軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

332.少しやり方を変えた試合

ベンデリオと撮影班五名がやってきて、一週間が過ぎた。

今回の撮影のメインにして主な仕事は、私の密着である。

あとは時々皇帝に頼まれて撮影を行う予定もあるそうだが、機会はそう多くはないとのことだ。

すぐに連絡や連携を取れた方がいいだろう、ということで、ベンデリオたちは私の借りている邸宅の近くの屋敷を貸してもらい、全員でそこに住んでいる。

私の邸宅では、一緒に住むには狭いのだ。

主人一人と侍女二人の三人で、時々ジンキョウが泊まる程度の余裕はあるが、それ以上となるとちょっと難しい。

庭こそそれなりだが、屋敷というよりは少々大きめの民家、といった感じの屋敷なのだ。

夏休みにやってきたヒルデトーラとレリアレッドも、二人は個室を用意できたが、撮影班はベッドのない客間にまとめて泊まってもらった。

それくらいのものなので、さすがに一緒に住むのは無理だろうと判断した。

一緒に広い屋敷に引っ越す、という選択肢も用意されたが、ベンデリオや撮影班の撤収がいつになるかわからないというので、別に住もうということになった。

撮影班が帰った後、残された私たちは広い屋敷を持て余すだろうから。

そんなこんなで、予期せぬ二人三脚の相方ができてしまったわけだが――

「塵壊拳ナガラ! 手合わせ願う!」

はいはい。

「ちょっと待ってて」

今日は五名の武闘家がやってきていた。

ちゃんとリノキスの説明を聞いていたようで、戦う順番も五人で相談して、すでに決めているようだ。

それにしても、毎日毎日聞いたことのない流派を名乗られるものだ。

なんだかんだで、もう五十を超える流派の名を聞いた気がするんだが。

武勇国と言われるだけのことはある、ということだろう。

驚くのは、これまでの全員が、それなりに強かったことだ。

これだけ流派が分散し数えきれないほど枝分かれしていると、看板だけの拳法も多そうなものなのだが。

いや、まあ、看板だけの流派なら、さすがに私に挑みには来ないか。

「――よし。ニアちゃん今日も可愛い」

撮影班のメイク担当ケイラが、手早く、撮影映えするよう軽い化粧を施し、髪をセットする。

「ありがとう。ケイラも美人よ」

一応映像に残るので、最低限の身だしなみは整えておきたい。なお武闘家たちを追い返したあとは修行にて汗でびちゃびちゃの台無しになる予定だが。

「――ニアちゃん入りまーす!」

武闘家の待つ庭の中央へ向かう私を、追い駆けるような声が上がり、テキパキとカメラや反射板を構え出す。

そんな、きっとよくわからない行動をしているのだろう撮影班を、武闘家たちは怪訝な顔で見ている。

「これから命懸けで戦おうというのに、化粧だと? チャラチャラしおって」

いかにも山籠もりとか平気でしそうなワイルドな出で立ちの中年男は、不愉快そうな顔で私を見下ろす。えっと……ナガラだっけ?

「単なるこっちの都合だから気にしないで。気に障ったなら謝るわ」

私も気分的には同じ気持ちだから。

ただ、映像に残る以上、完全にカメラを無視した態度は取れないだけだ。

大事なリストン家の家業だ、ふざけた真似はできないししたくもない。

さてと。

「それで? 試合と稽古、どちらがお望み?」

ここのところ必ず聞いているこの問いに、ナガラは鼻を鳴らした。

「フン、決まっているだろう――」

ナガラが構える。

腰の据わったいい構えだ。

一朝一夕ではできない、なかなか隙のない型ができている。

「俺は試合を望む! 武客ニア・リストンを倒して我が流派の名を世に轟かせてやる!」

ガン!

言いながら大きく一歩踏み込んだナガラは、後の先で飛び出した私の拳をまともに顔面に受けて、さやから押し出された枝豆かのように呆気なく転がっていった。

うん、まあ、何も考えず踏み込めばこうなるのは当然だ。

転がされた本人はたぶん意識が飛んでいるだろうから、後から誰かが教えてあげてほしい。

意識が残っていて、かなり驚いている武闘家四人に顔を向け、私は言った。

「彼は別に私を舐めてなかったわよ。ただ己の力を過信していただけ。私がどう動こうと対処できる、ってね。だからあんなに簡単に踏み込んできた。

……って、誰か後で教えてあげてね」

勝敗に関して何も語らないのは武人の優しさであり気遣いだが、言ってやるのもまた優しさであり気遣いである。

前者は死合いで、後者は稽古である場合が多いので、まあそこまで失礼には当たらないだろう。死んでないし。

――結局、何事があろうと「文句があるなら実力で勝ってみせればいい」という残酷な世界だからな。

「さあ、次は誰?」

「おぉ、お、俺だぁ! 鎖縛十字のツバイだぁ!」

と、戸惑いながらも武闘家らしく、挑発されれば乗ってきたワイルドな出で立ちの細身の男は、懐から分銅を繋いだ鎖をじゃらりと取り出した。

右手に持った分銅の先がひゅんひゅんと風を切り、左手に引いて持つ鎌は鋭利な刃をぎらりと光らせる。

「鎖鎌か。珍しい武器を使うのね」

あの手の武器は扱いが難しく、また戦う場所を選ぶ。

障害物が多い場所では鎖が引っかかることもあるし、また故障したらなかなか替えが利かない。何も考えず投げつけたら相手に捕まれることも多いし。自爆する可能性も高いし。

……うん、これまたよく鍛錬されているな。あの複雑な武器をちゃんと「道具」ではなく「武器」として扱えているようだ。

「それで? あなたは試合? 稽古?」

「もちろんしあっ…………稽古で!」

ほう。

咄嗟に「試合」と答えようとしたが、言い換えたな。

先の 試合(・・) のせいか、それとも私を見て何かを感じたのか。

どっちにしろ、彼は賢明な方を選んだ。

「じゃあ稽古を始めましょうか。好きなように攻めなさい」

ベンデリオがやってきた日に色々考えた結果、私は対戦相手に「倒され方」を選ばせることにした。

どうせ力量差は顕著で、それが理解できないくらいの相手である。

もう勝負の前から「私の方が強いから上にいる」と、開き直ることにした。

その方がきっと、たくさんの利があると思ったから。

少々自尊心を傷つけられるだろう対戦相手も、それでも実力でちゃんと負けるのであれば、納得せざるを得ないだろう。武とはそういうものだから。

撮影に関しては、もうあまり気にしないことにした。

「倒され方を選ばせる」なんて傲慢なことをする以上、これ以上映像映えがどうだの視聴者に伝えるだのと、軽視するような真似はしたくないから。

どうせ放送する予定も未定なのだし、構わないだろう。

「安易に巻き付けてどうするの? 鎖で繋がれている以上あなたも影響を受けるのよ?」

「くっ!」

「飛ばした分銅を避けられて近接戦闘を仕掛けられる。近づかれただけでなぜ動揺するの? これは対戦中よくあるパターンでしょう?」

「は、速すぎ……!」

「そもそも分銅の投擲スピードが遅すぎる。飛ばした鎖に意識を向けすぎ。鎌は飾りなの? なんのための遠近対応武器なの?」

「う、うぅ、う……うおおおおおおお! こんなもんいらーん!」

えっ。

「ど、どうしたの? なぜ武器を捨てるの? ずっとそれやってたんでしょ? 大事な流派なんでしょ?」

びっくりした。衝動的なのかなんなのか、鎖鎌捨てちゃったよこの人。

「知るか! こんなもん欠陥武器だ!」

いや使い方次第でしょ。武器ってそういうものじゃない。

…………

でもまあ、一言だけ言うことがあるとするならば、だ。

「複雑な武器に意識を使うくらいなら、私なら素手を選ぶわね」

その結果が私だ。

余計な物を捨てて、削ぎ落して、残ったのはこの身一つを武器にすることだった。

――ただ、私は強くなるために、余計じゃない物もたくさん捨てて、削ぎ落してしまったが。

私のような愚か者になるな。

武器が大切なら、ちゃんと持っていればいいと思う――

「やはり……やはり素手こそ最強か! そうだ、そもそも鎖鎌など扱いが難しいんだ! 何度自分にぶつけて怪我をしたことか!」

……あ、はい。本人的に鎖鎌に思うこともあったのか。

うん。

まあ、本人が納得したなら、私はいいんだけど。

……さっきまでイキイキと振り回されていたのに、今は蛇の抜け殻のように捨てられた鎖鎌の寂しそうな姿が、胸に痛いな……