軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2話 ハンスの躍進

ギルド【オールグランド】は冒険者、ポーター、鍛治師、雑務係、事務職員など全ての関係者を含めると五百人を軽く超す大所帯だ。

年に数回、全メンバーを集めて話し合う総会が開かれる為、五百人以上を収容できる大きなホールをギルドホームの隣の敷地に建設していた。

大ホールの中に入るとすでに多くのメンバーが集まっており、室内は密集状態だった。

誰もが悲壮感を漂わせながら、自分の持つ情報を交換しあっている。

大ホールの一番奥にはステージが作られていた。

話を聞くためには近い方がいいと思い、俺は迷う事なく最前へと向う。

ちょうど空きスペースを見付け、その場所で会議が始まるのを待つ。

暫くすると、ハンスと元パーティーメンバーの仲間達、更にギルド幹部達が揃ってステージ上に現れた。

ザワついていたホールがシーンと静まりかえり、漂う緊張感から自然と汗が溢れ出てくる。

誰もが緊急事態だと言う事を理解していた。

ステージ上で 拡声魔具(マイク) を持つのは古参の幹部であるスクワードだ。

彼との仲は良好で、たまに飲みにも行っている。

本当ならギルドマスター代理は信頼も厚い古参の彼が任される筈なのだが、スクワードもカインに頼まれたらしく、今回はハンスを補佐するらしい。

俺が追放を言い渡されたと知ったスクワードは、真っ先にハンスの元に抗議に行ってくれていたみたいだ。

俺にとっては数少ない味方の一人だと言っていい。

「みんなも知っているとは思うが、隣国で開かれていた十大ギルド会議が何者かに襲撃された。この情報は事実である!!」

ギルド幹部からの肯定、最初フェイクニュースだと言っていた冒険者の表情が固まった。

「ギルドマスターであるカインの安否も不明だ。既にカインの捜索部隊を選別し終えている。私も部隊に加わり、陣頭指揮をとるつもりだ。出発はこの会議が終わってすぐだ。事態は一刻を争う。ギルドには迷惑をかけるが皆も理解して欲しい」

俺に捜索隊の話は来ていない。

俺もカインの事は心配で、俺の力が役に立つのなら協力は惜しまない。

しかし捜索中に襲撃犯との戦闘になる可能性を考慮して、戦えない俺では無く、戦闘特化のメンバーで構成したのだろう。

「皆も不安に思うだろうが大丈夫だ。何も心配しなくていい。カインも日頃から言っていただろ? 緊急時にこそ、冷静にだ。残ったメンバー達は普段通りの生活を送ってくれれば良い。カインの事は俺に任せろ。必ず元気な姿のまま連れ戻してくる」

スクワードも落ち着いた様子で話を進めている。

「任せたぜ、スクワード!」

「スクワードに任せたら大丈夫だ!!」

「頼むぜ」

「マスターにお土産期待してるって伝えといてくれ!!」

ホール全体から無数の檄が飛び交った。

それ程、スクワードはメンバー達に信頼されている。

「それでだ。マスターや半数近い幹部がギルドを留守にしている間、ギルドの運営はギルドマスター代理を任命されているハンスに任せる事となった。今はギルドメンバーが一致団結し、この苦境を乗り越えなければいけない。皆もハンスと共にギルドを守ってくれ」

スクワードも居ない最悪の状況となってしまったが、こればかりは仕方ない。

カインやスクワードが戻るまでの間、俺は目立たない様に部屋にでも隠って、大人しくするしかないだろう。

スクワードが持っていた 拡声魔具(マイク) をハンスに手渡した。

マイクを握りしめハンスが壇上の一番前に歩み出る。

その時、俺と目が合うとハンスが勝ち誇った表情を浮かべた。

「皆も聞いた通りだ。現在ギルドが創立されて最大の緊急事態だ。俺はまだ若輩者ではあるが、任命されたからには責任を持って、この職務を全うしたい」

「いいぞー!!」

何人かが声援をあげた、その声援をハンスは片手をあげる事で制止する。

「本来なら古参の幹部達に教えを請いながら、ギルド運営をしていければ良いのだが、半数近い古参の幹部がギルドマスターの為に隣国に乗り込んでくれる事となった。実力者揃いの幹部が向かえば、必ずマスターを助け出してくれると確信している。だがマスター達が帰ってきた時、ギルドが残っているかどうかが不安だ…… なんせ若輩者の俺がギルドを引っ張って行くんだ。あっという間に無くなっている可能性もある」

「わはは。お前が言うのかよーー」

下らない冗談を交えて、笑いを誘う。

「そこでだ。俺をサポートして貰う為に新たに幹部を追加する事となった。新しい幹部は俺が所属していたパーティーメンバー、皆も知っていると思うが、もう一度紹介しよう。俺を補佐する新しい幹部達だ」

そこには予想通りのメンバーが立っていた。

高度な攻撃魔法を巧みに操る、勝ち気で才能豊かな美しき天才。

赤いロングヘアーの赤い魔女レミリア。

見た目は華奢だが、綺麗な金髪のセミロングヘアーを持つ小柄な女の子。

けれど見た目に反して神がかりな防御スキルを多数所有する。

鉄壁のフレイヤ。

スラリとした純白の細身の身体を持ち、金髪のボブヘアー。

素早い動きと百発百中の弓を操り、魔法も使える。

いつも沈着冷静なエルフのシャーロット。

それに才能豊かな剣士のハンスとポーターの俺を加えたのが、【オールグランド】で最も勢いがあったS級パーティーだ。

「皆も知っていると思うが、全員がS級のパーティーメンバーで実績は十分だろう。俺達は残ってくれる少ない幹部に相談しながら、若い力で新しいギルド運営を行うつもりだ。どうか皆も力を貸してくれ」

ハンスとメンバー達が深々と頭を下げると、ホール全体から割れんばかりの拍手が沸き起こった。

俺はその様子を見つめ、この先の事を想像してみると、不安は募るばかりであった。

★ ★ ★

会議から一週間が経過したが、カインに関する情報は入っていない。

カインの事は心配だが、あの 男(バケモノ) が簡単にくたばる想像ができなかった。

俺の方は、ダンジョンに潜らなくなってもうすぐで一ヶ月間になる。

今まで金は貯めていたので金の心配はないのだが、これだけ長い期間ダンジョンに潜っていないと、アタックの感覚が鈍ってしまう。

実戦から長く離れるのは好ましくはない。

そんなタイミングで俺はギルドからの呼び出しを受ける。

大ホールの集会から一週間が経過しており、多少の不安を覚えながらも、俺はギルドマスターの執務室に向かった。

「おっさん。久しぶりだな。最近はダンジョンに潜ってないみたいじゃないか。悪い、悪い、潜りたくても潜れないって言った方が正確だったな」

会ってそうそう嫌みを言われた。

「この一週間、俺達も忙しかったんだぜ。なぁレミリア」

「ええ、そうね。慣れない事務仕事で疲れたわ。これなら冒険者としてダンジョンに潜っている方が楽だわ」

ハンスのとレミリアは相づちを打つ。

相変わらずこの二人は密着しすぎている。

「それで今日はどんな用件で俺を呼んだんだ?」

ハンスが反応し、ニヤリと笑みを浮かべた。

「そうだったな。まずは礼を言っておこう。今日までギルドに尽くしてくれて感謝する」

前回と同様に辞めろと言っているのは間違いないのだが、雰囲気が少し違っていた。

「まだ俺に辞めろと言っているのか? だから俺は辞めないって言っているだろう」

理不尽な理由でギルドを去る訳にはいかない。

「俺ももっとあんたには頑張って貰いたいんだ。けれど仕方ない状況となってしまったんだよ。これは少ないが退職金だ。受け取ってくれ」

ハンスはオーバーに残念がるポーズを取りながら、机の引き出しを開き、中から小袋を取り出すと、テーブルの上に投げ捨てた。

「退職金だと? 辞めないと言っているだろう!!」

「実は昨日、ギルドの運営規則が変更になってね。【オールグランド】では三十八歳で退職して貰う規則に変わったんだ。たしか…… あんたは今日で三十八歳だろ?」

何を言っているんだ?

「三十八歳で退職だって? そんな規則は聞いた事もないぞ。それにそんな横暴な規則、他のギルドメンバー達が納得するはずがないじゃないか? 三十八歳に近い冒険者や裏方が何人いると思っているんだ。そんな事を強行すれば暴動が起きるぞ」

俺は机に拳を振り下ろす。

そのまま机の上に投げ捨てられていた退職金が入った袋を床に投げつける。

すると袋の中から真新しい金貨が十枚程度飛び出した。

「ふははは。誰も文句なんて言う訳がない。だって三十八歳で退職するのは非戦闘職のポーター限定なんだからよぉぉ。おっさんポーターがちょこまかと動き回わられると、こっちはウザくて仕方ないんだよ。だから言っただろ? もぅアンタは終わりだって!!」

「まさかこの一週間で規則を変えた……のか? 俺を排除する為にそこまでやるのか? 何故、俺がそこまで嫌われないと行けない? 俺が何をしたって言うんだ? 俺は精一杯、パーティーの為、ギルドの為に働いてきたつもりだぞ」

「必死過ぎるんだよ。才能も無いのに毎日ダンジョンに潜り続け、しかも自分は魔物一匹倒せない癖に偉そうに文句だけはしっかり言いやがる。みっともなさ過ぎて、見ていてイライラするんだよ」

「俺がみっともないだと……」

頑張る事の何が悪い?

夢に向かって頑張る事がそんなに滑稽なのか?

知らない間に涙があふれ出していた。

自分が全否定された気分だ。

「ヒーッヒッヒ!! おっさんが泣いてやがるぞ! やっと解ったか?」

「本当、滑稽だわ」

ハンスとレミリアが腹を抱えて大声で笑っている。

怒りが俺の身体中を駆けめぐっていた。

「おっさん、これで自分の立場が解っただろ? 無能なポーターが金貨十枚も貰えるだけでも感謝しろ!! さっさとこの書類にサインを書いて出ていけ。退職金を貰ったっていう証明だ」

「そんなに俺が嫌いなら、ご希望通り辞めてやるよ。でもな俺が必死に頑張ってきた数十年がたった金貨十枚だと!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!! この退職金は絶対に受け取らない。それが俺の意地だ」

俺はそう言い放つと部屋から飛び出した。

部屋を出た所で会計の事務職員と出会う。

事務職員は涙を流した俺の顔をみて驚いていた。

すぐに何か声を掛けてきたのだが、俺はそのまま走り去っていった。

後で知ることになるのだが、その事務職員はその後ハンスから俺のサインが入った書類を受け取っていた。

その書類には退職金【金貨三千枚】と記入されていた。

金貨三千枚と言えばギルドの一年間の運営費と同様である。

普通の冒険者が一生ダンジョンに潜っても得られない大金だ。

その大金をハンスは書類を偽造し、俺から奪い取っていたのだった。