狩人たちを運んでいく。

「予想してましたよね?」

メイドの少女が問うと、ベッケンバーグは苦々しい顔で頷く。

「もしかしておまえも予想してたか?」

「ええ、まあ。あまりにもルールがゆる過ぎたから。わざと詰めて作らなかったんだろうなと」

まさにその通りである。

「そこまでわかってるなら考えろよ。一番最初にこんなの持ち込むと、ここからは盛り下がっていくことくらい想像がつくだろ」

「ああ、すみません。田舎者なので都会の催しのことはよくわからなくて」

何が田舎者だ。

ここは地図にも乗らない無法の国だ。どっちが田舎だと思っている。

……などと怒鳴り気持ちを抑えて。

「で……おまえ、これ、どうするつもりだ?」

ベッケンバーグは気持ちを切り替えた。

ここから盛り下がっていくであろう祭りのことはひとまず置いておくとして、今はこの見事な魔物の所有権だ。

ぜひとも欲しい。

果たしてどこの部位がどうなって何になるのかはわからない。

食えるのかどうかもわからない。

そもそもドラゴンなのか魚なのかもはっきりしていない。

が、これだけの大きさの魔物なら、少なくとも魔核も相応に大きいか希少価値が高い。高確率で両方だ。

かなりの大金をはたいても、きっと後から取り戻せる。

「ああ、それはあちらに」

「「あ?」」

すでに売れていたことに驚いたのはベッケンバーグだが、「あちらに」と指されて驚いたのはタツナミもである。

「私はタツナミさんと取引したから参加しました。それ以上は何もないです。そうじゃなければ龍魚を狩ることもなかったので」

そう言うと、メイドの少女はタツナミを見る。

「ナイフ分は働きました。これで賭けは終わり、貸し借りなしということで」

「バカ言うな。釣りが出るぜこの野郎」

「それはただの結果論ですね。サッシュの時も馬はタツナミさんに所有権があったでしょう? 私の参加はそれの延長の二回戦目でしかないので」

儲けを取らず筋を通そうとしている――一見そんな風に思えるメイドの言動だが、少しばかり親しくなったアディーロにはわかる。

あれはもう全てが面倒臭いんだな、と。