軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

341.全殺しもやぶさかではない

「――あなたになら安心してジンキョウを任せられそうだ。武術以外のことは何もできない従弟だが、よろしく頼む」

生徒会長ランジュウからそんな結びの言葉を貰い、昼食の席は解散となった。

機馬(キバ) やウィングロードに興味を示していた生徒会庶務オレスとは改めてどこかで交流する約束をして、私とジンキョウは引き上げることにした。

「才能か……」

「ん?」

生徒会の連中といろんな話をしたが……結局強く印象に残ったのは、やはりカイマの存在だ。

才能。

かつては私もそんなものを欲したのかな。

才能があれば長所が伸ばせる。やりたいことが上手くできるようになる。

もしかしたら、誰も並ぶことない、はるか高みに登るための最低条件だったりもするかもしれない。

だがそれでも、才能があることがいいことなのかどうかはわからない面もある。

下手に才能があるだけに、叶わない夢を追い駆け続けることになるかもしれない。

武才だって、あるがゆえに死ぬまで修行の日々を送るかもしれない。

カイマのように、武才があるがゆえにつまはじきにされ、歪むこともあるかもしれない。

私は、武のためにあらゆるものを捨てた。

大切なものに気づかない、とことん馬鹿になる愚か者の才能だけはあったのだろうと思う。

そんな風に考えると、必ずしも才能があった方が幸せになる、というわけではないだろう。

ほんのちょっとあるくらいで丁度いいんじゃなかろうか。

そう――

「ジンキョウくらいが丁度いいわね」

「あ? 何が?」

……でも、求めてしまうよなぁ。才能。

「ついさっき、カイマが弟子にしてくれって頭を下げに来たのよ。断ったけど」

「そうか。カイマならそうするかもって思ってた」

校舎に戻る間に、ジンキョウは簡単にカイマのことを話してくれた。

「俺と兄貴や姉貴たち、あとランみたいな親戚と。俺ら皇族の子供とカイマは幼馴染でな。ガキの頃は一緒に修行とかして仲良くやってたんだ。

ただ――『帝王の拳』の伝承から、カイマとは修行ができなくなったんだ。あれは皇族だけに伝わる技だから」

……そうか。

だからカイマは考えたんだな。

ジンキョウやらランジュウやらの皇族よりも武才のある自分が、なぜ次の強さに繋がる「氣」を教えられないのか、と。

ならば他の方法で強くなろう――そう考えて、カイマはいろんな武門や流派を訪ね、その力を取り込んでいったことだろう。

自分なりの強さ、自分なりの「氣」を習得して、「帝王の拳」を越えようとしたのだろう。

そして、行き詰った。

ある程度の達人からは片っ端から根こそぎ教わった。

その先、ある一線を越えている達人たちは、カイマを拒否した。――私と同じように考え断ったのだろう。

強くなるための道標を失ったカイマは、迷走し始めた。

誰もカイマを導かないし、持ち前の才からカイマの悩みを理解できる者もいない。明らかにカイマより強い達人は拒否した。どこへ行けばいいのかわからない。

武に入れ込んでいれば入れ込んでいるほど、武が遠ざかる。

だから迷走している。

もう強ければなんでもいいと思い始めている。

それが今のカイマだ。

「弟子入り、断ったのか?」

「ええ」

「俺が言うのもなんだけど、俺たちの年代ではカイマは断トツで強いぞ。もし『帝王の拳』を学んでいたら、今頃は師匠と同じくらい強くなってたかもよ」

私と同じくらい?

はっはっはっ。それはない。

「……俺でさえ勿体ないと思うんだがな。あいつの武才は」

まあ、それは否定しないが。

「でも弟子に欲しくはないわ。理由は色々あるけど、何よりうちにはミトがいるのよ?」

「ミト?」

「あいつは絶対に子供の教育に悪い。絶対にミトに悪い遊びとか教えるに決まってるわ。あいつ自身が悪影響の塊だわ。ミトの傍で修行はさせられない」

「……」

「あの子がグレたらどうする。そうなったら私はカイマを半殺しにするわよ。いいえ、もしかしたら九割くらい殺すかもしれない。許せないわ」

「意外と過保護な……つーか九割はもはや十割と同じだと思うけどな」

それがどうした。

ならば全殺しもやぶさかではないぞ。

「あ、そういやよ。ミトは学校行かせねえのか?」

ん?

「この鳳凰学舎に?」

「俺はここでもいいと思うけど、ミトって孤児だろ? で、今は使用人として雇ってるんだろ? 貴族じゃないなら下台の学校の方が気楽なんじゃねえか?」

下台の学校と言うと、月下寮と言ったか。交流会の相手の。

ミトを学校に、か。

マーベリアでは、子供たちに学校へ行くことを勧めたことはあるが、拒否したんだよな。学校より仕事を優先したいと。使用人としてちゃんと働くと。

よく知らない貴族の娘の道楽で養われるよりは、ちゃんと「住み込みの使用人」という肩書が、居ていい理由が欲しかったのだろうと思う。

あの時の状況では、衣食住の全てが掛かっていたから、子供たちから仕事を取り上げることはできなかった。それは却って残酷だと判断したから。

でも、今はあの時とは状況が違う。

ミトはまだ十歳だ。

将来のために学んでおくべきことは多々あるはずだし、マーベリアにいた頃は文字や数字を必死になって覚えたのだ。知らないと損をすること、知らないとまずいことがあるのを実感しているはずだ。

……よし、帰ったら話してみようかな。

武客の弟子が月下寮に通う。

そんな噂は、あっという間に広まった。