軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

82話 アリスの退団 その2

アリスが告げた入団希望に俺は困惑していた。

確かにアリスと出会ってから今日まで良好な関係を築けたとは思う。

しかしそれは俺とカインが同じパーティーの仲間だったので、父親の知人として俺の事を信頼しているからだと思っていた。

それに【オラトリオ】には少し年齢は離れているが同性のリオンがいる。

二人が楽しそうに話してる所を俺もよく見かけており、アリスとリオンは友人の関係だと知っていた。

だからアリスはリオンに会いに来ているだけだと、そのついでに一緒にダンジョンに潜ったりしているのだと。

俺がそう思った理由として、アリスが【オールグランド】の幹部であり、S級冒険者としてパーティーを率いている身分だからだ。

この国最大のギルドの先頭を走り続けているアリスにとって、【オラトリオ】は丁度良い息抜きの場所であると思っていたのだが、まさかその幹部の地位を捨ててまで弱小ギルドに入団したいと言ってくるとは……

「アリス…… お前、本気で言っているのか?」

心の声がそのまま言葉として吐露されていた。

「もちろん私は本気だよ。本気で【オラトリオ】に入りたいって思っているの!」

アリスは力強く言葉を返していた。

アリスの瞳は力強く、嘘や冗談を言っている様にも思えない。

だけど俺には今いる地位を捨てて、わざわざ底辺に落ちてくる理由が分からなかった。

「アリスが俺達のギルドに入って、一体どんなメリットがあるんだ?」

「メリット? 私はただラベルさん達とダンジョンを攻略していきたいだけ。一緒にダンジョンを攻略して行く事が自分の為になると思ったから」

「それは本気で言っているのか? 俺達は先日やっとB級ダンジョンを攻略した程度の実力なんだぞ? S級冒険者のアリスが入ったとしても、ガッカリするんじゃないのか? 俺達はもう少しB級ダンジョンに挑んで実力を高めて行かなきゃ行けないし、当然アリスに合わせてA級やS級ダンジョンに挑んだりもしない」

「ううん、ダンジョンのランク何て関係ない。私に足りないものが【オラトリオ】にあるって感じたから入団したいと感じたの。私は【オラトリオ】に入れないの?」

アリスの瞳に涙が溢れ出してきた。

俺としてもアリスを泣かせるつもりはなかったのだが、少々きつく言いすぎたのかもしれない。

実際の所、アリスが入団してくれるのなら戦力は大幅に上昇するのでダンジョン攻略が確実に楽になる。

「アリスが来てくれると言うのなら俺の方は願ったりだが」

「本当!?」

「ただ俺達が潜るのは今の所はB級ダンジョンになるけど本当にいいんだな?」

「うん、やっと言えた。今凄く嬉しい」

アリスは嬉しそうに笑う。

「これで決まり。貴方もそれで良いわよね」

俺達の様子を伺っていたマリーが話をまとめはじめた。

「チッ、おいっラベル…… お前、もしもアリスに手を出したら殺すからな……」

カインが俺に下らない事で睨んできた。

この馬鹿も親としてアリスの事を心配しているのだろうが、言い方が下品すぎる。

「おっお父様、ラベルさんに何て失礼な事を言うのよ!? そんな事在るわけ…… ないじゃ……?」

必死に否定しようとしていたアリスだが、チラチラと俺の方に視線を向けている。

きっと俺に同意を求めているのだろう。

「アリスの言う通りだぞ。お前が心配するような事は絶対にない」

アリスが不安がるといけないので、俺はハッキリと告げた。

「そうハッキリ言われるのも……」

すると何故かアリスが肩を落として、落ち込みはじめた。

何故かマリーさんが睨んでいる気がするが、怖いので目を合わせない事にする。

兎に角、アリスがメンバーに加わる事となり、【オラトリオ】の戦力は大幅に増大する事になった。

「そうだ。ラベル君にお願いがあったの」

突然マリーさんが何かを思い出した様に手を叩くと、俺に話しかけてきた。

「俺にお願いですか?」

「えぇ、ラベル君には貸しが一つあったわよね」

「別に貸しとか言わなくても、お世話になったマリーさんのお願いなら俺は聞きますよ」

「駄目よ。娘もラベル君のギルドでお世話になるんだから、つまらない貸し借りはない方がいいわ。だから今から貸しを返して貰います」

実はマリーさんには昔ダンジョンで俺が死にかけた時、命懸けで助けて貰った恩があった。

いつかその恩を返すと俺はマリーさんに約束をしていた。

「まぁ、そう言う事なら…… それで俺は何をすれば?」

「別に難しい事じゃないわ。ラベル君、アリスから聞いたけど今休暇中なんでしょ?」

「そうですね。後四日間は休みの予定です」

「実はアリスに私の父親に手紙を渡してきて返事を貰う予定なんだけど、一緒について行ってあげて欲しいの。父親は東にある街の郊外に住んでいるの、馬で移動して一日位掛かる場所よ」

「その程度の事で良かったら別に構いませんよ」

本当に簡単な事で断る理由もなかった。

「アリス、私の実家への行き方は解っているわね?」

「うん、わかるけど……」

「それじゃ、アリス、貴方はラベル君とおじいちゃんの家に向かってね」

「私が……ラベルさんと…… 二人で!!」

「アリス一人に行かせたらいいんじゃないのか?」

カインがボソッと愚痴をこぼし始めた。

「女の子一人で遠出をさせる訳にはいかないでしょ? 貴方はアリスの事が心配にならないの?」

「何を言っているんだ。アリスはS級冒険者なんだぞ…… アリスより強い奴がこの国で何人いると思う。殆ど居ないぞ、絶対に大丈夫だろ……」

カインは完璧に拗ねている。

「はぁ~ 貴方は何もわかっていないみたいね。もしかしてお仕置きが足りなかったのかしら……?」

マリーさんが大きなため息をついた後、俺に視線を向けた。

「ラベル君、その横に置いているリュックには当然、あれが入っているのでしょ?」

「入っているって? 何がです?」

「マジックポーションよ。購入金額の倍で買い取るから私に全部売って頂戴。私はもう一度この人とじっくり話し合う必要が在るみたいだから魔力を回復させておきたいのよ」

そう言うと口角を吊り上げた。

「どうぞ、どうぞ。お世話になっているんで無料で全部さしあげますよ」

俺は笑いながらリュックから素早くポーションを取り出した。

「おいおい。カインに死なれたら俺の仕事が増えるじゃねーかよ」

口ではそう言いながらもスクワードも楽しそうに笑っている。

「おまっ、この裏切り者共がぁぁぁ、俺の味方は誰もいないのかよぉぉぉ!!」

「今回の事が良い機会だわ。貴方は子離れをしなさい。 わかった!?」

「……」

マリーさんの剣幕に押され、カインはそれ以上なにも言えなかった。

「なら、決まりね。それとアリスはおじいちゃんの所から戻ってきた後は一人で暮らしなさい」

「えっ!? お母様それはどういう事?」

「この家と敷地は修繕しないといけないから、工事中は私達も別の所に住む予定よ。街に使っていない家があるから、その家をアリスにあげるわ。ラベル君のギルドに近いから丁度いいでしょ」

「私が一人暮らし……」

「貴方はもう大人じゃない。好きに楽しく過ごしなさい」

「ばっ、まだ一人暮らしなんて早いだろ? 変な虫が付いたら……」

「だから貴方は黙ってなさい!! 私達がアリスと同じ年の時は既に自立していたでしょ」

「ぐっ!! 確かにそうだけどよ……」

マリーの正論でカインは反論できなくなっていた。

「お母様、ありがとう」

アリスはそう言いながら嬉しそうに笑う。

マリーさんはアリスを近くに呼び寄せると、耳元で何かを話していた。

俺がその様子を見ていると、アリスの顔が次第に紅潮し始めて行く。

「お母様、何を言っているのよ」

「うふふ。ペースは貴方に任せるけど、頑張りなさい」

「もう、変な事言わないでよ」

アリスはそう言うと下を向いたまま、動かなくなっていた。

その後の打ち合わせで、アリスの祖父の家には明日の朝から向かう事と決まった。