軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

382.話が早くて助かった

――さて、と。

「話が早くて助かったわ」

リノキスに警告したその日の深夜、ものの見事に夜襲を受けた。

夜襲はマーベリア以来である。

今回はその筋のプロらしき連中が三名という少数精鋭で、前のチンピラ多数と機兵という物量任せの構成ではなく、確実に暗殺目的だ。

当然、屋敷内に侵入してきた段階で仕留めた。

窓ガラスを割るなり正面ドアのカギを開けるなり侵入方法は色々あるが、裏口のカギを開けておいたそこから入ってきた。

物音を立てないための行動である。

開いている場所をチェックし、それがなければ窓かカギ開けに着手したに違いない。

そんなプロらしき男三人が、意識を失ってホールに倒れている。

侵入と同時に仕掛けて、速やかに確保したところだ。人数が多かったら大変だったと思うが、まあこの人数なら私一人で充分間に合う。

「どうします?」

と、事が終わってから駆け付けた……というか普通に間に合わなかったリノキスが、ホールまで運んできた男たちの処置を問う。

「マーベリアの時と同じ……と言いたいところだけど、ここって地下室ないわよね?」

ここは小さな屋敷である。

部屋数も少ないし、監禁部屋もない。

一応地下室もあるにはあるが、食糧庫を兼ねた狭い部屋だ。

すでに日持ちする食料が詰めてあるので、そこに入れると私たちの生活が困る。わざわざ荷を動かして場所を空けるのも面倒臭い。

「というか、この時期に監禁は死んでしまう可能性があるかと」

ん? ああそうか。凍死か。

私は服類も道具と見なして取り上げるタイプなので、監禁する時は基本的に裸にする。

そしてこの時期に裸にして地下室などに放り込むと、目覚めることのない眠りに落ちてそのまま冷たくなってしまうことも大いにありうる。

「……仕方ない。これから尋問して、終わったら皇帝陛下に預かってもらおう」

このタイミングで来た暗殺ならば、ハーバルヘイムの者で間違いないだろう。まあそれも含めて情報を聞き出すつもりだが。

それを前提に考えると、一応他国籍の者たちのはず。

ウーハイトンで死ぬと面倒なことになりかねないので、生かさず殺さず投獄してくれそうな最高権力者に任せよう。

いざとなれば、闇に葬るのも簡単だろうしな。

把握していないところで事が起こるのと、把握した上で事を起こすのでは、まったく意味が違う。

後者は隠滅の準備がいくらでもできる。

「とりあえず服を脱がして縛り上げて、庭に並べましょう」

「わかりました。ロープを持ってきます」

「ぶはっ」

「うわっ」

「ぅっ」

裸にして両手両足を縛って転がしていた暗殺者たちに、水を掛けて叩き起こした。

冬の寒空に水である。

そう強くない風でさえ、あっという間に体温を奪っていく。

つまり――

「死にたくなければさっさと話した方が身のためよ?」

何もしなくても、これはすでに拷問である。

まだ目覚めて現状が把握できていないのに、すでに震えが来ている。

空気も冷たい石畳も、肺に入れる空気さえが筵の針のごとく冷たく、容赦なしに命を削っている。

まあ、このままでは朝までは持たないだろう。

「別に黙秘してもいいわ。こっちとしては一人生きていれば充分だし」

冷たい石畳からできるだけ接触面積を減らすために身をよじったりしつつ、さすがその道のプロ、文句も悪態も吐かずに現状確認をしている。

そして最後に、彼らの前に立つ私に目を止めた。ちなみに彼らの後ろにリノキスがいて見張っている。

ちゃんと話を聞く準備ができたのを確認して、私は質問を開始した。

「あなたたちは誰?」

油断のない、ともすれば私を出し抜いて逃走しようという強い眼差し。うんうん、簡単に折れるようでは面白くないからな。せいぜい抵抗してくれ。

「……ここにハーバルヘイムのアルコット王子がいるだろう? 俺たちは秘密裏にあの方を確保するためにやってきた、ハーバルヘイムの使者だ」

と、真ん中の男……恐らく三人の中の上役であろう男が代表して答えた。

「ハーバルヘイムの使者ねぇ」

これで確信を得られた。

ほかの可能性はないとは思っていたが、万が一があるからな。個人的に私を狙った武人という可能性もゼロではなかったわけだし。

「アルコット王子って?」

「とぼけるな。ここにいるだろう。目撃情報がある」

目撃情報か。

アルコットにはあまり外には出ないように言ってあるが、出入り商人とは顔を合わせることが何度かあったらしいし、他人同然の挑戦者の出入りもある。

こういう環境なのでどこからでも情報は漏れるだろう。

「――もしかして魔法が使えないって焦ってる?」

左の男のもぞもぞが大きくなってきたので、笑いながら問いかけてみる。

ハーバルヘイムは魔法が盛んな国だ。

大魔法は使えないにしろ、ロープを切る魔法くらいは習得していてもおかしくない。

「一時的に使えなくしているから、今はどうやっても無駄よ?」

「なっ……ど、どうやって……」

――「八氣」で魔力回路を乱しただけだ。正確に言うと、いつもの感覚の使い方ができないだけで、使えなくなっているわけではない。

なんて、説明する気はないが。

「今重要なのは、逃げられないってことだと思うけど。ほら、どんどん体温が下がってるんじゃない? こうしている間にも命が削れていくでしょ? のんびりしていていいの?」

魔法が使えない。

暗殺用の道具類もない。

服もないし、ついでにびしょ濡れ。

ここまで追い込まれた男たちは――

「お、俺たちを殺したら、国際問題だぞ。しかもここはウーハイトンだ。アルトワールと違って隠滅は難しい」

「つまり国の命令で来たの? 私を殺しに? それとも盗みで?」

「だから! 王子を保護しにきただけだって言ってるだろう!」

「こんな夜中に忍び込んで? 保護しにきただけなら、昼間普通に訪ねてくればいいじゃない。

貴人……貴族の家に忍び込んだ以上、賊として殺されても文句は言えないと思うけど」

「俺たちはハーバルヘイムの使者だと名乗った! 知った上でこの仕打ちか!」

語気が荒くなってきた。

早くも生命の危機を感じているのだろう。身体の震えも大きくなってきている。

そんな彼らを焦らすように、私は微笑んだ。

「――本当にハーバルヘイムの使者かどうかわからないし? ハーバルヘイムに罪をなすりつけたい他国の者かもしれないし? 何か身分を証明する物でもあるの? ないなら身元不明の賊でしかないわね?」

他国からやってきたなら、身分証はあるはずだ。

それがないとウーハイトンの街や都市には入れない。もしないなら密入国者ということになる。

プロなら、余計なトラブルを避けるために、実行以外のプロセスは一般人と変わらないやり方をするはずだ。

まあ、偽造の可能性は高いが。

「まあゆっくりやりましょうよ。もう一度言うけど、三人もいらないのよね。一人生きていればこっちは問題ないし。二人倒れたら、最後の一人は温かい部屋に移してあげるわね」

そもそも、大事なことだけはもう聞けたしな。

――ハーバルヘイムの刺客が来た。

それだけわかれば、私は充分である。