軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

377.アルトワールアンテナ島開局セレモニー 閉会、そしてニア・リストンの失敗

国王ヒュレンツの挨拶映像が終わると、セレモニーは終了となる。

まだアンテナ島には住人もおらず店舗もないので、長居できる場所ではない。なので来賓たちは速やかに帰り支度を始める。

中には狙い通り、この島で店を開きたいだの別邸を建てたいだのという問い合わせもあるが、それに関しては開発計画の概要を説明して細かい部分はあとで、という説明をしておく。

経済にしろ情報にしろ、 魔法映像(マジックビジョン) の可能性を感じ、関わっておきたいと思ったのだろう。

悪くない感触である。

子供たちには、「よろしければ記念に」と、拾って来た 水晶竜(ブルードラゴン) の欠片を勧めてみる。

昨夜の興奮もあるのか、子供たちは大喜びで水晶を選び持って行った。水晶は鉱石としての価値はそこまで高くないので、目の色を変える大人はさすがにいない。あくまでも記念の品である。

「――では、私たちはお先に失礼します」

ホスト側として多くの飛行船を見送り、そろそろいいかとニア・リストンが両親に声を掛ける。

これ以上この島にいてもやることがないし、何より帰る場所が違う。解散の号令を待つ理由もないだろう。

「もう行くのか……今年はもう会えないかな」

昨夜の醜態が嘘のように、今日はいつも通り凛々しく穏やかな父オルニットが、娘の前に膝を折り頭を撫でる。

「一応まだ追放の身なので、家には帰れないわ」

王様のにぎやかな伝言を聞く限りでは、すぐにでも追放は撤回されそうなものだが。

しかし、書類上はまだちゃんと追放されている状態だ。

ニアはまだアルトワールには帰れないし、両親も仕事で忙しい人たちだ。わざわざ予定を合わせてまで会う理由はない。

いや、家族が会うのに理由なんて必要ないかもしれないが。

今年もあと少しで、多くの学生が冬休みに入る。

追放される前は、年末年始はリストン家で過ごしていたのだが――追放されて以降はまったくない。

排他的なマーベリアでは無理だったが、ウーハイトンにいる今なら……と、両親は思っているようだ。

しかしまあ、今ここで会っているのだ。

だからしばらくはいいだろう。

「来年、恐らくまたこの島で会うと思いますので、またその時に」

アンテナ島はこれから開発の手が入る。

店ができて、建物ができて、住人が住み、あっという間に 魔法映像(マジックビジョン) を掲げる都市となって発展していくはずだ。

そのどこかの段階で、またパーティなりなんなりが行われ、リストン家の公務が予定に入るだろう。

残り三つの他の島のイベントでも集まる機会があるかもしれないし、マーベリアではちょっと厳しかったが、今なら会おうと思えばいつでも会える。

家族との別れを皮切りに、顔見知り、王太子夫妻、ヒルデトーラにレリアレットという上役や馴染みの顔に挨拶する。

聖女フィリアリオや、マーベリアのクランオールらはもう発ってしまっているが、彼女らとも近い再会の約束をしている。

まだ護衛として務めているアンゼル、フレッサとは結局話せず仕舞いだったが、まあこういうこともあるだろう。

ニアへの挨拶の代わりに、リノキスとは話をしたらしいので、それでいい。

手短に挨拶を済ませ、さっさと飛行船に乗り込む。

今生の別れというわけでもないので、さらっとしたものである。

「――それでお嬢様、この方は?」

乗り込むなり、「後で説明する」と言い置いていたリノキスが、なかなか冷めた目でニアを見る。

リノキスの言う「この方」は、所在なさげに先に飛行船に乗って待っていた。

ハーバルヘイム第七王子アルコットである。

「もしかしてまた拾ったんですか?」

「まあ、そんなところ」

「皮肉のつもりで言ったんですが、当たってるんですね?」

リノキスの本来の雇い主であるリストン家当主オルニット・リストンにも「アルコットを頼む」とは言われたが、詳細は聞かされていない。

頼まれた以上はやるしかない立場だが、文句が全然ないわけではない。

「いいじゃない。そんな皮肉が言えるならもう慣れたものでしょ?」

確かに慣れたものではあるが。

「捨て犬や捨て猫じゃないんですから、人を拾うのはやめてください。せめて犬や猫を拾ってください」

「犬か猫ならいいのね? 機会があったら拾っておくわ」

「皮肉なんですけど! なんで笑ってるんですか!?」

侍女の皮肉をはっはっはっと笑い飛ばし、ニアは不安げなアルコットに歩み寄る。

「王族らしい扱いはできないけど、できるだけ面倒は見るから。これからどうしたいか、何をしたいか、漠然とでもいいから決まったら教えてね」

「……う、うん……」

まだお互い、何も知らない者同士である。

不安があるのも当然で、戸惑うのも無理はない。

ハーバルヘイムの刺客がやってくる可能性は高い。

最低限しか知らされていないだろうが、それでも知っていることも多いであろうアルコットを生かしておく理由はない。使い捨ての駒にするくらいだ、躊躇うこともないはずだ。

だが、今しばらくの猶予はきっとあるだろう。

ハーバルヘイムはアルトワール中を探すだろうが、そこにアルコットはいない。

そしてアルコットを引き取った事実はアルトワールの者しか知らないので、そう簡単に情報は漏れないだろう。

これから行われるアルトワールとハーバルヘイムの交渉の行方に注意していれば、こちらに刺客がやってくるタイミングもわかるかもしれない。

その辺に注意を向けつつ、ニアはまた留学生活に戻るのだった。

――己の失敗に気づくのは、もう少し先の話である。

アルトワールの新領地としてできた、空賊列島跡地にできたアンテナ島。

その存在がアルトワール国民に、あるいは世界中に発表されたのは、このセレモニーの直後である。

魔法映像(マジックビジョン) を使用し、セレモニーの様子やアンテナ島の外観の空撮、真新しい中継塔に放送局、そして島のシンボルになるであろう超特大魔晶板などの映像が放送され、すぐに周知の事実となった。

そんな中――アンテナ島の紹介映像の中にあったとあるシーンが、再びアルトワールで話題となった。

水晶竜(ブルードラゴン) の襲来。

もはや伝説となっている冒険家リーノの勇姿。

鈍器を振り回すお姫様や、見るからに凶悪そうな顔に傷のある老紳士の活躍。

ドラゴンを翻弄する華麗なメイドの動きに、ドラゴンを相手に鉄パイプ一本で渡り合う青年。

それらの迫力のある映像は、紛れもない実戦のシーンである。

素人は普通に興奮して観入り、玄人は異常な速度で動くくせに異様に安定したカメラの動きに唸った。

名も知らぬ戦士たちが活躍する映像の中に、入っていたのだ。

星明かりの下なのであまりはっきりは映っていないが。

白い髪に青いドレスを着た少女がものすごい速さで動き、 水晶竜(ブルードラゴン) に接触すると同時に一瞬で粉々にする嘘みたいな姿が、しっかり映っていた。

少し遠目だが、その特徴はどう見ても……

――誰もが思った。

――あれはニア・リストンではないのか、と。

実際、ニア・リストンである。

あの夜、ニアはかなり注意して動いていた。

カメラを持って戦場に入り込んでいるリネットの位置は、常に気配を読んで把握していた。

絶対にカメラに写らない、誰にも察知されないよう、秘密裏に動いていた。

なんなら戦場の全員の視線にさえ気を配っていたくらいだ。

それくらい本気で動いていた。

――ミスに気付かないくらいの盲点だった。

――まさかカメラが据え置きで、無人のまま設置されているなんて、想像もしていなかった。

いわゆる定点カメラである。

戦場に入る撮影班は王太子アーレスの指示で限られた、だから撮影班ではなく カメラだけ(・・・・・) を戦場に置いておいた撮影班があった。

うまく撮れればそれでいい、ダメで元々というつもりで置いておいたものだ。

ニアはそれに気づかなかった。

だから、写ってしまった。

――ニア・リストン最強伝説。

戦闘の様子を見るに、一瞬で粉々にするなんて誰もしていないのだ。

リーノでさえ、鈍器を振り回すお姫様のサポートのような動きをしていた。もっと言うと武器を持っている者が活躍していた。

しかし、映像にあるニア・リストンらしき姿は、完全に素手である。

なんなら動きづらいドレスでさえある。

ならば、自然に考えて、ニア・リストンがこの中で一番強いということになるのではないか。

そんな妙な噂で注目を集め、国民がデマだ本当だと熱い議論が交わされるまっただ中に、ハーバルヘイムの使者がアルトワールを訪れた。

あの夜、セレモニーから姿を消したアルコットと。

ウーハイトンに武客として招かれているニア・リストン。

この点が線で結ばれるのに、そんなに時間は掛からなかった。