軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

セカンド異能の発現

ジュリアン様との距離は、急速に縮まっていった。なんと言っても、彼のそばは居心地が良かった。

リュカと一緒にいて、すっかり卑屈になっていた私にとって、『シャーロット も(・) すごい』ではなく、『シャーロット は(・) すごい』と言ってくれるひとは貴重だった。

それに比例してリュカは顔を合わせる度に、ジュリアン様との付き合いを考えるように言ってくるようになった。

正直鬱陶しかったし、放っておいてくれればいいのに、とも思った。

だけど何かにつけてリュカはいちいち私と彼の付き合いに口を出してくる。

リュカに反発するように、さらに私はジュリアン様との仲を深めていった。

そして、お父様にお願いし、私はジュリアン様との婚約を整えてもらった。

ようやく、見つけたのだ、と思った。

彼でなければダメ、というひとに出会った。

……その時の私は、愚かにもそう信じていた。

公爵家と子爵家。爵位の差はあれど、貴賤結婚という程でもない。

子爵家に嫁ぐことに社交界からは不思議な目で見られたが、気にならなかった。

その時の私はすっかり浮かれていて、それ以外は瑣末事だったからだ。

婚約を結んで、しばらくは順調だった。

何かにつけて小言を言ってくるリュカは鬱陶しいが、顔を合わせないようにすればいいだけ。

ジュリアン様も、私との婚約を喜んでくれた。

何回も、逢瀬を重ねた。

オペラを見たし、城下町だって一緒に歩いた。

いつから、だろう。

少しずつ、彼の言動に違和感を覚えるようになった。

彼は、優しい。優しいのだけど……私を見ていないように感じる時が、少なからずある。

【私】ではなく、大多数の女性を相手にしているような、そんなふうに感じることがあった。

『女性は、こういうものが好きなんでしょう』

そう言われて、流行りの靴を貰った。

(私……前に、歩きにくいから高いヒールの靴は嫌いって言わなかったかしら……)

きっと、忘れているのだろう。

些細な会話のひとつひとつを記憶している方が、まれなのだ。

そう思うことにした。

そして、その請求書がなんと、シェーンシュティットの家に来た。

何よこれ、と請求書片手に彼を訪ねると、逆に彼は驚いた顔をした。

「わざわざそれを持ってきたの。僕の顔を立てようとは思わなかったの?気が利かないね」

その時、私はどんな顔をしていたのだろう。

ただ、あんぐりと口を開ける──なんて言う醜態は晒さずに済んだはずだ。ジュリアン様は、さらに顔を顰め、こう言ったのだから。

「世間知らずのきみは知らないのかもしれないけど。こういう時は黙って払っておくべきなんだよ。妻は、夫を支えるものだ」

そう強く言いきられて、きっと、気の弱い娘なら信じきってしまっていた。

それくらい、彼の言い方には自信を感じたからだ。

だけど生憎、私はそう素直な性格をしていないもので。

感じたのは──。

(何言ってんの、こいつ?)

というものだった。

唖然として、あまりのことに沈黙する私に、もう一押しと感じたのだろう。

ジュリアン様はさらに言った。

「ついでにこれも頼める?それくらい、いいよね」

これまた、きつい言い方だった。

渡されたのは、王都でも有名な服飾店の請求書。

何これ、と凝視していれば、不機嫌そうにジュリアン様が言う。

「何?早くしてくれないかな」

(な………な……!!)

何様なのよ、こいつ!?

目が点になりそうだった。

なぜ、私が、彼の、買い物の面倒まで見てやらなければならないのだ。

妻は夫を支えるもの。確かにその通り。

でもそれは妻の心得であり、夫側から強制されるものでは無い。……と私は思っている。

そもそも、紳士の矜恃はどうしたっていうのよ!

その場で請求書を突き返そうと思った。

馬鹿にするのもいい加減にしてくださる!?と、怒鳴るつもりだった。

だけど口を開くより先に、パァン!!と何かが弾ける音がしたのだ。

頭に血が上りすぎて私は気付かなかったが、ジュリアン様が「は?な、何だよ」と焦りを見せたので、私も彼の視線を追った。

そして、私自身驚いた。

私がいつも身につけている 異能制御装身具(ブレスレット) の紐が、ちぎれていた。

雫型のクリスタルと楕円のシトリンの石があちこちに散らばっている。

(異能制御装身具が壊れた……?)

どうして?

まさか、私の怒りに呼応して壊れたわけではないだろう。

屈辱に頭がいっぱいになっていたが、それが壊れたことで少しだけ、冷静さを取り戻していた。

「何、壊してるの?」

ジュリアン様に冷たく言われ、パッと顔を上げる。

私だって壊したくて壊したわけじゃないし、どうしてあなたに責められなければならないわけ!?と思ったのだ。

速攻で言い返してやろうと思った、直後。

彼の青の瞳を見た瞬間、流れるように彼の声が、頭の中に直接響いてきた。

《気味悪いな、この女》

《早く帰れよ》

《突然押しかけてきて、こっちの迷惑とか考えてねーのかよ》

「…………は?」

思わず瞬きを繰り返す私に、ジュリアン様が苛立ったように肩を揺らした。ずいぶん威圧的な仕草だった。

《ジュリアンに成り代わって一年、まだまだやることがあるんだよ、こっちは》

《早くルアンナを慣れさせなきゃならない》

《いつ何時も傍を離れないようにしなきゃならないのに、お前に構ってる暇はないんだよ》

「──…………」

今、彼は、何を。

その前に、この声は、彼のもの?

これは、彼のこころの声?

石像のように硬直した私に、さらにジュリアン様がなにか言おうと口を開いた。だけどそれより先に、背後から明るい声が聞こえてくる。

「お義姉様、来ていたの!?嬉しい。楽しみにしていたの、会えるのを!」

振り向いた先にいたのは、彼の義妹、ルアンナだった。