軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146.メガネ君、バトンタッチする

「――なあリッセ。この場はおまえのために用意したんだぜ?

どうしても仲間の仇を討ちたいっていうおまえのために、俺も命を張ってゼットをおびき寄せたんだ。

まさか今更降りるなんて言わねえよな?」

ベッケンバーグは「メガネ」を見せつけながら、威圧するようにリッセを見据える。

……なるほど、「目」か。

「 扇動者(アジテーター) 」の表記が「視える」ってことは、今まさに使用しているからだ。

そして、この状況で誰に使っているか、と言えば――

「で、でも、ゼットは誰も殺してないって……」

ひどく動揺しているリッセ、だよな。

…………

扇動。

人の心を動かす力。

――思いっきり簡単に言えば情報系。

「情報を与える」という行為で、与えた情報を信じさせたり、またその情報に添って人を動かすような、一種の洗脳のような「素養」だろうか。

驚異的なのは、リッセを見る限りでは、「誰かに操られている」という作為的な不自然さがまったくなかったことだ。

態度も仕草も口調も雰囲気も何もかも、俺が知っているリッセだったから。

たぶん傍目にパッと見た限りでは、誰がベッケンバーグに洗脳されているか見分けがつかないだろう。

こんな風に何人も洗脳できるんだとすれば、確かに一つの街を支配することも可能では、あるのかもしれない。

――おっと。考察はこのくらいにしておくか。

「簡単な話だろ?

おまえの知りたいことを教え望み通りゼットに逢わせてやった俺と、ただの小うるさい蠅。どっちを信じるかって話だ。

迷うことが一つでもあるのか、逆に聞きたいくらいだぜ」

なかなか説得力を感じることを言っている気がするが。

でも俺からすれば「どっちも胡散臭いのだからどっちも信じるに値しない」である。

むしろタイプとしては、ベッケンバーグよりはゼットの方がわかりやすいかな。

力でねじ伏せるような奴は、小癪で無用な嘘は吐く理由がないから。

ベッケンバーグのように、自分の非力を理解している者は、嘘でもなんでも使えるものは使うんだよね。正攻法か否かも問わないしね。

俺も非力で、どっちかと言うとゼットよりはベッケンバーグに似ているから、わかる気はする。

嘘でもなんでも、勝てればいい。

負けたら死ぬから。

だから考えられる手段は全部使う。

狩場では、いかに獲物を騙すかをいっぱい考えたものだ。罠とか最たるものだと思う。

……まあ、その辺のことはいいか。

ベッケンバーグに似ているって思ったところで、それが嬉しいわけでもないし。

「ちょっと待っててもらえます? すぐ済みますから」

「あぁ?」

ゼットに一言断りを入れ、俺は近くのテーブルから小瓶を取り上げた。

中身は……お、やっぱり。これだこれ。

「そもそもなぁ、リッセ。おまえはすでに俺に借りができてるんだ。数日、住むところも飯も用意してやった。

そんな俺の言うことが――あ? なんだおまえ」

スタスタ近づいた俺にベッケンバーグが気づいた。訝しげに眉を寄せる。

「あ、お気になさらず――えーい」

「なんだてめ、いてっ! いててっ!」

掛け声とともに、小瓶の中の塩を、ベッケンバーグの目を狙って投げつけてやった。ざぁぁっと広がるように、広範囲をカバーするように白い粒を投げつけてやった。お、やった。直撃したようだ。

「何やってんだこのクソメイドがぁ! あ、本気でいてぇ!」

「すみません。ゼットさんがやれって脅すから仕方なく」

「言ってねぇよ。――でもおもしれぇから俺が言ったってことで構わねぇぜぇ」

「だそうです。彼が脅すから仕方なく」

「うるせえバカ野郎!」

「だっせぇジジイだなぁおいぃ。不細工なツラして痛がってんじゃねぇよ」

「うるせえバカ野郎! バカ野郎ども! くそっ、目が開かねえ!」

目の痛みに悶絶するベッケンバーグが落とした「メガネ」を拾い、立ち尽くしているリッセに渡してみた。

「あなたの仲間は、そう簡単に死ぬような人たちなんですか?」

「……」

「もっとちゃんと探してみることをお勧めしますよ。大事なことほど誰かに聞いたとかじゃなく、自分の目や耳で確認した方がいいです」

リッセは、差し出された「メガネ」を受け取りつつ、まじまじと俺を見て、

「……エイル?」

ようやく気付いたようだ。

「え? 誰? 違いますけど?」

まあ、ごまかしといたが。

だってバレたら面倒臭いから。

さて。

ベッケンバーグも黙らせたし、リッセもあのおっさんに疑問を抱いた。向こうはもう大丈夫だろう。

「ではゼットさん。お願いできます?」

「あ?」

今度は、こっちだ。

「ここからは――」

ピタリ、とフォークを構えて見せる。

「私が相手をしますけど、問題ないですよね?」

ゼットまでの距離は、そんなに離れていない。ちょうど中距離と近距離の境目くらいだろうか。

一足で攻撃の間合いに入るほどの、そんな距離である。

弓使いとしては、近すぎる間合いだ。

「あぁ? やんのかぁ? ブタの泣き顔を見て少しばかり白けちまってんだけどよぉ」

ああ、そう。それはそれは。

「でも私はアディーロ様の護衛なので。そこの彼女と違って、私にはまだ戦う理由があるんですよ。

あなたが大人しく帰ってくれないなら、やるしかないんですけど」

「へえぇ? フォークでかぁ?」

あ、ニヤニヤし出した。どうやら気分が乗ってきたようだ。別に帰ってくれて構わないんだけどな。というか帰ってほしいんだけどな。

「それで俺に勝てると思ってんのかぁ? あぁ?」

「やってみます?」

「よし。てめぇには笑わせてもらったし、少しだけ遊んで――」

合意を得た瞬間、俺はフォークを 持たない手(・・・・) で、隠し持っていたナイフを投げつけた。

「――やるよぉ」

やはりゼットは速い。

ここまで間合いが近いのに、投げたナイフを余裕で掴んだ。

「…っ!」

掴んだだけならまだしも。

あろうことか、投げたナイフを追うようにして接近していた俺に、投げ返してきた。

――驚いた。絶対に避けると思ったのに。

ゼットの動きの速さなら、掴み取るくらいはするかもしれないと思っていた。

そこまでは予想できていた。

でも、まさか投げ返すなんて――

しかも俺の行動を真似るように、投げ返したナイフを追ってゼットも俺に迫る。

避けられない。

避けたら、確実にその方向にゼットが追い打ちを掛けてくる。

俺がやろうとしていたことと同じように。

ならば――避けない。このまま行く!

ガギッ

「おっ?」

今度は俺が、ゼットの予想を超えたようだ。

飛んできたナイフを、掛けている「メガネ」で弾いたから。「レンズ」部分で。かなり怖かった。

そして、それとほぼ同時にフォークを突き出していた。

ゼットの予想を裏切った形で放たれた、フォークの一撃は――

「ハッハァ!!」

避けられた。

その上、顔面を……こめかみの辺りを殴られた。ガンと。

ギリギリで少しだけ直撃を回避できたが、かなり痛い。

これで、仮に予想外を取れても、俺ではゼットの速度領域に届かないことが証明されてしまった。

となると、奇襲も避けられるかな。

相打ち覚悟の捨て身も、一方的に返り討ちにされて終わりか。

もちろん正攻法でやり合うなんて論外だ。

それこそ勝負にさえならない。

むしろさっき見たリッセの攻撃は、俺が考えるよりはるかに計算された戦い方だったのかもしれない。

ゼットの反撃を容易に許さないような、そんな攻め手で。

――やはりこのままではダメだ。

――「メガネ」の力がないと、勝負にさえならない、か。