軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63話 砂の戦士長

吹き荒れる砂から目と耳を守りながら、山頂の平たい土地に踏み入った。

洗濯機の中くらいグルグル渦巻いていた砂嵐だったが、山頂に入ると一切吹き付けていない。

むしろ外の寒さが無く、ここが一番快適まである。

急にここを爆破させてしまい申し訳ありません!

敵意は無いし、あなたたちが神か聖女を探しているのならお手伝いもさせて下さい!

お土産が必要なら買い出しも手伝います!

そんな気概で飛び込んできたのだが、そこには俺の想像していない光景が。

爆発の被害はそれ程で出ない。人的被害は特にほとんど無く、破片が飛び散って何名かに引っ付いているだけ。結界のように展開された砂嵐の壁に風穴を開けてはいるが許される範囲だろう。それよりも想像していた平和な光景とは違うものが目の前に広がっていた。

先に到着していた生徒たち、そして試験職員たちを拘束する鎖状の砂。彼らは組み伏せられ、うつぶせに寝ていた。

その周りを鋭利な武器を持った受験生に紛れた砂の一族。

目立つゴーグルをつけたシアンの姿も見える。初めて会った時には気づけなかったが、ゴーグルを頭にかけて、額からサボテンの花が姿を覗かせる。

別にシアンが正体を隠していたことに驚いているんじゃない。……お前、お前たち何やってんだよ。

この騒動の中心地に立つ、異様な雰囲気を纏う男が一人。

身にまとうローブは薄く、動きやすさを優先した粗布。

肩と腕には、戦場の傷跡を誇示するように、簡素な皮鎧を重ねている。

顔を覆う仮面は、鉄を打ち延ばして作られたもの。

無骨な仮面には、流れる砂の文様がかすかに刻まれ、戦いの中で刻まれた凹みやひび割れが、彼の歩んだ年月を物語っている。

涙を流しながら彼に向き合うのはイェラだった。

「戦士長! おやめ下さい! こんなのは砂の一族のやり方ではありません」

戦士長とその者の名を口にしながら、イェラはひたすらに涙を流しながら抗議していた。

なんとなく理解でき始める状況。

予言を聞いて試験に臨んだイェラ。しかし、彼女は知らなかった。砂の一族の他の一派が強行な作戦に出ることを。

あまりにも驚いて立ち尽くしていると、今度はギヨムが駆けだした。

戦士長と呼ばれた男に駆け寄り、胸倉をつかんで問い詰める。

「ようやく会えた! 砂の一族、戦士長を冠するあなたに問いたい! 紋章を作る方法を知っているあなた方なら、紋章を消す方法も知っているはずだ。教えてくれ、僕にその方法を教えてくれ! 対価ならなんでも支払う!」

私欲に捕らわれたギヨムの正気ではない様子。

近くにいたイェラでさえ、後退りするほどの異様さだった。

「……紋章を消す。罪を背負いし者たちか」

仮面の奥から聞こえた声は、50代くらいの男性の声。怖い顔とは違い、少し穏やかさを感じられる声質だった。

「その問いに対する答えを持ち合わせていない。悪いが貴様も人質になって貰う」

地面から砂が立ち上り、意志を持ったみたいにギヨムに巻き付いていく。人質となっている連中と同じようにうつぶせにされて、並べられた。

ギヨムが並べられた列に目をやると、そこにはやはりあの女がいる。

ポルカ・メルメル。

自分が随分とやばい状況にあることも知らず、すやすやと眠っている。……凄いな、よだれまで垂らしている。

2次試験前の試みで彼女とは前後に列で並んだ。その時に彼女から感じられた魔力量は微量。もしかしたらこの4444の小物よりも少ないかもしれない。

そして素の身体能力もランクFという数値。なのにこの女は1次試験はおろか、2次試験まで俺とギヨムよりも先にゴールしている。

答えはわからない。けれど、今砂の一族に「聖女か神の心当たりはあるか」と問われたら、俺はポルカ・メルメルだと予想を口にするだろう。少なくともあの女は何かを持っている。

「戦士長。どうか、どうかおやめください。こんなことをしては、族長様がお悲しみになられます!」

ギヨムまで拘束されたのを見て、イェラが膝を地面につけた。その次に、額を地面にこれでもかと強く押し付けた。

……砂の分裂が起きている。

イェラの気持ちが痛い程伝わってくる。

なんたって、俺は砂の一族が大好きだからだ。

『砂の一族は、風のように生きる。

彼らは土地を持たず、家も城も築かない。

拠点とするのは、移ろう大地の上、簡素な天幕と焚き火だけ。

夜が来れば星を仰ぎ、朝になればまた新しい地平へと歩き出す。

物には執着しない。

彼らにとって大切なのは、己の身体と、仲間の命。

宝石も金も、彼らの心を動かすことはない。背負う使命でさえ、その価値には及ばない。

ただ、仲間を笑わせ、仲間と食べ、仲間と生きる――それだけが、彼らにとっての豊かさだ。

食事は、旅の途中で手に入るもの。

獣の肉、乾いた実、稀に咲く花。

それらを、必要な分だけ、分け合う。

水は命そのものであり、最も神聖な贈り物とされる。

誰かに水を分けることは、"血を分ける"ことと同じ意味を持つ。

歌と踊りは、彼らの文化の核だ。

夜ごと、焚き火の周りで太鼓が鳴り、踊り手たちが砂を巻き上げて舞う。

過去を歌い、未来を祈り、今この瞬間を祝福する。

争いを好まないが、仲間を傷つけられた時は、容赦しない。

一族の絆は、血よりも濃い。

彼らは、"共に旅した者"を、家族と呼ぶ』

昔、俺が読んだ本に書かれていた内容だ。

俺はこれを読んだ時から、砂の一族への憧れに似た感情を抱いた。

そこには一族の『誇り』が感じられたからだ。

宿村にて、イェラの姿にそれを見た気がして、俺は余計に嬉しかった。

なのに、どうだ。

泣いて頼み込むイェラを無視して、戦士長様とやらは自らの執念に囚われ、使命を果たすことばかり。

「イェラ、お前はわかっていない。我らが背負った使命の重さを。今目の前に予言の者がいるのなら、なんとしてでも確実に見つけ出す必要があるのだ」

「そうは思いません。それは砂のやり方に非ず。王国民を傷つけてまで、やることでは決してありません!」

地面に額をつけたまま、イェラが強く抗議する。

前世、俺は大自然に生きる動画投稿者が大好きだった。いつもチャンネルを見てたし、投稿と同時に内容を見る前にイイネとコメントを送っていた程好きだった。

その投稿者が都会のキャバクラから出て来た時、絶望にも近い感情を味わった。別に自分で稼いだ金をどう使おうが自由だ。俺は厄介オタクみたいなものだったのだろう。文句を言う資格なんてない。

今回のこともそうだ。

俺に文句を言う資格なんて無いのかもしれない。勝手に砂の一族に憧れ、勝手に失望した。

けれど、イェラの姿をみて我慢できなくなっていた。

謝罪はやめだ。

お土産の買い出しも行かない。

砂の一族の誇りを忘れたお前たちには容赦しない。

「……ガッカリだよ」

ずっと静かに立っていた俺が口を開いたことで、存在に気づいたらしい。小物だから存在感が薄いんだ。戦士長とイェラが顔をこちらに向けた。

「……ハチ?」

「俺が格好いいと思って、いつかはあんたらみたいな生活をしてみたいなと憧れていた砂の一族の真の姿が、こんなにもダサいとはな!」

山頂に響くくらい、大声で言ってやった。

怖くはある。手も震える。

戦士長と呼ばれた男のやばさは俺だってひしひしと感じている。あり得ない強さだ。下手したら、姉さん達でさえどうなるかわからないレベルの相手。

戦士長の乾いた掌がこちらに向けられる。砂の一族特有の、細くしなやかな手だ。

「言ってくれる。覚悟は決まっているのか、小僧」

「ああ、決まっているさ」

こんな小物煮るなり焼くなり好きにしたらいい。

だが、聞け!

「イェラがどんな気持ちで砂の一族の誇りを守ったと思っている! 今どんな気持ちでお前たちを止めている思っている!」

まだまだ言いたいことが溢れてくる。

「お前らが使命に囚われて、平気で踏みにじっているその砂の一族の誇りを! どんな仕打ちを受けてイェラが守ったか知ってんのか!! なのに、なんでだよ……どうして。それは……それは決して、平気で踏みにじって良い物なんかじゃない」

言いながら、悔しくなってきて泣いちゃった。

宿村でのことを思い出す。

20人に囲まれて、ひたすらに侮蔑の言葉を投げかけられてもイェラは一人耐えた。偏に一族の誇りのため。わずか13歳の少女が心に深い傷を負っても耐えたってのに、使命に囚われ我欲にこの地で一族の誇りを踏みにじるこいつらが許せなかった。どうしても許せなかった。

「力無き者に語る資格など無い」

「じゃあぶっ飛ばしてやるよ。イェラ、待ってろ。こんな小物……小粒の砂の一族たちは、俺が海にでも投げ捨てといてやる!」

「己が言葉を忘れるなよ」

戦士長がこちらへ一歩踏み出す。

彼の武器は、腰に吊るした一本のこん棒。

乾いた砂色の木材で作られたそれは、中央から端に向かってわずかに太く膨らんでいく、異様な形をしている。

振り下ろす力を極限まで高めるために削り出された、その重量感。

持ち上げた瞬間、骨までも打ち砕く破壊力を、誰もが直感するだろう。

歩みは静かに、しかし地を抉るほど重い。

ただそこに立つだけで、周囲の空気が張り詰める。

この男は、戦うために在る。

そう思わせるほどの迫力が。

絶望だ。けれど、言っちゃったからには仕方ない。

「ハチ! 逃げろ! 戦士長にはかなわない!」

「……断る!」

小物にだって引けない戦いはある……と思ってる。一応。

辺りには吹き付ける砂嵐の独特な音がしていたのだが、突如違う音が響く。鳥が鳴いた気がした。

直後、濃い砂嵐を割って、100……いや1000羽くらいいるんじゃないか。鳥の群れが山頂の空を覆い尽くす。

目の前にも大量の鳥が舞い降りて来て、その陰から狼の毛皮を羽織った男が一人戦士長の背後に姿を現した。

獣の牙を削り出したようなダガーを首元目掛けて差し込んでいく。背後からの完璧な奇襲。

けれど、戦士長はやはり甘くない。

手にしていたこん棒を背後に向けて突き、現れたカイネルの胴体に直撃した。

ダガーは首元を外し、肩口に傷をつける。一方でカイネルも打撃を受けて吹き飛ばされる。少し苦しそうだ。一手目は両者互角。

「まじかよ、今のを反応されるのか」

「『孤狼カイネル』か」

「俺を知っているのか?」

「当然」

2人は知り合いって感じじゃないのに、カイネルのことを知っていた。

……ちょっと待って。

魔律のバルド!

孤狼カイネル!

その格好いい二つ名ってどこでつけて貰えるの!?

俺も小物ハチが定着しないうちに、申請しておきたいんですけど!

「ハチ! 協力しろ。共にやるぞ」

戦士長を挟んでカイネルが話しかけてくる。

「マダムミンジェは?」

なぜ一人しかいない。マダムは!? 救援はありがたいが、マダムが良かったです!

「デパートに行った」

「は?」

「冗談だ。王立魔法学園グラン学長を始めとした教師陣を招集しに行ってくれている。耐えたらいずれ誰かが来る。そしたら勝ちだ」

耐えたら勝ち。それはいい情報だが、目の前の男はあまりにもでかすぎる。喧嘩を売っておいてあれだが、勝ち筋が見えてこない。

「といっても、呼ぶ根拠が俺のヤバそうっていう予感だけだから、どのくらいの戦力が来るかも、いつ来るかもわからん」

……それは聞きたくなかったでござるよ。そして相手にも聞かせたくなかったでござる。

「砂の一族はバカつえーぞ。その中で戦士長と呼ばれる男だ。実力が測り知れない。生きて帰りたきゃ、気合いれてけ」

「言われなくてもわかってる!」

戦士長が一歩を踏み出した。こちらへ近づく。身体強化は完了しているものの、下手な動きはできない。1つのミスが命取りだ。

空気が重たく感じられる。

大地が抉れるほどの力を込めて、賭け出す戦士長。こん棒を使って、振り下ろされた一撃。

なんとか横にそれて躱す。風圧がまでもが重たい。先ほどまで立っていた場所に穴が出来た。

なんて威力してやがる。

しかも、体制を立て直すのが凄まじく早い。振り返って、こん棒で突かれそうになったとき、鳥が数羽戦士長目掛けて突っ込む。

捨て身の一撃は彼の攻撃を止めるだけでなく、視界をも遮った。

訪れた反撃のチャンスに、修理スキルを発動して魔力線を狙う。しかし、地面から砂が飛び出して壁を作った。まるで俺の修理スキルから守るように。

攻撃が失敗し、反撃を恐れて距離を取った。カイネルの傍へと逃げ、緊張で荒れた息を整える。

「恐ろしい男だ」

カイネルの評価。恐ろしいなんてもんじゃない。肌で感じたこのやばさ。

「ハチ、魔力の五つの理『五理』の理解はどの程度ある?」

「……ゴリラの鳴き声じゃないってことくらい」

「よし、今のは全部忘れろ」

「冗談です」

ああん!? と睨まれてしまった。

いや、こういうときこそ冗談が大事と思いまして……。ごめんなさい。

「知識はさっき知ったばかりですが、体が全部覚えています」

「なら十分だ」

どうやら先ほどの動きで、戦士長を解析したらしい。

「バリバリの武闘派。こん棒に込められた『魔融』を見るにそっちの特化かと思ったが、砂がお前の攻撃を完璧に防いだだろ」

「うん」

砂の壁が意志を持ったように彼を守った。俺の修理スキルでは、魔力の込められた砂を突破できなかった。

「『魔融』のレベルの高さに勘違いしかけたが、ありゃ『操糸』を究めた者の動きだ。そして俺も『操糸』の使い手」

流石は王立魔法学園の教師。

今の一瞬でこんな正確な分析を。

俺、ちょっと感動しちゃったよ。ごめんね、堕落したおじさんとか思っちゃって。

「操糸vs操糸。相手はバリバリのスキルタイプ戦闘の紋章。一方で、俺は索敵用の駒しか持って来てない」

ちょっと何が言いたいのかわからなかったので、横を向いてカイネルの顔を見た。

「つまり、俺は砂の邪魔をするサポートしかできん。後はお前がなんとかしろ」

「ああん!?」

今度はこちらが凄んでおいた。

――。

リュミエール兄様の言う通りだ。

そして、ミリアの言う通りでもあった。

2人の口から、嬉しそうに語られるハチ・ワレンジャールについての情報。

才能無き者に興味を示さないリュミエール兄様が言っていた。「ギヨム。お前と同じ年に凄いのがいる! ハチという若者だ。あの男はかつて会った誰よりも大きく、面白い男だ!」と。

いつも退屈そうにして、何かトラブルが起きると嬉しそうにそちらへと走っていくリュミエール兄様。

あの天才にはこの世界は狭すぎて、退屈なのだ。何もかもできて、何もかもが退屈。

魔獣討伐の話を聞いたとき、僕は心底心配した。いくら天才と呼ばれようとも、それは人という枠の中でのこと。

魔獣相手では何が起きてもおかしくない。尊敬し、敬愛するリュミエール兄様にもしもがあってはと思い止めたが、それでも止まらなかった。

あの方は、死地にこそ喜びを辛うじて見いだせる人なのだ。世界に愛され過ぎた故に、世界に飽きた男。

リュミエール兄様がローズマル子爵家へと向かった時、紋章を消す手掛かりを探すのをやめた程に兄様の無事を祈った。

人生の目標を中断してまで、それでも兄様の無事だけが欲しかった。

けれど、魔獣戦は衝撃の結末を迎える。

世間には公表されておらず、大臣クラスでも知るのは一部だけ。現場にいた者にも戒口令が下っている。僕も兄様から聞くまでは知ることのなかった事実。

魔獣を倒したのが、僕と同じ年のわずか11歳の少年。

男爵家に生まれた小さき存在ハチ。

その男が魔獣に止めをさし、あろうことか、魔獣討伐の名誉も報奨も全て手放した。

そんなことは信じられなかった。

そんな男がいるはずもない。

リュミエール兄様が手放しに褒める相手がいるはずなんてない!

そう信じたかったのに、繋がってしまった……。

僕には好きな女性がいる。好きという言葉では片づけられない程に。これは愛だと言っても良い。

僕のスキルを知っても、火傷の跡を見ても、笑っていた彼女。

王都へと留学に来ていたミリア・クルスカ。彼女を初めて見た時、かつて激情の神カナタ様が愛した女性、フェリス様を連想させる美しさをその顔に見た。

「この火傷の痕を見て、なぜ平気で微笑んでいられる」

「ギヨム様は私が歩けないのを馬鹿にするのでしょうか?」

「そんなことはしない! 誓ってしない!」

「では、私がギヨム様の火傷を馬鹿にするわけがございません」

あの日の言葉で、僕は彼女に惚れた。いいや、初めて会った時より好意はあったのだが、心を奪われたのはあの瞬間だった。

けれど、共に時間を共有すればする程に見えてくる存在。

彼女には他に好きな人がいる。

ミリアは僕を見ていない。彼女の心に住まう男、ずっとその男だけを見て、彼女は生きている気がした。

彼女の実家はエルフィア襲撃の悲劇がありながらも、今では立ち直り王国最大の魔石鉱山を持つ領地になるまで至った。

魔獣討伐の後、なんとなくそのことに触れたことがある。

「君の家から採れる魔石は随分と質が良いみたいだ。今王都で商われている魔石は8割が君の家のものじゃないか? 目利きの客の間では、既に他の魔石じゃ物足りなって話だ」

「嬉しいことです。……これも全てはハチ様のおかげ。あの方が自らを犠牲にして与えて下さった恩恵です」

僕に話した訳じゃない。一人で呟くように述べられたその言葉。

けれど、その時に繋がった。ハチ・ワレンジャールという存在。

リュミエール兄様が口にしていた名前。そしてミリアも口にした名前。

……そうだったのか。ミリアの心に住まう男は、ハチ、お前だったのか。

あれからハチという男について調べまわった。

天才である姉の情報も出来てたし、エルフィアとの戦いも彼はそこにいた。

けれど、調べれば調べるほどに信じられず、こうして王立魔法学園の試験に忍び込んで傍よりずっと君を伺っていた。

1次試験では無償で人を助けた姿を見た。自分が不合格になりかけたというのに、懲りずに今度は宿村で砂の一族まで救った。

バルドの誘いに乗って戦った時は、君の実力を少し疑ったものだった。あまりにもあっさりと負けてしまい、やはり噂程ではないのかと持っていた。

けれど、それも真の姿ではなかった。

イェラのため、砂の一族の誇りのために激高し、戦士長と戦おうとする今の君はバルド戦とまるで別人みたいだ。

纏う魔力の質も量も違う。君は感情が高ぶり他人のために戦うとき、強くなるらしい。

一時的に魔力量が増える人間を初めて見たかもしれない。

……いいや、いたな。もう一人。

あの方は人ではないが。

ハチ、魔力が研ぎ澄まされ、量も増えている。今の君の姿は、まるで怒ったときの『激情の神カナタ』様のじゃないか。