軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27話 繁殖期 その5

一時間位は戦っているのだろうか?

ダンジョンでも数時間に及ぶ長時間の戦闘になる事はあるのだが、戦闘の密度がダンジョンの比ではなかった。

一度の戦闘で何十匹もの【ブラックドッグ】が一斉に襲ってくるのだ。

それを退けてもまた数分後には新しく魔物が押し寄せてくる。

それを何回と繰り返しているので、既に数えきれない数の【ブラックドッグ】を倒していた。

この戦闘が始まった時から当然、俺のスキルも使っている。

スキルの効果でリオンの能力は向上され、剣も軽く感じているだろうし、体も軽く動きやすくなっている筈だ。

けれど身体能力が向上されたからと言っても、殆ど休憩も取らずに戦闘を繰り返していれば、リオン本人は気付いていなくても疲労は蓄積されていくだろう。

今の所、そんな様子はなさそうだが、体に異変が出た時には手遅れの場合も多いので注意が必要だ。

★ ★ ★

火炎瓶で作り出した炎の壁の背後で戦況を窺っている俺は、リオンに迫る六匹の【ブラックドッグ】の三匹目と四匹目に【蜘蛛の糸】を投げつけた。

【蜘蛛の糸】に絡めとられた【ブラックドッグ】はその場で転倒し動けなくなっている。

その間に一匹目、二匹目を倒したリオンは一瞬だけ呼吸を整えてから、五匹目、六匹目を相手取る事ができた。

俺が作り出すのは戦いのリズムであった。

激しく予測不可能な乱戦であってもアイテムを使って魔物を誘導する事で、休息できる間を強制的に作りだす。

そんな中、リオンが戦いながら話しかけてきた。

まだ余裕がありそうで、俺は胸を撫でおろす。

「ねぇ、ラベルさん」

「どうした、ポーションが欲しいのか?」

「ううん。そうじゃない。どうしてさっき全く意味のない場所に火炎瓶を投げたの?」

それは少し前に、俺が取った行動の事だった。

「ん? さっきのか? 魔物の進路を妨害する為だ。あの場所に投げたら魔物は強制的に横に動かなければいけなくなるからな」

「あの瞬間、未来が変わったんだよ。一度に攻撃を仕掛けてくる魔物の数が半分になった」

「だろうな。そうなればと思ってやったんだから」

「もしかして…… ラベルさんも未来が見えているの?」

リオンは突拍子もない事を言い出してきた。

実際そんな凄いスキルを持っている訳もない。

「何を言っているんだ? 見えている訳がないだろ? 経験でこう動くんじゃないかと予測しただけだ」

攻撃を仕掛けてきた全ての魔物を倒しきったリオンは立ち止まる。

今回は次の波までに、ほんの少しは休憩が取れそうだった。

俺は回復ポーションを取り出してリオンに飲ませた。

その間に俺は戦場を整理する為、倒した魔物から魔石を取り出し灰へと変えていた。

するとポーションを飲み干したリオンが再び話しかけてきた。

「ラベルさんの行動が未来とマッチしすぎているの。全ての動きが最適なんだよ」

「そうなのか? 俺はずっと魔物を見てきたからな、長く潜っていたら誰だって出来ると思うぞ!! それに予想だから外れる事もあるしな。たまたまだ」

「ううん、絶対に違う。もしそうだとしたらラベルさんが凄いって褒めてくれた私のスキルが、誰でも身に付く程度のスキルって事になるんだよ」

いくらC級の魔物とはいえ、数百匹と渡り合えるリオンがその程度の訳がない。

俺の見立てでもリオンの実力はA級は軽く凌駕し、S級にも手が届くかもしれない。

今回は珍しく大人しいリオンが突っ張って来ている。

俺はその圧に押され、返答に困ってしまう。

「もし経験で未来が予想できるって言うのなら、ラベルさんも未来が見えているんだよ。それも私みたいなほんの少し先の未来ではなくて、もっともっと先まで!! ラベルさんはやっぱり凄い!」

目をキラキラさせて自信ありげに告げてくる、嘘を感じさせない賞賛。

今までも、お前は凄い奴だと言われた事は何度かあった。

しかしそれは化け物じみた実力を持つ冒険者達が、ポーターの俺に同情してかけてくれた言葉だ。

俺もお世辞だとちゃんと理解していた。

でもリオンの言葉は不思議とスッと俺の心に入ってくる。

素直にうれしく感じた。

「そんな大げさな…… でも、もしそうなら……」

次の言葉を言おうとした瞬間、新手が姿を見せ始めた。

「新手が現れたな。リオン気持ちを切り替えるぞ。残り二時間、何としてでもここで食い止めるからな!!」

「うん。任せて、私はまだやれるから」

俺達は再び絶え間ない戦いに身を投じた。

★ ★ ★

更に一時間が経過しようとしていた。

魔物は減る素振りを見せていない。

一方、リオンの状況は芳しくなかった。

その証拠に時折、強張った表情が見え隠れしており、それは限界が近い事を物語っている。

俺がいくら回復ポーションを飲ませたとしても、ポーションでは集中や緊張感からすり減る精神までは回復してくれない。

それが解っているのに補助しきれない俺の力の無さに腹が立つ。

「リオン。こっちの武器に変更だ」

俺は声を掛けただけで、鞘から抜いた裸の剣をリオンへと投げつける。

リオンは無言で片手で剣を受け取ると、そのまま使っていた方の剣を俺の方へと投げ返してきた。

今のリオンには返事を返す余裕などない。

返って来るのは息切れ寸前の荒い息遣いのみだ。

リオンにも限界は目の前に来ているのかもしれない。

俺は投げられた剣を受け取り、研ぎの魔法石で刃先を整える。

研ぎの魔法石を使えば切れ味は戻るが、職人が研ぐよりも剣を脆くしてしまう欠点がある。

魔法石はどんな作業でも代用できるのだが、どの作業でも本職が行うよりも劣悪な結果しか生まないのが難点だ。

俺は残り少ない火炎瓶を魔物の群れに投げ込んでリオンに襲い掛かるタイミングを強制的にずらした。

これでリオンは数匹倒した後、一呼吸だけ休める事が出来る筈だ。

俺の頭の中ではアイテムの在庫がどんどんとなくなっている。

俺は使った数はカウントして常に在庫を頭の中で管理していた。

一応、繁殖期という事もあって、多くのアイテムを持ちこんで来ていたのだが、予想以上の消費スピードだ。

普通のダンジョンアタックなら、引き返しを提案しているだろう。

「糞ったれがぁぁ!!」

悔しさが募り、俺は叫んでいた。

俺達が守る村の傍にまさかダンジョンがあるなんて…… ギルドを追放された事といい。

本当に自分の運の悪さには呆れるばかりだ。

だが目の前には今も必死で戦うリオンの姿が見えた。

俺よりも二十歳も若い女の子が必死に戦っているんだ。

その姿を見て口には出さないが、胸が締め付けられた。

だけど、どうしても考えてしまう。

何故、俺はそっち側じゃないんだと。

俺もリオンの隣で共に剣を振るいたいと。

こんな情けない感情はこの数十年で数えきれない程体験してきた。

情けない、悔しいと痛感する度に、心が折れてしまいそうになり、その弱った心を必死で奮い立たせてきた。

【俺は冒険者に絶対になってやるんだ】

今もそうだ。

折れそうになった気持ちを必死に抑え込み、俺はリオンのサポートに徹した。

絶対に目だけはリオンから離さない。

どんな一瞬の変化でも見逃さずにサポートしてみせる。

それが俺の意地であり、俺にできる唯一の事だった。

★ ★ ★

その後もギリギリの戦闘を繰り返していると、魔物の出現頻度も少しずつ間隔が空き始めている様に感じた。

ダンジョンで生まれる魔物の数は決まっている。

それが百体なのか? 五百体なのか? ダンジョンによって変わるのだが、一日に生まれた全ての魔物を倒しきればその日はもう魔物は産まれない。

次は翌日の朝また産まれる。

それが一カ月間続くのが繁殖期なのだ。

「もう十分だろ!? そろそろ終わりやがれ!!」

俺が神頼みに縋ろうとした瞬間、リオンの疲労がピークに達し、突然その場に倒れこんだ。

リオンの目の前にはまだ三匹の【ブラックドッグ】が残っていた。

「リオンっ!? しっかりしろ!!」

【ブラックドッグ】はチャンスとばかりに倒れ込んだリオンに飛び掛かる。

今すぐリュックから迎撃用のアイテムを取り出しても絶対に間に合わない。

「リオンーーーーーっ!!」

俺の身体は無心で飛び込み、倒れこんだリオンの上に覆い被さっていた。

腕と肩と腰に【ブラックドッグ】が喰らいついてきた。

背後から無防備で喰いつかれた為、三重に重ねた革の装備も喰い破り、牙は俺の身体に深く喰い込んでいた。

「ぐぅうぅっ!!」

痛みで唸り声をあげたが必死に堪える。

リオンはほんの一瞬だけ気を失っていた様で、すぐに意識を取り戻していた。

「ラッ、ラベルさん!?」

「リオン大丈夫か? 心配するな俺は大丈夫だ」

しかしリオンの目には俺の身体に牙を立てる【ブラックドッグ】の姿が映っていた。

リオンは俺の状況を理解し、目には大粒の涙を浮かべる。

俺はリオンを泣かせたくはなかった。

だから精一杯の虚勢を張る。

「リオン、見ていろよ。戦えない俺でもこの位はできるんだ。うぉおぉぉおおおお」

俺は力づくで立ち上がると、力づくで【ブラックドッグ】を振り飛ばした。

すると地面に吹き飛ばされた三匹の【ブラックドッグ】が口から泡を吹き倒れている。

俺は予備の剣を握ると、泡を吐いている【ブラックドッグ】に止めをさしていく。

「どうだ? お前達が嫌いな臭い袋の原液を直接口にした気分は?」

俺は身に着けていた革装備に、たっぷりと臭い袋の原液を付けていた。

俺の装備は元々体を張ってリオンを守る為に作っていたのだ。

戦えない俺でも体を張る位は出来る。

「ラベルさん。血が!?」

噛みつかれた場所からは血が流れていた。

俺はリュックから回復ポーションを二本取り出し、一本はリオンへ手渡した。

「この程度の傷はポーションを振りかければ大丈夫だ。俺の事より、リオンの方も限界じゃないのか?」

「ううん。これを飲んだらまだやれる。さっきはありがとう。意識が朦朧としちゃって、もう駄目だと思った」

「ずっと戦いっぱなしだったんだ。無理もない」

「でも助けてくれて本当に嬉しかった」

「こんなおっさんでもたまには体を張らせて貰わないとな。新しいのがやって来たみたいだぞ。いけるか?」

「うん。任せて」

俺達は気力を振り絞り、新たに現れた【ブラックドッグ】に向かって構えを取り直した。

だけどリオンが既に限界を超えているのは解ってる。

俺の身体が持てばいいのだが?

そんな事を考えていると、突然リオンの顔が頭上を見上げた。

その数秒後、無数の矢が空から降りそそぎ、前方から近づいて来る【ブラックドッグ】の群れを串刺しにしていった。

俺はこのスキルの事を知っている。

その後も矢は降り続け、ほんの数秒で二十匹近くいた【ブラックドッグ】の群れの八割が倒された。

振り返るとそこには馬車の上で弓を構えるダンの姿が見える。

「ダンがやってくれたようだな」

俺は全身から力が抜けた気がした。

かなり遠くの位置からの射撃だと言うのに、ダンの弓の実力は日に日に向上を続けているようだ。

「ラベルさぁぁぁん。 遅れてごめんーー!! 助けに来たよー!!」

二台の馬車には二十名程の冒険者達が乗っていた。

俺達の傍で馬車が停止すると、冒険者達が馬車から飛び降り、残りの【ブラックドッグ】を一瞬で殲滅してくれた。

「よく頑張ったな!! 安心してくれ別の部隊が村人達を保護している」

「こっちも助かったよ。もう長くは持ちそうになかったんでな」

応援の冒険者達はそう言った後、周囲を見渡し絶句していた。

普通なら倒した魔物は瞬時に魔石を取り出して灰に変えている。

しかし今回はそんな暇もなく、幾らかは灰にも変えたのだが、多くはそのまま放置していた。

結果、街道には数えきれない程の【ブラックドッグ】の死体で埋め尽くされていたのだ。

「これだけの数の魔物をお前達たった二人で……」

冒険者の顔には化け物を見るような感じだった。

「二人じゃない。彼女一人でだ。俺はポーターだから戦えないんでな」

「こんな少女が嘘だろ……」

俺達はその後、無事に村を取り戻し、村を拠点に多くの冒険者達が交代制で魔物と戦い続け、ついに人的被害も無く繁殖期を終える事に成功した。

やはりその間も一番輝いていたのはリオンやダンである。

この繁殖期を境に【オラトリオ】という新しいギルドの名前が広まって行く事となる。

しかしそれは、バレない様に立ち回っていた俺の正体も広まってしまうという事でもあった。