軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64話 魔も砂も続く

山頂内部にも吹き始める砂嵐。

こちらが表明している怒りを相手からは感じられないが、それでも本気を出したのだろう。

仮面の外からは見えない、その内に秘めた闘気が強く吹き付ける砂嵐によって表現されていた。

足元のラン姉さんが作り上げた氷の地面も次第に削られていく。お互いのスキルが干渉しあっているらしい。

この山頂付近に、粒の細かい砂は無い。そもそも氷で覆われているので、あっても使いようの無い状況だ。

となると、この砂は相手の紋章の力で生み出されたものだろう。

こん棒での一撃からうかがい知れる、あり得ない威力を生み出す『魔融』。

スキルでは砂を生み出し、それを自由自在に巧みに操る『操糸』の力が本命と来た。

喧嘩を売る相手を間違えたか? と今更に思わなくもない。

でももう引けないし、引くつもりもない。この誇りを守る戦いで逃げでもしたら、小物界にもいられない。

幸いなことが一点あり、ギヨムたちを人質に取る砂の一族が加勢に入る様子のないことだ。

まるでこちらの思考を読まれているのか、それとも俺の呼吸のタイミングや所作から読んだのか、一瞬そんなことを考えて、気が緩んだタイミングで背後より大量の砂が舞い上がる。

生物のように躍動感のある動きで、砂の怪物が大口を開けて、カイネルと俺を飲み込もうとするかのように錯覚した。

砂が上から包み込むように降り注いでくる。しかし、到着する前に離散する。

大量の鳥たちが集団で羽ばたき、横凪に砂を粉砕して見せた。

「ハチ、前だけ見てろ。砂は絶対にお前に届かせない」

「……うっす」

ちょっ。おっさん。

カッコイイじゃない。一瞬、キュンキュンしちゃった。

あの鳥たち、『操糸』で動いているって言ってたよね? でも全然作りものには見えない、本物の鳥っぽい。それがカイネルのスキルと関係するのだろうか?

今考えることでも無いので、戦士長に向き合った。

相手は俺の憧れた砂の一族で戦士長と呼ばれる男だ。

全力でやらなきゃ勝てないし、失礼でもある。

覚悟を決めて、正面から突っ込む。

砂の操作に夢中になってるなら、付け入る隙はあるかもしれない。

なんて思っていたが、近づくにつれてこん棒に込められた魔力量の濃さに冷や汗が止まらない。

直前で急ブレーキをかけて、地面にまだ残る氷の層を殴りつけた。随分と厚く張ってくれたらしい。

氷が砕けて、ブロック状の氷が戦士長目掛けて飛んでいく。

こん棒をクルクルとまわして全て防がれる。

相当に使い慣れている。武術の達人でもあるってわけだ。

どう攻めるか考えていると、援護がまた入った。鳥の群れが戦士長の斜め後方より突撃してくる。

けれど、砂が地面より背を伸ばして曲線状の壁を作り上げ、鳥の行進を防ぐ。あの二人のスキルと操糸は攻防一体らしい。

気づいたら全力で駆け出していた。無意識に近いレベルだったと思う。

戦士長から一瞬、警戒が薄れたのを感じたからだ。

こん棒に込められた魔力は一切薄れていない。しかし、人間である以上、鳥の攻撃を砂で防ぐなら、どうしてもそちらに意識を割かざる得ない。

ようやく近づくことができ、射程内に入った。

修理スキル発動。大抵の人は脊椎付近に太い魔力線があるため、そこを狙って一刺し――!?

修理スキルを伸ばしたと同時に、こん棒が横凪一閃。

俺の腹に叩きつけられる。先ほど地面に穴を開けた一撃が諸に。

山頂の真ん中から端まで吹き飛ばされた。結界のように張られている砂嵐の壁が無ければ山を転がり落ちる勢いだった。

「ハチ! 大丈夫か!」

「……全然大丈夫じゃないです。でも意識はある」

腹を殴られたはずなのに、脳みそまで揺れた。おまけに……エッ。えへへ朝食でた。

ボクサーとかが腹を殴られて悶絶している気持ちをようやく理解した。なるほど、内臓への一撃ってこんなにも重いのか。

けれど、吐き出したら楽になったのも事実。

「それにまだ立てる。ちょっとだけ回復の時間を下さい。楔は打ち込みました」

「根性あるじゃないか」

「おっす」

こん棒が届く直前、俺の修理スキルが体内に届いた。防寒対策で紋章の力を封じる手袋をしていてよかった。これで、内部より魔力線を破壊し、力を封じる。

「何かされたようだ。お前のようなタイプは油断ならん」

戦士長が片手に魔力を集めていく。あれは魔力線を傷つける通常のやり方だ。

それをなんと、自分の肩に押しあてた。

そこには俺が楔となる修理スキルを流し込んだ場所だ。

戦士長のその行動の後から、修理スキルの魔力を感じられなくなった。

「自分の魔力線ごと、俺のスキルを破壊させた!?」

「内部で計算外の何かされるよりはマシだろう」

想像すらしていなかった。こちらが何をしようとしているのか、何ができるかもわからない状態で、リスクを減らすために自傷行為ともとれる行動を取った。

けれど、その一手がとても痛い。

こんな大ダメージを負って、なんとか打ち込んだ修理スキルがあっさりと。

このトレードはイーブンなのか? いいや、だいぶこちらが損なダメージトレードだと思う。

「……すっすげー」

思わず感心しちゃった。

これが砂の一族にて戦士長を名乗る男の戦い方。

けれど、やることはこれしかない。てか、これしかできない。

不利なダメージトレードではあるものの、最悪俺が倒れた後にダメージが積み重なっていれば良い。

カイネルが仕留めてくれるかもしれないし、駆け付けた増援へのフォローにもなるだろう。

戦士としては称賛する。けれど、砂の一族の誇りを踏みにじるお前に勝ちは譲れない。

空では鳥と砂の攻防が盛大に行われ始める。

カイネルが近づくためのきっかけに気づいてくれたらしい。砂の操作が大変であればあるほど、俺への意識が薄れる。

「ハチ、ペースを考えず全力で砂とやりあう。もう一度行けるか?」

「……後2回は行ける」

それ以上は、たぶんスプラッター小物が出来上がる。

脚も体も、心までもが重たいが、それでも突っ込む。

俺が突っ込んで行くとき、戦士長の意識が今度は空の攻防から薄れたのだろう。鳥が数羽こちらに飛んできた。

「あんまり舐めるなよ。ハチに意識を回せば、砂をすり抜けて鳥があんたに届くぞ」

戦士長目掛けて飛んでいく数羽の鳥。こん棒で叩き落すが、その動きの間だけ俺が距離を詰められる。

そしてまた射程内に入った。

このまま不利なトレードをもう一度しようかとも思ったが、体が拒否した。あまりのダメージに体ちゃんがもうやめて下さい! と叫んでいるようで、その代わり脳ちゃんがアイデアを授けてくれる。

修理スキルを突き刺すために飛び込むと、当然こん棒も俺目掛けて飛んでくる。諸に喰らってたまるか!

――小物版反掌放律!!

バルドが見せた、魔力の性質変化。『変律』の極致にいるあの人程のことは当然できない。

けれど、こん棒には大量の魔力が込められている。

少しでも反発させることが出来たなら儲けものだ。

修理スキルを差し込む、こん棒も俺に届く。

先ほどと同じトレードのように見えて、少し違う。

吹き飛ぶ俺と、打ち込まれた修理スキルをすぐに壊す戦士長。

右肩に続いて、相手の左肩の魔力線にも、これで損傷が入った。線が切れる程ではないにしろ、明らかに影響はある。

そして俺はもう一度エッと朝食の最後分を吐いてから、すぐに立った。

今度はインターバルの必要はなさそうだ。

さっきの半分くらいのダメージ量。

……ちゃんと出来たんだ!

俺があのバルドの技を、ちゃんと真似できたらしい。だいぶ上澄みだけをすくったような半端な出来だったが、それでも役に立った。

「ハチ……おいおい。今のはバルドの技だろう。どこでそんなもん身に着けた」

「あれの10分の1も出来ていませんよ」

技を名乗って良い程のレベルではない。なので小物版をつけさせて貰った。

バルドの反掌放律は身体強化を使用していただけで近づけない程のものだった。強すぎる反発力はこの体で体験している。けれど、俺の反掌放律はこん棒の勢いを少し弱めたに過ぎない。遥か遠い完成度だが、それでもこの戦いでは役に立つ。

「今回は上手くやられたようだ」

戦士長もそう感想を漏らした。

威力が弱まったのに気づいている。仕組みまで理解していないと良いのだが。

「反発する磁力のようなものを感じた。『変律』を器用に使うらしい」

……読まれとるー!!

カイネルといい、戦士長といい、一瞬で相手の魔力の理を読むのが上手すぎる。イーブンにやれているようで、やはり遥か遠い。

「あんまりうちのゼミ生に講義して貰っちゃ困る。やはり魔力線を傷つけたのは悪手じゃないのか? 鳥が押し始めてるぜ」

上空で続いている鳥と砂の攻防。鳥側が若干優勢になり、砂を搔い潜って十数羽の鳥が戦士長目掛けていく。

これだけの数がすり抜けたのは初めてで、迫る猛禽類たちはかなりの迫力を有していた。

命を捨てての突撃。そしてあの鳥一羽一羽にカイネルの魔力も籠っている。

索敵用の駒しか連れて来ていないと言っていたカイネルだが、十分に戦えるじゃないかと少し文句を言いたかった。こいつも恵まれた、持つ側の大物だったか。

こん棒で数羽叩き落されるものの、数羽が抜けて戦士長本体を傷つける。切り傷程度のダメージしか与えられないが、それでも十分だ。

そしてもう一羽、《《不細工》》な鳥がこん棒の攻撃を抜けた。

その鳥が戦士長の肩口目掛けて飛んでいく。

肉をそぎ落とすように入り、肩を貫いて、鳥が宙へと消えた。

「ぐぬっ!?」

「なんだありゃ!?」

驚く二人に、種明かしを。

話していると内臓の回復も少し早まる感じがした。

「飛んでいる鳥が全て本物とは限らないでしょう。ちゃっかりと偽物も混ぜときました」

吹き飛ばされている間、カイネルの手助けができないかと囮ウサギちゃんを作った要領で偽物の鳥を作り上げていた。

一羽だけなら絶対にバレるものでも、空を覆い尽くす程の鳥に紛れ込んだのなら絶対にバレない自信があった。

初めは鳥を作り上げた魔力を鋭く固いものにしようと思っていた。それをぶつけるだけ。けれど、『五理』の可能性ってそんなものじゃないとふと思った。

俺はバルドとの戦いにおいて、変律の底知れない可能性を見た。磁力なんて想像すらしていなかったからね。きっと『魔融』や『散華』、『操糸』にもまだ深いところがあるのだろう。

けれど、俺が命のやり取りをして学びを得たのは『変律』を究めし者の技。そして今戦っている二人は『操糸』の達人二人。

肌で直に感じたものほど学習が速いのだろう。目の前に広がる光景に、その無限の可能性を盛大に感じており、常識の枠を超えて見せた。イメージしたのは、超音波カッター。

つくりあげた囮フクロウちゃん1号。纏わせた魔力を『変律』で硬質なものへと変化させ『操糸』を使い振動するように微細に動かし続けた。

それが鳥のスピードに乗って、たった今戦士長の肩を貫く結果となった。切れ味抜群! 大成功である。

本当は体の中心とか狙いたかったが、流石に急所の部分を飛ぶ鳥は確実に叩き落されるので欲張れなかった。

「お前……五理の知識はさっき知ったばかりって。あの鳥の威力はなんだ……!?」

本当にそうなのだから仕方ない。

言語化してくれたのはギヨムだ。それまでは、なんかこんな感じだろうって雰囲気で使っていた。ギヨムが知識を授けてくれなかったら、こんな合わせ技も出来なかった気がする。

「そいつぁ、王立魔法学園で4年かけてじっくり学び、卒業できるときに使えてたらいいなレベルの技だ。教師として褒めておいてやる。お前のやっていることはほとんどの生徒が出来ない優れたものだ」

「おっす! 奨学金下さい!」

「それはグラン学長に頼むんだな」

カイネルが俺に驚い後は、俺が戦士長に驚く番である。肩を貫いた箇所は、応急処置するそぶりも見せない。なんと驚いたことに、筋肉を絞って止血して見せた。

身体強化の魔力も乱れ無し。

ダメージはあるはずなのに、それでも一切の影響無しといった堂々とした立ち姿。

なんか……敬意を表したくなる男だ。

なんでお前みたいな素晴らしい戦士が、誇りを踏みにじるようなことを……。それだけが、どうしても納得いかない。そして感じる違和感。

「砂の威力は弱まっている。間違いなく影響はあるはずだ。まだいけるだろ、ハチ! 最後の気合見せてみろ」

「……うっす!」

大きく息を吸って気合を入れた。やはり外傷ではだめだ。あの男には勝ち目がない。心臓を打ち抜いても立ち上がって来そうな気概がある。

ちょうど作戦も思い浮かんだので、突っ込んで行く。

カイネルの鳥が砂を押しのけて、俺のフォローに入る。

先ほどと同数の数十羽がサポートに入ってくれている。このタイミングで《《仕掛け》》を作っておいた。

共に戦士長へと突っ込むと、棍棒は俺目掛けて振り下ろされる。鳥はお構いなしらしい。こんな小物でも、鳥よりは警戒されているようで嬉しいやら、棍棒が振り下ろされて怖いやら。

このまま攻撃したら、修理スキルは届く。けれど、頭部を狙ったこん棒が俺に当たれば、あの威力を鑑みるに即死だ。

攻撃は中断。腕を頭の上に組んでこん棒を受け止めた。

脚が地面にめり込むほどの威力。腕の骨が二本とも折れたのが分かった。

頭頂部より垂れてくる血。

けれど、傷つけられたのは頭皮だけだ。俺の頭蓋骨には届いていない。

生きた。俺はまだ生きてるぞ! 受け止めきれた!

俺が届かない代わりに、鳥が戦士長の体を切り裂いて、飛んでいく。

「どうした。なぜそんなに嬉しそうにしている。鳥の攻撃など肉を切っただけのこと。骨には届かんよ。先ほどまでの良いダメージトレードとは思えぬな」

こん棒を押し返して、なんとか距離を取る。

もう仕事が終わったからだ。

異変を感じたらしい。戦士長が一瞬体を硬直させた。

仕掛けが効いた。俺をフォローするように飛んできた鳥たちに、修理スキルを忍び込ませていた。『散華』で修理スキルを切り離し、鳥に着ける。鳥が戦士長の肉を切り裂くときに『操糸』で修理スキルを流し込んだ。

今回の本命は俺に非ず。鳥に攻撃の本命を忍び込ませておいた。

「体に先ほどの細い魔力を大量に入れられたか。これでは相殺しようもない」

……あとは流し込んだ修理スキルで魔力線を破壊するだけ。そうしたらまだ余力あるカイネルが仕留めてくれるはずだ。

「ハチと言ったな。お見事。しかし、まだ詰めが甘い」

地面が抉れるほどの踏み込みで、超加速する戦士長。距離をとったものの、一瞬で詰められてこん棒を鳩尾に叩き込まれた。

腕は使えず、内臓から来る脚の重さ。そして体もふらふら。その攻撃をガードできるはずもなく、戦士長の一撃を諸に喰らった。

「――ハチ!!」

カイネルの声が、山の麓くらい遠いところから聞こえる。

目の前が徐々に暗くなっていき、立っていられなくなるのも感じた。膝が折れ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。

「体内に流されたものをどうにかされる前に、本体を叩く。……お主が花を咲かせるのはまだ先のこと。今日のこと、しかと学ぶが良い」

最後に戦士長からアドバイスみたいなことを受けた。

……なんだよ、いい人ぶってんじゃねーよ。

くっそ。ごめん、イェラ。俺は砂の一族の誇りを守れなかった。

――。

ハチが倒れた。

砂との攻防で精いっぱいだというのに、戦士長の意識がこちらに向く。

相手も手傷を負っているとはいえ、あれとやりあいながら砂を防げるか?

……ジリ貧だろうな。

救援を頼る手は悪手だ。そんなことを考えていてはまともに戦えない。

「カイネル」

「……なんだ」

戦士長に呼びかけられる。

「戦い方を模索しているようだな。けれど、砂は空を舞うものじゃない。砂は大地にてこそ輝く」

言い終わって、足元を指さす戦士長。

氷を割って、出てくる砂。大量に魔力が込められた砂の流砂が出来上がっていた。

……いつの間に。

込められた凄まじい魔力量。それに砂が足を絡めて放そうとしない。ズルズルと砂に飲み込まれていく。

……こりゃ、どうしようもないな。

既に手遅れだ。とんでもない手を打ってやがった。

「小僧に気を取られ過ぎだ。自分のことを疎かにしたなカイネル」

「……化け物かよ。砂の一族の戦士長ってやつは」

「お前も見事だった。『操糸』で押し負けたのは実に数年ぶりのことだ。良い戦いであった」

「ああ、敵ながらあんたにも称賛を送りたいほどの使い手だった。……あばよ。人生最後の敵にしては悪くない相手だ」

既に体の半分を砂に飲み込まれた。魔力量が濃く、砂から解放されそうにもない。このまま飲み込まれて、終わりだ。

……ミンジェ、すまん。先に逝く。

「戦士長、どうか、どうかおやめ下さい!」

俺とハチを守るように、立ちはだかるのはイェラと呼ばれた少女。言葉はこの場では無意味だ。力のある戦士長が全てを決める権利がある。

けれど、少女にはかつて感じたことのない強い意志を感じた。

「道を開けるのだ、イェラ」

「ハチとカイネルさんを殺すのなら、どうか私を先に殺してください。友を見捨てて生き残るよりも……誇り高き砂の民として死なせて下さい」

涙を流しながら、戦士長に道を譲らない少女。

どうやら本気らしい。

「やめろ! 無駄に命を捨てるな!」

俺とハチは負けた。だからもうこの戦いで余計な血を流す必要はなかった。

それでも道を開けようとしない。戦士長がこん棒を振り上げる。

そのままこん棒を捨てた。

……え?

次に聞こえてきた言葉に耳を疑う。

「立派になったなイェラ」

「……戦士長?」

……戦士長?

ずっと鋭い視線だけが見えていた仮面を取る。そこから出て来た50代の男。見えてくる古傷の絶えない、戦士然とした勇ましい顔つき。

その男が、ニコリと嬉しそうな笑顔を作ってイェラの頭を撫でた。

そして俺を飲み込む流砂が止まる。ちょうど首だけが地中に出た状態で。まるで処刑を待つみたいだ。

けれど、あの笑顔は嘘じゃないらしい。拘束していた生徒たちの砂の鎖が解除される。武装していた砂の一族全員が武器を捨てた。

「すまん。イェラ。お前をずっと騙していた」

「私を、ですか」

「ああ、お前にだけ偽りの予言が伝えられていた。お前が生まれて来た時よりずっと。真の予言は12年前に三段階に分かれて族長様より告げられていた」

自分が聞いていい話なのかと思ったが、体が地中に埋まってて耳も塞げない。聞く他ないだろう。

「12年前、砂の一族に『守護者』が生まれた。それがお前だ、イェラ」

「私が守護者?」

「そして今日、この山頂にて、『守護者』が命を懸けて守る人物が『導き手』になると予言があった」

全員が一度俺を見る。そして一斉に首を横に振る。なんでだよ!!

全員の視線が意識を失っているハチに向かった。

「ハチが『導き手』……」

「我らの使命を果たす『器』はまだ生まれておらん。『導き手』がいずれ『守護者』を『器』へと導く。その時こそ、我ら砂の一族の使命が果たされる時」

ホッとして気が抜けたのだろう。イェラがその場に座り込んだ。

「ずっと騙していてすまんかった。『導き手』を探すためには必要なことだった」

「ハチにこのことは?」

「知らせんで良いだろう。ちょうど気を失っておる。『導き手』が強く正しき戦士で良かったと心より思う」

「……はい! 同じくそう思います、戦士長」

「守護者は器だけを守る者ではない。導き手もイェラが守るのだ」

「必ずや!」

山頂にいた砂の一族全員が両膝を砂に着いた。イェラも何が始まるのかわかっているみたいで、それに習う。

砂を両手で掬い取る。

その砂を、深く頭を下げながら額のサボテンの花に押し当てる。

最後にその砂をそっと地面に返す。

砂の最敬礼。滅多に見れない、砂の一族が他者への最大限の敬意を表明する際に使用する伝統的な作法だ。

俺も見たのは初めて。

「小さき強い戦士、ハチよ。我ら砂の一族の誇りのために戦ってくれたこと、心より感謝申し上げる」

砂の戦士長がハチにこれだけの敬意をね。当の本人は意識を失ったままなのがまたハチらしいな。

世にも珍しいものを見られた。……ミンジェ、俺はどうやら生きて帰れるみたいだ。