軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

霊山&雪山へGO!

「その異能も、なんでもすごいものなのでしょう?異能の内容は公表されてないですけど、神殿が直々に異能騎士の打診をしてくるほどとか」

「ということは、恐らく干渉型に区分される異能、ということですわよね?ツァーベル公爵令息も確か、シェーンシュティット公爵令嬢と同い年でしたわね」

「しかもおふたり、幼馴染なのですって。ツァーベル公爵令息と、シェーンシュティット公爵令息がご友人のようで……」

「まあまあ、素敵な縁ですわねぇ。おふたりがゆくゆくは結婚、とか……きゃあ!」

「嫌ですわ、お気が早い!でも……そうなったら素敵ですわね!」

(ぜっ……たいに嫌!!)

思わず渋い顔をする私を見て、付き添いの婦人が私の背を軽く叩く。

もう気が済んだでしょう、という意味だ。

それに私は苦々しい思いで首肯した。

リュカ・ツァーベル。

私にとって、犬猿の仲でもある、五大公爵家の嫡男だ。

私と同じ十二歳で、そして、とんでもなく鼻持ちならない。

何かにつけて、『フンッ』という上から目線な語尾をいつもつけている(ように見える)腹立たしい男である。

(あの男さえいなければ……同世代でいちばんは私だったはずなのに……!!)

犬猿の仲、とか。

腹立たしい、とか。

言ってるけど。

つまりただの嫉妬だった。

五歳で異能を使えるようになった私よりも三年早くリュカは異能を発現させた。

ピアノもバイオリンもフルートも上手(腹立つ)、歴史、外国語、算術も得意( ムカつく)。

さらには剣術や体術まで身につけている(何それ?)

おまけに、社交好きなツァーベル公爵夫人のお相手をよく務めているために、ダンスも得手らしい。

…………。

(私は、ものすっごく練習してようやく人並みだって言うのに……!!)

私は、残念ながら凡才だった。

非凡の才を持つ人間に追いつくには、死に物狂いで努力しなければならなかったのだ。

私が一練習している間に、リュカは二を得る。

リュカ・ツァーベルとは、そういう男だった。

昔は女の子のような顔をしていたというのに、成長するにつれ令嬢たちにキャーキャー言われるようになったのも面白くない。

リュカなんて、あんまり喋らないし、何考えているのか分からないし、心中で他人を嘲笑ってそう(偏見)なのに、どうしてあんなに好かれるの!!

何度、頬を染めてうっとりする令嬢にそう問いただそうと思ったか。

しかし、そうしては私の本性に気付かれてしまう。

私は、社交界では【嫋やかで淑やか。百合のような令嬢】──と言われているのに。

実際は、猛毒を持つトリカブトや鈴蘭のような娘なのだと知られてはたまらないのだ。

私の、長年の努力が泡沫に帰してしまう。

リュカはすごい。それを認めてしまえれば、きっと楽だった。

だけど私は、すんなり彼を賞賛できるほどできた人間ではなかった。

むしろ、闘争心をおおいに掻き立てられたのだ。

ツァーベル公爵家と、シェーンシュティット公爵家は、家族ぐるみで仲がいい。

……というのも、お母様とツァーベル公爵夫人が幼馴染なのだ。

そのため、お兄様とリュカが親交を持つのは必然だったのだ。

そんな、親しい関係性だからこそリュカの異能の内容ももちろん知っていた。

【物質に関与する能力】

──なにそれ!!

そんなとんでもない異能があっていいの!!

私は、リュカの異能の内容を聞くまでは自分の異能がもっとも優れたものだと思っていた。慢心していたのだ。

だから、リュカの異能を聞いた時、伸びに伸びた鼻の先が根元からポッキリ折れる音がした。

リュカの異能に比べたら、私の異能なんてただの 氷生成者(アイスメーカー) だ。

氷の卸売をするならとんでもなく優秀なこの能力も、純粋に異能としてのランク付けをするとなると、リュカに劣る。

それを知った時、私は初めて敗北を感じた。

勝手に挑んで勝手に負けているのだ。

リュカからしたらはた迷惑なことこの上なかったに違いない。

だけど残念なことに負けず嫌いで捻くれた性格の私は、事実を許容できず──セカンド異能を得ればリュカを越えられるはず!!と迷走の日々を送った。消し去りたい過去である。

私の反発心──もとい、ただの負けず嫌いの闘争心は、とうぜん家族も知るところだった。

それどころか、リュカにまで知られていた。

ある日、リュカはシェーンシュティットの邸でふたりきりになった時、ぽつりと言った。

ちょうど、お兄様がリュカに見せたいものがある、と席を外したタイミングだった。

もちろん、従僕や侍女は控えている。

「俺の異能なんだけどさ」

「なにかしら」

ぶっきらぼうに言いながら、私はカップに手を伸ばした。

ほんとうは、お兄様達の会合に同席なんてしたくなかった。

だけど、お兄様が『同い年だから仲良くしておけ』と半ば無理やり、私をこの席に座らせたのだ。

リュカとふたりきりになったところで、気まずいだけなのに……。

私が、一方的に敵愾心を燃やしているからなのだけど。

「自分より、一ヤード以内にしか異能は使えないんだ」

「…………はい?」

思わず、つまんだビスケットをこぼしそうになった。

目を丸くした私に、リュカが意を決したように言った。

まるで、自身の最大の秘密を暴露するような、そんな顔だ。

いや、実際そうなのだろう。

完璧に見えるリュカの異能の、唯一の弱点と言ってもいいかもしれない。

それを、リュカは自ら告白したのだ、私に。

呆然とした私に、リュカは上手く伝わらなかったと感じたのだろう。言い淀みながらも、説明を続けた。

「だから、さ、そんなにすごいものじゃないんだよ。『これは致命的な弱点だ、カバーする方法を考えなさい』……異能の指導をしてくれている神殿の先生の言葉だ」

「は……?神殿?指導?」

私はそんなもの、受けてないけど……??

私は、リュカの言葉よりもリュカが神殿から直々に指導を受けている(つまり特別扱い)されている事実に頭がいっぱいになった。

瞬時に頭に血が上り、カッとなった。

そして、威勢よく宣言したのだ。

「わ、私だって神殿の指導を受けるくらいになってやるわよー!!」

そしてその後。

私は、霊山や雪山に駆け込み、猛特訓をすることになったのだ。