軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お返事の前に

私は、 幸運(ラッキー) と強く思った。

代理領主からの誘い。願ったり叶ったりだわ。

私は、アントニオの話をリュカにした。

リュカは足を組みながら、険しい顔をしてその話を聞いていた。

「……セレグラの状況が良くないのは俺も感じていた。なるほど、関所の設置に課税か」

「この悪状況が続けば、いずれそれは王都にまで報告がいくわ。代理領主は何を考えているのかしら」

「代理領主は、この地では有名な豪商らしい。税を課さずともじゅうぶんやっていけるくらい蓄えはあるはずだ」

ふたりして考え込む。

だけど圧倒的に情報の不足している今、会わないという選択肢はなかった。

「そっちの方は、ひとまず代理領主の招待を受けるとして。あとは先程の襲撃事件について……よね。私、殺されるほどの恨みを買っていたのかしら?心当たりがないのだけど、リュカ様はなにかご存知?」

尋ねると、リュカが渋い顔をした。

それから言いにくそうにしながらも、彼は言った。

「その前に。シャーロットの代わりに俺が招待を受ける……っていう選択肢もあるけど」

「あなたが?」

「招待は、俺とシャーロット。ふたりともされているんだ。シャーロットは 宿(ここ) にいた方が」

「あなたの言いたいことはわかるけど……。私が行くわ。アントニオに頼まれたのも私だし……」

クリストファー殿下にも、内々にではあるが、現地調査のようなものを頼まれている。私が行くべきだと思う。私の答えに、リュカがため息を吐いた。まるで、私がそう答えるとわかっていたように。

「分かった。俺も、同行する」

「……いいの?」

彼は、私のために遣わされた異能騎士だ。

同行するとは思っていたが、負担であることは間違いない。彼は、公爵令息としての務めもあるのだから。

私が困惑しながら尋ねると、リュカが笑った。

「ああ。きみがそういうのは分かっていたし、さっき、あんなことがあったばかりだろ。今、きみから目を離したくない」

「そっ……。そ、う。……ありがとう」

思わず言葉に詰まりそうになって、既のところで何とか取り繕う。

いや!!今のは!!ただの世間話……のはず!

コホン、と咳払いをした私は「では」と話を仕切った。

「代理領主の方と話をつけましょう。できるだけ早い方がいいわ。お返事は誰にしたらいいのかしら」

「衛兵が寄越されるらしい。明日の昼には顔を見せると言っていた」

「そう……。それなら、それまで時間があるわね」

今は、夕方の十六時過ぎ。

セレグラの夜は早い。既に日は暮れて、窓の外は真っ暗だ。

動くとしたら、明日の朝。

私は少し考えてから、パッと顔を上げた。

「ここから、ファーマルの関所まではどれくらいかかるのかしら」

「馬で二時間くらい……。雪道だから、もっとかかるかな」

リュカがすぐに答える。

私は、リラから地図と万年筆を受け取ると、まず地図を広げた。

それから、ファーマルとセレグラの関所を探し、そこに印をつけた。

「馬で二時間……。朝早くに出立すれば、ギリギリお昼までには戻ってこられる計算ね」

「シャーロット、まさか」

「そのまさかよ。関所の現状を知るには、実際見た方が早いわ。今、代理領主に会ったところで、何が真実で何が偽りか、今の私には分からないもの。『セレグラ住人は少し大袈裟だ』──なんて言われたら、実際の状況を知らない私には反論することが出来ない」

「それでも、いきなり関所に行くのは、いくら何でも危なすぎる。きみはさっき襲撃されたばかりだ」

「わかってるわ。でも、私には異能がある。あなたも、ついてきてくれるのでしょう?」

リュカはきっとついてきてくれる。それは、彼が私の護衛のために遣わされた異能騎士だからだ。

そう思って彼に言うと、彼は意表を突かれたように息を呑んだ。それから、困ったように息を吐き出す。

「…………どうして昔から、きみは」

「なぁに?」

私はふたたび、地図に視線を落とした。

現在地から、関所までの道筋を確認し、なぞっていく。

少ししてから、リュカが私に言った。

「記憶が戻った?」

「…………えっ?」

リュカの言葉は思いもしないもので、私はパッと顔を上げる。

すると、リュカは眉を寄せ、難しい顔をしていた。なにか、思い悩むような。

「……きみの話し方は、以前と全く同じだ」

「以前……」

リュカに指摘されて、私はパッと口元を抑える。

いつの間にか、リュカに対する言葉遣いはずいぶんとフランクなものになっていた。

口を押さえた私に、リュカがため息を吐いた。

どこか、安堵したように。

「……戻ってないんだな」

「ええ。……ごめんなさい。気分を害しました?」

「元々、きみは俺に気を遣った話し方はしなかった。気にしなくていいよ」

「そう……かしら」

いまいち、リュカの言葉には納得がいかなかったが、私は頷いて答えた。

その時ふと、視線を感じて顔を上げる。すると、リラが難しい──険しい顔をして、私を見ていた。

目が合うと、リラはハッとした様子で私に黙礼する。

「…………?」

分からないことだらけで、ため息が零れそうだった。