軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139話 封印作業 その2

今日から石積み作業が始まる。

工事で使用する資材は、昨日の内に資材班が運んできていてくれていた。

「よし! 今日から積石を据えていくぞ」

資材班が運んでくれた石のブロックは、事前に職人が作り置きしている物だ。

大きな岩を削って長方形の形に整形しており、同じ寸法になっている。

管理ダンジョンは定期的に現れるので、封印で使う材料はいつ出現してもいい様に作り置きをしていた。

「最初の工程は滑車台の作成だ。班長の指示に従って吊り上げ用の三又を各所に組みあげてくれ!」

三又とは三本の丸太を三角形に組み立て滑車をつけた吊り上げ台の事である。

三又が組み上がった後は、資材置き場から据え付け場まで資材を運ばなければいけない。

手順は最初に地面に長い板をレールの様に敷いて、その板の上に丸太を並べて丸太の上に運搬用ソリをセットする。

そして資材置き場の積石を滑車で吊り上げてソリの上に載せた後、ソリを人力で引きながら据え付け場所まで運ぶ。

また据え付ける場所には三又が左右に二つ組立てられており、両側二本のロープを同時に引っ張って積石を吊り上げて据え付け作業を行う。

三又を二か所設置した理由は片方のロープの長さを調整する事で釣り上げた積石の位置を微調整する事ができるからだ。

この作業がまた重労働で、四十人いる作業員は大粒の汗を流しながら作業を続けた。

「みんな行くぞ~! タイミングを合わせろよ!? せーのっ!!」

「「おーっ!!」」

「よーし。一番のロープを少し緩めてくれ! そこでストップ! よしその場所で降ろしていくぞ!」

俺はロープを指示を出しながら、この日5個目の積石を設置場所へと誘導していく。

「もっ、もう駄目だ!」

作業の途中、そんな声が聞こえ、目の前で吊り上げられている積石のバランスが崩れていく。

素早く左右を確認してみると、力が入らなくなった作業員がロープから手を離してその場に座り込んでいる。

その瞬間、人数が減った側に積石が大きく傾き始めた。

「ヤバい!危ない、みんな離れろ!!」

バランスを崩した積石は物凄い勢いで、地面に落下する。

積石の近くで作業をしていた者達は、落ちる前に逃げだしたおかげで、誰も怪我をしなかったが、一歩間違えれば大怪我をしていただろう。

人身事故が発生せずに一安心した後、俺は手を放した作業員に視線を向ける。

(あいつかよ……)

座り込んでいたのは俺の事を毛嫌いしていた若者だった。

「みんな疲れてきたな。一旦休憩しよう」

俺は疲れが見え始めた作業員を休ませる為に休憩を取る事にした。

休憩中、少しでも体力を回復してもらう為、ポーション、水や食料などを配っていく。

暴言を吐いていた若者はポーションを受け取りながら、俺に直接文句を言ってきた。

「さっきのは危なかったぞ! 突然、手を離すのは他の人にも迷惑がかかる。だから次からは無理を限界まで我慢せず、疲れる前に声を出して知らせてくれればいい」

事前に意思表示さえしてくれれば、休憩を取るなどの対応策がとれるが、自分勝手にやられると対応のしようがない。

「へっ! あんたは指示しているだけで楽でいいよな。こっちは大変だっていうのに」

俺の気遣いはこの若者には届いていないようだ。

「そう思うなら、お前も仕事を覚えて監督員に任命される様に頑張ればいいじゃないか? お前はこっちは大変だって言っているが、作業に見合う賃金は貰っているだろう? それに周りを見てみろ! お前以外誰も文句は言っていないぞ」

「ふん」

見た目も若く血の気も多そうなので、自分の事しか考えられないのだろう。

正論で返した俺に反論する事も出来ず、若者は鼻を鳴らして俺の言葉を拒絶する。

「そこまで言うのなら、午後から誘導者を変えて、俺はそっちに入ってやっていもいいぞ?」

「やれるものならやってみやがれ! 実際にやればこっちの大変さがアンタにも解る筈だ」

こういう奴はいくら口で言っても理解しないだろう。

なら仕方ない、口で言っても分からないなら体で分からせるしかない。

「じゃあ、入ってやるから俺を見ていろよ」

今回の作業員の中に誘導も出来る者が参加していたので、俺は若者の挑発に乗る事にした。

俺は誘導者を代わって貰った後、若者の前に入り作業が開始された。

「もっと速く据えろよ!! 何ゆっくりやってやがる。こっちは腕がパンパンなんだぞ!」

「何を言っているんだ。あの人の誘導はそれほど遅くはないぞ」

俺の誘導の時より少しだけ据えるのに時間が掛っているが、大した差ではない。

しかしロープを持っている者はずっと力を抜く事が出来ないので、少しの差が大きく感じる。

俺はロープを引きながらも、若者の様子を観察していた。

すると若者がどうして手を放したのか? その理由が一目で分かった。

「ほら、もう少し引っ張れと言われているだろ? もっと力を入れろ! またへばって手を放すんじゃないだろうな?

?」

「くそがぁぁぁ! おっさんに負けてたまるかぁぁぁ」

歯を食いしばって、必死に引っ張る若者と違い、俺には余裕があった。

若者は腕に力を入れているだけで、体重が全く乗っておらずに態勢が悪い。

慣れた者は身体全体を使って腕の力を温存している。

「ほら、俺や他の者を見てみろ! 姿勢がお前と全然違うだろ? ちゃんと周りに合わせてやれば楽に力が入る」

「うるせぇぇぇんだよ」

俺がアドバイスをしてやっても、若者は聞く耳を持たない。

「駄目だ! もぅ限界だ!!」

その結果、若者は再び地面にへたり込む事となった。

「ほらな! そんなやり方じゃ、体力が持たないって言っただろ?」

「だぁぁぁぁ!!」

負けん気で立ちあがり、再びロープを手に取る根性は見せたのだが結果は同じだった。

その後も何度か立ち上がって気概は見せたが、体力の限界を迎えうずくまったまま動かなくなる。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…… ちくしょ……」

「先輩の言う事を聞かずに自己流でやるのもいいが、お前が動けない間は他の者に負担を掛けている事を理解しろ」

「……」

体力も尽き果てた事で、やっと若者も俺の言葉に耳を傾けてくれた。

そして実際に迷惑を掛けている事を自覚して、若者は黙り込む。

「ほら、ポーションを飲んで体力が回復したら、俺と同じ姿勢を取ってやってみろ。どんな事でも上級者の真似をするのが、上達する為の近道だからな」

「わかったよ。やればいいんだろ?」

若者はまだ強がった口調を続けているが、俺の指示に従ってポーションを手に取り口に付けた。

しばらくして立ち上ると、俺の姿勢を真似し始める。

他の経験者達は俺達のやり取りを、ニヤニヤと笑みを浮かべながら見ていた。

実は毎回、未経験者の中では若者の様な新人は出てくる。

そんな者との騒動も経験者にとっては見慣れた光景であり、暖かく見守ってくれている訳だ。

「よし、その姿勢で引いてみろ! みんなも合わせてくれるか? いくぞー!」

「おー!」

俺の言う通りにやってみた若者の目は見開き、驚いた表情を浮かべた。

「どうだ? さっきまでより楽に引っ張れるだろ? 最初は誰でも慣れていないから大変だけど、慣れたらもっと楽になるから、頑張れ」

「ふん、コツさえ掴めばもうへばったりしねぇからな!」

「おう、その気概でこの後の作業も頑張れよ! 俺は誘導と作業指示に戻るが、また俺と勝負をしたかったらいつでも声を掛けてこい!」

「もぅ…… 文句を言うつもりはねぇよ」

実際に経験者からアドバイスを受けて、仕事が上手く出来る様になれば経験者の凄さを知り、仕事も少しずつ楽しくなって来る筈だ。

次の休憩で俺は再び誘導役へと戻り、数日をかけて全ての積石を積み上げていく。

その後は全員が一致団結したおかげで工事は工程通りに進み、最後は分厚い鉄扉を取付るのみとなった。

扉は開口部よりも大きな扉で、ダンジョンの内側から取り付けなければいけない。

その理由は、繁殖期でダンジョンの内側から魔物が外側に扉を押しても積石が邪魔をして、扉が開かない様にする為だ。

「よし、これで完成したぞ! みんなお疲れ!!」

「終わった~!」

「やったぜぇぇ! 今日は飲むぞぉぉぉ!」

全ての作業が終わった事で、俺も張り続けていた糸が切れて一気に疲れが出てくる。

今日はテントで休み、明日オスマンの検査で合格が出れば参加者は各報酬を貰って解散となる。

翌朝、オスマンと二人で朝食を食べた後、関係者と共に封印したダンジョンの入口に向かう。

今から完成検査が行われるのだ。

「それじゃ、完成検査を始めるか」

「手直しがあれば遠慮しないで言ってくれよ」

「当然だろ? 大勢の命に関わる事だからな! 言われなくてもそのつもりだ!」

封印工事に不備があれば、繁殖期に魔物に封印を破られるかもしれない。

なので完成検査は念入りに行われる。

オスマンは職員と手分けをして、積石の出来栄えやドアの開閉状況などを一つずつ確認して行く。

そして検査結果が書かれた紙がオスマンに渡された。

「よし完璧だな。お前に任せたら問題はないと思っていたがな」

「これでやっと俺もA級ダンジョンに挑めるって訳だ」

「あぁ、お前も攻略を狙っているんだろ? 頑張れよ」

「あぁ、必ずA級ダンジョンを攻略してやる」

「ラベル、今回は世話になったな。何か困った事があればいつでも声を掛けて来てくれ」

「その時は頼むよ」

これで封印作業は終了である。

俺はテントで待機している封印作業班の元に向かう。

「検査は合格だ! みんなお疲れ様!」

「おおおおおぉっ!」

「お疲れ様!」

四十人の作業員は歓喜の声を上げる。

仲間同士でハイタッチしたり、俺に手を振ったりとお祭り騒ぎと化す。

俺も顔見知りの作業員に労いの言葉を掛けて行く。

そんな時、背後から声を掛けられた。

「なぁ、ちょっと話したい事が……」

俺に声を掛けて来たのは、文句を言ってきた若者だった。

「あぁ、いいぞ」

すると若者は俺に頭を下げて来た。

「生意気を言って、すみませんでした!」

どうやら謝りに来てくれた様だ。

あの騒動以降、若者は文句を言う事もなく、真面目に作業に取り組んでいる姿を俺は見ている。

「俺は気にしていないから、もういいよ」

「でも、俺……」

「最初は誰でも解らない事ばかりだからな、警戒する時もあるだろう。だけどお前もこれで経験者の仲間入りだ。だから次回も参加してくれるのなら、未経験者に色々教えてやってくれ」

「はいっ!」

出会った時と比べて彼は別人の様に変わっていた。

俺は報酬を貰ってギルドホームに向かう。

俺がギルドホームに戻ると、メンバー達がホームに集まっていた。

「「ラベルさん、お帰りなさい!」」

「ただいま」

アリスとリオンが笑顔で、玄関まで出迎えてくれた。

工程表を見て休暇は今日までとしていたのだが、どうして全員が集まっているのだろう?

しかし誰も居ないと予想していた場所で、出迎えてくれる人がいると不思議と胸が暖かくなった。

「封印作業やっと終わったの?」

「マスターお疲れ様です」

ダンとリンドバーグはリビングで出迎えてくれた。

「おう、さっき終わった所だ」

「マスターそれでダンジョンアタックはいつからにしますか?」

「そうだな…… 俺的には明日からと言いたいが……」

メンバー全員の鋭い視線が俺に刺さってきた。

仲間には休んで体調を整えろと言った手前、俺が休まない訳にはいかない。

「わかったよ…… 俺も二日休むから、三日後にアタックを仕掛けよう」

残念だがそう言うしかなかった。

「はい」

「うん」

「了解しました!」

「へーい」

だが仲間達は嬉しそうにしてくれている。

俺の事を心配してくれているので、俺もゆっくり休んで英気を蓄えてA級ダンジョンに挑もう!