軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第141話 イメージトレーニング

しばらく小躍りしそうなくらい浮かれていたアマンダだったけれど、

「まあ、とはいえだ」

と急に真面目なトーンで言った。

「それならなおさら、君を一人で行かせるわけにはいかない」

「え? なんで……」

「私のためなら人を殺せるんだろう? いいじゃないか。なら私はそれを利用する。君に軽蔑されようとね」

「でも」

「私だけじゃないよ。今の話を聞かされたら、ギンやアンリも、いやもしかしたら春奈だって付いて行くって言い出すかもしれない」

春奈ちゃんが真剣な表情で頷く。

「お兄さんのためになるなら」

「さすがにそれは……」

「私は普通に見殺しにされそうだから行かない」と博士。

「キャスがこんなこと言ってるけど?」

「えっと」

俺は想像してみる。

「……いや、同じかな」

「同じってことは?」

「博士が危ない状況になったら、何がなんでも助けると思う」

「だってさ、キャス」

「あっそ」

博士が興味なさそうにそっぽを向く。

耳の先っぽが、ほんのりと赤くなっていた。

アマンダがそんな博士を愛しむような目で見る。

自分だけが特別じゃないと分かったら、人によっては不機嫌になりそうなものだけど、アマンダにその様子はない。

むしろ自分の大切な人が、俺にとっても特別であることに、心底嬉しそうにしていた。

アマンダのそういう心の広さというか、寛大さというか、器のデカさというか……とにかく彼女のそういうところが、俺は好きだった。

「というわけだから。私たちの総意として、君を一人では行かせられない」

「いや、でも——」

「こっちはね」

俺の反論を遮るように、アマンダが言葉を被せてきた。

「君のためなら、世界の一つや二つくらいは滅ぼせるんだよ」

「そんな大袈裟な……」

「大袈裟だと思う?」

まっすぐな目で見つめられ、俺は何も言えなかった。

「相手は格上なんだ。殺すって選択肢は、やっぱりあった方がいい。ジローにできないなら私が、なんて考えていたけどね」

「格上って言っても、今はもう違うし」

「……今はもう違う?」

「まともな武器があれば、普通にやりあえると思う。いや、今なら武器がなくても結構戦えるかも」

俺はめちゃくちゃネガティブな人間だ。

でも自分がネガティブだってことに自覚的で、最終的には現実的なところに着地できる、プロのネガティバーなのだ。

想像の中で互角ということは、七対三くらいで俺が有利な気がする。

「ちょっと待て、今ならってどういう意味だよ」

博士が前のめりに聞いてくる。

「え? そのままの意味だけど……」

「だからその『そのまま』を説明しろって言ってんだよ!」

「えっと……」

何を怒っているんだろう?

いや怒ってるというより、戸惑っているような。

「さっきみんなが話し合ってる時に、シミュレーションというか、イメージトレーニングみたいなことしてて」

「……イメージトレーニング?」

春奈ちゃんが「ああ」と何かに思い当たったような声を漏らす。

「なんかすごいぼーっとしてるなぁ、とは思ってたんですけど、イメトレしてたんですね」

「うん。ほら、スポーツ選手なんかも、イメトレがめちゃくちゃ大事って言うし、だから」

「……でもそれ、ほんの二、三分のことですよね?」

「そうだね」

「そんなちょっとイメトレしただけで、強くなったってのかよ、お前」

「いや、ちょっとじゃないよ。色んな状況を想定して、何百何千って繰り返したし」

「たった数分の間にか?」

「……まあ」

でも俺の体感としては何時間も、いや下手したら何日も経っているのだ。

そんな驚かれるとは思わなかった。

「……中華製の五億年ボタンでも押したのかよ」

なんだ中華製の五億年ボタンって。

春奈ちゃんもちょっと引き攣った顔で、

「仮に数日だったとしても、その成長はおかしいですけどね……」

「そ、そうかな?」

「そうですよ」

不意に沈黙が。

「……怖いんですけど」

博士が震えた声で言う。

「漏らしちゃった?」

「うん」

「シャワー浴びておいで」

アマンダに促されるまま部屋を出る博士。

今回のゴタゴタで急速に距離が縮まったと感じていたんだけど……。

なんかその千倍くらいの勢いで心が離れていってしまった気がする。

(なんでそんなことに……)

アマンダと春奈ちゃんが、苦笑しながら顔を見合わせていた。

「漫画とかなら、ここから修行パートとか始まりそうなものだけど……」

「それを一人で勝手に、たった数分のイメージトレーニングで終わらせちゃうんだから……」

やっぱ最強だなぁ、と二人の声が揃う。

世界最強ではなく、おそらく多元宇宙最強、と。