軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一時のお別れ

「チェーンメイル……?」

リュカが困惑した様子で箱を見た。

そして私から箱を受け取り──。

「重っ……」

「鉄板も入っているわ。ぜひ使ってちょうだいね」

「鉄板!?」

リュカがぎょっとした様子で私を見る。

そんな反応をされると、私が常識外れな贈り物をしたように感じてしまうので、やめてほしい──と思いつつ、好きなひとへの贈り物としては間違いなく失格である。

それは私も理解している。でも、仕方ないじゃない。今必要なのは、愛を伝えるためのプレゼントではなく、彼の身の安全を確保する防具だ。

「鉄板にチェーンメイル……どういうこと?」

リュカは箱を両手に持ちながら、怪訝な様子で私を見る。

それに、私は周囲を気にしながらそっと顔を近づかせた。内密の話がしたいことを察したリュカが、軽く腰を曲げて耳を近づけた。

その近い距離に、心臓がうるさいほど音を立てた。

(ええい、今はそんな場合じゃないでしょ!!)

カーッと顔が熱を持つのは仕方ない。自然現象だもの。それをどうにかすることはそうそうに諦める。

私は声が上ずらないように気をつけながら、言った。

「ダニエル・ボレルのことよ」

「ダニエ──ああ」

彼の名前を出すと、リュカが納得が言った様子で頷いた。

「……色気のない贈り物でごめんなさい。でも、大切だと思ったのよ。ダニエルが何をするか分からないし」

言い訳のようにぼやくと、リュカはしばらく箱を見つめたあと──ふわり、と微笑んだ。

優しく、穏やかな笑みだ。

いつもは冷たく感じる灰青の瞳があまりにも優しさを帯びていて。

思わず、視線を逸らしてしまいそうになる。

「いや、嬉しいよ。特に、きみが俺のために選んでくれた、っていうところが嬉しいかな」

「っあ、あの!」

思わず、私はリュカに言った。

思いがけず大きな声が出てしまって、周囲の注目を浴びてしまう。

さらに頬がカッカッと熱を持つ。

どうにかしてそれを冷ましたいと思いながら、私はリュカに言った。

「王都から戻ってくる時は、もっと違うものを贈るわ」

「違うもの?」

「これが、私からあなたへ贈る初めてのプレゼント……っていうのは、私も少し、嫌だし。だから……待ってて?」

こういう言い方はずるいかもしれない。

それでも、私の微かな乙女心が、好きなひとへ初めて贈るプレゼントが 鎖帷子(チェーンメイル) と鉄板とはどうなのよ!?と訴えかけてくる。

確かにその通り。その通りなのだ。

しかし、今、贈り物を選んでいる時間は無い。

自然、王都で物色することになる。

そう思ってリュカを見上げると──彼は頬と目尻をほんのり赤く染めながら、私から視線を逸らした。

そして、またちら、と私を見て、真っ直ぐ視線を向けて、彼が言う。

「いや……次は、俺がきみに贈り物をするよ」

「リュカが?」

思わず、聞き返す。

すると、リュカが照れたようにはにかんだ。

「うん、まあ。これ貰ったしね」

これ……というのは、今彼が抱えている箱のことだ。

だけどその中身は。

「それ、チェーンメイルと鉄板……」

「それでも、シャーロットからの贈り物であることには違いないし。ありがとう。鉄板……は服に仕込めばいいのかな。とりあえず、毎日着けるよ」

その言葉に、私は思わず顔を輝かせた。

ここは、いかに良い商品を選んだか、プレゼンすべきだろう。

息巻いた私は、リュカに得意げに言った。

「ええ!チェーンメイルは、軽くて、でも造りはしっかりしたものを選んだのよ。鉄板もそう!服の中に入れるとなったら、結構邪魔じゃない?だから行動を制限しないようにできるだけ薄くて、でも防護力はしっかりと兼ね揃えているものをアントニオ・アーベルにお願いしたの!」

あまりに注文をつけすぎて、彼には『そんな都合のいいもんはない!!』と言われる始末だったけど。

私が力説すると、リュカが苦笑する。

それで、またハッとする。

私は何を熱くなっているの……。

チェーンメイルと鉄板を贈り物にする公爵令嬢もいないだろうが、その良さを熱く語る貴族令嬢もなかなかいないだろう。

それを自覚した私は、こほん、とわざとらしく咳払いをした。

「と、とにかく。私は戻ってくるから……。だから、待っててね」

そう言うと、リュカが微笑みを浮かべた。

「ああ。道中、気をつけて」

リュカはそう言うと、手に抱えていた箱を一旦、侍女のエマに預けた。

そして──。

「シャーロット」

彼が私の名前を呼んだと、同時。

「っ……!!」

彼に手首を掴まれ、引き寄せられる。

あっ、と思う間もなく、私はリュカの胸の中に飛び込んでいた。

「……待ってる」

リュカの、あまりにもちいさな声が。

耳をくすぐった。

「──」

目を見開いた、直後。

抱擁はすぐに解かれた。

リュカも、気恥しかったのだろう。

彼の目尻はほんのりと赤く染まっていた。

「じゃあね、シャーロット」