軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第154話 これマラソンだよ

防戦一方だった。

俺が持つ剣では、ボスガイアに大したダメージを与えられない。

ノーダメってわけではないから少しずつ削ることも考えたけれど……確実にこちらの武器が先に壊れてしまうだろう。

破壊した斧と大剣も、すぐに復元されてしまった。

襲いくる四つの武器をいなすだけでやっとだ。

腕が四本あるということは、実質二対一と同じ——なんて考える人もいるかもしれないけれど、とんでもない。

一つの頭で制御されているのだ。

四本の腕は完璧に連動していて、二対一どころの話じゃない。

お互いの隙を埋め合うように、絶えず攻撃を仕掛けてくるのだ。

二足歩行と四足歩行、どっちの方が足が速いかは言わずもがな。

同じ土俵に立つことすらままならない。

戦闘において、二本の腕と四本の腕にも、同じような差があるのだ。

相手の武器を奪って攻撃を仕掛ける、それが俺の唯一の勝ち筋だ。

でもボスガイアもそのことに勘付いたようで、不用意な攻撃をしてこなくなる。

それに俺はボスガイアとやり合いながらも、リソースの一部を周囲の警戒に割かなければならなかった。

野良ガイアに囲まれているのだ。

直立不動の姿勢をとっているけれど、いつ横槍を入れてくるともしれない。

野良ガイアの武器を奪うことも考えたが、ボスガイアの外骨格の強度を考えれば、ろくにダメージを与えられないだろう。

そんな状況で、俺は少しずつ体力と気力を削られていく。

けれど——それに反比例するように、神経が研ぎ澄まされていった。

これだけ戦闘が長引けば、さすがに野良ガイアたちが横槍を入れてくることはないだろうと判断できる。

彼らの儀式めいた振る舞いが、油断させるための罠だとは思えない。

俺はただただ、目の前のボスガイアに集中する。

ある時ふと、自分の勘違いに気づいた。

ガイアが武器を生成するのを見て、外骨格を自由自在にできるのだと思った。

でもどうやらそうじゃないらしい。

硬いのは外骨格の表面だけで、その内側はゲル状になっていたのだ。

それが緩衝材の役割を果たすと同時に、外骨格の修繕や武器の生成に使われているようだった。

そして一度硬化させたゲルは、もう元には戻せないらしい。

つまり——破壊された武器や外骨格を再利用することはできない。

戦いが長引くにつれて、ボスガイアは見るからに痩せ細っていった。

新しく生み出される武器も、どんどん細く小さなものになっていく。

相手も疲れてきているのか、それとも外骨格は鎧としてだけではなく、パワードスーツとしての役割も持っているのか。

当初の驚異的な膂力も、今はもう見る影もない。

小さくなって、なんか六角レンチのようにも見えてきたバールのようなものを躱し、ボスガイアの懐に飛び込む。

そのまま素手で腹を殴りつけた。

ビリビリと拳の骨が悲鳴をあげる。

テンパって雑な攻撃になってしまったわけではない。

今の薄くなった装甲なら拳でも砕けると判断したのだ。

現に外骨格は砕け、生身の筋繊維が露出する。

すぐにゲルが寄り集まって覆い隠そうとするが——

「っそい!」

その前に剣を隙間に差し込んだ。

肉の柔らかい感触。

相手の命に届いたことが、手応えから伝わってくる。

本当は「遅い」と叫んだつもりだったんだけど、息が切れていたせいでなんか間抜けな掛け声みたいになってしまった。

そのことが不本意だったが——なんにしても決着だ。

剣を引き抜くと、ヘドロのような紫みを帯びた赤黒い血が吹き出した。

吐き気を催す腐臭に、俺は顔を顰める。

ボスガイアはそれでもしばらく踏ん張っていたが、やがて全身から力が抜けて倒れ伏す。

さっと周囲に視線を走らせた。

ボスガイアを倒したことで、野良ガイアたちが決死隊として襲いかかってくるのではないか。

そう危惧したからだ。

けれどそうはならなかった。

それどころか——変わらず直立不動の姿勢をとっている。

「……えっと」

襲ってくるなり逃げるなり、何かしらのアクションを起こしてもらわないと、こちらとしても困る。

ボスが倒されたのだ。

せめて慌てるくらいのことはあってもいいのに。

これじゃあまるで——まだ何も終わっていないみたいじゃないか。

そう考えた時だった。

背後で衝撃音がする。

ハッと振り返ると、砂塵が舞い散っていた。

その中に——ボスガイアの姿があった。

一切消耗していない、完全体の姿で。

「……なんで」

生き返った?

完全回復した状態で?

そう思ったものの、すぐに違うとわかった。

そばに倒したボスガイアの死体が転がっていたからだ。

あれは別の個体なのだ。

(上から飛び降りてきただけか……)

それから、ようやく気づく。

頭上の回廊に、複数体のボスガイアの姿があることに。

戦闘に集中していて、今この瞬間まで、まるで気づけなかった。

「いやいやいや、なんでボスが何体もいるんだよ……」

まあ『ボスガイア』なんて、俺が勝手に名付けただけなんだけど。

「もしかしてあれかな。『奴は四天王最弱』みたいな?」

パッと見ただけでも四体以上いるけれど。

いや、それとも——

群れにボスは一体だけ、なんてのは、こちらの世界の常識に過ぎないのだろうか?

他のボスガイアたちが降りてくる気配はない。

ただじっとこちらを睥睨しているだけだ。

決着がついたタイミングで二体目が降りてきたことを考えると、

「……一体ずつ連戦する感じ? マジで?」

百メートル走を走り終えた直後に「これマラソンだよ」って言われるようなものだ。

そんなペース配分なんて考えていない。

余力なんて残していない。

「頼むから、元になった伝承を教えてよ。裏ボスガイアとかいたりしないよね?」

泣き言のように問いかけてみるが、もちろん答えが返ってくるわけもない。

二体目のボスガイアが猛然と襲いかかってくる。

速い。

一体目よりも優れた個体なのか、それとも俺が消耗しているせいで反応が鈍っているのか。

どちらにしても躱す余裕がなかった。

反射的に防いだが、酷使され損耗していた剣は、まるでガラス細工のように砕けてしまう。

バールのようなものが——俺の脇腹に突き刺さった。